平成29年度司法試験に関するアンケート調査結果報告書
平成29年11月27日
法科大学院協会司法試験等検討委員会
1.まえおき
法科大学院協会司法試験等検討委員会は、平成29年5月に行われた第12回司法試験について、すべての法科大学院を対象としてアンケート調査を行い、全56校中の56校から回答を得た(回答率100%)。多忙の中、ご協力いただいた会員校の責任者・担当者の方々に厚く御礼申し上げたい。
調査は、これまでと同様、法科大学院教員の立場から見て、各科目の試験内容を適切と評価するかどうかを尋ね、その理由の記載を求めるとともに、末尾に試験全体につき意見を記載してもらう形式で実施した。更に、今回は、出題趣旨・最低ライン点の設定について、短答式試験の科目変更について、司法試験考査委員の体制変更についても意見を募った。
この報告書は、回答集計と付記された理由・意見を取りまとめたものを各委員に送って関係分野についての評価を依頼し、その結果を報告書案にまとめて全委員に回覧した上で作成したものである。
回答校の割合は、短答式試験及び論文式試験必修科目については、100%~91.1%、論文式試験選択科目については、平均54.9%(昨年度は56.2%)に達し、高水準となっている。法科大学院制度に対して一層厳しい批判が向けられている現状において、各法科大学院が司法試験の出題傾向に強い関心を持ち、法科大学院を中核とする法曹養成制度における司法試験のあるべき姿について、批判的な検証が必要であるという強い意思を有していることを示していると評価できよう。
回答内容全体を概観すると、短答式試験については「適切」「どちらかといえば適切」とする回答が併せて91.3%、論文式試験については、必修科目84.8%、選択科目78.7%である。一昨年・昨年の数値は、短答式試験が91.0%・90.1%、論文式必修科目が86.2%・77.9%、論文式試験選択科目が79.9%・84.4%であるから、試験問題に対する積極的評価は、ここ3年間、高い水準で安定していると一応はいえるであろう。
分野ごとに試験問題の評価を見てみると、短答式においては、分野間に評価の開きはほとんどなく、いずれの分野も積極的評価が高い。論文式必修科目においては、行政法(86.5%:昨年度73.4%)、民事訴訟法(94.5%:昨年度71.2%)、刑事訴訟法(80.8%:昨年度66.5%)の評価が昨年度よりもかなり上向いている。これらの科目に共通する肯定意見としては、基本事項を問う出題であること、法科大学院での教育内容に沿うものであることが挙げられているほか、民事訴訟法、刑事訴訟法については問題の分量が適度であること、行政法については適切な誘導があることといった点が評価されている。また、他の科目でも、問題の分量や誘導などの出題形式に関して昨年度よりもやや好意的な評価が見られるようであり、出題者側が工夫したであろうと思われる部分については、相応のメッセージが伝わっているように思われる。しかし、その一方で、依然として分量が多すぎるという批判は少なくなく、特に目立つのは刑法と行政法である。このうち、刑法は、全体として評価はそれほど悪くはないものの、積極的な評価をした回答の中でも分量が多すぎるという意見が多数述べられているというところで、やや他の科目とは異なる傾向を見せている。論文式選択科目においては、「適切」「どちらかといえば適切」とする回答の合計の割合を見てみると、選択科目全体では78.7%となっており、概ね高評価といえるであろう。ただ、知的財産法(68.2:昨年度89.4%)と経済法(69.7%:昨年度80.5%)は、やや低く、昨年度と比較して下げ幅も大きい(もっとも、回答の母数が大きくないことから数値の振れ幅が大きくなることは考慮しなければならないであろう)。これらの科目に関する批判的な意見としては、分量が多い、難易度が高いという点が挙げられている。
出題趣旨・最低ライン点の設定については、昨年度と同様に多様な意見が開陳されている。全体としては、出題趣旨は学習・教育に役立つという観点からの肯定的な意見が比較的多いように見受けられる。また、作成者側が意識したことかどうかは分からないが、特に今回の出題趣旨は例年に比べて丁寧にまとめられているという意見が多かった。
採点基準や配点の開示を提案する意見が複数見られる。これらの開示にどのような障害があるのか分からないが、可能であるならば試験的にでも実施してみる価値はあるのではなかろうか。なお、本年は例年よりも出題趣旨の公表が早かったが、それでもなお、出題趣旨はもっと早い段階で公表すべきであるとの意見が一定数あることは注目される(採点後に出題趣旨を変更したのではないかと疑われないか、という危惧も表明されている)。司法試験委員会決定(平成17年11月8日)により、「出題の趣旨の公表については、合格発表後、速やかに法務省ホームページ等に掲載する」とされており、現状ではやむを得ないが、この公表時期に合理性があるのかは引き続き検討の余地があろう。
最低ライン点の設定については、選択科目に関して、やや懐疑的な意見が散見される。特に科目間で不公平が生ずることは回避すべきだという意見は重要であろう。
短答式試験の科目変更については、「受験生の負担軽減」を理由として好意的に評価する意見が相当数ある一方で、短答式試験が実施されなくなった科目について、学習の偏りを危惧する意見も多く見られる。特に、訴訟法ついては、将来のことも見据え、基本的な知識を満遍なく学習することの重要性を意識させる上でも、短答式試験を実施すべきではないか、とう意見は根強い。また、短答式試験が実施されなくなった科目について基礎的な学力の低下を懸念する声は、従来よりやや強まっているかのようにも感じられる。更にこの点に関連して、予備試験が7科目の短答式試験を実施していることとの関係で、法科大学院生の相対的な学力低下を危ぶむ意見も見られる。
本年の司法試験では、以前よりも人数を絞り、かつ、遵守事項を定めるなどした上で、問題作成への法科大学院教員の関与が認められることとなったが、この点についての評価は二分している。肯定的な意見は、法科大学院教育を反映した問題作成が可能になることを強調するのに対し、否定的な意見は、試験の公正さや公平性といった点を重視するものだといえよう。なお、考査委員(特に研究者委員)の選任については、特定の大学に偏っているとの指摘が複数あるほか、考査委員としての適格性に疑問を投げかける意見も見られる。
試験全体についても様々な意見が寄せられたが、特に予備試験のあり方に疑問を呈する意見が目立つ。予備試験合格者の司法試験合格率が高いという現実は、法科大学院の存在意義について再検討を迫るものであるが、その一方で、現行の司法試験が法曹に求められる能力を適切に判別できているのかという点についての検証も必要である。法科大学院を取り巻く情況には厳しいものがあるが、今回のアンケートにおける意見にも現れているように、よりよい法曹を育てていくために法科大学院の教育はどのようにあるべきなのか、ということについて、真剣に熱意をもって取り組んでいる者が多数いることは確かである。今後の司法試験制度のあり方、また、法科大学院のあり方を考えるための一歩として、寄せられた様々な意見に目を通してもらいたいと思うところである。
法科大学院制度を中核とする法曹養成制度のあり方の再検討が進められている中で、政府の関連会議等において、本アンケート調査結果及び寄せられた意見等に十分な考慮を払われるよう要望したい。
※ 以下の記述中に、アンケート回答校数として小数点のある場合は、1回答校に複数の種別の回答があったことの反映であることを注記しておく(なお、本アンケートへのご協力をお願いするに当たっては、「複数の選択肢を選ぶことはなさらないでください」とお願いしております)。
※ 以下の記述中、無回答の割合を示すパーセンテージ表記は回答・無回答を含む総数を母数としたものであり、その他のパーセンテージ表記は当該分野に係る無回答を除く数値を母数としたものである。
2.短答式試験について
(1)憲法分野
短答式試験の憲法分野では53校から回答が寄せられた(昨年度は62校)。そのうち、「適切」と回答したものが22校(41.5%)、「どちらかといえば適切」が26校(49.1%)、「どちらともいえない」が3校(5.7%)、「どちらかといえば適切でない」が2校(3.8%)、「適切でない」としたものはゼロという結果であった。昨年度は「適切」が45.2%、「どちらかといえば適切」が40.3%であり、「適切」との回答だけを見ると若干下がったが、「適切」と「どちらかといえば適切」の両者を併せると、昨年度が85.5%なのに対して、今年度は90.6%だから、むしろ評価は上がったと理解する方が適切であろう。消極的な評価がほとんどないことを見ても、法科大学院の大半は今年度の問題を妥当と評価したといえる。
「適切」であるとした回答に付記された意見を見ると、「基本的な知識の正確な理解が問われている」「例年どおり判例の知識を問う問題が多いが、今年は詳細すぎる知識を問う出題はほとんどなかったと思う」「全体的にバランスが取れていた」「判例や理論の基本を確認させる問題で文量も適切である」「教育範囲内からの出題であり、良問が多いと思われる」等と、高評価であった。ただし、「適切」との回答の中にも、批判的見解を留保するものも見られた。たとえば、「重要判例についての基本的知識を問う設問が多く試験問題の傾向としては法科大学院教育ともリンクしており、適切であると考える。ただ、第12問のアの選択肢など、解答について議論の余地のある正誤問題がまだ残っているように思われる。「政府見解によれば」などの前提が置ける問題にすべきではないか」「統治の問題が若干難易度が高いと思われたが、全体として基本的な知識を問う形に仕上がっていると思われる」「第2問のように1つの判例の趣旨を複数の肢に分けて問うことが増えたのは評価できる。いくつか「え?」と思わせる肢もあるが,「短答式とはそういうものだ」と割り切ればよい」「やや細かすぎるかなと思わないでもない問題や肢も散見されるが,基礎的理解を問う試験としては一応許容限度内であろうと思う」等がそれである。
「どちらかといえば適切」であるとした回答に付記された意見では、「法科大学院の教育水準からみれば、質問形式から消去法がきかず、判例の細部にわたり各選択肢の正誤を正確に答えさせることは難問であろう」「おおむね重要判例と基本事項の知識を問う問題であるが、一部やや細かな判例の知識を問う問題がある(第8問アなど)」「おおむね判例や基本的な学説があれば解ける問題であるが、多少細かい判例も含まれる。また天皇に関する12問はやや難しいのではないか」「法科大学院教育との整合性がそれなりにはかられている」「人権・統治の分野から満遍なく出題されている。天皇や憲法改正の分野は受験生の学習が不十分かもしれないが、問題は特別な知識を必須とするものではなく、基礎知識の応用で十分対応できるものと評価する」「よく練られた設問だと思いますが、やや細かいところを問うているという印象があります」「もっと基本的な事を問うという姿勢を徹底したほうが良い」「難易度の点でも正確さの点でも、大きな問題はない。ただ、徐々に、判例の知識重視が強まり、あまり有名でない判例や少数意見にまで踏み込む傾向が生じているのは是正が必要である。また、短答式・憲法については、特に統治機構部分を中心に、論理整合性を問うような出題があってよいと思える。論文で問われることの少ない分野も含めた広い分野について正確な判例・学説の知識を問うている。短答式試験と論文式試験を総合して受験生の能力を計ることができるよう、両者の切り分けについて工夫がなされていると感じた」「憲法は判例の詳細な理解が問われたり、他科目よりも対策の負担が大きい」「難しくなってはいるが法科大学院修了生に求められるものとして納得の出来るものである。但し、選択肢が全部×とか誤り(=2)とする問がいくつかあるのは、幾分トリッキーのようにも思われる」「人権・統治分野ともに、重要な学説や判例からの出題が多く、良問が多いように思われる。ただ、問題によっては、判旨をだいぶ細かく聞いている印象もある。例えば、人権分野では、第2問は重要な判例ではあるが、比較的新しくもあるので、受験生がここまで判旨を細かく見ているか気になるところである(百選にはなく重判に掲載されているだけということも気になる理由の一つである)。第7問イ・ウ、第11問も少し細かい印象を受ける。統治は全般的に良問であるように思われるが、15問ウは趣旨に疑問を感じる受験生がいたのではないかと考える」との見解が示された。いずれも批判的な論調を含むが、「適切」との回答にあった批判的見解と同じく、大半は部分的な批判であると思われる。
「どちらともいえない」との回答に付記された意見では、「分野に偏りなく出題されている点は良い。ただし、短文の解釈によって正否が分かれるような紛らわしい問題が依然として残っている。最高裁の判例に照らして正しいかどうかを問う問題は、客観的なように見えて、出題者がそれを肯定的に評価しているか、それとも否定的に評価しているかによって、どこの部分を問うかなど出題のあり方が異なってくる。古い判例を扱う場合、そのあたりの工夫がさらに必要なように思われる」「問題に正確でないものがある」との指摘が見られた。
「どちらかといえば適切でない」との回答に付記された意見では、「第2問の平成 27 年末の判決に関する出題は時期尚早と考えるから」「量的に多すぎ、質的に記憶偏重が著しい[とくに判例]」との指摘がされている。
以上のとおり、今年度の短答式試験の憲法分野における評価は、全体として、出題範囲・難易度・分量いずれに関しても高いといってよいが、部分的には批判的見解も見られるという状況にある。
(2)民法分野
短答式の民法分野について回答があったのは51校であり、5校が無回答であった。適切とするのが22校(43.1%。昨年度は44.6%)、どちらかといえば適切とするのが25校(49.0%。昨年度は50.8%)、どちらともいえないとするのが4校(7.8%。昨年度は3.1%)、どちらかといえば適切でないとするのが0校(0%。昨年度も0%)、適切でないとするものは0校(0%。昨年度は1.5%)であった。適切・どちらかといえば適切と答えた割合は、昨年度同様9割以上を占めている。
自由記述欄の肯定的理由としては、昨年度と同様、基本的な知識として必要な内容を的確に問うものである、全体として分野のバランスが取れている,という指摘にほぼ集約される。これに対し、問題点を指摘する意見としては、一部に細かな知識を問う問題があったという意見が複数あった。このような指摘もあったが,全体としては肯定的な意見が多かった。
(3)刑法分野
刑法分野・短答式について回答があったのは56校(昨年度64校)であった。
回答としては、「適切」とするのが26校(46.4%。昨年度は64校中39校)、「どちらかといえば適切」が25校(44.6%。昨年度は18校)であり、「どちらともいえない」とするのが4校(7.1%。昨年度は3校)、「どちらかといえば適切でない」とするのが1校(1.8%、昨年度は3校)、「適切でない」とするのは0校(昨年度1校)であった。「適切」と「どちらかといえば適切」を併せて積極的評価を示すものが51校(91.1%)となった。昨年の64校中57校(89.1%)を上回っており、「適切」とする回答の割合は昨年を下 回ってはいるものの、これまで同様に、肯定的な評価が続いているといえよう。
回答に付された理由をみると、「刑法総論・各論の基本的な理解を問うもので,適切である」「基本的な知識および推論能力をバランスよく確認する内容となっている」といった出題分野のバランスや難易度を評価する肯定的な意見が多く見られた。
他方、否定的な意見としては、「質的に記憶偏重が著しい[とくに判例]」といった判例偏重を指摘するものが本年も見られた。基本的な判例の理解を問うことについては、肯定的な意見も多いところであり、受け取り方に違いがあることは興味深い。なお、細かい知識を問う点について疑問を呈する意見がある一方で、「やや細かい知識を問う問題についても、設問方式や選択肢を工夫して、受験生が正解に達しやすいような配慮がなされている」という意見も見られた。
その他、昨年は、「1問だけでも、刑罰制度など、刑事政策に絡む問題を入れてほしい」という意見があったが、今年は刑罰に関する設問があった。この点について、本年は「刑罰(没収等)についても今年は出題されているのは適当である」との意見が見られる。試験問題を作成する際に、本アンケートがどの程度考慮されているかは定かではないが、本アンケートが試験問題作成に法科大学院側の意見を反映させるひとつのパイプになっている可能性もあろう。
出題の仕方に関しては、「選択肢にある『批判ができる』との文言があいまいである」「肢の文章の読み間違いを誘うような読みにくさがあること、解答数が未だ多いことは検討の余地がある」といった意見が注目される。
なお、個別の設問に関しては、「第7問は出題価値に、第9問は難易度の高さに疑問がある」「第7問では、業務上堕胎罪につき、『被害者の同意があると軽いほうの罪が成立する場合』に属するという選択肢が正解とされた。業務上堕胎罪には業務上不同意堕胎罪という類型はないので、解答に迷いが生じる」といった意見が寄せられている。
3.論文式試験について
(1)公法系
(a)憲法分野
論文式試験の憲法分野では52校から回答が寄せられた(昨年度は62校)。そのうち、「適切」と回答したものが19校(36.5%)、「どちらかといえば適切」が26校(50.0%)、「どちらともいえない」が4校(7.7%)、「どちらかといえば適切でない」が3校(5.8%)、「適切でない」としたものはゼロという結果であった。昨年度は、「適切」と回答したものが29.0%、「どちらかといえば適切」と回答したものが51.6%、両者併せて80.6%であったが、今年度は両者併せて86.5%であるから、評価は上がったといえよう。ちなみに、一昨年度は両者併せて71.4%であったので、2年連続で評価は上がったといえる。
「適切」であるとした回答に付記された意見を見ると、「基本判例を丁寧に理解する者が高得点を狙えるもので、学習成果が反映されやすいと考える」「憲法の基本的な内容を理解していればきちんと対応できる問題となっており、いわゆる「誘導」もきちんとされており、良問だと思う」「外国人労働者の受け入れに関する問題で先進国共通の問題である。外国人労働者を安く使って不要になったら追い出すような非人道的な法律ができたらどうかを問うている。日本でも排外的で偏狭なナショナリズムが強まるなか、人権の普遍性が理解できているかどうかを問う良問である」「具体的事例に即した問題解決能力を求めている点、判例・学説を踏まえ、条文に関する理解を確認している点、それらを踏まえた憲法訴訟の道筋を考察させている点、これらの点から論文式試験として適切であったと考える」「問題となる憲法上の権利について、やや誘導的であったが、考えさせる良問であった」「例年通り今日的憲法問題を取り上げ、今後訴訟に発展する可能性の高いそれを受験生に問い、解答させる出題形式となっている」「外国人の人権と自己決定権とをあわせて考えさせる問題で、良問であったと思われる」「論点を絞る示唆がなされているとともに柔軟な思考を求める出題となっている」「外国人の権利保障について、権利性質説を使ったからといって単純に解決できないような性質の事例であり、受験生が判例を手がかりにしながらも、自分の頭でしっかり考えることを要求する問題になっている」「BからDの間の消息を受験生に分からせるために、出題趣旨ではここまであれば「及第点」だという、Cを抑えておけるヒントがあればよいかと思います。今年度の出題趣旨は、非常にわかりやすく、おそらく来年は十分に対策を練った受験生が多いものと思われます」「マクリーン判決という基本的かつ重要な判例の理解を問う良問であると考える。マクリーン事件をしっかりと理解している受験生にとっては、その応用が問われ、司法試験にふさわしい法的論理力が問われたと思われる。令状主義がもう一つの論点として加わっているのがユニークであり、受験生によっては弱いところを突かれた人もいるかもしれないが、人身の自由分野と人権分野の接合という点で、重要な論点を問うていると考え、その点も含めて、適切であるように考える」「実体的な権利だけでなく手続の問題を考える問題を出題したのは、手続の問題にも目を向けさせる効果があり、良問であると考えられる」等、高く評価されていた。
「どちらかといえば適切」との回答に付記された意見によれば、「特段不適切だと思われる点がないので」「時事性があり、しかもその場で考える能力を見るのに適した問題であったと思う。しかし、妊娠の自由については、多くの学生が十分学習していることは期待できず、人権論について論述する能力を測る出題としては疑問もある」「重要判例を手掛かりに解答できる良問であるが、かなり推論が必要であり、今の受験生ではやや難しいかもしれない」「検討すべき事項を問題文が明示的に誘導しているため、事例の初見性と相俟ってそれらに対する解答者の理解度が測り易い」「単に、判旨を暗記し、あてはめる能力だけでなく、事案に着目した判例の射程は議論させる内容になっており、法科大学院教育との連続性を感じさせる設問になっていたと思われる。特に、判例は判旨だけでなく、事案もしっかり把握すべきであるとのメッセージを学生に伝えるうえで教育効果としても重要な意義を有している出題であったと考える。ただ、出題の趣旨にあるようなマクリーン事件の射程の限定の仕方は実務感覚では筋が悪いと思われ、それが適切であるかは疑問が残る。また、このような出題形式であれば、マクリーン事件判決をそのまま引用しても十分に能力を問える出題であったのではないかと考える」「問題文中に論じるべき点が指摘されており、受験生の解答時間が論点に絞って検討できるようになっている。近年、このような傾向が増えており、これは、採点する側からも公平に判断しやすいという利点がある。論点を発見するという力は測れないが、試験という制限的状況下では、一つの方策といえよう。また、問題内容としては、外国人の人権に関しては、マクリーン判決が今尚、判例として機能している状況であるが、国際化の進んだ現代では、再考の必要性がある。その問題点に気づくような配慮が望まれる」「行政手続への適用または準用の可否につき、川崎民商事件という最判がある憲法35条問題に対し、それがない憲法33条に関する出題であったことについては、出題の適否につき議論もあり得るところかと思われる」「外国人の人権を中心に判例理論とその限界を問う、法曹養成にふさわしい問題と思われる。ただ、収容に関する論点はやや難しいのではないか」「法科大学院教育との整合性がそれなりにはかられている」「教育範囲内からの出題であり、よく練られた良問であるが、受験生には少し難しかったかもしれない」「昨年と比べると素直な問題という印象を受けるが,①これまでメインな論点として出題されておらず,判例も明示的に認めてはいない「出産に関する自己決定権」の線で論じていいものかどうかについて,受験生の間に戸惑いはなかったか,②法令違憲の主張をメインにすえていることは,問題文からも明らかではあるが,国家賠償請求訴訟ということで,立法行為等の違法の問題には言及しなくてよい旨の注意書きがあった方が紛れなかったのではないか,といった点が若干気になった」「設問1の「論じなくてもよい」は、どちらか分かりにくいと感じた」「興味深い設問ではあるが受験生にとってはやや難しい論点だと思う」等、全体としては評価するとの論調であるが、対象選択や難易度の面で、批判的な姿勢が見られる。
「どちらともいえない」との回答に付記された意見では、「出題者のご苦労はわかりますが、「ある論点について書かせるための問題」という印象が拭えません。問題の事案が非現実的過ぎると思います。実際にあのような法律ができたら、国際的にかなり激しい批判を浴びるでしょう。過去問と論点が重なったとしても、「最低限のことができない人」をあぶり出すことは可能なのではないでしょうか。ただし、今の司法試験も、「落とすための」試験なのだと言うのであれば、あのような出題も理解できます。正直、ここ2年の問題を見て、法科大学院の教育現場でやるべきなのは、やはり第一に受験対策なのだ、という思いを強くしております」「外国人の人権の保障の程度は、在留制度に依存するのか、という学者の間では「安念教授のパラドクス」と呼ばれる問題を事例問題にした労作であると評価するが、法律の内容が少々極端で、事案・設問の内容もやや「誘導」が強すぎる印象がある。ただし、2時間で受験生に一定の答案を完成させるという観点からは,致し方ないのかもしれない」との指摘が見られる。
また、「どちらかといえば適切でない」との回答に付記された意見では、「昨年度の問題も 13 条後段に関するものであるし、実務的要素が強く、ローの授業で重視している事項から幾分ずれていると考えるから」「司法試験の憲法の出題は、やはり、精神的自由や参政権、「生まれ」に関する平等権の問題を基本に、時々それ以外のテーマも出題する程度が妥当であると思うところ、2年連続でメインテーマが13条という現状は、その違憲の疑いの濃い設例も含め、法曹に相応しい憲法解釈力等を判定する設問として、適切ではないように思われる。また、事実関係を丹念に追うことよりも、抽象的な憲法理論に論述の多くを割くことになる様子であり、程度問題ではあるが、若干の是正を求めたい。また、2年前の出題では、配点が明示されたが、その後、明示されなくなっている。学生が何をどの程度書くべきか、どう議論を組み立てるべきかの目安になるものであり、復活すべきである。ただ、法律家として現実に対処する可能性が生じるような法令・事案を素材にして、問題そのものとしては、判例・学説等を踏まえつつ説得的な論証を求める問題である。紋切型・暗記型の勉強法で解ける問題ではなく、判例の射程や学説への理解を前提としてそれらの知識を事案解決に活かすことが求められる問題であり、法律家としての資質・能力を評価する試験として適切である」「資料が不十分である」との指摘が見られた。
以上のとおり、今年度の短答式試験の憲法分野における評価は、全体として、高いといってよいのだが、マクリーン事件判決を先例として想起させようとした点については、高く評価する見解がある一方で、事案の適切性に対する評価も含め、疑問とする見解が散見される状況にある。
出題趣旨・最低ライン点の設定についての意見(憲法分野)
出題趣旨が丁寧に記されている点を高く評価する意見がいくつか見られるほか、以下のような見解が示された。すなわち、「立法の作為の国賠法上に違法性につき触れる材料は乏しいが、「憲法上の主張」ではないとの理由で触れなくてよいのか、不作為につき国賠法上の違法性まで求められた過去問とのバランスでは、指導現場で悩ましい点がある」「外国人の人権、幸福追求権、適正手続の三つが問われているが、もう少し減らしてもよいのではないかとも思う。また、設問で、14条に触れなくて「も」よいという指示がなされたが、混乱を誘いかねず、工夫が必要なのではないか」「出題趣旨において、「中間審査基準(目的の重要性,手段の実質的関連性)」という用語が用いられたことに違和感を感ずる。過去の採点実感等において、審査基準の選択にこだわる答案を厳しく批判していたこととの整合性、「中間審査基準」が判例上に根拠をもたない点について、受験生に混乱を与えないようにきちんと説明してほしい。また、「国家賠償法上の違法性の判断枠組みやそれを前提にした具体的検討を中心に据えるのは適当ではない」とする点も過去の採点基準との整合性が問われる。この点も、受験生に混乱を生じないように、問題文中に注記するなどしてほしい」「中間審査による立法目的の重要性の説明がピンとこない」「設問ごとの配点が示されなくなったが、あった方が受験生にとっては親切だと思う」「出題趣旨末尾の段落「…本問では国家賠償請求訴訟が提起されているが,憲法上の主張の検討が求められているのであるから,国家賠償法上の違法性の判断枠組みやそ れを前提にした具体的検討を中心に据えるのは適当ではないだろう。」のうち、特に「中心に据えるのは適当ではないだろう。」との記述は、最判によれば、立法行為の国賠法上の【違法】性問題は、結局は【違憲】の瑕疵が甚だしいことに還元されるから〔違憲の瑕疵が甚だしいとはどういうことかにつき、昭和 60 年、平成 17 年、同 27 年の各最大判で表現が異なるにしても…〕、【国賠違法】問題と【違憲】問題は、そう簡単に切り離すことができないこと、さらに平成 22 年現行司法試験論文式公法系第1問採点者実感2(3)オも「立法不作為の国家賠償法上の違法性に関して…検討すること」を求めていた〔注:国賠違法と違憲問題の関係につき、判例は、本年度のような立法上の作為のケースと平成 22 年のような不作為のケースとを区別していない〕ことを踏まえた上で、付随的論点としてはあることを念頭に置いたものと理解する」「やや異色の出題となった年度は、最低ラインを低くし、当該科目の不出来を合否の絶対条件になるべくしないようにしたい」「理論的にきちんとした趣旨を書くべきである」「基本的な出題趣旨等については特にない。公表された「出題の趣旨」中、特労法の目的について、定住を認めないことに関する評価を甲主張の一例としているようだが、甲主張としても、特労法の中心的目的が非熟練労働力の確保であるから、そこを無視することはできないと思う。労働力の確保との関係で、妊娠・出産の禁止が意味を持つのではないか。甲主張としてもそれが踏まえられている必要があると思う」「今年度の出題趣旨を読むと、例年以上に旧司法試験に近い方針で出題し,採点しているように感じた」「出題趣旨の内容は、分かり易く提示されるようになったと思われる。ただし、出題趣旨をもっと早く公表することが望ましい」等である。
(b)行政法分野
回答を寄せた52校のうち、「適切である」と評価したのが18校(34.6%)、「どちらかといえば適切である」が27校(51.9%)、「どちらともいえない」が3校(5.8%)、「どちらかといえば適切でない」は4校(7.7%)、「適切でない」が0校であった。無回答は4校(7.1%)であった。「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると86.5%になり、昨年の73.3%よりさらに高い評価になっている。昨年の出題についても、7割強が「適切」「どちらかといえば適切」と評価していたので、まずまずの評価であったと考えられたが、今年は8割5分を超えており、かなり高い評価を得たものといえよう。
本年度の問題は、道路廃止に素材を求めた出題であったが、「適切である」とする評価の個別意見では、「訴訟要件及び本案勝訴要件に関する基本的な理解を確認する良問であり、問題数や資料の分量も適切である」「法科大学院修了生であれば十分対応できた問題」「設問及び問題文の量が比較的多い代わりに『誘導』がやや丁寧過ぎる程になされている」「細かい判例や個別法の特殊な知識を必要とするものでもなく、まさに良問であったと言える」「問題文(会議録、関係法令等を含む)の量が適当であった」「基本的知識が理解できていれば、合格答案は書けるであろうというレベルであった」「行政法の実体法および訴訟法に関する基礎的な理解を,複雑すぎない事例に即して問うものであり,適切である」「これまで出題のなかった非申請型義務付け訴訟が出題された点にも,工夫が見られる」「シンプルな事例、道路法という馴染みのある行政法規をもとに、典型的な論点を問うており、法科大学院での勉強の成果を測るための問題として適切である」「昨年より簡潔にポイントをおさえ、論点のバランスも良い」「設問数は多めだが、設問内容は比較的容易である」などの意見が寄せられており、問題の分量が多いとしても、事例の難易度、設問内容の選択において、適切であるとの意見が多く寄せられた。
「どちらかといえば適切」とした個別意見の中には、「設問が量的にも質的にも多く、設問に十分に答えようとすると明らかに時間が足りないと思われる」「基本的な問題であるが、量が多すぎる。事務処理能力よりも、考える力をはかれるように、改善が求められる」「例年同様、分量が多いことと出題傾向が偏っているように見える」「基本的な論点であるが、論点が多く、時間内に解答するのが難しかったと思われる」「設問(ないし論ずべき事項)がやや多いのではないか」「やや記述の分量が多い印象を受ける」「設問数を1問減らすべき」「小問の数が4つというのはやや多いように感じられる」など、問題文の量が多く、小問・論点が多いことについての指摘が多くみられた。
「どちらともいえない」との評価の個別意見では、「昨年度の試験問題から、多くの論点を『処理させる』問題に変化したように思われ、法曹養成のための試験として疑問がある。短答式試験がなくなったからという理由があるためなのか不明であるが、事実の評価と個別法の適用を丁寧に聞く問題に戻った方が、本試験制度の趣旨からして良いように思われる」との指摘がみられた。
「どちらかといえば適切でない」との評価の個別意見では、「設問の数および解答すべき分量が多すぎる」「とにかく設問の数が多い。今回、2つの異なる行政処分について2問ずつ出題されている。しかも、弁護士の誘導によれば、「全般的に」検討をすると指示されている部分もあり、2時間問題としては不適切としかいいようがない」など、設問の数、問題量が多いことへの指摘が複数みられた。
行政法の出題においては、制限時間内に事例を正確に理解・評価し、個別法の解釈・適用を行うことが求められるきわめて実務的な問題が出されるのが通例であるため、問題文において弁護士の会話等により一定の誘導を行う必要が生じ、問題文の量が多くなりやすいことは否めないところであろう。今回の個別意見の中にも、この点に関して、「論理を組み立てる能力というより、問題処理の要領を測ることに、やや傾斜していないか、という印象はある」「設問の難易度は概ね妥当であると思われるが、問題文の量が多く、また、【法律事務所の会議録】の中で解答の筋道が相当程度示されているため、行政法学の知識よりも単なる情報処理能力によって得点が大きく左右される懸念もある」「やや問題の分量が多すぎはしないかという懸念がないではないが,解答すべきポイントの限定(設問2(1))や,法律事務所の会議録による誘導は適切になされており,許容範囲と思われる」「【法律事務所の会議録】・【資料1 関係法令】により、問題が過度に簡易化・容易化されている」など、様々な指摘がなされている。
本年の行政法の問題については、前述のように、良問としてかなり高い評価を得ている。上記のような個別法を素材とする行政法の出題の特徴を踏まえながら、行政法の基本的知識・理論、考える力を適切に試すことができるような出題が常に求められているといえよう。
なお、出題趣旨等についての個別意見では、「出題趣旨は,検討すべき論点が明快に説明されており,適切である」「出題趣旨から、答案に求められる事柄を明確に読み取ることができる」「解答の仕方がよく理解できる、親切な出題趣旨である」など、高い評価の意見が多く見られる。他方で、「出題趣旨をもっと早く公表することが望ましい」「(裁量について)どこまで具体的な検討を求めているのか、もう少し説明していただきたい」などの意見も寄せられているが、概ね、出題趣旨に関しても、積極的に評価されているといえよう。
(2)民事系
(a)民法分野
論文式の民法分野について回答があったのは51校であり、5校が無回答であった。適切とするのが19校(37.3%。昨年度は24.6%)、どちらかといえば適切とするのが24校(47.1%。昨年度は56.9%)、どちらともいえないとするのが7校(13.7%。昨年度は7.7%)、どちらかといえば適切でないとするのが1校(2.0%。昨年度は6.2%)、適切でないとするのが0校(0%。昨年度は4.6%)であった。適切・どちらかというと適切とするパーセンテージが、昨年度と同様,80%以上あった。
個別意見および出題趣旨等についての意見の中で肯定的理由としてあげられているものの多くは、基本的な事項の正確な知識を問うものである、法科大学院の授業内容に対応している、現場での思考力・応用力が試される問題である、といった指摘にほぼ集約される。また,昨年度は、問題の分量が多かったという指摘が目立ったが、今年度は分量について妥当であるという意見が多かった(ただし、さらに分量を絞り込むべきという意見もあった)。
他方、今回の出題に対する疑問点・改善すべき点としては、問われている事柄が賃貸借に特化しており出題分野に偏りがあるのではないか、という意見が複数見られた。また、問い方について、実体法上の要件の検討を求めているのか、抗弁事実のみを検討することを求めているのか、不明確であるという指摘もあった。設問3について、何を問うているのか分かりにくい、やや難易度が高いという意見があった。
以上のように、改善に向けての意見も寄せられているが,全般としては肯定的な意見が多数を占めていた。
(b)商法分野
論文式試験の商法分野について回答のあった法科大学院は52校(昨年より9校の減少)で、4校が無回答であった。
回答した法科大学院のうち、「適切である」との回答が14校(26.9%。昨年より13校の減少)、「どちらかといえば適切である」との回答が29校(55.8%。昨年より3校の増加)であり、肯定的な回答をした法科大学院は、昨年と比較して、数において10校の減少、割合において約4ポイントの減少であった。
「どちらかといえば適切でない」とする回答が2校(昨年より1校の増加)、「適切でない」とする回答が4校(昨年より3校の増加)で、否定的な回答をした法科大学院の割合は11.5%であり、数では昨年より4校増加した。昨年に引き続き、肯定的な回答が減少し、否定的な回答が増加したことになる。なお、「どちらともいえない」とする回答は3校で、昨年より3校減少した。
「適切である」、「どちらかといえば適切である」と考える理由としては、例年通り、会社法の基本的な論点についての出題であること、判例学習の重要性を受験生に認識させる内容であること、法科大学院における授業内容に即した内容の出題であること、株式併合による締め出しという最近の実務で問題となった論点について、条文の立法趣旨から考えさせる思考力を試す出題であり、難易度も適切であること、論点に偏りがなくバランスのとれた出題であること、があげられている。
これに対して、「どちらかといえば適切でない」、「適切でない」とする否定的な回答の意見は、次のような疑問を呈する。設問1については、典型論点だが企業実務において重要性に乏しく、作問のために無理矢理創作した不自然な事例であることに疑問を呈するかなりの数の意見があった(肯定的な回答の中にも同様の疑問を呈する意見があった)。設問2については、論点が多すぎるという意見や、従業員持株制度について問うことに疑問を呈する意見があった。設問3については、少数株主の締め出しを問うことは酷であるという意見があった。
問題の量については、例年通り、適切であるとする意見もあったが、検討すべき論点が多く、すべてについて時間内に解答するのは困難であり、論理的思考を試す観点から疑問を呈する多くの意見があった。
最後に、以上の回答をまとめた者の個人的な意見を補足しておく。設問1の小問(1)は、設立費用の規制趣旨と百選掲載の判例の正確な理解の確認という基本的な論点であることを考えれば、不自然な事例であることが問題であるとは思えないし、小問(2)は百選掲載の判例の理解と事後設立規制の理解が主たる出題の趣旨であると考えれば、問題は無いと思う。個人的には、公表された出題趣旨において、小問(1)で判例に賛成する場合、債務は、契約を締結した順序により、あるいは債務額に応じた案分の方法により会社に帰属することを答案に明示しなければならないかのような書きっぷりが気になるところである。
設問2については、論点の多さよりも、公表された出題趣旨が、取消事由の第1に、代理人資格の定款による制限をあげていることが気にかかる。出題者がこの論点を答えさせたいことは問題文から明らかだが、Gが総会決議の効力を争うという設問との関係で、どう考えても本筋とは言えない(しかも取消事由として認められそうもない)こんな論点まで答案に書くことが要求されるべきなのであろうか。個人的には、設問1とは違った意味で、無理矢理論点を作り出すために挿入された不自然な事例設定としか思えないのだが。しかも、出題趣旨では一番長い説明になっている。さらに、出題趣旨が、決議の無効事由として、株主平等原則について論じることが求められる、とする点も気にかかる。特別利害関係人の議決権行使の取消事由とは別個に、この論点を論じることが要求されているのだろうか。もし、そうだとしたら大いに疑問であるし、その場合に、平等原則について何をどう論じることが要求されているのか、私には理解できない。
(c)民事訴訟法分野
無回答1校を除く55校中、「適切」と答えたのは33校(60.0%)、「どちらかといえば適切」と答えたのは19校(34.5%)、「どちらともいえない」との回答は1校(1.8%)、「どちらかといえば適切でない」との回答は2校(3.6%)、「適切でない」と回答した法科大学院は0校(0%)である。
「適切」(33校、60.0%)と「どちらかといえば適切」との回答(19校、34.5%)を合わせると、52校(94.5%)であった。一昨年までこの数字は、常時90%以上を保っていたが、昨年は、71.2%と急落したが、今年は再び元に戻り、一昨年の数値も上回った。今年の試験問題の内容は多くの法科大学院に支持されたといえるであろう。また、一昨年度は、「適切でない」と回答した法科大学院はなかったが、昨年度は3校が適切でないと回答している。それに対して、今年は再び「適切ではない」と回答した法科大学院はなかった。そのような点から一般的に見ると、昨年の民事訴訟法の問題については、各法科大学院が問題点を指摘していたのに対して、多くの法科大学院が、今年の問題は、良問であると捉えているといえるであろう。
次に自由記載欄からみると、「適切」と回答したものの中には、「弁論主義、処分権主義、既判力の客観的範囲といった基本事項について、これらの原則的な準則をそのまま当てはめたのでは、必ずしも説得的な結論を得ることができないことを気づかせる事例を提示することによって、受験者をしてその場での応用的思考に誘いつつ、他方で、堅実な思考過程を経なければ、合理的な結論には到達しがたいように、綿密に工夫されている」「法科大学院で教育する民事訴訟法と要件事実論の基礎的な知識を問うことを前提に、これを用いて発展的な問題を考えさせるもの」「ソクラテスメソッドの授業を受けることで解答しやすい出題形式であり、出題内容も基本的事項から、自分の頭で考えさせる内容」「基本的な論点に依拠しながら、普段あまり考えたことがないような関連問題を考えさせるもので、理解の程度が評価しやすい」「民事訴訟法の基本的な理解を問うものであり、過去にいくつかか見られた奇を衒うような要素はなく、良問」「問題の難易度が少し下がっており、法科大学院生でも十分に回答できるものとなっている」「立退料引換給付と売買同時履行との異同の問題提起は秀逸」「第1問は基本的な問題、第2問は実務的問題、第3問は理論的な問題が出題されており、昨年よりバランスの取れた良問」「設問1、設問2は基本問題と位置づけられる。法科大学院で必要な学修をしていれば間違いなく解答できる問題であり、民事執行法の基本構造を理解している必要がある問題ではあるが、通常の法科大学院教育ではこの程度は教育しているはずであり、問われている問題も、判例や学説を理解していれば十分解答できる問題であり、問題数も、2時間の試験 時間に照らして適当」「基本的論点であるが、ともすると授業では詰めずに教えている、ないし、説明を省略してしまう点であり、教える側にも示唆のある問題」「基礎的な設問と多少骨のある設問からなり、難易度面で適切であると共に、分量面でも試験時間内に対応するのに適切」といった諸点が、評価されている。以上の意見を集約すれば、今年の問題は、基本的な内容を問いつつも、受験生の思考力を見る問題も含まれており、問題のバランスもよく、試験時間と比べ分量も適切である、ということになろうか。なお、昨年は、「適切」と評価しつつも、普段あまり検討したことのない問題、問題が長文すぎる、試験時間に比して分量が多すぎる等の問題点を指摘する回答もあったが、今年は、それはなかった。
それに対して、「どちらかといえば適切」と回答したものの中には、評価する点としては、「法科大学院における授業内容に則した内容になっている」「現行司法試験制度開始直後に比べると、何が問われているのかわからないような出題はなくなってきた。法科大学院や基本書などで学習できる項目の基本的理解と応用を問う問題」「制限時間内に回答可能な分量に近づいている。基本事項を前提に、応用力を問うよい問題」「問題の趣旨は明確で、問題文も読みやすくなっている」「問題自体は基礎知識を前提に、法的思考力を問う良問である」「昨年に比して易化したこと、事例の説明の明晰さは昨年を相当に上回っており、受験生は紛争の実態が把握できないまま設問に答えるというプレッシャーから解放された」「能力に応じて答案を作成することができる」「論理的な思考力を問う問題」「問題のボリュームについても、昨年の出題に比べ一定の分量に削減された」等があげられており、その内容は、「適切」と回答したものと共通している。それに対して、問題点としては、「平成28年の予備試験の設問1(1)が弁論主義の問題を問うており、予備試験合格者にとって有利となる可能性はあるだろう」「3問のうち1問については、もう少し難易度を上げたものを出題する方が良いのではないか」「2時間で、事例の把握、設問の趣旨の理解、答案の構成等を的確に行うには、解答すべき課題が少し多い」「設問2ないし設問3の解答に当たって「時価相当額」の意味が問われるが、後訴においてもその合意の曖昧さが維持され続けているのは、司法試験において事案の特徴を把握する能力を測定するという面でもったいなかった」「売買価額が時価相当額であるという設例自体は、受験生が実体法上の問題を引きずったかたちで民事訴訟法の事案を解かなければならなくなり、あまり感心しない」「設問2は、難易度の高い問題であり、受験生に出題の趣旨がどこまで伝わったかが危惧された」「2時間で3つ以上の設問をおくのは、思考力・分析力を問うには過剰であり、単に情報処理能力を試している嫌いがある」といった諸点が指摘されていた。
「どちらともいえない」と回答した法科大学院は1校であり、「民訴法の基本的な理解の程度を試すには、ふさわしい問題であったといえるが、解答への誘導なども含めて、設問の作りの精度がやや雑に思われた」との回答であった。
「どちらかといえば適切でない」と回答した法科大学院は2校あった。これらからは、「昨年度までの出題内容に比して、やや基本的なレベルになったと思われるが[設問2を除く]、まだまだ高度にすぎ、法科大学院の教育と司法研修所の修習の架橋にとっての弊害である点は例年と変わらない」「設問1については、平成24年設問1(2)でほぼ同様のことが出題されている。同じ問題を二度と出題すべきでないということはできないが、いずれにしても出題が安易であるように感じられる。設問2は、売買の代金額については従来の議論とかなりずれたものであるだけに、試験時間内の解答を求める司法試験の問題としては、受験生にとってかなり困難があったように思われる。設問3は、毎年のように出題される既判力の分野からのもので、実務で既判力についてほとんど問題とならないことを考えると、実務家登用試験としては大きな疑問がある」との回答が寄せられた。
「適切ではない」と回答した法科大学院はなかった。
(3)刑事系
(a)刑法分野
刑法・論文式には55校からの回答があった(昨年度67校)。
回答内容は、「適切」13校(23.6%。昨年度26.5校)、「どちらかといえば適切」30校(54.5%。昨年度29.5校)であり、併せて積極的評価を示すものが43校(78.2%。昨年度56校)である。昨年度と比べて減少している(昨年度84.8%)。全体としては積極的な評価が与えられていると言ってよいであろうが、「適切」とする評価はここ数年漸減していることに加えて(昨年度40.2%、一昨年度50.0 %)、本年の落ち込み幅が大きいことはやや気になる。
「どちらともいえない」とする回答は7校(12.7%。昨年度6校)であり、「どちらかといえば適切でない」は3校(5.5%。昨年度3校)、「適切でない」は2校(3.6%。昨年度1校)であった。
付記意見をみると、好意的・積極的評価の理由としては、「基本的な理解及び常識的な判断力があれば解答が可能な範囲内で、問題発見の能力や事実評価の能力等が深く問われる内容となっている」「具体的事実関係に即して、基本的な理解や思考力を確認する設問となって(いる)」というように、基本的な理解並びに思考力を問うものであるという点をあげるものが多い。「法科大学院における授業内容に即した内容になっている」という意見も、基本的には同趣旨のものであろう。
他方、批判的な意見としては、「2時間で全ての論点について過不足なく論じきることは、中々難しいように思う」「全ての内容について適切に解答するには時間が足りないのではないかと感じる」「受験生に対し要求している作業量がやや多過ぎる印象であ(る)」「2 時間で解答するにはやや分量が多いように思う」といった論点の多さや時間内での回答の困難さを指摘する意見が目立つ。それも、「内容的に適切であるが、量的に多すぎ、2時間で書くのは困難だと思う」というように、問うている内容自体は悪くないが、時間的に負担過重である、といった意見が多数に上る(この傾向は昨年と同様である)。このような見方は、「十分な思考プロセスを示すような論述を重ねることはできず、中途半端な内容のものを書かざるを得ない」「刑法上の論点をしっかりと論じさせる機会を奪っている」「今のままでは、各論点についてとりあえず言及し形式的な解答をして点数を積み上げるのが無難な答案であるかのような印象を受ける」「分量があまりに多く、過度の、薄い内容とならざるを得ない情報処理を強いるように思われる」というように、内容的にはよい問題でも、時間が足りないため、結局、その内容のよさが生かされていないという評価につながっている。「試験問題」として適切といえるかどうかという点に関して、やや厳しい見方がなされているといえようか。
本年の問題ではリード文に工夫がみられたが、この点については、「問題文において言及しなくてよい罪責が明示された点は1つの方向性として十分に評価できます」「問題文中の指示については、真に重要な部分についての論述に受験者の意識 を集中させるという意味で、肯定的に評価したい」と好意的な意見が見られる。確かに、具体的な試みとして一定の評価を与えることはできると思われるが、今回の場合、その試みが分量過多という問題の解消には必ずしもつながっているとはいえないようである。
「旧司法試験の最後の頃の問題と似て来て(いる)」との意見がみられる。確かに、ここ数年の試験問題は基本的な論点を含む小問をいくつか組み合わせたようなつくりになっており、旧司法試験の頃の出題と似ているという印象をもってもおかしくはないように思われる。基本的な論点の理解を問うのは大切であるが、定型的な論証パターンを覚えることに終始するといった勉強法を助長しないように注意する必要があろう。
今年度は出題趣旨についても意見を募った。個別の論点の説明に関する意見は、付記意見を直接ご参照いただきたいが、問題文では罪責を問われていないAの罪責をも考慮しなければならないかのような記述に関して複数の疑問が提起されていることは注記しておきたい。全体にかかわることとして、「形式的・一般的な記述や、問題文を再掲している部分などは不要」「各説明の冒頭に事案の要約のようなものを挙げているのはどのような意図によるのか推測しかねる」「出題趣旨の説明がだらだらと長すぎる」といった類似の意見が見られることは興味深い。「特定の立場を前提としているかのように記載されているとも受けとめうる表現が散見されるが,それは,メッセージとして受け取ってよいのであろうか」といった意見も含めて、出題趣旨にどのような役割を担わせるのかということについて考える契機として生かすべきであろう。なお、「『出題』趣旨である 以上出題直後に公開可能なはずであるから、より早い段階での公開を望む」という意見にも傾聴すべきものがあると思われる。
最低ライン点の設定に関しては、「足切りに遭った者の割合が前回より上がっている。問題が難化したためではないと思われるので、作業量を検討してほしい」との意見が寄せられている。
(b)刑事訴訟法分野
刑事訴訟法・論文式については、52校からの回答があった(昨年度は64校)。
出題の内容につき、「適切」と回答したのが22校(42.3%。昨年度は22.7%)、「どちらかといえば適切」と回答したのが20校(38.5%。昨年度は43.8%)であるから、積極的評価を示すものは、合計42校(80.8%)、全体の約8割に達している。昨年度は、「適切」及び「どちらかと言えば適切」を併せて全体の約3分の2(66.5%)であったことに比べると、積極的評価が増えている。一昨年度の87.1%(62校中54校)、その前年度の96.9%(65校中63校)といった数値には及ばないが、現場からの評価は回復傾向にあると言えそうである。とりわけ、「適切」の評価が、昨年度の22.7%から42.3%へと、大きく増加した。
他方、「どちらともいえない」は4校(7.7%)で、昨年度の13校(20.3%)から減った。肯定的評価が増えた分、中間的評価が漸減したとみることができそうである。
また、「どちらかといえば適切でない」という消極的評価は6校(11.5%)で、昨年度の6.5校(10.2%)と、ほぼ同程度であった。「適切でない」という明確な消極的評価は、0校であり、昨年度の2校(3.1%)から、一昨年度及びその前年度の水準(いずれも0校)に戻った。
このように、統計上は、昨年度に比べ、肯定的評価が増え、一昨年度以前の水準に近づいたということができそうである。
肯定的評価は、論文式問題の質及び量のいずれに対しても寄せられている。
まず、質(問題それ自体の難易度)の点であるが、「基本的な論点についての正確な理解を問うている」、「法科大学院において当然学ぶべき基本的な問題点を問う内容といえる」、「基本判例の理解をふまえ、重要条文の勉強を日頃からきちんと行っていれば対応できる基本的かつオーソドックスな問題であり、良問であった」などの評価が複数寄せられた。奇をてらわず、刑事訴訟法を学んでいれば当然身に付けるべき基本的な論点を,捜査法から1問,公判法から1問選んで出題したことが、教育現場における好感度の高さにつながったものと思われる。「第1問・第2問ともに,法科大学院の授業で必ず取り上げられる論点を扱ったものであり,かつ,正確な理解をしていないと的確な解答ができない問題であって,法科大学院での学習の成果が反映されるものとなっている。」、「捜査法、証拠法とも基本的論点について正確に理解できているかを問う出題であり、過度にひねって受験生を困惑させるような点もなかった。」といった意見は、そのことを端的に示すものであろう。また、手続の動的な理解や最新の最高裁判例を問う性格が強かった昨年度(平成28年度)の問題と比較し、「昨年度に比べ法科大学院での教育に対する配慮がなされている。」としたものもあった。
次に量(問題の分量や処理すべき事務量の多さ)の点である。例年、問題文や設問が多すぎるのではないかが議論の対象となるが、今年度は、「問題文の分量も適切」、「求められている論述の分量も穏当な範囲内におさまっている」、といった好意的な評価が多かった。昨年度の問題との比較において、「やたら書くことが多く、事務処理能力が問われた昨年度と異なり、オーソドックスな問題であり、じっくり事案の分析・検討ができたと思われる。」との評価も見られた。
ただし、教育現場の量的過剰感は、完全に払拭されたわけではなく、「設問中の小問が多く、設問1では具体的事実の分析に相当な時間が必要であることから、量的負担の面では若干多いと思われる」とか、「問いの数が多すぎる(小問が5つ)ため、適切に論述することが難しかったのではないか」といった意見も散見された。全体としては、【資料】を含めると問題文の分量が若干多いように思われ、問題数もやや多いものの,将来法曹として活躍するために必要な事務処理能力を試すという意味において、ぎりぎり許容範囲の分量内に収まっているとの評価が多数派であったように思われる。あと、問題全体の分量、及び、それに伴う時間・労力の配分を意識したものであろうか、「可能であれば設問毎の配点記載が望まれ」る旨の指摘があったことも、興味深かった。
このように、質・量とも概ね適切であるとの評価を受けた今年度の出題であるが、設問2-2の刑訴法328条にもとづく回復証拠としての取調べ請求の可否については、複数の疑問が寄せられた。「回復証拠の法328条による許容性については、いささか難易度が高かったと思われる。」、「受験の現場で考えさせるという方向は理解できるが,受験生にとっては若干厳しめであったように思われる。」といった意見が、その代表的なものである。回復証拠については、「現在の裁判員裁判、公判前整理手続が否認事件の主流となっている実情からすれば、実務ではおよそ問題にならないと思われる。」との指摘や、同設問の第2段落(筆者注:【資料】中の「供述要旨等」欄の後段部分を指したものか?)について、「加点要素として出題したものと思われるが、この部分の処理を検討させたいのであれば、問題文のなかでこの点に注意を促すようにしたほうがよく、他方、この部分への言及がなくても及第点を与えるのなら、削除したほうがよかったように思われる。」との意見(前後の文脈からすると、この部分を制限時間内に回答させるならば、適切に誘導したほうが良かったのではないかとの趣旨と理解できる。)も存在した。作問技術上、議論のあり得るところで、興味深いところである。
以上のとおりであり、寄せられた回答から伺える教育現場からの声を最大公約数的に集約するならば、法科大学院で教えるべき内容が問われており、求められている論述の分量も穏当な範囲内におさまっているが、設問2-2で回復証拠としての利用の適否まで問う必要があったかについては疑問もなしとしない、といったところであろう。
なお、本年度は、公表された出題趣旨等に関する意見も寄せられた。「何がなぜ問題になるかを明瞭に示しており,学習上大変参考になる親切なものであると考える。次年度以降もこのような方針を続けていただきたい」とか、「主要判例をただ憶えるだけでは不十分で、具体的事例に即して自ら考えなければならないのだという趣旨が書かれており、学修のための指針として適切である」といった、好意的な評価がある一方で、前述の設問2-2については、「評価対象となる論述ポイントの記述が極めて淡白に終わっていることに対する疑問がある」とか、「回復証拠の証拠能力については、もっと明確な見解を示すべきである」との指摘がなされた。また、問題文の読み取り方の問題ではあろうが、「読み取れる論点のうち2つが、出題趣旨では無視されている。具体的には、捜査③が身体に対する捜索に当たるか否かと、証拠3の後段部分を自己矛盾供述が生じた原因を推認するために使えるか否か。これでは、採点の過程で出題趣旨を変えたように見えてしまう。出題趣旨は試験実施直後に発表し、その後答案を見て採点方針を変えたなら、採点実感で率直に説明するべきである。もし、本来の出題趣旨がこれらの論点を想定していなかったのであれば、設例の作り方が適切ではない。」との厳しい指摘も寄せられた。
(4)知的財産法
知的財産法について回答があったのは33校であり、23校からは回答がなかった。適切とするのが6校(18.2%。昨年度は19.7%)、どちらかといえば適切とするのが16.5校(50.0%。昨年度は69.7%)、どちらともいえないとするのが4校(12.1%。昨年度は7.9%)、どちらかといえば適切でないとするのが5.5校(16.7%。昨年度は0%)、適切でないとするものは1校(3.0%。昨年度は2.6%)であった。回答をした大学院のうち約7割弱が適切・どちらかといえば適切を選択している。
個別意見および出題趣旨等についての意見の中で肯定的理由として挙げられているものの多くは,基本的な知識,重要な論点を問うものである,適切に応用力を求めている,難易度が適切であるという意見におおむね集約される。
これに対して,疑問点・改善すべき点としては,問題の量が多いという指摘が多数あった。事例の複雑性を指摘する意見,より平易な問題を求める意見も複数あった。また,特許法について,併用薬という特許適格性について疑問が生じうるものを題材とすることの適切性を問う意見があった。これらの意見が,「適切,どちらかといえば適切」という評価の若干の減少につながったものと思われる。
(5)労働法
アンケート結果は、回答校33校を母数とすると、18校(54.5%)が「適切」、12校(36.4%)が「どちらかといえば適切」としており、両者を合わせると30校(90.9%)が肯定的に評価している。「どちらかといえば不適切」との回答はなかったが、「適切でない」が1校(3.0%)あり、「どちらともいえない」としたのは2校(6.1%)であった。「適切」及び「どちらかといえば適切」という肯定的評価の比率は、2007年が75.6%、2008年が76.8%、2009年が90.6%、2010年が73.8%、2011年及び2012年がともに76.5%、2013年が85.1%、2014年が84.8%、2015年が81.0%、2016年が88.1%であり、本年は、2009年に次いでこれまで2番目に肯定的評価が多い年となった。また、「適切」との回答の比率、及び「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせた回答の比率は、選択科目全体の中で最も高くなっている。
問題の内容についてみると、第1問は、会社分割に際し分割先会社へ承継される従業員を対象とする説明会が実施され、会社分割後、分割先会社において、給与規程、退職金規程の改訂が行われた事例について、会社分割の際に法律上要求されている手続の意義と法的効力、就業規則変更の法的効力を問うものと思われ、第2問は、ユニオン・ショップ(ユ・シ)協定を締結する労働組合から脱退した労働者がユ・シ協定によって解雇され、脱退した労働者の一部が新たに組合を結成し使用者に団体交渉を求めた事例について、ユ・シ協定による解雇の効力、複数組合併存下での団体交渉申入れに対する使用者の対応の適否を問うものであると思われる。
これら両問を通じたコメントとして、肯定的に評価した回答において挙げられている理由としては、基本的であるとともに重要かつ今日的な論点が取り上げられていること、近時の重要な判例の理解をベースとした出題となっていること、法的ルールに照らして的確に事実の当てはめを行うことが求められていることなどが目立っている。
他方で、第1問に関しては、日本IBM事件判例の理解に基づき当てはめを求めるのはやや過大な要求ではないか、また、第2問については、なぜいまユ・シ協定に関する出題をする必要があるのか、ユ・シ解雇につき除名と組合加入の時期の先後を区分して論じさせるはやや過大な要求ではないかという指摘も一部にあった。さらに、全体を通して、事実関係をもう少し整理して問題文を作成すべきである、このままの出題では判例主義の浅い理解(記憶)になる、集団法の論点が出尽くし過去問の繰り返しになっているので、将来的には各設問の論点数を減らし個別法2問と集団法1問の出題も考えられるといった指摘もあった。
以上を総合すれば、本年の問題の内容と難易度は、全体としては、例年と同様に適切なものとして良好な評価を行うことができるものと考えられる。
なお、出題趣旨・採点実感・最低ライン点の設定については、最低ライン点、足切り割合ともに他の選択科目にくらべて厳しく、足切り者が多数になったことは在学生に動揺を与えており、科目間の差が継続的に続くのであれば、基準の見直しの必要性の可否を検討すべきである、出題趣旨だけではなく採点基準も明記すべきである、第1問の出題趣旨に「X2の請求の可否を検討するにあたっては・・・・労契法10条の解釈、適用の問題となる」(第5段落)とあるが、「X2の同意を認定できない場合には」等の留保なしに書かれている点はやや誤解を招きかねない様に思われる、などの意見が寄せられている。
(6)租税法
回答を寄せた24校のうち、12校(50.0%)が「適切」、8校(33.3%)が「どちらかといえば適切」、3校(12.5%)が「どちらともいえない」と回答し、「どちらかといえば適切でない」が1校(4.2%)、「適切でない」と回答したものはゼロという結果であった。無回答が32校、57.1%と過半数に及んでおり、昨年同様、他の選択科目と比べて率が高いのが気にかかる。本年は、「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると83.3%となり、昨年の92.6%には及ばないが、一昨年の80.6%、一昨昨年の73.67%に比べれば高い評価となった。
「適切」であるとした回答に付記された意見を見ると、「知識と論理的思考力をバランス良く問う出題であった」「条文及び最高裁判例に基づいた設問であり,何が正当であるかについて紛れがない」「講義内容を踏まえた出題であり、適切な問題分量である」「第1問,第2問ともに,よく工夫された良問であり,法科大学院での学修を踏まえた基本的な力を計測するために適切」「とくに,第2問の設問3で,プランニングの観点からの出題をされたことは,新しい試みとして評価に値する」「問題の論点や出題趣旨が明瞭であり、条文解釈と具体的な事実関係の当てはめにより回答を導くという点も、司法試験の趣旨に沿っている」「全体として特定の視点から関連する諸制度について横断的な理解を問う設題であり、第1問は寄附税制、第2問は倒産税制をひとつの素材としているものの、これまで法科大学院において期待されてきた租税法教育による総合的な学習成果を試すものであるという意味で評価できる」「過去問の検討を行っていれば応用問題であっても何らかの解答ができるように工夫されている。設問で書くべき事項が限定されており解答しやすい。細かな応用問題も出ているが,基本知識や条文参照をベースに法的思考力を問うものになっており,総じて良問」など、きわめて高い評価がされていることがわかる。
「どちらかといえば適切」との回答に付記された意見の中でも、「法科大学院における授業内容に即した内容になっている」「前年の試験問題と比較しても、量・質ともに適切である」「受験生であれば必ず勉強しているであろう基本的論点からの出題である」等の高い評価がされている一方で、「税務ではなく税法の出題である以上、もう少し法解釈を問う問題を増やしてもよいのではないか」「問題文の事実関係がやや抽象的なところが何カ所かあり、受験生において解答(あてはめ)に迷うことがあると懸念される」「所得税の論点は少し難しい」「やや些末な論点に踏み込んでいるきらいもある」等の意見が付されていた。
「どちらともいえない」との回答に付記された意見の中には、「設例はよく考えられており、論じさせたい点も明確であるが、応用的な設問に偏っており、もっと理論的な考察をさせてもよい」「租税法の試験範囲を満遍なく学習させたいという意図はよく分かるし、基本的な論点についての出題とされていることは看取できるが、結果として解答の分量が多く、180分では実力を出し切れない受験生もいたものと推測される」「第2問については、問題文中に明示されているとはいえ、所得税法44条の2については代表的な教科書でも簡潔に触れられるにとどまっており、十分に学習した法科大学院は少ないものと考えざるを得ないし、初見で条文内容を理解する力を試すには、時間との関係でやや無理があったのではないか」との指摘がみられた。
「どちらかといえば適切でない」との評価の個別意見では、「法科大学院で、論文試験問題を適切に回答しうる授業が行われていないのではないか」とする意見があった。
出題趣旨等についての意見としては、「出題趣旨の記述は丁寧でよい」「出題趣旨については出題者の意図を理解することができ、今後の対策の参考とすることができるので、よい」「出題趣旨からは、重要論点の理解を問うものであり妥当である」など、出題趣旨を評価する意見が寄せられた。また、出題との関係で、「前提としての事実の曖昧さが論点としての想定によるものなのか受験生に迷いがあると思われる。どこまで踏み込んで記述するかについて、出題趣旨をみてはじめてわかるような状況にあるのではないか」との意見や、最低ライン点について、「社会に一般的に発生する、オーソドックスな租税問題を参考にして出題されるべきである。平易な出題をなし、合理的な評価基準を設定し採点すれば、最低ライン点の設定は必要がないのではないか」との意見もあった。
本年度の租税法の出題は、問題の論点や出題趣旨が明瞭で、よく工夫された良問であるとの観点から、概して高い評価がなされている。「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると、8割を超えており、大多数の法科大学院から、積極的評価が得られているということができよう。
(7)倒産法
無回答19校を除く37校中、「適切」と答えたのは19校(51.4%)、「どちらかといえば適切」と答えたのは11校(29.7%)、「どちらともいえない」は6校(16.2%)、「どちらかといえば適切でない」は1校(2.7%)、「適切でない」は0校(0.0%)である。なお、無回答が19校(33.9%)あるが、選択科目の中では、一番少ない数字である。
「適切」と「どちらかといえば適切」との回答を合わせると、30校(81.1%)である。この数字は、一昨年度が43校(91.5%)、昨年度が39校(86.7%)となっており、2年連続の減少であることに加え、昨年に比べて5.6ポイント減、一昨年に比べれば10ポイント以上の減少となっており、この点が気になるところである。
次に自由記載欄からみると、「適切である」と回答したものの中には、「条文や基本概念の知識をもとに、事案から適切な事実関係を拾う形での問いが投げかけられており、受験生の基本的な力量を確認すると共に、法律実務への架橋ともなる要素が問われている」「条文・判例・事例との関係での問題抽出と利益衡量を要求しており、適切に到達度を判定できる良問」「近時の最高裁判決をベースにした設問であるとともに、実務的な側面にも配慮している」「事例を素材として重要かつ基本的な諸事項について具体的な検討を求める出題であり、法科大学院教育や司法試験の趣旨に合致する」「第1問は、倒産判例百選にも載っている事例に関するものではあるが、当該事例をそのまま使ったものではなく、考えさせる問題となっている。第2問も、条文の文言を具体的事例に当てはめるについて丹念に検討することを求めるものであり、授業を聴いていれば、無理なく回答できるものである。第1問および第2問ともに法科大学院の授業に則った基本的な問題であり、難易度も適切である」「条文の知識、最高裁判例といった基礎的知識、事案分析能力、そして、法的思考力を試すことのできる良問」「第1問は基本的な概念や制度を正確に理解しているかを問うものであり、破産手続を通して理解しているか否かを見る上できわめて適切である。問2は、民事再生手続における問題について、複数の方策が存在することを前提とし、具体的に妥当なものを選択することを問うており、論理的な判断能力とセンスが問われる実務的な問題として、評価できる」「第1問および第2問とも、ここ数年と同様、過度に先端的な問題点を尋ねることなく、適度な設問となっている」「法科大学院の指導内容にきわめて沿うものである」「重要な条文、その解釈論および事案への当てはめを尋ねる問題として、適切」「近時の重要判例をもちつつ、普段はあまり考えないような問題(免責)を組み合わせている。基本原則の理解をベースにした問題」「十分に考えられた内容」「適度な難易度。知識量を問うよりも考えさせる問題になっている。これまで問題量が多いのではないかと思っていたが、多少は減っているのではないか。」といったものがあった。なお、これらの中には、今後も2問のうち1問は民事再生法から出題することを続けてほしい、との要望もあった。
「どちらかといえば適切である」と回答したものの中には、「法科大学院における授業内容に則した内容になっている」「基本的な事項が問われ、丁寧な当てはめが求められている点はよかった」「前年の試験問題と比較しても、質・量ともに適切である」「基本的な問題であり、奇をてらっていない点がよい」「第1問第2問ともに基本的な論点が組み合わされていて倒産法に対する基本的な理解を問う内容と評価できる」「最新の重要判例を理解しておき、また、授業での資料を復習し、議論をちゃんと整理しておけば安心して解ける問題」等の評価が見られた。なお、この中には、「年度で難易度を変えない工夫が必要である」「若干難解な問題もあった」「免責不許可事由該当性や裁量免責の可否についての出題は、倒産実務の経験のない受験生には聊か酷であったろう」といった回答も寄せられた。
「どちらともいえない」との意見として、「現実に申立代理人等になった場合には必ず直面するような実務に即した問題であり、このことについては一定の評価はできるが、研究者教員が講義を担当した場合に言及し得る内容かについては疑問がある」「破産法分野で免責を中心に出題するのはいかがなものか」「選択科目としては少々難解ではないか」「第1問1は、基本的な事項を問うものであり、適切であるが、出題趣旨について、第1に、平成24年最判の補足意見における、一定規模以上の事業者の債務整理開始通知と支払停止該当性に関する記述に言及がされているところ、この記述の意味を理解するためには制度化された私的整理に関する最低限の知識が必要となり、このような知識を受験生に求めるのは無理ではないか、と思われる。第2に、支払不能の具体的な認定に関連して、契約条項における支払停止が期限の利益の喪失事由とされていることへの言及があるところ、これに気づくことを受験生に求めるのは無理ではないかと思われる。第1問2も適切であるが、破産法252条1項3号の「特別の利益を与える目的」の意義を問うのは細かすぎると思われる。また、裁量免責を基礎づける事由のうち、破産法252条2項に例示されている事由以外の事由について、一般論を述べた上で具体的な当てはめをすることを受験生に求めるのは、やや難しいように思われる。第2問1.(1)(2)は民事再生法の基本的な理解を試すのに適切である。もっとも(1)では、【事例】において、保全処分では5万円以下の弁済が許されていたのに対し、(1)では3万円以下の再生債権への弁済許可が問題とされており、なぜ金額が異なるのかについて受験生に混乱が生じたおそれがある。第2問2も適切であるが、再生債務者の第三者性を肯定する前提に立つと、管財人が選任された場合との対比がしづらかったのではないかという懸念が残る。また、民法177条と民法94条2項の2つの場面で第三者性を問う必要があったのかという疑問が残る。」「もう少し平易な問題とすべきである」「出題の内容は問題ないが、事案が複雑すぎて受験生に混乱が生じる。」との回答があった。
「どちらかといえば適切でない」と回答した法科大学院が1校あったが、「第1問と第2問の配点バランスが悪い」との意見であった。
「適切ではない」と回答した法科大学院はなかった。
(8)経済法
経済法について、回答のあった法科大学院は33校(58.9%。昨年より8校の減少)で、無回答は23校(41.1%)であった。
問題が「適切である」と評価したのは10校(30.3%。昨年より10校の減少)で、選択科目全体の平均39.4%を下回り、割合では知財(18.2%)に次ぐ低さである。「どちらかといえば適切である」と評価したのは13校(39.4%。昨年と同数)で、肯定的な評価をした法科大学院の数は昨年より10校減少して23校で、回答のあった法科大学院の69.7%を占めた。これは選択科目全体の平均値の78.7%を約9ポイント下回っており、平均値を4ポイント下回っていた昨年よりさらに評価が低くなった。他方、「適切でない」との回答は0.5校(1.5%。昨年より0.5校の増加)、「どちらかといえば適切でない」との回答は4.5校(13.6%。昨年より0.5校の減少)で、否定的な回答は昨年と同数だが、割合は約3ポイント増加した。なお、「どちらともいえない」との回答は5校(15.2%。昨年より2校増加)であった。
「適切である」、「どちらかといえば適切である」とする回答は、独禁法の基本的な知識に基づき基本的な要件の当てはめを問う適切な問題であること、法科大学院における教育内容に即した出題であること、独禁法全体を偏り無く学習しているかを試す出題でバランスが良いこと、基本的な事項と応用問題がうまく組み合わされていること、受験生に考えさせる良問であることを肯定的に評価する理由としてあげる。
これに対して、「どちらともいえない」、「どちらかといえば適切でない」、「適切でない」とする否定的な回答は、問題が複雑・高度で、出題の趣旨に沿った解答を受験生に求めるのは、内容面でも、時間的にも、分量面でも無理であることをその理由としてあげている。これについては、肯定的な評価の回答にも、論述を尽くすには時間や紙幅が不足する懸念を述べる意見も相当数あった。また、結論がどちらでも良いという出題に疑問を呈する意見もあった。
(9)国際関係法(公法系)
回答は前年度より9校減少して25校である。そのうち、適切と評価するもの9校(36.0%)、どちらかといえば適切であるとするもの13校(52.0%)で、これらを合わせると、積極的に評価するものが88.0%であった。他方で、適切ではないと厳しい評価をしたものはなく、どちらかといえば適切ではないという評価するもの1校(4.0%)であり、どちらともいえないとするものが2校(8.0%)となっている。昨年度と比較すると、消極的評価が減少したほか(11.1%から4.0%)、判断を保留する評価もわずかに減り(13.9%から8.0%)、その分、積極的に評価(適切、どちらかといえば適切)するものの割合が増加した(75.0%から88.0%)のが今年度の特徴である。
今年度は、第1問は、少数民族による分離独立運動を題材に、国家の成立、国家承認の法的効果、国連加盟や条約締結と国家承認の関係、未承認国領域への既存国家の軍事活動の法的評価、先行国の国境画定条約の法的効果などを問う出題内容となっており、また第2問では、排他的経済水域内での外国漁船の活動に対する沿岸国の取締りを設例として、沿岸国の執行行為の国際法上の評価や、沿岸国の措置の対象となった漁船の旗国による国際法上の対応、国際違法行為に対する国際請求や賠償の内容などが論点として取り上げられた。
こうした出題内容に対して、「適切である」「出題趣旨はいずれの問題についても適切」という意見のほかは、あまり目立った意見はない。25校からの回答のうち、特にコメントを寄せたのは7校にとどまり、それも「特になし」というものが多かった。客観式の回答とあわせると、これが、今年度の出題に関しては特にコメントするまでもなく肯定的に評価できるということなのか、それとも国際関係法(公法)の受講者や受験生が少なくなってしまったことから教員側の回答の機会も関心も減少したということを表しているのか、やや判然としないところがある。
そのような中で、第1問と第2問に共通して、「出題内容が漠然としている問題」があるというような批判的なコメントも提起されているのは注目される。具体的には、第1問の設問2について違法行為の可能性が多様(武力行使禁止原則、不干渉原則、主権侵害)であり、第2問の設問3でも救済・賠償の形態が多様(継続的違法行為の中止、再発防止確約、原状回復、金銭賠償、精神的満足)であることから、結果として「受験生に「丸投げ」されている感が否めない」という。これは、「出題趣旨としては、受験生に選択の自由を与えたもの」と推察されるが、受験生にとっては解答のための「選択の幅が大きすぎるきらいがあり、もう少し誘導型にした方がよい」という指摘がなされている。傾聴に値する指摘といえよう。そのほかでは、第2問の設問3に関する出題趣旨について、「懲役が身体刑であるから73条3項に違反すると記述している点は理解しがたい」との批判もある。「一般に懲役は自由刑であり身体刑ではなく、また懲役刑は、釈放によって原状回復が可能」というのがその理由である。細かいことのようだが、採点基準に影響が及ぶ点についてはできるだけ明確かつ正確な説明が求められるであろう。
例年と同じく繰り返しになるが、作問に関する出題者の努力には敬意を表するとともに、さらに改善すべき点を考慮に入れつつ、オーソドックスな事例問題を通じて、国際法の基本的知識に関する理解力、分析力および応用力を把握するような出題傾向が今後も維持されていくことを期待したい。
(10)国際関係法(私法系)
国際関係法(私法系)についての32校の回答のうち、適切と評価するものが11校(34.4%)、どちらかといえば適切であるとするものが12校(37.5%)となっており、積極的に評価するものが71.9%となっている。他方で、どちらともいえないとするものが6校(18.8%)、どちらかといえば適切でないとするものが3校(9.4%)、適切でないとするものはが0校(0%)であった。
こうした割合を昨年度と比較すると、適切であるとするものが若干増加した一方で(28.6%から34.4%)、どちらかといえば適切と評価するものが減少したため(51.4%から37.5%)、積極的に評価するものが減少する結果となっている(80.0%から71.9%)。他方で、どちらともいえないとするものはほぼ横ばいであるものの(17.1%から18.8%)、どちらかといえば適切でないとするものが増加している(2.9%から9.4%)。なお、適切でないとするものは、昨年度と同様に今年度も存在しない。
このようにみてみると、評価が低いとは決して言えないがが、昨年度と比較すると、評価の低下が見受けられるということになる。
具体的な評価としては、特に第2問に対して、難易度という点、民訴法改正時に導入されなかった制度に関するものであるため講義で扱われなかった者には解答が困難であったという点、古い学説を取り上げている点で今後の勉強方法を迷わせるという点、さらには、様々な論点が取り上げられているため掘り下げを怠らせるおそれがあるという点に、批判が見出された。
以上、積極的な評価が多くを占めてはいるが、年を追うごとにその割合が低下している点には留意する必要があろう。上記のような批判が少なからず存在しているという事実をも勘案しながら、基本的な知識・理解を問うという枠組の下での適切な出題がなされることが今後も期待される。
なお、出題趣旨につき詳細かつ丁寧な記載であったという点でこれを評価する意見が複数あった一方で、「最低ライン」に関する説明が誤解を招きかねないという点には批判があったという点は付記しておきたい。
(11)環境法
回答を得られた29校のうち、「適切である」としたものが12校(41.4%)、「どちらかといえば適切」としたものが11校(37.9%)、「どちらともいえない」としたものが3校(10.3%)、「どちらかといえば適切でない」としたものが同じく3校(10.3%)で、「適切でない」との回答は0であった。「適切である」と「どちらかといえば適切」をあわせると約80%であり、かなりよい評価を維持しているといえよう。もっとも、平成28年度と比較すると、寄せられた回答が37校から29校に減っていることにも留意する必要があるかもしれないが、「適切である」との回答のパーセンテージがやや増加しているものの、「どちらかといえば適切」との回答が⑦ポイント近く減少しており、よい評価の割合が全体としては減っている。また、「どちらともいえない」が前年度5.4%からほぼ倍増している。
問題の質と量に分けて上記評価を分析すると、質については、環境法の基本的な事柄を問うものである、将来法曹になった場合に生きる知識を問うものである、基本的なものから応用的なものまで設問にバランスがとれている、法的思考力を試す問題であり深く考えさせる問題である、といった高評価がある。深く考えさせるという面が高評価につながるその一方では、「どちらともいえない」、「どちらかといえば適切でない」と答えた法科大学院からは、奇をてらっているとか出題趣旨を読み取りにくい、受験生に求める思考力のレベルが高すぎるといった理由から、低い評価になっている。よい評価をしている法科大学院からも、どのような事柄を論ずべきか分かりにくいとか、特に第一問についてであるが「限界事例で分析が難しい面がある」との指摘があり、高評価する法科大学院とそうでない法科大学院との間で認識の共通性も見られる。特に、第一問設問2(2)について、場合分けを要求する出題趣旨に対する疑問が、高評価をする側から提起されていた。受験生にとって難しい問題が、「深く考えさえる良問」なのか「出題趣旨を読み取りにくい、奇をてらった問題」なのか、評価が分かれたようである。この点につき、受験生に問おうとする事柄自体は――誘導がないと気付きにくいものがあったにせよ――基本的なものであることから、よい評価が多くなったものと思われる。なお、一部の法科大学院から、授業内容を超えた部分があるとの指摘が出ているが、おそらく、これも上記と同じ文脈で理解することができよう。
量については、適当であるとの回答がある一方、過大であるとか年々回答量が多く時間内に仕上げるのは難しいのではないか、といった指摘もあった。ただ、これらの回答はいずれもよい評価をした法科大学院から指摘であり、不適切という評価にはつながっていない。
アンケート結果を見る限りでは、全体としてはよい問題であったと評価できそうであるが、出題趣旨の読み取りやすさや答えるべき論点の量に関しては、改善の余地が多少あるようである。
以上
司法試験等検討委員会委員(50音順、本報告書作成に関わった委員のみ)
青木 孝之(一橋大学) 小幡 純子(上智大学) 桑原 勇進(上智大学)
酒井 啓亘(京都大学) 高橋 直哉(中央大学、主任) 幡野 弘樹(立教大学)
早川 徹 (関西大学) 早川 吉尚(立教大学) 松本 和彦(大阪大学)
三上 威彦(慶応義塾大学)森戸 英幸(慶應義塾大学)
※割合計算の結果、各合計が100%とならないことがあります。