平成29年度教員研修の報告

平成30年2月14日
教員研修等検討委員会

【はじめに】

法科大学院協会教員研修等検討委員会は、平成29年度教員研修を、刑事系教員研修については平成29年8月31日、民事系教員研修については同年9月6日に、いずれも司法研修所において実施した。各研修においては、第70期A班の集合修習を見学した上で、法科大学院教員と司法研修所教官の意見交換会を行った。
 教員研修においては参加人数の定員が限られていることから、より広く法科大学院教員に研修内容を伝達するため、以下、意見交換会の内容を中心に、教員研修の概要を報告する。
 なお、参考までに、報告の末尾に本年度教員研修案内文を掲げた。 

1 平成29年度教員研修の実施

(1)平成29年8月31日(木)午後に実施した刑事系教員研修には、各法科大学院から9名、法科大学院協会から1名、合計10名が参加した。
 13時20分に開始された同研修において、参加者は、まず、司法研修所所付から、集合修習(「刑事共通演習(尋問)」)の概要に関する事前説明を受けた上で、13時40分から16時35分まで、いくつかの教室に分かれ、第70期修習生による演習の実演及び同修習生に対する講義の様子を見学し、その後、大会議室に集まり、16時50分から18時30分まで意見交換を行った。
 当日見学した「刑事共通演習(尋問)」は、刑事裁判、検察及び刑事弁護の共通科目として行われるもので、修習生を裁判官役、検察官役、弁護人役等に分け、証人尋問・被告人質問を実演させ、尋問等の結果を踏まえポイントとなった事項を指摘する形で論告・弁論を実演させ、その上で裁判官役が評議を実演した後に争点に対する判断を示し、最後に、教官が全体の講評を行うという内容であった。 

(2)民事系教員研修
 平成29年9月6日(水)午後に実施した民事系教員研修には、各法科大学院から7名、法科大学院協会から1名、合計8名が参加した。
 13時20分に開始された同研修において、参加者は、まず、司法研修所所付から、集合修習(「民事共通演習2(弁論準備手続期日)」)の概要に関する事前説明を受けた上で、13時40分から16時35分まで、いくつかの教室に分かれ、第70期修習生に対する講義の様子を見学し、その後、大会議室に集まり、16時50分から18時30分まで意見交換を行った。
 当日見学した「民事共通演習2(弁論準備手続期日)」は、修習生を裁判官役、原告訴訟代理人役、被告訴訟代理人役等に分け、弁論準備手続期日における争点整理手続を実演させるもので、修習生には、主張を整理した上で、主要事実レベルでの争点、重要な間接事実レベルでの争点、それらを立証する人証を明確にすることが求められており、争点整理の結果に基づいて争点の確認などをさせた後、教官から講評を行うという内容であった。 

2 刑事系教員研修における意見交換会の概要

 授業見学を終えた後、司法研修所教官の出席を得て、当日の研修に参加した法科大学院教員による意見交換が行われた。各法科大学院及び法科大学院協会からの参加者は上記のとおりである。また、司法研修所からは、刑事裁判教官室、検察教官室、刑事弁護教官室の各教官が出席した。
 法科大学院協会教員研修等検討委員会の佐藤隆之委員(慶應義塾大学)の挨拶、関係者への謝意表明の後、同委員の司会のもと、法科大学院教員2名、司法研修所教官1名から順次報告(話題提供)があり、その後、意見交換が行われた。 

(1)報告(話題提供)の概要
 法科大学院側からは、刑事法教育の現状について、実体法、手続法に関連する科目を担当する2名の教員(ともに研究者教員)から、「法科大学院における教育の到達点及び司法研修所との連携の在り方」という大テーマの下、その所属する大学における実践・経験に基づく報告(話題提供)が行われた。

 「法科大学院における刑法教育の到達目標―現状と課題―」と題する報告の概要は、以下のとおりである。
 報告者は、1年次の授業において、基本的な知識を確実に身につけさせることを目的とした授業を実施している。これは、発展的な論点の解決は基本的な知識の応用や組み合わせで対処できることが多い、という信念に基づくものである。授業において、正誤判定、穴埋め、概念の説明、起案課題と様々な形式の課題を出したところ、起案課題については大きな間違いのない、それなりの水準のものを出してくる成績上位者においても、穴埋めや概念の説明といった問題では意外に誤答が目立つ結果となった。普段の授業で指名して答えさせる場合でも、「定義」はすらすらと出ても、「なぜそれが議論になっているのか」、「その趣旨はどこにあるのか」という問いには長考する学生が多い。これは、事例問題を解く練習は繰り返し行っているので「定義」は覚えているものの、知識がクラスタ化していて相互の関連性が見えていないことによるものと思われる。
 2年次の授業では、「恐喝罪」や「収賄罪」などのテーマに関する報告を、重要判例を中心として学生に行わせている。いわゆる事例演習では、その問題において問われている「論点」についての知識や答案作成のメソッドが前面に出てしまうのに対して、「テーマベース」の報告ではその分野の全体像を捉えた上で個別の問題点を位置付けていくことが求められることとなる。学生からは、事例演習方式を希望する声もあるが、「すぐに使える力」だけではなく、根本の問題意識や知識を得ることが重要であることをどう説得していくかが課題だと感じている。
 この点に関連して、事例演習問題に対する学生の答案を目にすることがあるが、そこでも、「定義」や「要件のあてはめ」だけに終始するものが少なからず見られる。見解が分かれる論点においてなぜその立場を採りそのように当てはめるのかを説得的に示すためには趣旨の検討が不可欠であると言っても、容易に直らないところがある。同僚の実務家教員は、「思いついたことの2ステップ前から書きなさい」と学生に指導しているが、それも、趣旨や基本原則から確実に導いていきなさいという指導だと理解している。
 教育上の課題としては、例えば、講義時間が限られることによる内容の取捨選択の問題、訴訟法を含む他の法分野との関連をどのように伝達していくかといった点も指摘できるが、これまで述べた実情からは、趣旨や基本原則をおろそかにする結果として、学生に、知識のクラスタ化という事態が生じているように見受けられ、その問題ないし弊害をどのように自覚させ、改善を図るかということが、大きな課題であるように思われる。 

 次に、「法科大学院における刑事証拠法教育―現状と課題―」と題する報告の概要は、以下のとおりである。
 刑事訴訟法の教育についても、種々の課題があるが、ここでは、伝聞証拠に関する立証事項の把握を素材として、証拠法の動態的把握のための工夫について紹介してみたい。 伝聞証拠をめぐる躓きの石は、伝聞と非伝聞の区別である。学生に、伝聞証拠の定義を尋ねると、「公判廷外の供述を内容とする証拠で、供述内容の真実性が問題となるもの」と答える者がいる。そこで、「真実性が問題となる証拠」とはいかなることかとさらに尋ねると、それは、いまだその真実性が明らかでない証拠、という意味であり、逆に、「真実性が問題とならない証拠」は、真実性がすでに明らかになっているものを意味すると説明され、教員が前提としていた、「真実性が問題となる」=「供述内容が真実であることを前提に立証に供せられる」という理解が共有されていないことが判明することがある。
 こうした場合、供述証拠とはいかなるものかに遡って議論をするとともに、上記のような、誤った理解を覆い隠してしまう働きをする、「真実性」や「問題となる」という表現を使わずに、伝聞証拠の意義を説明させる、という対応をしている。
 また、学生の中には、伝聞証拠に当たるか否かは、「要証事実」との関係で定まると説明しながら、「要証事実」とは何であるかを指摘することができなかったり、「要証事実」について理解できているとしても、伝聞証拠の定義に対し、適切なあてはめができなかったりする者も少なくない。
 こうした場合、単に伝聞証拠の定義を機械的に覚えるというのではなく、当該証拠と要証事実との関係について学生の関心を向けさせ、実際の訴訟手続に即した形で理解させる必要がある。この点については、例えば、証拠調べ請求における「立証趣旨」、公判前整理手続において示される証明予定事実(また冒頭陳述)を実際に確認させる作業を経験させることが、伝聞か非伝聞かの円滑な判断につながるように思われる。この点に関連して、犯行及び被害再現実況見分調書の証拠能力について判断した最決平成17年9月27日(刑集59 巻7 号753 頁)は、その事案にとどまらず、通常の訴訟手続の在り方と合わせて説明されることが必要であろう。
 こうした形で「躓きの石」を取り除く上で、報告者の所属する法科大学院において、刑事訴訟法関連科目のうち、実務基礎科目(必修)を2年次前期に配当し、通常の訴訟実務を把握させることを通じて、論点主義に陥りがちな学習態度の転換を促すとともに、研究者教員の担当する科目を経た後に、3年次後期にも実務基礎科目(選択必修又は選択)を配当することにより、学習の仕上げ段階での、学生の有機的な理解を図っていることには、効果があるように思われる(なお、模擬裁判は、司法試験終了後に、修了生を対象に、任意参加の形で、教員の協力を得て実施している)。
 今後の課題としては、試行錯誤を重ねつつ、現在のカリキュラムの改善を図るということに尽きるが、例えば、2年次前期に配当される実務基礎科目は、学生が、論点中心的な勉強を脇に置いて通常の手続の流れを頭に入れるためのものであるが、同時期に予備試験が実施されていることについては、その教育効果を弱めるのではないかとの懸念を持っているほか、導入後一定の時間が経っている公判前整理手続についてさえ関心の乏しい学生に、どうすれば近時の刑事訴訟法改正について関心を持ってもらえるかについても、検討を要する問題だと考えている。 

 司法研修所からは、「刑事弁護教育における現状と課題」をテーマとして、刑事弁護教官が、効率的に教育を行うこと等に関する最近の取組について報告(話題提供)を行った。
 まず、刑事弁護教官室では、刑弁教育に当たり、①司法研修所では教育にかけられる時間数が限られていることから、法科大学院における教育との重複を排するとともに、実務修習との有機的な連携を図るという観点から内容のコンパクト化、司法研修所における教育の合理化を図るとともに、②近時、裁判員裁判の導入により、公判前整理手続、期日間整理手続、証拠開示等の実務に大きな変化が生じていることを踏まえ、弁護人として、これらを活用できるような実践的な内容とする、というコンセプトを採用した。
 具体的には、①修習生に伝えたいことのエッセンスを抽出し、必ずそれを身につけてもらうことに主眼を置いた『刑事弁護の手引き』という新しいコンパクトな教材を作成し、②起訴後の弁護についても、公判前整理手続の終盤段階において主張立証の準備とともに最終弁論の予定原稿が書けている、というタイムスケジュールを念頭に、公判審理前に、いわゆるケースセオリーと、裁判官、裁判員を説得できる論拠を早く確立し、主張漏れや証拠の請求漏れがないように、また主張の破綻や矛盾がないように、早い段階でチェックできるような弁護活動に重点を置いた教育を行っている。
 起案についても、証拠調べが終わった段階で最終弁論を起案させることを想定した従前の形式から、公判前整理手続の途中段階における弁護人の手持ち資料を基に、将来の弁論の予定原稿を作成させることを想定した形式へと改めた。さらに、小問として、証拠意見、予定主張や類型証拠の開示請求、弁護人として考えられる証拠収集活動、尋問調書を素材とする異議申立、反対尋問における獲得目標、弁護士倫理関連などの幅広い項目について出題することとして、実践的な学習ができるよう努めているほか、模擬証人尋問ないし被告人質問、勾留請求段階での模擬検察官面接ないし裁判官面接、模擬示談交渉、模擬論告(刑弁教官による)に対する模擬弁論など体験型の学習を通じて、必要な知識や技術を身につけられるようにしている。
 そして、こうしたカリキュラムの改革は、刑弁教官自身にも変化を要請するものとなっていること、今後、新たに制作した体験型の内容を盛り込んだ映像教材「はじめての裁判員裁判」も活用しつつ、ここまで紹介した指導方針に基づく教育を進めていくことを考えていることが紹介された。 

(2)意見交換の概要
 見学した講義や上記報告の内容を踏まえつつ、参加者の自由な発言(質問、問題提起、情報提供)を基に、活発な意見交換が行われた。
 中心となった話題は、知識のクラスタ化ないし知識のネットワーク化の不調をめぐる問題であった。
 法科大学院教育は、授業時間に制約があるため、授業で取り扱うことができなかった事項については学生の自学自習に委ねられること、そして、自学自習の基盤となる体系的思考力は、授業で取り上げる判例等を素材とした理論教育を集中的に行うことを通じ、学生が身につけていくことを前提として構築されているはずであるが、少なからぬ学生について、当該事例の分析・解決に当面必要な知識や理由付けには関心を向けるものの、種々の事案に対して真に応用可能な理論的基礎となる議論には興味を示さない傾向が見られるとの指摘があった。
 受験生としての立場から考えると、議論を単純化し、できるだけ「無駄」にみえる作業を省こうとする姿勢(これに関連して、訴訟法科目の短答式試験の廃止により、公判前整理手続の学習が手薄となっていることも指摘された)は、ある程度避けがたいところもあるものの、法科大学院設立当初は、教育の内容が流動的であったため、学生の予習範囲も広がらざるを得なかったが、次第に教育の内容が固まってきて予測可能性が高まったことが、予習の質と量にも影響しているのではないか、教育する側は、予定調和的なやり取りに安住することなく、授業の内容の固定化を排し、学生を刺戟し、その関心を喚起するような工夫をしていく必要があるだろうとの意見が示された。その際、授業時間に対する厳しい制限は大きな制約となるが、学部教育との適切な分担・連携を図ることによって、法科大学院で扱うべき内容の適正化を目指す試みも紹介された。
 また、学生の関心を喚起するという点に関連して、伝聞・非伝聞の区別や要証事実の判断については、座学での抽象的な説明ばかりではなく、特に実務基礎科目において、通常の公判手続の中で当該証拠がどのように登場するのかを丁寧に教え、模擬裁判等の科目を通じて実際に体験させる中で理解を促すことが有効ではないか、そしてそれが、学生たちが、実務に関心を持たなければならないこと(法科大学院において、実務基礎科目を学ぶ意義)を自覚する契機となるのではないかとの指摘が複数の参加者からなされた。
 当日見学した講義については、修習生の積極的な姿勢や議論の内容に対する肯定的な評価が表明されたほか、事実認定をめぐる教育について、法科大学院の研究者教員は距離を置いてきたようにみえるが、研究者教員も判例の射程を見極める際に、ある判断(認定)を支える事実を変化させ、その結果、異なる判断(認定)に至ることを確認する、という作業は行っているはずであるから、法律基本科目においても、事実が変わると当初の結論に到達できないことを学生に体験させ、法解釈と事実認定との有機的連関について気づかせることも可能ではないかとの意見が示された。そして、事実認定の場面における知識のネットワーク化の重要性という観点から、要証事実の把握は法解釈が前提であり、知識がネットワーク化されることにより、一つの事実を多面的に見ていくことが可能となることから、修習を通じて着実に力を伸ばすためにも、法科大学院の段階から、事実を見る目を養うことの重要性が指摘された。
 このほか、公判前整理手続をめぐる教育方法や、近時の刑事訴訟法改正のとり上げ方に関わる問題も指摘された。 

3 民事系教員研修における意見交換会の概要

 授業見学を終えた後、司法研修所教官の出席を得て、当日の研修に参加した法科大学院教員による意見交換が行われた。各法科大学院及び法科大学院協会側の参加者は上記のとおりである。また、司法研修所からは、民事裁判教官、民事弁護教官各3名が出席した(このほか、司法研修所からオブザーバー4名が参加した。)。
 冒頭、法科大学院協会の教員研修等委員会の藤本亮委員(名古屋大学)が挨拶をし、参加者全員が自己紹介をした。その後、同委員の司会で、授業見学の感想を交換した後、「法科大学院における民事法教育と司法研修所との連携の在り方」というテーマで、法科大学院教員2名(いずれも実務家教員)、司法研修所教官1名から順次報告(話題提供)があり、その後、意見交換を行った。

(1)授業見学を踏まえ、法科大学院教員からは、模擬裁判教材がしっかりしている点、授業の最後に向けて裁判官役修習生のリードでうまくまとまった点、クラス人数が多い中前に出て実演する修習生だけでなく、傍聴している者も含めて全員が主体的に取り組んでいる点などの指摘がされた。他方、要件事実についての共通理解の不足のため各チームの打ち合わせ時に議論が錯綜したのではないかとの指摘があった。
 これに対して、研修所教官からは、参観に供した授業については、ありのままを参観してもらったこと、見ていて歯がゆい点もあるが失敗も含めて経験してもらうということで途中ではあまり口を挟んでいないこと、各チームの取りまとめ役がうまく議論をリードしており全体としてはできがよかったと思われることなどの応答があった。司法研修所教官から、単に事実を挙げるのではなく、要件事実論を前提に、主張立証構造の中での位置づけ等まで意識することを求めていることが示され、関連して、法科大学院との間の連携について、実体法の知識をしっかり身につけ、要件事実をツールとして使えるようにしてきてほしいことや、実体法・訴訟法の基礎をしっかりと学ぶ必要があり、研究者教員と実務家教員が連携して法科大学院で教育に当たることが重要であるとの所見が示された。また、1年の修習で直ちに弁護士として独り立ちできる能力を身につけさせることは困難であり、したがって法科大学院と司法研修所との連携、さらに実務家になってからの研修まで見据えてそれぞれの連携をとっていくことが必要ではないかとの意見も述べられた。
 さらに、司法研修所教官から、生の事実からどの事実を拾って主張として整理するかという点を教えるというのは司法研修所の役割であるが、その前提としての要件事実、そのまた前提としての実体法の理解がしっかりしていないと、修習の効果が上がらないとの所見が示された。 

(2)次に、法科大学院実務家教員2名及び民事裁判教官1名から、それぞれ10分程度の報告が行われた。
 まず、一人目の法科大学院実務家教員から、法科大学院から司法研修所への申し送りと、司法研修所から法科大学院へのフィードバックを進めていき、法科大学院と司法研修所との連携を十分に図りたいという趣旨の報告がなされた。報告者は、二つの法科大学院で専任教員として教育を担当し、弁護士会の修習委員会でも模擬裁判等を担当してきた。そうした中、指導担当弁護士として61期から65期までと、69期及び70期の修習生を受け持ったが、前者と後者とで修習生の印象が異なるとともに、同期の間でも個々の修習生間での幅があることも実感している。実体法からの勉強をしようよというレベルの人から、それがしっかりとできる修習生まで多様である。要件事実についての理解についても、実体法の理解についても幅があるのではないか。社会のニーズに向けた法曹の養成という視点で、継続的な教育・育成が必要で、社会のニーズが変われば養成すべき法曹像も変わるべきである。実例として、県弁護士会での法曹養成についての申し送りの状況、修習からのフィードバックの状況が紹介され、法科大学院と研修所と修習受入れ弁護士との間での申し送りとフィードバックの重要性が指摘された。
 続いて、二人目の法科大学院実務家教員からは、今の法科大学院の教育の中で要件事実論的な視点を入れることが重要であるとの趣旨の報告がなされた。実際の司法試験の問題、①平成24年度民事系科目第1問設問と②平成29年度民事系科目第2問設問を例に、研究者教員は権利の存否というレベルで整理しようとする傾向があるが、実務家からすれば、訴訟でどのような主張をするかという視点が大切である。当該主張について、権利消滅原因事実となるかという検討ができているのかに着目することになる。その点で、法科大学院教育では「どう主張するのか」という視点が欠けているのではないかと思われる。法科大学院では民法以外のところでは要件事実論を検討することはあまりないと思うが、実務に出れば法分野に関わらず訴訟における主張を検討せざるを得ないので要件事実論的な観点を踏まえた教育をすべきだと見解が示された。
 最後に、民事裁判教官から、「法科大学院における要件事実教育、事実認定教育の在り方について」というテーマで報告がなされた。司法研修所が修習生に求めている能力は、①主張分析能力、②事実認定能力、③紛争解決能力であり、具体的な事案を題材にして、上記能力の向上を図っていることが紹介された。法科大学院における民事訴訟実務の基礎の教育の在り方については、要件事実、事実認定について研究者教員と実務家教員との連携、相互の理解を踏まえて進めていく必要があるとの意見が述べられた。要件事実については、実体法解釈の結果であり、主張整理のツールであるので、実体法の理解が前提であること、主張分析能力(要件事実の理解)については、法科大学院で基礎的な教育が行われ、それを修得していることが前提となっているとの所見が示された。事実認定についても、法科大学院において基礎的な事項、例えば、一般論としての事実認定の対象や、自由心証主義・二段の推定等の事実認定を行うための基本的なルールの教育が行われ、それらの理論的、体系的理解を修得していることを前提に、司法修習では、人証の評価や書証の評価、間接事実等による事実認定の技法等を、具体的な事案に即して行っていることが紹介された。また、67期から「事例から考える事実認定」という教材を利用していることや、68期から開始された導入修習は今年で3年目であるが、69期に対するアンケートでも、9割以上の修習生が、導入修習のカリキュラムについて「役に立った」と回答していることが紹介された。 

(3)以上の報告を受けて、法科大学院教員と司法研修所教官との間で、全体的な意見交換が行われた。
 法科大学院実務家教員から、民事実務基礎の授業では、「新問題研究」を素材として、手続をイメージしてもらうことを意図し、民事訴訟法の授業であまり扱えず、また学生があまり得意ではない証拠法をカバーするようにしていることや、必修の模擬裁判(民事)では、司法研修所教材を用い、訴状と答弁書を提示した上で、全体の手続を通しで体験できるようにしているということが紹介された。地裁の法廷見学も実施し、その後裁判官との意見交換も行っているとのことであった。要件事実については、民法の教員との協議をしながら進めており、要件事実は民法の解釈から出てくるものだとの理解を学生に徹底させているが、要件事実は暗記するものと勘違いしている学生や、独立の目的ととらえてしまっている学生がいるとの指摘がされた。また、要件事実はわかっていても、実体法の理解とのリンクができていないことが目立つとの指摘もあった。このような傾向は、学生が目先の結果のみにとらわれて、その理由に興味がないことが問題ではないかと思われるので、要件事実が何のためにあるのかをしっかり教えたいとの意見があった。
 これに対して、司法研修所教官からは、このような教育実践を聞くと法科大学院ではよく指導されていると思うとの感想が述べられ、修習生でも一定数は証拠法の理解が不足しているとの指摘や、全体に、実務的な手続の流れについての理解が弱いとの指摘があり、実体法や訴訟法の授業の中で、こうした弱点を意識して教えていく必要があるという意見が述べられた。また、基本が重要であって、民法の要件や民事訴訟法の基礎がしっかりしており、これを使える能力があれば、民事裁判・民事弁護の指導の効果が表れやすいとの見解も述べられた。これらを受けて、もし法科大学院で要件事実教育が不足しているのであれば、全体のバランスを崩さない限りで、選択科目等での補強も一考に値するのではないかとの見解も示された。                                                  以上


【案内文】

平成29年6月23日

法科大学院 関係者各位

教員研修のご案内

法科大学院協会
教員研修等検討委員会
主任 佐藤 隆之

 法科大学院協会では、これまで、司法修習における集合修習の授業見学及び司法研修所教官との意見交換を内容とする教員研修を実施して参りました。
 本年度も、司法研修所のご協力を得て、下記の要領により教員研修を実施する運びとなりましたので、ご案内を申し上げます。
 現在、第70期司法修習生は、各地の配属庁における分野別実務修習を受けておりますが、東京、大阪及びこれらの周辺の修習地で修習を受けている修習生(A班)は、分野別実務修習終了後に、司法研修所において集合修習を受けることとなっております。
 集合修習は、実務修習における体験を補完し、司法修習生全員に対して、実務の標準的な知識及び技法の教育を受ける機会を与えるとともに、体系的かつ汎用性のある実務知識及び技法を修得させることを目的として実施されており、この集合修習の模様を法科大学院の教員が実地に見学し、司法修習の指導内容等に関する正確な情報を得る機会は、大変貴重だと思われます。
 さらに、授業の見学に続き、司法修習との有機的な連携を踏まえた法科大学院教育のあり方等に関して、司法研修所教官と法科大学院教員との意見交換の場を設けます。法科大学院は、プロセスとしての新たな法曹養成の中核を担うべき機関として、将来の法曹にとって必要な実務上の学識及びその応用能力並びに実務の基礎的素養を涵養するため、理論的かつ実践的な教育を行うこととされており、率直な意見交換を通じて、法曹養成のための教育の現状認識や問題意識を共有することは、よりよい法科大学院教育を実現するために役立つものと考えております。
 司法修習のカリキュラムの内容は随時変更されてきておりますので、過去に教員研修に参加された方も含めて、会員校の教員の皆様には、奮ってご参加下さいますようお願い申し上げます。

日程:
    民事系教員研修 平成29年9月6日(水)
    刑事系教員研修 平成29年8月31日(木)
  進行(予定)
    民事系及び刑事系教員研修とも
    集合:13:15   司法研修所本館5階大会議室
    ① 事前説明       13:20~13:35
    ② 演習及び講評見学   13:40~16:35
    ③ 意見交換       16:50~18:30
  場所
    司法研修所
    〒351-0194 埼玉県和光市南2丁目3-8
    電話: 048(460)2000(代表)
カリキュラム内容(予定)
    (1) 民事系教員研修:「民事共通演習2(弁論準備手続期日)」
修習生を裁判官役、原告訴訟代理人役、被告訴訟代理人役等に分け、弁論準備手続期日における争点整理手続を実演させる。修習生には、主張を整理した上で、主要事実レベルでの争点、重要な間接事実レベルでの争点、それらを立証する人証を明確にすることを求めており、争点整理の結果に基づいて争点の確認などをさせる。その後、教官から、争点整理の解説を行う。
    (2) 刑事系教員研修:「刑事共通演習(尋問)」
修習生を裁判官役、検察官役、弁護人役等に分け、証人尋問及び被告人質問を実演させ、尋問等の結果を踏まえポイントになった事項を指摘する形で論告・弁論を実演させ、その上で裁判官役が争点に関する判断を示す。その後、教官から、尋問において顕れた手続上の問題点、法廷で的確な心証がとれるような争点に即した適切な尋問の在り方等について講評を行う。
意見交換会
    司法修習との有機的な連携を踏まえた法科大学院教育のあり方等に関して議論すべきテーマを設け、参加される教員より報告又はコメントをいただいた上で、参加者全員による意見交換を行いたいと考えております。
なお、昨年度は、民事系では「司法研修所教育と法科大学院教育との架橋-導入修習との関連で-」、刑事系では「法科大学院における教育の到達点と司法修習との連携のあり方」をテーマに意見交換を行いました。
詳細は、https://www.lskyokai.jp/wp/report/report20161210.htmlを御覧下さい。
参加可能人数及び研修結果の報告
    司法研修所の教室の収容人員に制約があることに加え、意見交換への実質的な参加を確保する必要があることから、参加可能人数は民事系・刑事系とも最大で15名程度といたします。
応募人数がこれを上回った場合には、教員研修等検討委員会において、可能な限り広く、全国各地から法科大学院の教員に参加していただくという観点を踏まえて参加者を決定いたしますので、予めご承知おきください。
民事系教員研修、刑事系教員研修とも、民事系、刑事系の科目の担当教員以外の方も、ご担当の科目いかんにかかわらず、積極的にご参加くださいますようお願い申し上げます。
今回の授業見学の模様や意見交換の内容については、法科大学院協会ウェブサイトにてご報告する予定です。
申込先: 法科大学院協会事務局
    〒103-0025 東京都中央区日本橋茅場町3-9-10
    公益社団法人商事法務研究会内
    電話: 03-5614-5654
    メール・アドレス: jals@ab.inbox.ne.jp
申込方法
    ① 件名を「教員研修参加申込み」としてください。
    ② 参加申込者の氏名、所属大学院名、希望日、担当科目、研究者教員・実務家教員の別、過去の参加歴を明記して下さい。
    ③ 意見交換会で取り上げるべきテーマを挙げて下さい。
    ④ 申込者の連絡先(電話・メールアドレス)を明記して下さい。
     なお、メールでの申込みを受け付けますと必ず受領の返信を差し上げます。
     万一返信がない場合には、お手数ですが、法科大学院協会事務局までお問い合わせ下さい。
申込期限:
    平成29年7月5日(水)
参加案内:
    参加のご案内は平成29年7月12日(水)頃までを予定しております。
    ご希望に添えなかった場合もご連絡いたします。

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