平成30年度司法試験に関するアンケート調査結果報告書

平成30年12月6日
法科大学院協会司法試験等検討委員会

1.まえおき

 法科大学院協会司法試験等検討委員会は、平成30年5月に行われた第13回司法試験について、すべての法科大学院を対象としてアンケート調査を行い、全52校中の52校から回答を得た(回答率100%)。多忙の中、ご協力いただいた会員校の責任者・担当者の方々に厚く御礼申し上げたい。
 調査は、これまでと同様、法科大学院教員の立場から見て、各科目の試験内容を適切と評価するかどうかを尋ね、その理由の記載を求めるとともに、末尾に試験全体につき意見を記載してもらう形式で実施した。更に、前回と同様、出題趣旨・最低ライン点の設定について、短答式試験の科目変更について、司法試験考査委員の体制変更についても意見を募った。
 この報告書は、回答集計と付記された理由・意見を取りまとめたものを各委員に送って関係分野についての評価を依頼し、その結果を報告書案にまとめて全委員に回覧した上で作成したものである。

 回答校の割合は、短答式試験及び論文式試験必修科目については、96.2%~88.5%、論文式試験選択科目については、平均52.2%(昨年度は54.9%)に達し、これまでと同様、高水準となっている。法科大学院制度に対して一層厳しい批判が向けられている現状において、各法科大学院が司法試験の出題傾向に強い関心を持ち、法科大学院を中核とする法曹養成制度における司法試験のあるべき姿について、批判的な検証が必要であるという強い意思を有していることを示していると評価できよう。

 回答内容全体を概観すると、短答式試験については「適切」「どちらかといえば適切」とする回答が併せて93.9%、論文式試験については、必修科目85.5%、選択科目80.6%である。一昨年・昨年の数値は、短答式試験が91.3%・91.0%、論文式試験必修科目が84.8%・86.2%、論文式試験選択科目が78.7%・79.9%であるから、試験問題に対する積極的評価は、ここ3年間、高い水準で安定していると一応はいえるであろう。
 分野ごとに試験問題の評価をみてみると、短答式においては、分野間に評価の開きはほとんどなく、いずれの分野も積極的評価が高い。論文式必修科目においては、民法(95.9%:昨年度84.4%)、商法(91.3%:昨年度82.7%)、刑事訴訟法(92.0%:昨年度80.8%)の評価が特に高かった。これらの科目に共通する肯定意見としては、基本事項を問う出題であること、法科大学院での教育内容に沿うものであること、受験生の理解の度合いを測るのに適した問題であることが挙げられている。これらは他の科目においても肯定的な評価をする際のポイントとして挙げられており、科目によって微妙な差はあるにせよ、出題の良し悪しを判断する際の重要な視点としてほぼ共有されているものだといえよう。
 昨年は、いくつかの科目で問題の分量や誘導など出題の仕方に工夫の跡が見られたが、今年は憲法と刑法においてかなりはっきりとした出題形式の変化が見られた。もっとも、その評価の点では、積極的評価が憲法は79.2%(昨年度86.5%)、刑法は71.0%(昨年度78.1%)と、いずれも昨年を下回っている。全体としてみると、どちらの科目についても、出題形式の変更それ自体についてはそれほど否定的ではないものの、内容面においてそのような出題形式の変更を生かし切れていないというニュアンスの意見が多いように見受けられる。今回だけで事の是非を判断するのは早計であり、今後の動向に注目すべきかと思われる。
 ところで、出題形式の変更については、学生の偏った学修傾向を是正するという意味で肯定的な意見がある一方で、受験生(また今後受験する者)を困惑させるなどマイナスの影響を懸念する意見も複数寄せられている。いたずらに受験生の不安を煽るようなことになるのは避けねばならないから、出題趣旨や採点実感で適切にフォローすることが重要であろう。
 選択科目は、全体としては積極的評価が80.6%(昨年度78.6%)であり概ね高評価といえるであろう。ただし、経済法に関しては積極的評価が32.0%(昨年度70.3%)と極端に低くなっている。回答の母数が25校と、それほど大きくないことから数値の振れ幅が大きくなることは考慮に入れなければならないが、その点を割り引いても、かなり低いことは否めない。更に、同科目の付記意見では、詳細な否定的意見が複数寄せられていることも特徴的である。法科大学院での学修内容を超え、専門家の間でも必ずしも議論が熟していない最新の問題を出題したことが、批判的な意見の中心をなしている。このような意見を踏まえた上で、きちんとした検証を行うことが望まれるところである。

 出題趣旨については、多様な意見が開陳されている。全体としては、出題趣旨は学習・教育に役立つという観点からの肯定的な意見が比較的多いように見受けられる。昨年から、出題趣旨についてはそのクオリティが上がったという声が多かったが、その基調は今年も続いているようである。もっとも、今年は、その点を好意的に評価しつつ、更なる質の向上に向けて、もう一段高いレベルの要求が向けられているような印象も受ける。採点実感も含め、作成者側には、この種の情報が学生に及ぼす影響の大きさに留意し、今後も有益な情報発信に努めてもらいたい。
 昨年と同様に、採点基準や配点の開示を提案する意見が見られた。これらの開示にどのような障害があるのか分からないが、実施の可否について議論くらいはしてみてもよいのではなかろうか。また、これも昨年と同様に、出題趣旨はもっと早い段階で公表すべきであるとの意見があった。司法試験委員会決定(平成17年11月8日)により、「出題の趣旨の公表については、合格発表後、速やかに法務省ホームページ等に掲載する」とされており、現状ではやむを得ないが、この公表時期に合理性があるのかは引き続き検討の余地があろう。なお、出題趣旨の内容が年によって異なる、という指摘がみられる。
 最低ライン点の設定については、各系の科目ごとに設定・公表した方がよいとする意見や、そもそもその合理性に疑問を呈する意見などがあり、注目されるところである。

 短答式試験の科目変更については、これまでと同様、「受験生の負担軽減」を理由として好意的に評価する意見が相当数ある一方で、短答式試験が実施されなくなった科目について、学習の偏りを危惧する意見も多く見られる。特に、訴訟法については、将来のことも見据え、基本的な知識を満遍なく学習することの重要性を意識させる上でも、短答式試験を実施すべきではないか、という意見は根強い。加えて、今年は、実際に訴訟法の知識が十分ではないと思われる者が合格しているという現状認識に基づいて、危惧感を表明する意見が見られる。また、短答式試験の対象外となった科目について、明らかに基礎的な知識が欠けているのに合格している者がいないか、実態調査をするべきである、との意見も見られた。更に、予備試験が7科目の短答式試験を実施していることとの関係で、法科大学院生の相対的な学力低下を危ぶむ意見も昨年と同様に見られるところである。

 司法試験考査委員の体制に関しては、法科大学院教員が考査委員に加わるべきであるという意見、及び、研究者委員を増やすべきだという意見が、やや増えてきているように思われる。しかし、他方で、考査委員は実務家であるべきだという意見も依然として主張されていることも見逃せない。ここには、試験の公正さとそれに対する社会の信頼の維持という点と、試験の質の維持・向上という点のバランスをどのようにしてとるのか、という問題があるように思われる。他に、考査委員の任期制を導入すべきだという意見が複数見られ注目されるが、他方で、人材不足を懸念する声も寄せられている。

 試験全体についても様々な意見が寄せられた。これまでと同様、予備試験のあり方に疑問を呈する意見が目立つ。また、今年は、いわゆる3+2の導入や、ギャップターム解消案という法科大学院制度の根幹にかかわる改変が現実味を帯びてきている中で、改めて司法試験のあり方と法科大学院の存在意義について再考を求めるような意見も寄せられている。法科大学院を取り巻く情況は厳しく、制度改編の動きも急であるが、今回のアンケートにおける意見にも現れているように、よりよい法曹を育てていくために法科大学院の教育はどのようにあるべきなのか、ということについて、真剣に熱意をもって取り組んでいる者が多数いることは確かである。今後の司法試験制度のあり方、また、法科大学院のあり方を考えるための一歩として、寄せられた様々な意見に目を通してもらいたいと思うところである。

 法科大学院制度を中核とする法曹養成制度のあり方の再検討が進められている中で、政府の関連会議等において、本アンケート調査結果及び寄せられた意見等に十分な考慮を払われるよう要望したい。

※ 以下の記述中に、アンケート回答校数として小数点のある場合は、1回答校に複数の種別の回答があったことの反映であることを注記しておく(なお、本アンケートへのご協力をお願いするに当たっては、「複数の選択肢を選ぶことはなさらないでください」とお願いしております)。
※ 以下の記述中、無回答の割合を示すパーセンテージ表記は回答・無回答を含む総数を母数としたものであり、その他のパーセンテージ表記は当該分野に係る無回答を除く数値を母数としたものである。

2.短答式試験について

 (1)憲法分野

 短答式試験の憲法分野では48校から回答が寄せられた(昨年度は53校。なお、本年度の無回答が4校)。そのうち、「適切」と回答したものが22校(45.8%)、「どちらかといえば適切」が23校(47.9%)、「どちらともいえない」が2校(4.2%)、「どちらかといえば適切でない」が1校(2.1%)、「適切でない」としたものはゼロという結果であった。
昨年度は「適切」が41.5%、「どちらかといえば適切」が49.1%であり、「適切」であるとの回答の割合が上昇しただけでなく、「適切」と「どちらかといえば適切」の両者を併せた割合も、昨年度が90.6%なのに対して、今年度は93.8%だから、明らかに評価は上がっていると理解することができる。消極的な評価がほとんどないことを見ても、法科大学院の大半は今年度の短答式試験の「憲法」問題を妥当と評価したといえる。
 「適切」と「どちらかといえば適切」に付記された意見を全体として見ると、出題範囲のバランスの良さと難易度の適切さを評価するものが多い。数は多くないものの、批判的な意見の中には、設問の紛らわしさや細かすぎる点を指摘するものも散見される。

 (2)民法分野

 短答式の民法分野について回答があったのは49校であり、3校が無回答であった。適切とするのが24校(49.0%。昨年度は43.1%)、どちらかといえば適切とするのが23校(46.9%。昨年度は49.0%)、どちらともいえないとするのが2校(4.1%。昨年度は7.8%)、どちらかといえば適切でないとするのが0校(0%。昨年度も0%)、適切でないとするものは0校(0%。昨年度も0%)であった。適切・どちらかといえば適切と答えた割合は、昨年度同様9割以上を占めている。
 自由記述欄の肯定的理由としては、昨年度と同様、基本的な知識として必要な内容を的確に問うものである、全体として分野のバランスが取れている、分量としても適切であるという指摘にほぼ集約される。今年度に特徴的なものとしては、第7問のように具体的な事案の解決に際して判例法理をどのように用いるかを考えさせる問題について肯定的な意見が複数あり、全体の解答時間に配慮しつつこの種の問題の数を増やしてはどうかという意見もあった。
これに対し、問題点を指摘する意見としては、一部に細かな知識を問う問題があったという意見が複数あった(具体的にそのような指摘があった問題として第9問ウ、第13問ア、第24問ウ)。このような指摘もあったが、全体としては肯定的な意見が多かった。

 (3)刑法分野

 刑法分野・短答式について回答があったのは50校(昨年度56校)であった。
 回答としては、「適切」とするのが24校(48.0%。昨年度は56校中26校)、「どちらかといえば適切」が22校(44.0%。昨年度は25校)であり、「どちらともいえない」とするのが3校(6.0%。昨年度は4校)、「どちらかといえば適切でない」とするのが1校(2.0%、昨年度は1校)、「適切でない」とするのは0校(昨年度0校)であった。「適切」と「どちらかといえば適切」を併せて積極的評価を示すものが46校(92.0%)となった。昨年の56校中51校(91.1%)を上回っており、これまで同様に、肯定的な評価が続いているといえよう。
 回答に付された理由をみると、「基本的な知識および推論能力をバランスよく確認する内容となっている」「全範囲から万遍なく出題されていた」「全般にわたりバランスよく出題されている」「刑法の基本的な理解を問う問題が出題されている」といった出題分野のバランスや難易度を評価する肯定的な意見が多く見られた。
 他方、否定的な意見としては、「事例が長文化しており、学力でなく処理能力やテクニックのある者が有利ではないか」「一部に短答式としては問題文が長いと思われるもの(がある)」という意見、「過去の問題と酷似しているものが含まれている」「過去の問題文と実質的に同じものが目立つ」という意見が目を引く。
 判例を中心にした出題が多い点については、例年、肯定・否定の両論が見られるところであり、本年も同様であるが、「判例の理解によっては、受験生が混乱する問題や選択肢が含まれているように思われる」との意見が注目される。 個別の内容に関しては、過失犯に関する出題について、「過失犯の学説は異説の有無まで検証できず学習範囲を超えるように見える」「過失犯論をめぐる学説対立が、かなり図式的に描かれている」という意見が寄せられている。過失犯について何をどこまで教えるか(学生にどの程度の理解まで求めるか)という点に関しては、法科大学院毎にやや温度差があるのかもしれない。
 個別の設問については、「第9問および第14問で問われていることは、条文を読めばわかるのだから、あえて司法試験で問わなくてもよいのではないか」「第15問では、業務上横領罪を素材とした身分犯の共犯が問われているが、学生Bの見解が分かりづらい」「第19問では、監禁と死亡との間の因果関係が問われているが、「死期が幾分か早まった場合」という条件設定は、現実の判例(最決平成2・11・20刑集44巻8号837頁など)にはない事実関係を前提とするので、出題としての厳密さに欠ける」といった意見が寄せられている。
 なお、作問委員が実務家偏重になっていることの問題性を指摘する意見もあった。

3.論文式試験について

 (1)公法系

 (a)憲法分野

 論文式試験の憲法分野では48校から回答が寄せられた(昨年度は52校。なお、本年度の無回答は4校)。そのうち、「適切」と回答したものが12校(25.0%)、「どちらかといえば適切」が26校(54.2%)、「どちらともいえない」が6校(12.5%)、「どちらかといえば適切でない」が2校(4.2%)、「適切でない」が2校(4.2%)という結果であった。昨年度は、「適切」と回答したものが36.5%、「どちらかといえば適切」と回答したものが50.0%、両者併せて86.5%であったが、今年度は両者併せて79.2%に留まったことから、評価は少し下がったということになる。もちろん、全体としては、高い評価を維持しているものの、ここのところ、憲法分野の論文式試験の評価は上昇の一途であったことを思うと、今回、一旦落ち着いたと見ることもできる。
 出題範囲や設問水準という点では、ほとんどの法科大学院が高く評価している。解答に当たって、基本判例や標準学説を十分に理解しておれば、十分な解答が作成できただろうと評価する意見が多数であり、基礎知識と論理的思考力の両者を図ることのできる良問であると受け止める法科大学院が大半であった。
 今回、多くの法科大学院が反応したのは、出題形式の変更である。これに対しては、極めて好意的に評価するものから、否定的に評価するものまで様々である。今回の出題形式変更を是とする意見は、この方が従来の三者書き分け形式よりも良いとし、出題形式を固定しない方が好ましいと述べている。他方、今回の出題形式変更を否とする意見は、突然の変更が受験生を動揺させた点を問題視し、変更するのであれば事前告知が必要だったのではないかと述べている。ただ、今回のような出題形式そのものを否とする意見は見当たらなかった。
 設問中の「誘導」や「指示」の多用についても、法科大学院間で評価が分かれている。「誘導」等の多用を是とする意見は、これほど論点の多い設問であるのなら、「誘導」等を多用したのもやむを得ない(逆にいえば、「誘導」等を多用しなければならないくらい論点が多い、すなわち論点が多すぎる、との批判の含みもあると思われる)と述べている。他方、「誘導」等の多用を否とする意見は、受験生の論点発見能力を問うことが困難になるのではないかと述べている。
 本問事業者への規制を専ら営業の自由に対する規制と捉える「出題趣旨」に対して、表現の自由の観点からの検討もあってしかるべきではないか、という意見も見られた。この点も、論点の多さとの関係で、再考の余地があると思われる。

 (b)行政法分野

 回答を寄せた52校のうち、「適切である」と評価したのが21校(43.8%)、「どちらかといえば適切である」が20校(41.7%)、「どちらともいえない」が6校(12.5%)、「どちらかといえば適切でない」は1校(2.1%)、「適切でない」が0校であった。無回答は4校(7.7%)であった。昨年は、「適切である」と評価したのが34.6%であったのに対して、今年は43.8%になり、より高い評価になっている。昨年も、「適切」「どちらかといえば適切」を合わせれば8割5分を超えていたため、かなり高い評価であったといえるため、行政法論文問題については、安定して高い評価が得られているといえよう。
 本年度の問題は、墓地経営許可に素材を求めた出題であったが、「適切である」とする評価の個別意見では、「基本的な問題が出題されており、難易度も適切と思われる」「行政法の実体法および訴訟法に関する基礎的な理解を、複雑すぎない事例と個別法および条例に即して問うものであり、適切である」「オーソドックスな論点で、受験生が力が出しやすい良問である」「論点自体はシンプルなものであり、技巧的な部分を問うのではなく、ある意味ストレートな出題だったと思いますが、その分、実際の答案記述にあたっては、解答者の力量の差違を問うのにふさわしい出題内容となっていた」「通常の行政法の授業で論じられる論点が取り上げられており、しかも、その論点を論じる際に気づきにくい(あるいは難しい)事情ないし問題点についても、資料から気づけるように配慮・誘導してあり、試験としては、実力に基づいた受験者の差異化が行われやすい問題」「オーソドックスな論点について、対立点がクリアでクセのない問題である」などの意見が寄せられており、事例の難易度、設問内容の選択において、適切であるとの意見が多く寄せられている。
 ただし、その中でも、一部では、「取消訴訟の原告適格または処分性と根拠法規の要件の解釈という出題が定着し、受験生の負担は減っているが、受験生がこれらの論点しか勉強しなくなるとすれば問題であろう」「司法試験で問われる論点と問われない論点が色分けされないよう、もう少し広い範囲から論点を選んでいただけるとよいのではないか」等の懸念も示されている。
 「どちらかといえば適切」とした個別意見の中にも、「極めてオーソドックスな論点について、自らと異なる立場を想定させながら、事実関係に即して説得的に論じさせようとするその出題の仕方は、積極的に評価されるべきである」「本案を問う比率が高まっており、その意味で難度は高まっているが、他方で資料等は少なくなり、事務処理上の負担は軽減されているため妥当と考える」「問題はよく練られている。問題の量も多すぎるといことはなく、適切と思われる。また、設問内容そのものも法科大学院生にとって無理というものではなく、 適切である」「学習内容を適切に測るものとなっている」等の積極的な評価が多くみられるが、他方で、「基本的な論点を中心としているが、論ずべき点が多岐にわたり、やや細かな点も問うものとなっており、もう少し整理する余地があったのではないか」「解答量が少し多く、丁寧な解答をすると時間不足となるように思う」「設問数がやや多すぎる嫌いがある。もっと設問を減らして少しじっくりと考えさせてもよいであろう。そのように設問を減らしても成績は適切に分散するであろう」「毎年のことであるが、設定と設問の立て方が、2時間で解答するにはやや複雑すぎるきらいがある」「例年と同じく、弁護士が参加した「検討会議の会議録」がついているが、(例年もそうだが)その誘導が詳しすぎて、国語力のある者ならこの対話を分析するだけでほぼ解答が導けるのではないかと懸念される」等の指摘がみられた。また、今回の問題文について、「設問1の出題文について、(1)の「どのような主張を行う」かとして、何について論じればよいのかわかりにくい」「誤解が生じないようにすべき」「設問はもう少し分かり易く記載すべきであろう」との指摘が複数みられた。 「どちらともいえない」との評価の個別意見では、「基礎的な問題ということはできるが、類似の出題傾向が連続している。法科大学院生にとって、基本的事項を幅広く学修するインセンティブとなるような出題を工夫すべきである」「解答すべき内容が分量的にもかなり多く、2~3割は減量すべきと思われる」「内容的には基本的な問題であるが、出題の仕方(形式)は不適切ではないかと思われる」「問1の問題表現については、二通りの読み方が可能であるため、どちらを問うているのか混乱したとの受験者が非常に多かったと承知している」との前述と同旨の指摘がみられた。
 「どちらかといえば適切でない」との評価の個別意見では、「試験内容は適切であったが、問題文が読みにくかった。設問の趣旨を読み違えて実力を発揮できない学生が相当数いたと推測される」「設問1の(1)の「…原告適格があるとして」の意味が明確でない」との前述と同旨の指摘がみられた。
 本年の行政法の問題は、昨年同様、事例の難易度、設問内容の選択において、良問として、かなり高い評価を得ている。ただし、オーソドックスな論点で、受験生が力を出しやすく、力量の差違を問うのにふさわしい点が評価されている反面、一部には、司法試験に出る論点が限定されすぎないかとの懸念が示されていることに注意を要しよう。また、今回の問題文の中に、何を問うているのか必ずしも明確でない表現が含まれていることが複数の法科大学院から指摘されているため、この点についても、十分な検証が必要とされよう。

 (2)民事系

 (a)民法分野

 論文式の民法分野について回答があったのは49校であり、3校が無回答であった。適切とするのが27校(55.1%。昨年度は37.3%)、どちらかといえば適切とするのが20校(40.8%。昨年度は47.1%)、どちらともいえないとするのが2校(4.1%。昨年度は13.7%)、どちらかといえば適切でないとするのが0校(0%。昨年度は2.0%)、適切でないとするのが0校(0%。昨年度も0%)であった。適切・どちらかというと適切とするパーセンテージが90%以上の高い割合となった。
 個別意見および出題趣旨等についての意見の中で肯定的理由としてあげられているものの多くは、基本的な事項の正確な知識を問うものである、法科大学院の授業内容に対応している、現場での思考力・応用力が試される問題である、出題範囲としてもさまざまな分野に及ぶものであり適切であるといった指摘にほぼ集約される。
 今回の出題に対する疑問点・改善すべき点としては、問題の分量の多さを指摘するものが複数あった。思考力を問う良問でありながら、十分な時間がないために事務処理能力だけが問われてしまうことに対するもったいなさを指摘するものも複数見られた。また、改正前民法の論点を解かせることに対する疑問を述べる見解もあった。
 以上のように、改善に向けての意見も寄せられているが、全般としては肯定的な意見が多数を占めていた。
 なお、出題趣旨等についての意見の中には、出題趣旨が具体的に記述されていることを歓迎する意見が複数あった。もっとも、総花的な記載で、受験生に何をどれだけ論じればいいのか分かりにくくなっているという指摘もあった。最低ライン点につき、受験者に有益な情報であるという意見がある一方で、「裁判所の専門部」や「専門弁護士」の存在と相容れないとして合理性に疑問をさしはさむ意見もあった。

 (b)商法分野

 論文式試験の商法分野について回答のあった法科大学院は46校(昨年より6校の減少)で、6校が無回答であった。
 回答した法科大学院のうち、「適切である」との回答が15校(32.6%。昨年より1校の増加)、「どちらかといえば適切である」との回答が27校(58.7%。昨年より2校の減少)であり、肯定的な回答をした法科大学院は42校(91.3%)であり、昨年と比較して、数では1校減少したが、割合においては約8.6ポイントのアップとなった。
 「どちらかといえば適切でない」とする回答は0校(昨年より2校の減少)、「適切でない」とする回答が1校(昨年より3校の減少)で、否定的な回答をした法科大学院の割合は2.2%であり、数では昨年より5校減少した。一昨年、昨年と2年連続で評価が悪化したが、今年は劇的に評価が改善された。なお、「どちらともいえない」とする回答は3校で、昨年と同数であった。
 設問1と設問2については、条文と基本的な判例の理解を問う問題であり、難易度も適切である、会社法の基本的で重要な論点についてのオーソドックスな出題である、判例学習の重要性を受験生に認識させる内容である、法科大学院における授業内容を踏まえた出題である、論点に偏りがなくバランスのとれた出題である、といった肯定的評価で占められていた。
 これに対して、設問3に対する評価は大きく分かれた。設問1・2とのバランスから、条文の趣旨を読み取る応用問題として、あるいは、現場での対応力を問う問題として、肯定的に評価する回答があったのに対し、そのような出題の意図に理解を示しつつも、制度趣旨から出発して多くの事実を適切に検討した上で答案を書くには時間が足りない、問題文の事実をどのように使えば良いのかがわかりにくい、判例に乏しく、学会でも問題意識のみが先行して適切な解決策が見いだされているとはいえない論点を出題することは採点上の困難も予想され、好ましくない、出題意図が受験生に馴染みがなくわかりにくい、設問趣旨が不明確で採点に困難が伴う、といった否定的な回答も多くあった。
 問題の量については、検討すべき論点が多く、すべてについて時間内に解答するのは困難であり、論点の取捨選択の巧拙が評価に大きく影響するのではないか、という疑問を呈する相当数の意見があった。
 最後に、アンケートを集計する時点で採点実感が公表されたので、それを踏まえて回答をまとめた者の個人的な意見を補足しておく。設問3は「条文の趣旨を踏まえつつ…論じなさい」とあり、本設問を制度趣旨の理解を問う問題として、あるいは制度趣旨から考える力を見る問題として、肯定的に評価した回答があった。ところが、採点実感は、本件請求を否定するには、AC間の合意に反した支配権維持のための取得であることを理由とする権利濫用の法理を用いるべきことが期待されるとしている。また、本件請求は、同条に反しないとしつつ、AC間の合意が実質的に株主全員によるものであるということができるかどうかを丁寧に検討し、当該合意との関係で本件請求の効力を論ずる答案には高い評価を与えたという。さらに、Cのみが議決権を行使した本件請求を可決する総会決議は、特別の利害関係人が議決権を行使したことによる著しく不当な決議として取消し事由があり、決議が取り消されることにより、本件請求が効力を生じないことについて、検討することが期待されるという。しかし、どのような意味でCが特別利害関係人に当たるのかについては、出題趣旨も採点実感も何も述べていない。単に私の理解力が足りないだけなのかも知れないが、出題趣旨と採点実感を読む限りは、本件請求がAC間の合意に反した支配権維持のための取得請求であることが決定的なのではないか、そうだとすると、そもそも、本件請求の効力について、条文の趣旨を踏まえて論じる必要があったのか、という疑問が生じる。採点実感によれば、制度趣旨から直ちに本件請求が無効であるとした答案は、制度趣旨を明らかに誤解している答案と同様に不良と評価される。

 (c)民事訴訟法分野

 52校中、「適切」と答えたのは23校(46.0%)、「どちらかといえば適切」と答えたのは19校(38.0%)、「どちらともいえない」との回答は6校(12.0%)、「どちらかといえば適切でない」との回答は2校(4.0%)、「適切でない」と回答した法科大学院は0校(0%)であった。無回答は2校(3.8%)あった。
 「適切」(23校、46.0%)と「どちらかといえば適切」との回答(19校、38.0%)を合わせると、42校(84.0%)である。昨年の94.5%からは10.5ポイント減少したが、一昨年の71.2%ほどには低くない。また、「適切ではない」との回答が一昨年度は3校あったが、昨年と今年は0校である。なお、今年の論文式必修科目全体の平均値では、「適切」「どちらかと言えば適切」の割合は85.5%であり、本科目はこれをわずかに下回るがほぼ同じ水準となっている。以上の統計値を踏まえて一般的に見ると、今年の問題については、昨年の水準には満たないものの、比較的に多くの法科大学院が良問と捉えていることが窺える。
 次に自由記載欄からみると、「適切」と回答したものは、「基本書、判例百選等で取り扱われている基本的なテーマから出題されており、授業内容にも沿う素直な問題」、「条文および重要判例を前提とした法的思考を自然な形で展開し得る能力の有無および程度を測定するのに適した出題」、「基本的知識とその実務への応用を問うものであり法曹としての資質をはかる問題として適切」、「基本から考えれば、答えられる問題となっている。また、実務的観点も入っており、司法試験としてふさわしい」、「法科大学院の授業内容と乖離がなく、受験者の基礎知識・応用力が適切に評価できる。」、「債務不存在訴訟の典型的な論点と、現在実務的な文書提出命令についての議論、併合等の実務的な問題が、バランスよく出題されている。」、「奇を衒わず、基礎的な概念の正確な理解を問う問題」、「ここ数年の中で、最も適切」などの意見がみられた。
 ただし、「適切」と回答したものの中には、「設問1につき適法であるとの方向での解答を求めることは受験生にとってはやや難度が高い」、「設問2は、近時の文書提出義務に関する細かい判例を覚えていることを要求しているわけではない点では良問だろう。資料記録=カルテと考えて良いのか、受験者には直ちに判断がつかないかもしれないので、その点の説明を問題文に付して欲しかった。設問3は、出題の趣旨の説明が短いが、これが単に判例を知っていることを要求しているのならば、良問とはいいにくい。しかし、補助参加の利益の基準を立てた上で事案に即して利益の有無を判断することを要求しているのであれば、総じて良い問題と言えよう。」との指摘もあった。
 「どちらかといえば適切」と回答したものは、積極的評価として、「全般を通じて例年と同レベルの基本的な事項を問う適切な問題」、「重複起訴・主観的追加的併合・文書提出命令・補助参加とまんべんなく基礎的なところを訊いており適切」、「基本的な論点について、じっくりと考察して結論を出す良問」「実務的にも重要な論点が、問題とされている。考えれば回答できる内容」、「法科大学院の授業の範囲内ないしその延長で、基礎的な問題から応用・展開問題まで出題されており、まったく手が出ないような難問でなく、ほぼ適正な問題」、「課題(1)の前段の問いは、個々の正確な理解を前提に、それを論理的に結び付けて、結論を導く力を測定するものといるが、かような法的思考過程の修得が法科大学院の教育目標であるから、その意味で法科大学院の学習と整合している。課題(2)で問われている内容そのものは、授業の場で講ずることはないかもしれないが、Aによる給付の別訴の意義等、訴えの根本に立ち還った議論の点では、基本的学習を援用しての考察・展開といえるのではないか。」などの記述があった。一方、消極的評価として、「個別の出題内容については概ね適切であると思われるが、全てに回答するには答えるべきことが多すぎる」、「問題が多岐にわたり、また応用型としてやや高度」、「設問の配点の割合および出題趣旨を踏まえてもどこまで解答すべきか、問題文からは、必ずしも明確ではない」、「意表を突くような問題ではなく、より基本的でありかつ深く検討することのできるような問題を出題してほしい」、「文書提出命令についてのやや派生的な判例を取り扱っていたので、受験生が知っているか知っていないかに左右されるところがあった。」、「共同訴訟人の一人が相手方と他の共同訴訟人との訴訟につき相手方に補助参加をすることができるというのは、確かに講義で必ず触れるところではあるが、踏まえるべき判例も百選でAppendix扱いであり、やや細かいかもしれない。」などの意見があった。
 「どちらともいえない」と回答したものは、「基本的な知識を前提に考えさせる問題というよりも、基本的なものではあるが判例百選に載っていない判例を知っているかどうかを問う問題であったと考えられる(とくに設問2と設問3)」、「第1問は、手続の細かな問題に言及しなければならず、難しすぎるため、結果的に差がつかないのではないかと危惧する。特に、課題2について、給付訴訟を適法とする方向での理由づけを求めることは、実務的に違和感があるばかりでなく(給付訴訟を移送することによって対応すべきことになろう)、理論的にも無理を伴うであろう。第2問について、出題の趣旨においては示されていないが、提出を求める文書の特定性についても言及する必要があろうかと考える。」、「既判力は、実務でほとんど問題にならないのに毎年のように出題されましたが、今回は出題されませんでした。この点は評価できると思います。個別に見ると、設問1(1)で反訴での主観的追加的併合を考えさせるのは良い問題ですが、設問1(2)は出題の意図が見えにくいものでした(三木説を問うのかどうかなど)。設問2も受験生にとっては「変化球」でしたが、設問としてはありうるものだと思います。設問3は単に条文と判例の知識を問うもので、短答式試験の代わりとしての意味なのかもしれませんが、設問1と2で手間取り知識問題の設問3について十分書けなかったという受験生が多かったものと推測され、受験生の実力を客観的に判定できたかには疑問の余地を感じます。」などの意見があった。
 「どちらかといえば適切でない」と回答した法科大学院からは、「特異な事例の部分があった」、「共同訴訟は学生にとってやや不意打ち的であり、点差がつきにくいのではないか」との意見があった。「適切ではない」と回答した法科大学院はなかった。
 以上を総括すれば、今年の問題については、基本書や百選で扱われる基本的な知識をベースに事案への応用力を問うものであるとして、司法試験に相応しいテーマおよび難易度であったとする積極的評価が大多数を占めるが、分量の多さや問われている知識の細かさを指摘するものも散見されるアンケート結果となっている。
 なお、出題趣旨および最低ラインについては、「例年に比べ丁寧で、説による分岐も示されているので、適切なものである。」、「時間配分を考えながら、どこまでの記述が求められているのか、その問題については記述が必要なのか不要なのかのラインが必ずしもはっきりしない」、「出題の趣旨に述べられている点が全て論じられているのでなければ合格点が付かないのであれば要求水準が高すぎるということになるが、そのようなことは無いと思いたい。」、「出題趣旨は、受験生が答案作成等を十分に検討できるように、限りなく模範答案に近いような詳細なコメントを付するようにしてほしい」、「設問2と設問3の配点がなぜ同等なのか明確ではないように思える」、「できる限り速やかに公表してもらいたい」、「最低ライン点は、各系の各科目ごとに設定・公表したほうがよい。」などの意見があった。

 (3)刑事系

 (a)刑法分野

 刑法・論文式には50校からの回答があった(昨年度55校)。
 回答内容は、「適切」13.5校(27.0%。昨年度13校)、「どちらかといえば適切」22校(44.0%。昨年度30校)であり、併せて積極的評価を示すものが35.5校(71.0%。昨年度43校)である。積極的評価が2年連続で減少している(昨年度78.2%、一昨年度84.8%)ことは気になる。
 「どちらともいえない」とする回答は8校(16.0%。昨年度7校)であり、「どちらかといえば適切でない」は2.5校(5.0%。昨年度3校)、「適切でない」は4校(8.0%。昨年度2校)であった。例年に比べて、否定的な評価がやや多いといえよう。
 今年の問題は、出題形式が変わった。その点に関しては、「法科大学院における教育の成果を問う形式の出題へと改良された」「単なる規範定立とあてはめの能力を図るのではなく、異なった立場に立って考えさせる出題となっており、非常に工夫された良問であった」「設問2は、複数の立場から立論を考えさせる内容になっており、実務家に必要な法的思考力、立論能力を問うには良い問題と思われる」「反対の立場から立論させるという出題は、実務家にとって必要な能力を見るという意味でも良問ではないか」「単純に罪責を問うのではなく、そこに、具体的事実に基づいた法的構成における選択の可能性に考え到る論理的思考の柔軟性を問う工夫がなされている点は、法曹養成プロセス教育の本来的な趣旨に合致する」といった肯定的な評価が多くみられた。他方で、「問題抽出能力を考えさせる能力がますます下がるのではないか、考えなくなるのではないかと少し心配」「旧司法試験に接近している」などややネガティブな意見や、出題形式の変更自体には好意的でありつつも、「設問(2)の「どのような説明」、「どのような反論」は、説明・反論の対象・射程が必ずしも明らかではなく、何をどこまで論じれば出題意図に応えたことになるのかが一義的ではないという問題があるように思われる」「検討すべき内容が必ずしも明確ではない点もあるように思われる」「設問の表現・方法が適切であったか、疑問が残る」とするような意見も散見された(そのほか、受験生の戸惑いを懸念する意見も見られた)。全体としてみると、改善の余地はあるものの(なお、「各設問の配点を明示して欲しかった」という意見もある)、出題形式の変更自体に関しては好意的に受け止めるものが多数であるように見受けられる。
 しかしながら、出題内容に関しては、かなり厳しい意見が目に付く。特に、「実際には起こりえない事例を提示しており、事例に無理があるように思われる」「出題された事例は、全体として起訴価値が薄く、現実性に乏しく、内容においても判例理解をあまり前提としていない点等から実務家登用試験として、このような内容形式の方がより適切であるかには、疑問の余地がある」「常識的に通常あり得ない想定であり、そのため、机上の空論と思われる事例であって、示された事実関係だけでは、結論を導くこと自体が困難」「教室設例に基づき、学説の対立を問うウェイトが高く、解答に当たり法科大学院での教育成果を発揮することは難しく、体系的な実務教育を受けていない予備試験受験生に有利な内容となっており、試験の公平性の観点からも適切ではない」「およそあり得ない事案を基に一定の結論に向けた理論構成だけを問うことは、法曹実務家登用試験において優先的なこととは思われない」といった事案の不自然さにまつわる問題点を指摘する意見が多い。細かい学説の対立について論ずることが求められているのではないと思われるが、受験生がどのように受け止めたか、また、今後受験する者にどのようなメッセージとして伝わるかはやや気になるところである。その点では、「実務上取り上げられることが差し当たり想定され得ない学説についての知識が問われていると誤解されないような出題形式・内容に留めることが重要であると思われる」「事例の変更、条件付けや設問形式が若干たどたどしく思われるので、その点をより洗練する方向での改善のみを望む」といった意見に傾聴すべきものがあるように思われる。
 なお、(特に設問3について)「問題の趣旨が必ずしも明確でないうえに、受験生の知識・理解・能力を的確に試すものとなっていない」「示された事実関係だけでは、結論を導くこと自体が困難」「内容的に、一般的な理解からはどうやって要求される正解に到達できるのか判然としない設問が含まれていた」といった、そもそも何が問われているのか自体が不明確であるという趣旨の意見があることも注目される。
 全体としてみると、出題形式の変更自体はある程度評価するものの、内容についてはまだまだ検討の余地がある、というような見方が多いようである。「全体としては従来よりも問題改善する努力・新路線が窺われるものの、いまだ功罪相半ばというべきであろう」という意見が象徴的なものだといえようか。
 出題趣旨に関しては、適切であるとする評価が多いが、その出題趣旨に沿った問題となっているかという点に疑問を呈する意見が見られた。

 (b)刑事訴訟法分野

 今年度の刑事訴訟法・論文式の出題は、設問1が捜査法、設問2が証拠法に関するものであった。設問1は、捜査機関による2つのビデオ撮影の各適法性を問うものである。また、設問2は、詐欺の被害者が作成した欺罔行為に関するメモ及び詐欺被害に係る現金の授受に関する領収書の各証拠能力を問うものである。捜査法、証拠法ないし公判法を満遍なく問うのは、例年通りの出題形式である。

 このような本試験問題の適否につき、52校からの回答があった(昨年度は56校)。
出題の内容につき、「適切」と回答したのが26校(52.0%。昨年度は42.3%)、「どちらかといえば適切」と回答したのが20校(40.0%。昨年度は38.5%)である。合計46校(92.0%)であるから、積極的評価を示すものが全体の9割を超えている。この「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせた数値は、平成26年度が96.9%(65校中63校)、平成27年度が87.1%(62校中54校)と高水準を示したが、平成28年度には66.5%に低下し、平成29年度(昨年度)は80.8%と持ち直していた。平成28年に底を打った教育現場からの支持率が、平成29年度に回復し、平成30年度(今年度)は、さらに高い支持を受けたと総括してよさそうである。とりわけ、過半数の26校(52.0%)から、「適切」との評価を受けたことが目を引く。
 他方、「どちらともいえない」との中間的評価は2校(4.0%)で、「どちらかといえば適切でない」との消極的評価は2校(4.0%)、「適切でない」という明確な消極的評価は0校である。いずれも低い水準で、これらの数値からも、今年度の出題は、肯定的な評価を受けたと言ってよいであろう。

 「適切」との評価を与えた意見の個別の内容を列挙すると次のとおりである。
 「ロースクールで要求される学修レベルに見合った出題と考える。解答すべき分量としても、いたずらに処理能力のみを問うものではなく、適切であった」、「難易度及び分量に鑑みると、捜査法及び証拠法ともに、基本的な知識の確実な習得を前提に、その応用能力を適切に測ることのできるものであると思われる」、「過去問でも扱われている基本的な問題であり、形式面・内容面ともに適切である」、「質(内容)的にも法科大学院の教育を受けていれば解けるはずのものとなっており、かつ、求められる論述の分量についても適切な範囲内におさまっていたと考えられる」、「基本的かつ重要な問題からの出題であり、問題の根本的所在、出題の仕方等、いずれも実力を図るために適切なものであった」、「問題の質・量ともに適切」、「捜査・証拠のそれぞれから、バランス良く出題されている」、「司法試験においてポピュラーなテーマであって穏当であり、内容的にも適切」、「基本的な事項についての理解を問うもので、非常に素直な問題」、「法科大学院の授業で必ず扱う基本的な論点でありながら、それを表面的にしか理解していない学生が多いと考えられるものを正面から取り上げた問題であり、受験生の理解の度合いを適切に図ることができる」。
 以上から分かるとおり、肯定的意見は、その根拠を、①法科大学院での学修レベルに見合った基本的で素直な出題であり、修了者ならば誰しもが一度は学んだことのある、いわゆる典型論点に属する分野からの出題であること、②前提として、そのような出題であるからこそ、基本事項の理解の深さが如実に表われ、法律学習者としての実力を正しく評価できること、③捜査法、証拠法からバランスよく出題され、特定の分野・論点に関する知識・理解に濃淡があったことに由来して評価に差が付く出題構造になっていないこと(単発論点を問うものではないこと)、④問題の分量も適切であり、試験時間内に過大な事務作業をこなすことを要求する出題になっていないこと(※分量過多の出題は、結果として、受験生を暗記に走らせがちになる弊害のあることは、教育現場からつとに指摘されてきたところである。)などに求めているものと考えられる。これらの指摘は、問題の内容それ自体や公表された出題趣旨等に照らし、もっともなものと思われる。今年度の出題は、「余りに凝った内容のものや、捻りの入ったものは困る。それでは、法律学習の在り方に歪みが生じかねない。処理すべき分量が多すぎる問題も困る。それでは、基本的な事項をじっくり考え、表現するタイプの学生が育たない。時間内に大量の情報を表面的にそつなくこなすことが法曹としての資質だという誤ったメッセージを与えかねない」という、法科大学院の教育現場の実感に沿ったものと言えるのではないか。

 このように総じて高い評価を受けた今年度の本試験問題であるが、出題形式に目を引く特徴のある部分が一箇所だけ存在した。それは設問2-2である。この設問は、【資料1】として図示して与えられた領収書(問題文では「本件領収書」)の証拠能力を問うものであるが、「本件領収書の作成者が甲であり、本件領収書が甲からVに交付されたものであることは、証拠上認定できるものとする。」との前提を与えた上で、「本件領収書の証拠能力について、立証趣旨を踏まえ、立証上の使用方法を複数想定し(※下線筆者)、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。」というものであった。立証趣旨との関係で当該領収書がどのように用いられることが考えられるのか、複数の用途を考えさせることにより、伝聞・非伝聞、さらには伝聞例外の理解を幅広く問う形式になっていることが目新しい。基本概念の確実な理解を試す良問という評価も可能である反面、やや技巧的で複雑な出題形式であるとも言えそうである。案の定、この点に関する意見が多々見られた。

 例えば、全体として「どちらかといえば適切」と評価した意見の中には、このような出題形式につき、「『立証上の使用方法を複数想定し、具体的事実を摘示しつつ論じなさい』との問題が出され、当事者(検察官)としての視点で考えさせる趣旨が含まれている点は評価できる」、あるいは、「『立証上の使用方法を複数想定』のうえ解答させることは、伝聞・非伝聞の正しい理解を前提とし、それを促進させるものとして適切な出題方法であった」と、好意的に見るものが散見された。
 ただし、その一方で、全体としては同じく「どちらかといえば適切」との評価を示しつつも、「領収書の非供述証拠的利用を論じさせる点は、ややむずかしくないか。教科書・体系書ではかならずしもこの点に触れられておらず、言及のある教科書等でも詳細には論じられていない。やや技術的な問題のようにも感じられ、他の論点を問うほうがよいのではないかとの印象を受ける」と評するものが見られた。また、「立証趣旨として伝聞を内容とする具体的なものを問題文に設定しつつ『複数の立証上の使用方法』を検討させるというのは、今までの出題形式にはなく、過去の出題形式では、複数の立証方法を検討させるには、要証事実を具体的に想定することを要求しつつ立証趣旨を曖昧なものとするか、立証趣旨自体に伝聞によるものと非伝聞によるものとを含ませてそれぞれの証拠能力を検討させるという形式しかなかったように思われる」と指摘した上で、「出題趣旨をみると、非伝聞用法での立証について検討させたかったようではあるが、まず、非伝聞用法での立証の場合の立証趣旨を(最終的な立証命題はそうなるとしても)そのように解するのが果たして妥当か疑問なしとせず、また、立証趣旨をそのように解するとすれば、本来的には非伝聞用法が伝聞用法の潜脱として許されない場合である、記載事実からのその内容の真実性を推認させる趣旨と見ざるを得ず、他の証拠による立証を併せ考慮することで『記載内容の真実性とは独立して』推認することに果たしてなっているのか、議論の余地はあるのではなかろうか」、「さらに、本事例の設定では当該領収書が伝聞例外要件を充足することは明らかであり、それにもかかわらず、更に非伝聞・非供述用法での立証方法まで考えさせるのであるが、これは実務的にはナンセンスである」と、設例の理解や実際上の処理について踏み込んだ意見を述べるものもあった。
 さらに、全体として「どちらかといえば適切でない」と評価した意見の中には、「設問2-2で領収書の非伝聞的な利用方法まで考えさせるのは、司法試験出題としては難し過ぎる。しかも、この設例では伝聞証拠とみても容易に伝聞例外を適用できるので、非伝聞的利用の可能性について検討する実益が乏しい」とするものがあった。
 このように、やや特殊な出題形式を採った設問2-2をどう位置づけ、評価するかが、試験問題全体の評価に関わる傾向の強いことが窺われた(逆に言えば、同設問以外の部分については、特に問題視する意見は見当たらなかった。)。

 なお、本年度は、昨年度に引き続き、公表された出題趣旨等に関する意見も寄せられた。本年度の出題趣旨は、一読して、平易で論理的にも明快であるように思われるが、そのことを裏付けるように、「解答のポイントと、答案作成における思考の道筋を明快に示しており、受験生にとって極めて有益なものと思われる」、「具体的に問題点、求められる能力、当てはめにおいて指摘すべき事実など、具体的かつ詳細に示されており、これから受験しようとする者が学修する上での指針として有益である」などと、高く評価する意見が見られた。ただし、その一方で、「なぜ試験問題公表と同時に公表されないのか」と、出題の趣旨等の在り方それ自体に疑問を呈する意見も見られた。また、何かと議論になりがちな前記設問2-2につき、「『出題の趣旨』において、当該事案における『立証趣旨』から抽出されるべき『要証事実』を具体的に提示することはできな」かったのか、あるいは、「伝聞例外については322条1項のみが検討されているが、323条3号を検討することも考えられるのではないか」といった、個別の工夫・修正を求める意見も存在した。

 (4)知的財産法

 知的財産法について回答があったのは29校であり、23校からは回答がなかった。適切とするのが10校(34.5%。昨年度は18.2%)、どちらかといえば適切とするのが13校(44.8%。昨年度は50.0%)、どちらともいえないとするのが4校(13.8%。昨年度は12.1%)、どちらかといえば適切でないとするのが2校(6.9%。昨年度は16.7%)、適切でないとするものは0校(0%。昨年度は3.0%)であった。適切・どちらかといえば適切という回答が8割弱を占めている。
 個別意見および出題趣旨等についての意見の中で肯定的理由として挙げられているものの多くは、基本的な知識、重要な論点を問うものである、適切に応用力を求めている、難易度が適切であるという意見におおむね集約される。
 これに対して、疑問点・改善すべき点としては、第1問の特許法の問題につき、これまで出題のない審決取消訴訟からの出題であったために十分な準備ができていない学生も多かったのではないかという指摘が複数あった。第2問の論点の細かさを指摘するものもあった。また、第1問、第2問を合わせると小問数が多いという指摘が複数あった。また、知的財産法選択者の減少を危惧し、より基本的な問題を求める意見も複数あった。
 以上のような疑問点・改善すべき点についての指摘もあったが、全体としては肯定的な意見が多数を占めていた。

 (5)労働法

 アンケート結果は、回答校30校を母数とすると、15校(50.0%)が「適切」、13校(43.3%)が「どちらかといえば適切」としており、両者を合わせると28校(93.3%)が肯定的に評価している。「どちらかといえば不適切」との回答はなかったが、「適切でない」が1校(3.3%)あり、「どちらともいえない」としたのは1校(3.3%)であった。「適切」及び「どちらかといえば適切」という肯定的評価の比率は、2007年が75.6%、2008年が76.8%、2009年が90.6%、2010年が73.8%、2011年及び2012年がともに76.5%、2013年が85.1%、2014年が84.8%、2015年が81.0%、2016年が88.1%、2017年が90.1%であり、本年は、これまでで最も肯定的評価が多い年となった。また、「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせた回答の比率は、選択科目全体の中で第2位であり、「適切」との回答の比率も選択科目中第3位となっている。
 問題の内容についてみると、第1問は、変形労働時間制による勤務シフトにより24時間勤務に従事していた警備員が、仮眠時間中の病院施設の突発的停電への対応等を理由に出勤停止の懲戒処分に付せられた事案について、仮眠時間の労働時間該当性、仮眠時間に対する賃金請求の可否及び懲戒処分の法的効力の有無を問うものと思われる。また第2問は、団体交渉で労働条件の引下げが議論されている状況下で、労働組合の組合員の一部が組合の承認なしに抗議活動を行ったことに関し、同活動の対使用者及び組合内部の関係における法的評価とこれに対する処分の可否を問い、さらに労働条件を引き下げる労働協約が調印された場合の効力についても説明を求めるものと思われる。
 これら両問を通じたコメントとして、肯定的に評価した回答において挙げられている理由としては、基本的な重要論点について問う問題であること、学習すべき重要判例を元に作問されていること、事実関係を踏まえた丁寧な論述が求められていることなどが目立っている。
 他方で、第1問に関しては、変形労働時間制を踏まえた検討を求めているが、事例を複雑にする点で良問と評価できる面もある一方、受験生の負担が過大になる面も否定できないのではないか、また第2問については、労働組合の内部統制については授業で取り上げる時間があまりないのではないかという指摘も一部にあった。さらに、全体を通して、論点が多すぎて答案時間内に深めたもの(思考)を書くのが困難である、論点主義は抜本的に考え直すべきであるという指摘もあった。
 以上を総合すれば、本年の問題の内容と難易度は、全体としては、例年と同様に適切なものとして良好な評価を行うことができるものと考えられる。
 なお、出題趣旨・採点実感・最低ライン点の設定については、出題趣旨は分かりやすく整理・記述されており適切である、概ね妥当であるなどの意見が寄せられている。

 (6)租税法

 回答を寄せた24校のうち、13校(54.2%)が「適切」、9校(37.5%)が「どちらかといえば適切」、2校(8.3%)が「どちらともいえない」と回答し、「どちらかといえば適切でない」、「適切でない」と回答したものは0校(0%)という結果であった。本年は、「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると91.7%となり、昨年の83.3%に比べ、さらに高い評価となった。
 「適切」であるとした回答に付記された意見を見ると、「租税法の基本構造の理解を問いつつ、具体的な法適用の過程を実践させる良問であった」「基本的な概念と著名な判例に沿って、やや複雑な事案を分析するものであり、 税法特有の問題としては基本ができているかを問うとともに、法曹実務家に必要な 事案分析力を問う点で適切である」「両問ともごく基本的な判例を踏まえた出題であり、租税法の基本的な理解を問う姿勢が明確である。法科大学院の授業をきちんと履修していれば、大筋は解答できるレベルである」「出題範囲のバランスがとれており、難易度も適当である」「所得税法と法人税法から出題されており、論点も実務的である」「司法試験で頻出の論点について事案に即した解答を求める標準的な問題である。源泉徴収の法律関係も基礎的な事項である」「基本論点について基本判例を踏まえて出題されている」等の意見がみられ、高い評価が得られている。
 「どちらかといえば適切」との回答に付記された意見の中には、「租税法学習者が学習すべき基本判例をベースにした問題であった」としつつ、「これまでの過去問題とかなり重複する論点が多く、もっと問うべき基礎的な問題がいくらでもあるように思われる」「法令や規範への当てはめの部分を重視した出題である。それ自体は良いと考えますが、その反面、租税法規の解釈や体系を問う問題がやや簡易だったのではないか」「法人税の問題が少し多すぎた」「第1問が所得概念と貸倒損失の基本的理解を問い、第2問2が横領による損失と損害賠償請求権の両建てを問うている点、いずれも適切。第2問3も自説を展開する力をみる点が適切。事例も工夫されている。しかし、第2問1が源泉徴収の法律関係の説明を求める点は、代表的なケースブックにも出ていない論点であり、学習範囲との関係でやや無理があった」などの、様々な指摘がみられた。
 また、「どちらともいえない」との回答に付記された意見の中には、「与えられた事実について、出題趣旨とは異なる理解が可能かもしれない」との指摘があった。
 本年度の租税法の出題は、出題範囲のバランスがとれており、難易度も適当で、法曹実務家に必要な事案分析力を適切に問う良問であるとの観点から、大変高い評価がなされている。「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると、9割を超えており、大多数の法科大学院から、積極的評価が得られているということができよう。

 (7)倒産法

 回答を寄せた34校中、「適切」と答えたのは20校(58.8%)、「どちらかといえば適切」と答えたのは12校(35.3%)、「どちらともいえない」は1校(2.9%)、「どちらかといえば適切でない」は1校(2.9%)、「適切でない」は0校(0%)であった。無回答は18校(34.6%)であった。「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると32校(94.1%)であり、今年度の選択科目の中では最も高い値である。また、この値は昨年度より10ポイント以上増加しており、過去2年の減少傾向を脱している。
 自由記載欄をみると、「適切である」との回答からは、「いずれの設問も法科大学院における学習対象において基本的な条文や判例を題材に出題されていて、基本を重視し、事例をもとに真に理解しているかを問う問題」、「現実にあり得る簡潔な事例を用いて、倒産法の基本概念の理解を問う良問であると感じた。条文を適切に適用する能力を問いつつ、実務的な感覚を試す要素も含まれ、理論と実務を良く架橋するものと思われた。」、「条文をベースとして解答できる基礎的問題を中心としつつ、判例絡みの問題も出題されており、難易度として適切」「問題数はやや多いかもしれないが、基礎的な理解を問う良問」、「一時期の難しめの問題が修正され、基本的な事項を問う内容」などの意見がみられた。なお、2問中1問は民事再生法から出題することを今後も続けてほしい旨の要望もあった。
 「どちらかといえば適切である」との回答からは、肯定的評価として、「出題は総て法科大学院の授業で取扱うべき事項の組合わせであって良く練られていると思われる。特に第2問の設問1(1)は興味深い設問である。」、「第1問の設問1(2)は応用力を試す適切な問題であり、その他は適用すべき条文の趣旨を理解していれば解答することができる。」、「全体としては、基本的な事項についての理解が正確かどうかを問う問題」などの意見がみられた。一方、消極的評価として、「第1問設問2(2)については、Eが抵当権を放棄していない旨を事例に明記する方が誤解がない。第2問設問2(1)については、手続をきくのであれば、否認該当性について疑義が出そうな事例設定[動産売買先取特権という担保権がある物による代物弁済]は避けた方が良い。」、「解答すべき事項が多く、そこには司法試験で問うにはやや細かいと思われるものも含まれているので、時間が足りない受験者もそれなりにいたのではないか」、「第1問〔設問2〕(2)の別除権放棄の意思表示の相手方の代表者を誰と考えるかという問題はやや細かいと思われる。」、「法科大学院での平均的な倒産法の授業に鑑みたとき、十分な考察に裏打ちされた、論理的に練られた解答を起案するには、時間に追われる感がある」などの指摘があった。
 「どちらともいえない」との回答は1校あったが、自由記載欄に記述がなかった。「どちらかといえば適切ではない」との回答からは、司法試験における倒産法の受験者、法科大学院における倒産法の受講者の減少が顕著である点を考慮して、もう少し基本的な問題を出題できないか、例えば敷金返還請求権の問題や、放棄の問題は難しすぎる旨の意見があった。
 以上を総合すれば、本年の問題は、実務に即した事案について条文をベースに基本的事項を中心に問うものであり、分量および内容とも適切として高評価に値するものと考えられる。
 なお、出題趣旨については、「今後の学習指針となる一方で全ては記載し尽くしておらず各自の検討を促す意味で適切な出題趣旨の書きぶりと感じた。」、「良く練られている」との意見があった。最低ライン点については、適切とする評価のほか、「最低ライン点未満者が16名であるから、最低ライン点はもう少し高くても良いかもしれない。」、「最低ライン点未満者の数が昨年と比べて増えている(12人→16人)点が気になる。」との意見があったことも付記する。

 (8)経済法

 経済法について、回答のあった法科大学院は25校(48.1%。昨年より8校の減少)で、無回答は27校(51.9%)であった。
 問題が「適切である」と評価したのは3校(12.0%。昨年より7校の減少)で、選択科目全体の平均39.6%を大きく下回り、最低であった。「どちらかといえば適切である」と評価したのは5校(20.0%。昨年より8校の減少)で、肯定的な評価をした法科大学院の数は昨年より15校減少してわずか8校であり、回答のあった法科大学院の32.0%にすぎない。これは選択科目全体の平均値の80.6%を50ポイント近く下回っており、平均値を9ポイント下回っていた昨年よりさらに評価が低くなった。3年連続で評価が低くなったことになる。
 「適切でない」との回答は5校(20.0%。昨年より4.5校の増加)、「どちらかといえば適切でない」との回答は6校(24.0%。昨年より1.5校の増加)で、否定的な回答は昨年より6校増え、割合は約30ポイント増加した。なお、「どちらともいえない」との回答は6校(24.0%。昨年より1校増加)であった。
 「適切である」、「どちらかといえば適切である」とする回答は、基本的な論点を問う問題で、冷静に問題文を読めば解答できること、基本的知識の正確な理解を前提に、応用的な内容を問う良問であること、などを肯定的に評価する理由としてあげる。
 「どちらともいえない」とする回答は、問題量が多いこと、第2問は時事的な考えさせる問題だが、応用的に過ぎて時間内に書き切るのは難しいことを問題点としてあげている。
 以上に対して、「どちらかといえば適切でない」、「適切でない」とする否定的な回答は、第2問は、研究者間で議論されている興味深い問題だが、教科書等では取り上げられておらず、受験生が正解を書くことが困難な難問であること、専門的すぎること、学会でも問題を整理し切れていない最先端過ぎる問題であり、試験問題としての適切性に疑問があること、経済法の基本的な理解を問うものではなく、司法試験問題としての適切性に疑義があること、法科大学院における経済法教育の実情を踏まえた問題ではなく、弊害をもたらすおそれがあること、世界的に関心を持たれているものの評価の定まらない複雑な影響をもたらし、最近のガイドライン改正でも具体的な記述が行われなかった行為を出題し、これを従前からのガイドラインの列挙事項に落とし込んで論述することを求めるもので、受験生に大きな負担となり、しかも、出題趣旨は複雑で長い解説となっており、今後の潜在的な受験生に対して大きな萎縮効果が懸念されること、などをその理由としてあげている。
 なお、第1問の課徴金算定については、実務に即した問題として評価する意見もあったが、問題としての適切性に疑問があるとする意見が多数であった。

 (9)国際関係法(公法系)

 今年度は、第1問は、①国家責任法の違法性阻却事由(特に対抗措置)が認められるための要件について、②条約の終了原因としての重大な違反、事情の根本的変化および後発的履行不能の意義ついて、および③私人行為を理由とする外交関係条約上の公館の不可侵および身体の不可侵に関して問題とされている。司法試験用法文に登載されている条約法に関するウィーン条約及び外交関係に関するウィーン条約の関係条文を設問に照らして抽出して適切に解釈し、また国際法上の対抗措置という国家責任の基本的な理解を問う趣旨である。また第2問は、①国境画定条約の効力と領域の取得、②国際司法裁判所の義務的管轄権受諾宣言の効力と相互主義、③関係国が同裁判所の判決の履行義務を怠った場合に、他方の当事国はいかなる措置を執りうるかという点を問う形となっている。
 アンケートへの回答は前年度より3校減少して22校である(無回答が30校)。そのうち、適切と評価するもの10校(45.5%)、どちらかといえば適切であるとするもの10校(45.5%)で、これらを合わせると、積極的に評価するものが90.9%であった。他方で、適切ではないと厳しい評価をしたものはなく、どちらかといえば適切ではないと評価したものがなくなった。ただ、どちらともいえないとするものが2校(9.1%)となっている。昨年度と比較すると、判断を保留する評価はほぼ同じ(8.0%から9.1%)であった。どちらかというと適切でないとする消極的評価がなくなったことも勘案すれば、積極的な評価の割合がわずかながら増えているといえよう(88.0%から90.9%)。
 そうした評価の理由を明確な形でコメントした例は少ないが、今年度の出題が最近の傾向に倣った形で、国際法の基礎的な問題および基本判例を踏まえた出題になっていることが暗黙の理由であるように思われる。ただし、付記意見(コメント)を寄せた7校のうち、「出題の趣旨」が曖昧であるとする指摘が複数あったことには留意が必要であろう。例えば、問2については、①中心的な論点1つを掘り下げて解答すべきか、それとも、②可能性のある論点について、その当否を含めて数多くの解答を示す方がよいのか受験生にとって分かりにくいとの指摘や、また第1問の問3についても受験生が出題趣旨から外れた答案を書くことによって不利になるのではないかとの懸念も示されている。第2問の設問3に関しては、「実際には対抗措置がどこまで認められるかが、より重要な論点となるのではないか。」などの指摘があった。
 最後に例年のことながら、出題者の努力に敬意を払いつつ、法科大学院における授業時間数が限られていることを踏まえて、基礎的かつ重要な問題を中心として法的分析力を問う形の出題傾向が今後も踏襲されることが期待される。

 (10)国際関係法(私法系)

 国際関係法(私法系)についての27校の回答のうち、適切と評価するものが7校(25.9%)、どちらかといえば適切であるとするものが15校(55.6%)となっており、積極的に評価するものが81.5%となっている。他方で、どちらともいえないとするものが2校(7.4%)、どちらかといえば適切でないとするものが3校(11.1%)、適切でないとするものが0校(0.0%)であった。
 こうした割合を昨年度と比較すると、適切であるとするものが若干減少した一方で(34.4%から25.9%)、どちらかといえば適切と評価するものが増加したため(37.5%から55.6%)、積極的に評価するものが増加する結果となっている(71.9%から81.5%)。他方で、どちらかといえば適切でないとするものが若干増加しているものの(9.4%から11.1%)、どちらともいえないとするものは大きく減少している(18.8%から7.4%)。なお、適切でないとするものは、昨年度と同様に今年度も存在しない。
 このようにみてみると、昨年度と比較した場合、評価の上昇が見受けられるということになる。具体的な評価の中にも、基本的知識を問う問題であるという点、重要な判例の理解を求める問題であるという点、思考力・論理的考察力を問う問題でもあるという点、出題範囲のバランスといった点につき、高く評価する意見が多かった。
 もっとも、そのような傾向の問題であるが故に、問題や設例が単純すぎるのではないかといった批判や、判例の丸暗記を助長する結果になりはしないかといった批判も加えられている。また、論ずべき点が多岐に渡りすぎる、解答時間に比して分量が多すぎるといった批判も寄せられている。またさらに、実務的にもあり得る事案であるという評価がある一方で、設例が現実離れしている、設例中の外国法が意味不明なものになっているといった批判も加えられている。  また、個別具体的に、判例・学説に十分な議論がない時際法に関して出題した点、反致の検討を要しない問題とした点、民法176条という実質法の解釈まで踏み込ませた点などにつき、その適切性を問題視する意見も散見される。また、その結果として出題趣旨や採点基準が不明確になってしまっているとの批判も見受けられた。
 しかし、以上のような批判は存在しているものの、昨年まで年を追うごとに積極的に評価する意見の割合が低下していたという状況が改善されたという点については、素直に評価されるべきであろう。上記のような批判が少なからず存在しているという事実をも勘案しながら、引き続き適切な出題がなされることが今後も期待される。

 (11)環境法

 今回回答を得られたのは26校と前年度より3校減っている。そのうち、「適切」とするものが8校(30.8%)、「どちらかといえば適切」とするものが12校(46.2%)、「どちらともいえない」とするものが4校(15.4%)、「どちらかといえば適切でない」とするもが1校(3.8%)、「適切でない」とするものが1校(3.8%)であった。「適切」、「どちらかといえば適切」を併せると20校76.9%と80%近くで、例年通り良好な評価を維持している。ただし、2017年の79.3%からはやや減少している上に、「適切」とするものが41.4%から10ポイント以上減っている。また、昨年はなかった「適切でない」との回答が、1校にとどまるとはいえ、寄せられており、昨年よりも全体としてはやや評価が低くなっているといえよう。さらに、他の科目と比べた場合に、「適切」、「どちらかといえば適切」の合計がやや少ない。
 昨年度は、問題量が多すぎるという指摘が意見としてよせられたが、今年度は量に関する意見はなかった。問題の内容に関しては、難易度について、「学生への要求度が高い」とか、「出題者が期待する満点(に近い)解答は難しいのではないか」といった意見が、「どちらともいえない」という評価の法科大学院だけでなく「どちらかといえば適切」という評価の法科大学院からあった。
 受験者のどのような能力を問うべきなのかという観点からの意見もあった。まず、「事例との関係で必然性がないにもかかわらず、網羅的に条文を引用することを求め、そこに配点することにいみがあるとは思われない」という意見があった。この意見は、「筆記のスピードで差がつくような問題は適切ではなく、事案について丁寧に検討する能力を問うような出題をお願いしたい」と続けており、法曹として備えるべき能力を問うような設問内容になっているのかという問題提起であることから、深刻に受け止める必要があるように思われる。なお、この意見は、「どちらかといえば適切」という評価をしており、必ずしも低い評価につながっていない。
 次に、問題1について、「民法不法行為法の要件効果の比重が大きくなりすぎていている」という意見があった。この意見は、問題2について、「建設リサイクル法との関連など詳細な付随的論点は、研究者はともかく、法科大学院生の多くは思いつかないのではないか」と述べており、環境法の主要な領域が扱われるべきであるという趣旨の意見である。前記の、難易度が高いという意見も、設問2について建設リサイクル法との整合性についてまで要求するのは酷である旨述べており、おそらく、「難しすぎる」と評価するか、「主要な論点ではなく辺境的な論点を扱っていて不適切である」と評価するかの違いはあれ、出題のどこに問題を感じるかは共通しているものと思われる。この二つの意見は、問題の適切さについてあまり高い評価をしていない法科大学院の意見であるが、主要領域でなく周辺領域からの出題に偏っているという認識がよくない評価につながっている可能性がある。
 全体としては高評価を維持しているが、受験者のどのような能力を試すべきなのか、受験者はどのようなことを学習しているべきなのか、という観点から、出題内容には見直しの余地があるかもしれない。

以上

司法試験等検討委員会委員(50音順、本報告書作成に関わった委員のみ)
青木 孝之(一橋大学)小幡 純子(上智大学)北村 泰三(中央大学)
工藤 敏隆(慶応義塾大学)桑原 勇進(上智大学)高橋 直哉(中央大学、主任)
幡野 弘樹(立教大学)早川  徹(関西大学)早川 吉尚(立教大学)
松本 和彦(大阪大学)森戸 英幸(慶應義塾大学)


※割合計算の結果、各合計が100%とならないことがあります。

 

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