平成28年度司法試験に関するアンケート調査結果報告書
平成29年11月27日
法科大学院協会司法試験等検討委員会
1.まえおき
法科大学院協会司法試験等検討委員会は、平成29年5月に行われた第12回司法試験について、すべての法科大学院を対象としてアンケート調査を行い、全56校中の56校から回答を得た(回答率100%)。多忙の中、ご協力いただいた会員校の責任者・担当者の方々に厚く御礼申し上げたい。 調査は、これまでと同様、法科大学院教員の立場から見て、各科目の試験内容を適切と評価するかどうかを尋ね、その理由の記載を求めるとともに、末尾に試験全体につき意見を記載してもらう形式で実施した。更に、今回は、出題趣旨・最低ライン点の設定について、短答式試験の科目変更について、司法試験考査委員の体制変更についても意見を募った。 この報告書は、回答集計と付記された理由・意見を取りまとめたものを各委員に送って関係分野についての評価を依頼し、その結果を報告書案にまとめて全委員に回覧した上で作成したものである。
回答校の割合は、短答式試験及び論文式試験必修科目については、100%~91.1%、論文式試験選択科目については、平均54.9%(昨年度は56.2%)に達し、高水準となっている。法科大学院制度に対して一層厳しい批判が向けられている現状において、各法科大学院が司法試験の出題傾向に強い関心を持ち、法科大学院を中核とする法曹養成制度における司法試験のあるべき姿について、批判的な検証が必要であるという強い意思を有していることを示していると評価できよう。
回答内容全体を概観すると、短答式試験については「適切」「どちらかといえば適切」とする回答が併せて91.3%、論文式試験については、必修科目84.8%、選択科目78.7%である。一昨年・昨年の数値は、短答式試験が91.0%・90.1%、論文式必修科目が86.2%・77.9%、論文式試験選択科目が79.9%・84.4%であるから、試験問題に対する積極的評価は、ここ3年間、高い水準で安定していると一応はいえるであろう。 分野ごとに試験問題の評価を見てみると、短答式においては、分野間に評価の開きはほとんどなく、いずれの分野も積極的評価が高い。論文式必修科目においては、行政法(86.5%:昨年度73.4%)、民事訴訟法(94.5%:昨年度71.2%)、刑事訴訟法(80.8%:昨年度66.5%)の評価が昨年度よりもかなり上向いている。これらの科目に共通する肯定意見としては、基本事項を問う出題であること、法科大学院での教育内容に沿うものであることが挙げられているほか、民事訴訟法、刑事訴訟法については問題の分量が適度であること、行政法については適切な誘導があることといった点が評価されている。また、他の科目でも、問題の分量や誘導などの出題形式に関して昨年度よりもやや好意的な評価が見られるようであり、出題者側が工夫したであろうと思われる部分については、相応のメッセージが伝わっているように思われる。しかし、その一方で、依然として分量が多すぎるという批判は少なくなく、特に目立つのは刑法と行政法である。このうち、刑法は、全体として評価はそれほど悪くはないものの、積極的な評価をした回答の中でも分量が多すぎるという意見が多数述べられているというところで、やや他の科目とは異なる傾向を見せている。論文式選択科目においては、「適切」「どちらかといえば適切」とする回答の合計の割合を見てみると、選択科目全体では78.7%となっており、概ね高評価といえるであろう。ただ、知的財産法(68.2:昨年度89.4%)と経済法(69.7%:昨年度80.5%)は、やや低く、昨年度と比較して下げ幅も大きい(もっとも、回答の母数が大きくないことから数値の振れ幅が大きくなることは考慮しなければならないであろう)。これらの科目に関する批判的な意見としては、分量が多い、難易度が高いという点が挙げられている。
出題趣旨・最低ライン点の設定については、昨年度と同様に多様な意見が開陳されている。全体としては、出題趣旨は学習・教育に役立つという観点からの肯定的な意見が比較的多いように見受けられる。また、作成者側が意識したことかどうかは分からないが、特に今回の出題趣旨は例年に比べて丁寧にまとめられているという意見が多かった。 採点基準や配点の開示を提案する意見が複数見られる。これらの開示にどのような障害があるのか分からないが、可能であるならば試験的にでも実施してみる価値はあるのではなかろうか。なお、本年は例年よりも出題趣旨の公表が早かったが、それでもなお、出題趣旨はもっと早い段階で公表すべきであるとの意見が一定数あることは注目される(採点後に出題趣旨を変更したのではないかと疑われないか、という危惧も表明されている)。司法試験委員会決定(平成17年11月8日)により、「出題の趣旨の公表については、合格発表後、速やかに法務省ホームページ等に掲載する」とされており、現状ではやむを得ないが、この公表時期に合理性があるのかは引き続き検討の余地があろう。 最低ライン点の設定については、選択科目に関して、やや懐疑的な意見が散見される。特に科目間で不公平が生ずることは回避すべきだという意見は重要であろう。
短答式試験の科目変更については、「受験生の負担軽減」を理由として好意的に評価する意見が相当数ある一方で、短答式試験が実施されなくなった科目について、学習の偏りを危惧する意見も多く見られる。特に、訴訟法ついては、将来のことも見据え、基本的な知識を満遍なく学習することの重要性を意識させる上でも、短答式試験を実施すべきではないか、とう意見は根強い。また、短答式試験が実施されなくなった科目について基礎的な学力の低下を懸念する声は、従来よりやや強まっているかのようにも感じられる。更にこの点に関連して、予備試験が7科目の短答式試験を実施していることとの関係で、法科大学院生の相対的な学力低下を危ぶむ意見も見られる。
本年の司法試験では、以前よりも人数を絞り、かつ、遵守事項を定めるなどした上で、問題作成への法科大学院教員の関与が認められることとなったが、この点についての評価は二分している。肯定的な意見は、法科大学院教育を反映した問題作成が可能になることを強調するのに対し、否定的な意見は、試験の公正さや公平性といった点を重視するものだといえよう。なお、考査委員(特に研究者委員)の選任については、特定の大学に偏っているとの指摘が複数あるほか、考査委員としての適格性に疑問を投げかける意見も見られる。
試験全体についても様々な意見が寄せられたが、特に予備試験のあり方に疑問を呈する意見が目立つ。予備試験合格者の司法試験合格率が高いという現実は、法科大学院の存在意義について再検討を迫るものであるが、その一方で、現行の司法試験が法曹に求められる能力を適切に判別できているのかという点についての検証も必要である。法科大学院を取り巻く情況には厳しいものがあるが、今回のアンケートにおける意見にも現れているように、よりよい法曹を育てていくために法科大学院の教育はどのようにあるべきなのか、ということについて、真剣に熱意をもって取り組んでいる者が多数いることは確かである。今後の司法試験制度のあり方、また、法科大学院のあり方を考えるための一歩として、寄せられた様々な意見に目を通してもらいたいと思うところである。
法科大学院制度を中核とする法曹養成制度のあり方の再検討が進められている中で、政府の関連会議等において、本アンケート調査結果及び寄せられた意見等に十分な考慮を払われるよう要望したい。
※ 以下の記述中に、アンケート回答校数として小数点のある場合は、1回答校に複数の種別の回答があったことの反映であることを注記しておく(なお、本アンケートへのご協力をお願いするに当たっては、「複数の選択肢を選ぶことはなさらないでください」とお願いしております)。
※ 以下の記述中、無回答の割合を示すパーセンテージ表記は回答・無回答を含む総数を母数としたものであり、その他のパーセンテージ表記は当該分野に係る無回答を除く数値を母数としたものである。
2.短答式試験について
(1)憲法分野
短答式試験の憲法分野では53校から回答が寄せられた(昨年度は62校)。そのうち、「適切」と回答したものが22校(41.5%)、「どちらかといえば適切」が26校(49.1%)、「どちらともいえない」が3校(5.7%)、「どちらかといえば適切でない」が2校(3.8%)、「適切でない」としたものはゼロという結果であった。昨年度は「適切」が45.2%、「どちらかといえば適切」が40.3%であり、「適切」との回答だけを見ると若干下がったが、「適切」と「どちらかといえば適切」の両者を併せると、昨年度が85.5%なのに対して、今年度は90.6%だから、むしろ評価は上がったと理解する方が適切であろう。消極的な評価がほとんどないことを見ても、法科大学院の大半は今年度の問題を妥当と評価したといえる。
「適切」であるとした回答に付記された意見を見ると、「基本的な知識の正確な理解が問われている」「例年どおり判例の知識を問う問題が多いが、今年は詳細すぎる知識を問う出題はほとんどなかったと思う」「全体的にバランスが取れていた」「判例や理論の基本を確認させる問題で文量も適切である」「教育範囲内からの出題であり、良問が多いと思われる」等と、高評価であった。ただし、「適切」との回答の中にも、批判的見解を留保するものも見られた。たとえば、「重要判例についての基本的知識を問う設問が多く試験問題の傾向としては法科大学院教育ともリンクしており、適切であると考える。ただ、第12問のアの選択肢など、解答について議論の余地のある正誤問題がまだ残っているように思われる。「政府見解によれば」などの前提が置ける問題にすべきではないか」「統治の問題が若干難易度が高いと思われたが、全体として基本的な知識を問う形に仕上がっていると思われる」「第2問のように1つの判例の趣旨を複数の肢に分けて問うことが増えたのは評価できる。いくつか「え?」と思わせる肢もあるが,「短答式とはそういうものだ」と割り切ればよい」「やや細かすぎるかなと思わないでもない問題や肢も散見されるが,基礎的理解を問う試験としては一応許容限度内であろうと思う」等がそれである。
「どちらかといえば適切」であるとした回答に付記された意見では、「法科大学院の教育水準からみれば、質問形式から消去法がきかず、判例の細部にわたり各選択肢の正誤を正確に答えさせることは難問であろう」「おおむね重要判例と基本事項の知識を問う問題であるが、一部やや細かな判例の知識を問う問題がある(第8問アなど)」「おおむね判例や基本的な学説があれば解ける問題であるが、多少細かい判例も含まれる。また天皇に関する12問はやや難しいのではないか」「法科大学院教育との整合性がそれなりにはかられている」「人権・統治の分野から満遍なく出題されている。天皇や憲法改正の分野は受験生の学習が不十分かもしれないが、問題は特別な知識を必須とするものではなく、基礎知識の応用で十分対応できるものと評価する」「よく練られた設問だと思いますが、やや細かいところを問うているという印象があります」「もっと基本的な事を問うという姿勢を徹底したほうが良い」「難易度の点でも正確さの点でも、大きな問題はない。ただ、徐々に、判例の知識重視が強まり、あまり有名でない判例や少数意見にまで踏み込む傾向が生じているのは是正が必要である。また、短答式・憲法については、特に統治機構部分を中心に、論理整合性を問うような出題があってよいと思える。論文で問われることの少ない分野も含めた広い分野について正確な判例・学説の知識を問うている。短答式試験と論文式試験を総合して受験生の能力を計ることができるよう、両者の切り分けについて工夫がなされていると感じた」「憲法は判例の詳細な理解が問われたり、他科目よりも対策の負担が大きい」「難しくなってはいるが法科大学院修了生に求められるものとして納得の出来るものである。但し、選択肢が全部×とか誤り(=2)とする問がいくつかあるのは、幾分トリッキーのようにも思われる」「人権・統治分野ともに、重要な学説や判例からの出題が多く、良問が多いように思われる。ただ、問題によっては、判旨をだいぶ細かく聞いている印象もある。例えば、人権分野では、第2問は重要な判例ではあるが、比較的新しくもあるので、受験生がここまで判旨を細かく見ているか気になるところである(百選にはなく重判に掲載されているだけということも気になる理由の一つである)。第7問イ・ウ、第11問も少し細かい印象を受ける。統治は全般的に良問であるように思われるが、15問ウは趣旨に疑問を感じる受験生がいたのではないかと考える」との見解が示された。いずれも批判的な論調を含むが、「適切」との回答にあった批判的見解と同じく、大半は部分的な批判であると思われる。
「どちらともいえない」との回答に付記された意見では、「分野に偏りなく出題されている点は良い。ただし、短文の解釈によって正否が分かれるような紛らわしい問題が依然として残っている。最高裁の判例に照らして正しいかどうかを問う問題は、客観的なように見えて、出題者がそれを肯定的に評価しているか、それとも否定的に評価しているかによって、どこの部分を問うかなど出題のあり方が異なってくる。古い判例を扱う場合、そのあたりの工夫がさらに必要なように思われる」「問題に正確でないものがある」との指摘が見られた。
「どちらかといえば適切でない」との回答に付記された意見では、「第2問の平成 27 年末の判決に関する出題は時期尚早と考えるから」「量的に多すぎ、質的に記憶偏重が著しい[とくに判例]」との指摘がされている。
以上のとおり、今年度の短答式試験の憲法分野における評価は、全体として、出題範囲・難易度・分量いずれに関しても高いといってよいが、部分的には批判的見解も見られるという状況にある。
(2)民法分野
短答式の民法分野について回答があったのは51校であり、5校が無回答であった。適切とするのが22校(43.1%。昨年度は44.6%)、どちらかといえば適切とするのが25校(49.0%。昨年度は50.8%)、どちらともいえないとするのが4校(7.8%。昨年度は3.1%)、どちらかといえば適切でないとするのが0校(0%。昨年度も0%)、適切でないとするものは0校(0%。昨年度は1.5%)であった。適切・どちらかといえば適切と答えた割合は、昨年度同様9割以上を占めている。
自由記述欄の肯定的理由としては、昨年度と同様、基本的な知識として必要な内容を的確に問うものである、全体として分野のバランスが取れている,という指摘にほぼ集約される。これに対し、問題点を指摘する意見としては、一部に細かな知識を問う問題があったという意見が複数あった。このような指摘もあったが,全体としては肯定的な意見が多かった。
(3)刑法分野
刑法分野・短答式について回答があったのは56校(昨年度64校)であった。
回答としては、「適切」とするのが26校(46.4%。昨年度は64校中39校)、「どちらかといえば適切」が25校(44.6%。昨年度は18校)であり、「どちらともいえない」とするのが4校(7.1%。昨年度は3校)、「どちらかといえば適切でない」とするのが1校(1.8%、昨年度は3校)、「適切でない」とするのは0校(昨年度1校)であった。「適切」と「どちらかといえば適切」を併せて積極的評価を示すものが51校(91.1%)となった。昨年の64校中57校(89.1%)を上回っており、「適切」とする回答の割合は昨年を下 回ってはいるものの、これまで同様に、肯定的な評価が続いているといえよう。
回答に付された理由をみると、「刑法総論・各論の基本的な理解を問うもので,適切である」「基本的な知識および推論能力をバランスよく確認する内容となっている」といった出題分野のバランスや難易度を評価する肯定的な意見が多く見られた。
他方、否定的な意見としては、「質的に記憶偏重が著しい[とくに判例]」といった判例偏重を指摘するものが本年も見られた。基本的な判例の理解を問うことについては、肯定的な意見も多いところであり、受け取り方に違いがあることは興味深い。なお、細かい知識を問う点について疑問を呈する意見がある一方で、「やや細かい知識を問う問題についても、設問方式や選択肢を工夫して、受験生が正解に達しやすいような配慮がなされている」という意見も見られた。
その他、昨年は、「1問だけでも、刑罰制度など、刑事政策に絡む問題を入れてほしい」という意見があったが、今年は刑罰に関する設問があった。この点について、本年は「刑罰(没収等)についても今年は出題されているのは適当である」との意見が見られる。試験問題を作成する際に、本アンケートがどの程度考慮されているかは定かではないが、本アンケートが試験問題作成に法科大学院側の意見を反映させるひとつのパイプになっている可能性もあろう。
出題の仕方に関しては、「選択肢にある『批判ができる』との文言があいまいである」「肢の文章の読み間違いを誘うような読みにくさがあること、解答数が未だ多いことは検討の余地がある」といった意見が注目される。
なお、個別の設問に関しては、「第7問は出題価値に、第9問は難易度の高さに疑問がある」「第7問では、業務上堕胎罪につき、『被害者の同意があると軽いほうの罪が成立する場合』に属するという選択肢が正解とされた。業務上堕胎罪には業務上不同意堕胎罪という類型はないので、解答に迷いが生じる」といった意見が寄せられている。
3.論文式試験について
(1)公法系
(a)憲法分野
論文式試験の憲法分野では52校から回答が寄せられた(昨年度は62校)。そのうち、「適切」と回答したものが19校(36.5%)、「どちらかといえば適切」が26校(50.0%)、「どちらともいえない」が4校(7.7%)、「どちらかといえば適切でない」が3校(5.8%)、「適切でない」としたものはゼロという結果であった。昨年度は、「適切」と回答したものが29.0%、「どちらかといえば適切」と回答したものが51.6%、両者併せて80.6%であったが、今年度は両者併せて86.5%であるから、評価は上がったといえよう。ちなみに、一昨年度は両者併せて71.4%であったので、2年連続で評価は上がったといえる。
「適切」であるとした回答に付記された意見を見ると、「基本判例を丁寧に理解する者が高得点を狙えるもので、学習成果が反映されやすいと考える」「憲法の基本的な内容を理解していればきちんと対応できる問題となっており、いわゆる「誘導」もきちんとされており、良問だと思う」「外国人労働者の受け入れに関する問題で先進国共通の問題である。外国人労働者を安く使って不要になったら追い出すような非人道的な法律ができたらどうかを問うている。日本でも排外的で偏狭なナショナリズムが強まるなか、人権の普遍性が理解できているかどうかを問う良問である」「具体的事例に即した問題解決能力を求めている点、判例・学説を踏まえ、条文に関する理解を確認している点、それらを踏まえた憲法訴訟の道筋を考察させている点、これらの点から論文式試験として適切であったと考える」「問題となる憲法上の権利について、やや誘導的であったが、考えさせる良問であった」「例年通り今日的憲法問題を取り上げ、今後訴訟に発展する可能性の高いそれを受験生に問い、解答させる出題形式となっている」「外国人の人権と自己決定権とをあわせて考えさせる問題で、良問であったと思われる」「論点を絞る示唆がなされているとともに柔軟な思考を求める出題となっている」「外国人の権利保障について、権利性質説を使ったからといって単純に解決できないような性質の事例であり、受験生が判例を手がかりにしながらも、自分の頭でしっかり考えることを要求する問題になっている」「BからDの間の消息を受験生に分からせるために、出題趣旨ではここまであれば「及第点」だという、Cを抑えておけるヒントがあればよいかと思います。今年度の出題趣旨は、非常にわかりやすく、おそらく来年は十分に対策を練った受験生が多いものと思われます」「マクリーン判決という基本的かつ重要な判例の理解を問う良問であると考える。マクリーン事件をしっかりと理解している受験生にとっては、その応用が問われ、司法試験にふさわしい法的論理力が問われたと思われる。令状主義がもう一つの論点として加わっているのがユニークであり、受験生によっては弱いところを突かれた人もいるかもしれないが、人身の自由分野と人権分野の接合という点で、重要な論点を問うていると考え、その点も含めて、適切であるように考える」「実体的な権利だけでなく手続の問題を考える問題を出題したのは、手続の問題にも目を向けさせる効果があり、良問であると考えられる」等、高く評価されていた。
「どちらかといえば適切」との回答に付記された意見によれば、「特段不適切だと思われる点がないので」「時事性があり、しかもその場で考える能力を見るのに適した問題であったと思う。しかし、妊娠の自由については、多くの学生が十分学習していることは期待できず、人権論について論述する能力を測る出題としては疑問もある」「重要判例を手掛かりに解答できる良問であるが、かなり推論が必要であり、今の受験生ではやや難しいかもしれない」「検討すべき事項を問題文が明示的に誘導しているため、事例の初見性と相俟ってそれらに対する解答者の理解度が測り易い」「単に、判旨を暗記し、あてはめる能力だけでなく、事案に着目した判例の射程は議論させる内容になっており、法科大学院教育との連続性を感じさせる設問になっていたと思われる。特に、判例は判旨だけでなく、事案もしっかり把握すべきであるとのメッセージを学生に伝えるうえで教育効果としても重要な意義を有している出題であったと考える。ただ、出題の趣旨にあるようなマクリーン事件の射程の限定の仕方は実務感覚では筋が悪いと思われ、それが適切であるかは疑問が残る。また、このような出題形式であれば、マクリーン事件判決をそのまま引用しても十分に能力を問える出題であったのではないかと考える」「問題文中に論じるべき点が指摘されており、受験生の解答時間が論点に絞って検討できるようになっている。近年、このような傾向が増えており、これは、採点する側からも公平に判断しやすいという利点がある。論点を発見するという力は測れないが、試験という制限的状況下では、一つの方策といえよう。また、問題内容としては、外国人の人権に関しては、マクリーン判決が今尚、判例として機能している状況であるが、国際化の進んだ現代では、再考の必要性がある。その問題点に気づくような配慮が望まれる」「行政手続への適用または準用の可否につき、川崎民商事件という最判がある憲法35条問題に対し、それがない憲法33条に関する出題であったことについては、出題の適否につき議論もあり得るところかと思われる」「外国人の人権を中心に判例理論とその限界を問う、法曹養成にふさわしい問題と思われる。ただ、収容に関する論点はやや難しいのではないか」「法科大学院教育との整合性がそれなりにはかられている」「教育範囲内からの出題であり、よく練られた良問であるが、受験生には少し難しかったかもしれない」「昨年と比べると素直な問題という印象を受けるが,①これまでメインな論点として出題されておらず,判例も明示的に認めてはいない「出産に関する自己決定権」の線で論じていいものかどうかについて,受験生の間に戸惑いはなかったか,②法令違憲の主張をメインにすえていることは,問題文からも明らかではあるが,国家賠償請求訴訟ということで,立法行為等の違法の問題には言及しなくてよい旨の注意書きがあった方が紛れなかったのではないか,といった点が若干気になった」「設問1の「論じなくてもよい」は、どちらか分かりにくいと感じた」「興味深い設問ではあるが受験生にとってはやや難しい論点だと思う」等、全体としては評価するとの論調であるが、対象選択や難易度の面で、批判的な姿勢が見られる。
「どちらともいえない」との回答に付記された意見では、「出題者のご苦労はわかりますが、「ある論点について書かせるための問題」という印象が拭えません。問題の事案が非現実的過ぎると思います。実際にあのような法律ができたら、国際的にかなり激しい批判を浴びるでしょう。過去問と論点が重なったとしても、「最低限のことができない人」をあぶり出すことは可能なのではないでしょうか。ただし、今の司法試験も、「落とすための」試験なのだと言うのであれば、あのような出題も理解できます。正直、ここ2年の問題を見て、法科大学院の教育現場でやるべきなのは、やはり第一に受験対策なのだ、という思いを強くしております」「外国人の人権の保障の程度は、在留制度に依存するのか、という学者の間では「安念教授のパラドクス」と呼ばれる問題を事例問題にした労作であると評価するが、法律の内容が少々極端で、事案・設問の内容もやや「誘導」が強すぎる印象がある。ただし、2時間で受験生に一定の答案を完成させるという観点からは,致し方ないのかもしれない」との指摘が見られる。
また、「どちらかといえば適切でない」との回答に付記された意見では、「昨年度の問題も 13 条後段に関するものであるし、実務的要素が強く、ローの授業で重視している事項から幾分ずれていると考えるから」「司法試験の憲法の出題は、やはり、精神的自由や参政権、「生まれ」に関する平等権の問題を基本に、時々それ以外のテーマも出題する程度が妥当であると思うところ、2年連続でメインテーマが13条という現状は、その違憲の疑いの濃い設例も含め、法曹に相応しい憲法解釈力等を判定する設問として、適切ではないように思われる。また、事実関係を丹念に追うことよりも、抽象的な憲法理論に論述の多くを割くことになる様子であり、程度問題ではあるが、若干の是正を求めたい。また、2年前の出題では、配点が明示されたが、その後、明示されなくなっている。学生が何をどの程度書くべきか、どう議論を組み立てるべきかの目安になるものであり、復活すべきである。ただ、法律家として現実に対処する可能性が生じるような法令・事案を素材にして、問題そのものとしては、判例・学説等を踏まえつつ説得的な論証を求める問題である。紋切型・暗記型の勉強法で解ける問題ではなく、判例の射程や学説への理解を前提としてそれらの知識を事案解決に活かすことが求められる問題であり、法律家としての資質・能力を評価する試験として適切である」「資料が不十分である」との指摘が見られた。
以上のとおり、今年度の短答式試験の憲法分野における評価は、全体として、高いといってよいのだが、マクリーン事件判決を先例として想起させようとした点については、高く評価する見解がある一方で、事案の適切性に対する評価も含め、疑問とする見解が散見される状況にある。
出題趣旨・最低ライン点の設定についての意見(憲法分野)
出題趣旨が丁寧に記されている点を高く評価する意見がいくつか見られるほか、以下のような見解が示された。すなわち、「立法の作為の国賠法上に違法性につき触れる材料は乏しいが、「憲法上の主張」ではないとの理由で触れなくてよいのか、不作為につき国賠法上の違法性まで求められた過去問とのバランスでは、指導現場で悩ましい点がある」「外国人の人権、幸福追求権、適正手続の三つが問われているが、もう少し減らしてもよいのではないかとも思う。また、設問で、14条に触れなくて「も」よいという指示がなされたが、混乱を誘いかねず、工夫が必要なのではないか」「出題趣旨において、「中間審査基準(目的の重要性,手段の実質的関連性)」という用語が用いられたことに違和感を感ずる。過去の採点実感等において、審査基準の選択にこだわる答案を厳しく批判していたこととの整合性、「中間審査基準」が判例上に根拠をもたない点について、受験生に混乱を与えないようにきちんと説明してほしい。また、「国家賠償法上の違法性の判断枠組みやそれを前提にした具体的検討を中心に据えるのは適当ではない」とする点も過去の採点基準との整合性が問われる。この点も、受験生に混乱を生じないように、問題文中に注記するなどしてほしい」「中間審査による立法目的の重要性の説明がピンとこない」「設問ごとの配点が示されなくなったが、あった方が受験生にとっては親切だと思う」「出題趣旨末尾の段落「…本問では国家賠償請求訴訟が提起されているが,憲法上の主張の検討が求められているのであるから,国家賠償法上の違法性の判断枠組みやそ れを前提にした具体的検討を中心に据えるのは適当ではないだろう。」のうち、特に「中心に据えるのは適当ではないだろう。」との記述は、最判によれば、立法行為の国賠法上の【違法】性問題は、結局は【違憲】の瑕疵が甚だしいことに還元されるから〔違憲の瑕疵が甚だしいとはどういうことかにつき、昭和 60 年、平成 17 年、同 27 年の各最大判で表現が異なるにしても…〕、【国賠違法】問題と【違憲】問題は、そう簡単に切り離すことができないこと、さらに平成 22 年現行司法試験論文式公法系第1問採点者実感2(3)オも「立法不作為の国家賠償法上の違法性に関して…検討すること」を求めていた〔注:国賠違法と違憲問題の関係につき、判例は、本年度のような立法上の作為のケースと平成 22 年のような不作為のケースとを区別していない〕ことを踏まえた上で、付随的論点としてはあることを念頭に置いたものと理解する」「やや異色の出題となった年度は、最低ラインを低くし、当該科目の不出来を合否の絶対条件になるべくしないようにしたい」「理論的にきちんとした趣旨を書くべきである」「基本的な出題趣旨等については特にない。公表された「出題の趣旨」中、特労法の目的について、定住を認めないことに関する評価を甲主張の一例としているようだが、甲主張としても、特労法の中心的目的が非熟練労働力の確保であるから、そこを無視することはできないと思う。労働力の確保との関係で、妊娠・出産の禁止が意味を持つのではないか。甲主張としてもそれが踏まえられている必要があると思う」「今年度の出題趣旨を読むと、例年以上に旧司法試験に近い方針で出題し,採点しているように感じた」「出題趣旨の内容は、分かり易く提示されるようになったと思われる。ただし、出題趣旨をもっと早く公表することが望ましい」等である。
(b)行政法分野
回答を寄せた52校のうち、「適切である」と評価したのが18校(34.6%)、「どちらかといえば適切である」が27校(51.9%)、「どちらともいえない」が3校(5.8%)、「どちらかといえば適切でない」は4校(7.7%)、「適切でない」が0校であった。無回答は4校(7.1%)であった。「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると86.5%になり、昨年の73.3%よりさらに高い評価になっている。昨年の出題についても、7割強が「適切」「どちらかといえば適切」と評価していたので、まずまずの評価であったと考えられたが、今年は8割5分を超えており、かなり高い評価を得たものといえよう。
本年度の問題は、 本年度の問題は、 本年度の問題は、 本年度の問題は、 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 道路廃止に素材を求めた出題であっが、「適切る」とす評価の個別 意見では、「 意見では、「 意見では、「 意見では、「 訴訟要件及び本案勝訴要件に関する基本的な理解を確認する良問であり、問題数や資料の分量も適切である」「法科大学院修了生であれば十分対応できた問題」「設問及び問題文の量が比較的多い代わりに『誘導』がやや丁寧過ぎる程になされている」「細かい判例や個別法の特殊な知識を必要とするものでもなく、まさに良問であったと言える」「問題文(会議録、関係法令等を含む)の量が適当であった」「基本的知識が理解できていれば、合格答案は書けるであろうというレベルであった」「行政法の実体法および訴訟法に関する基礎的な理解を,複雑すぎない事例に即して問うものであり,適切である」「これまで出題のなかった非申請型義務付け訴訟が出題された点にも,工夫が見られる」「シンプルな事例、道路法という馴染みのある行政法規をもとに、典型的な論点を問うており、法科大学院での勉強の成果を測るための問題として適切である」「昨年より簡潔にポイントをおさえ、論点のバランスも良い」「設問数は多めだが、設問内容は比較的容易である」などの意見が寄せられており、問題の分量が多いとしても、事例の難易度、設問内容の選択において、適切であるとの意見が多く寄せられた。
「どちらかといえば適切」 どちらかといえば適切」 どちらかといえば適切」 どちらかといえば適切」 どちらかといえば適切」 どちらかといえば適切」 とした個別意見の中には、 とした個別意見の中には、 とした個別意見の中には、 とした個別意見の中には、 とした個別意見の中には、 とした個別意見の中には、 「設問が量的にも質的にも多く、設問に十分に答えようとすると明らかに時間が足りないと思われる」「基本的な問題であるが、量が多すぎる。事務処理能力よりも、考える力をはかれるように、改善が求められる」「例年同様、分量が多いことと出題傾向が偏っているように見える」「基本的な論点であるが、論点が多く、時間内に解答するのが難しかったと思われる」「設問(ないし論ずべき事項)がやや多いのではないか」「やや記述の分量が多い印象を受ける」「設問数を1問減らすべき」「小問の数が4つというのはやや多いように感じられる」など、問題文の量が多く、小問・論点が多いことについての指摘が多くみられた。
「どちらともいえな」 「どちらともいえな」 「どちらともいえな」 「どちらともいえな」 「どちらともいえな」 「どちらともいえな」 との評価個別意見では、「 との評価個別意見では、「 との評価個別意見では、「 との評価個別意見では、「 との評価個別意見では、「 との評価個別意見では、「 との評価個別意見では、「 との評価個別意見では、「 昨年度の試験問題から、多くの論点を『処理させる』問題に変化したように思われ、法曹養成のための試験として疑問がある。短答式試験がなくなったからという理由があるためなのか不明であるが、事実の評価と個別法の適用を丁寧に聞く問題に戻った方が、本試験制度の趣旨からして良いように思われる」との指摘がみられた。
(2)民事系
(a)民法分野
論文式の民法分野について回答があったのは65校であり、2校が無回答であった。適切とするのが16校(24.6%。昨年度は46.0%)、どちらかといえば適切とするのが37校(56.9%。昨年度は36.5%)、どちらともいえないとするのが5校(7.7%。昨年度は9.5%)、どちらかといえば適切でないとするのが4校(6.2%。昨年度は6.3%)、適切でないとするのが3校(4.6%。昨年度は1.6%)であった。本年度は適切・どちらかというと適切とするパーセンテージが昨年度と比べると1%程下がってはいるが依然として80%を超えている。
個別意見および出題趣旨等についての意見の中で肯定的理由としてあげられているものの多くは、基本的な事項の正確な知識を問うものである、法科大学院の授業内容に対応している、現場での思考力・応用力が試される問題である、といった指摘にほぼ集約される。これは、昨年度とほぼ同様である。
他方、今回の出題に対する疑問点・改善すべき点としては、昨年度に引き続き、現場で考える時間を考慮すると問題数が多い(小問合計5題)と指摘するものが少なくなかった。そのため、出題で問われている応用力、思考力を発揮することができないという意見も出されている。また、「事実」の内容につき不自然な部分があるという指摘や、改正で削除される規定(債権譲渡の異議をとどめない承諾)の理解を問うことに対する疑問、「法定債権に基づき」というあまり聞き慣れない用語を設問で用いたことに対する疑問なども存在した。設問2(2)、(3)の問題につき難易度が高いのではないかという指摘もあった。
以上のように、改善に向けての意見も寄せられているが、全般としては肯定的な意見が多数を占めていた。
(b)商法分野
論文式試験の商法分野について回答のあった法科大学院は61校(昨年より4校の減少)で、6校が無回答であった。
回答した法科大学院のうち、「適切である」との回答が27校(44.3%。昨年より2.5校の増加)、「どちらかといえば適切である」との回答が26校(42.6%。昨年より10.5校の減少)であり、肯定的な回答をした法科大学院は、昨年と比較して、数において8校の減少、割合において7ポインの減少であった。
「どちらかといえば適切でない」および「適切でない」とする否定的な回答をした法科大学院は、昨年は0校であったのに対して、それぞれ1校あった。さらに、「どちらともいえない」とする回答は6校(9.8%)で、昨年より2校増加した。
「適切である」、「どちらかといえば適切である」と考える理由としては、例年通り、会社法の基本的な論点および判例についての理解を問う問題であり、法科大学院の修了者の学習到達度をはかる問題として適切であることがあげられている。ただし、ガバナンスに偏った問題であることを懸念する意見があった。
これに対して、「どちらともいえない」とやや消極的な評価をした回答は、安易な論点が数多く羅列されているだけで、考えさせる問題が無いことを、その理由としてあげている。「どちらかといえば適切でない」、「適切でない」とする否定的な回答も同じで、設問3を設けるための事案の設定に無理があるのみならず、論点は安易で要件事実の拾い出しがほとんどであることを疑問点としてあげている。
問題の量については、例年通り、適切であるとする意見がある一方で、検討すべき論点が多いため、論理的思考力よりも事務処理能力ないし答案作成技術の巧拙によって点数に差がつくことを懸念する多くの意見があった。個人的には、今年の出題は、昨年と異なり、手続の「何について」説明することが求められているのかが不明な設問があること(設問2)に加えて、最後の問題(設問3)で、問題文から事実を拾い出すだけの設問がされていることから、前記懸念は一層大きなものであるように感じる。
個々の設問についての評価についても、意見が分かれた。設問2の(2)について、論点ではない制度について説明させる問題であることを評価する意見と、受験生にはどのくらい詳細に記述すればよいのかわかりにくいと疑問を呈する意見とがあった。設問3については、設問1、2と無関係な事実関係を設定した設問であることに疑問を呈する意見が少なからずあった。本来であれば、閉鎖会社に関する第1問(65点配当)と、上場会社の内部統制に関する第2問(35点配当)とに分けて出題すべきところを、現行の司法試験制度の制約からやむなく一つの問題として出題されたのであろうか。
今年から実施している出題趣旨・採点実感に関するアンケート結果については、採点実感が詳細で、学生の指導に役立つとの高評価であった。出題趣旨・採点実感の問題ではないが、設問2(1)で、損害賠償額の算定において、残任期間が長期にわたることの検討を受験生に要求することは酷であるとの意見(試験時間内にどうやってまとめるの?)、争点になっていない「取締役会の目的である事項の特定の要否」等の記述を求めるのは疑問であるとの意見(論点になりそうなところは、とりあえず触れておくのが無難?)、取締役会決議の追認決議に言及していないことは疑問であるとの意見(上記1~4までの事実を前提に、と前置きすればすむ?)、意図的かつ悪質な招集通知漏れにつき、決議を有効とすべき特段の事情の有無の問題としてのみ解説する倫理感覚への違和感を呈する意見、設問3で因果関係が認められる損害の範囲・額についての検討を求めることに疑問を呈する意見(試験時間内に、どうやって答案としてまとめて書けと?)があった。
(c)民事訴訟法分野
無回答8校を除く59校中、「適切」と答えたのは15校(25.43%)、「どちらかといえば適切」と答えたのは27校(45.82%)、「どちらともいえない」との回答は6校(10.2%)、「どちらかといえば適切でない」との回答は8校(13.6%)、「適切でない」と回答した法科大学院は3校(5.1%)である。
「適切」と「どちらかといえば適切」との解答を合わせると、42校(71.2%)であった。昨年度及び一昨年度は、「適切でない」と回答した法科大学院はなかったが、今年度は3校が適切でないと回答している。また、「適切」であると答えたものが、昨年は35校(59.3%)あったのが今年度は、15校(24.5%)と激減している。さらに、今年度は、「適切」と「どちらかといえば適切」との回答を合わせたものが42校(71.2%)であったが、この数字は、ここ数年、常に90%以上を保っていたことを考えれば、かなり減少しているといえよう。ただ、民事訴訟法に関しては、それでも約7割の法科大学院が肯定的な評価をしているのであり、試験問題の内容はいまだに多くの法科大学院に支持されているといえるであろう。
次に自由記載欄からみると、「適切である」と回答したものの中には、「実務的観点を踏まえた理論的検討をするのに相応しい問題」「記憶ではなく理解を問う内容になっている」「実際に問題となることを端的に問う」問題、「複数の論点についての知識、思考を問う」問題、「基本論点について、しっかりと考えさせる問題」といった諸点が、評価されている。これに対し、「不動産の総有権確認というのは、普段あまり検討したことのない問題なので、難しい問題ではあろう」「受験生の思考力・判断力を試すには、問題そのものが長文すぎる。これでは受験生にとって考える時間が不足してしまうのではないか」といった問題点も指摘されていた。
それに対して、「どちらかといえば適切である」と回答したものの中には、「問題自体は基礎知識を前提に、法的思考力を問う良問である」「前年の試験問題と比較しても、量・質ともに適切である」「基本的な知識の理解が問われている」「設定されている事例が例年のように各設問を解答するのに必要な事実関係をその都度示すのではなく、全体を最初に示している点で、解答に必要な事実を取捨選択する能力を問うている点はより実践的であると考える。設問が原告、被告および裁判所の立場から問うている点も幅広い思考を問うていると考える」「出来合いの論証の切り貼りでは対応できず、民事訴訟法の基礎的概念と事案の正確な理解を前提として粘り強く考えることを要求する問題となっている」「概ね重要かつ基本的な論点について記述させる問題で法科大学院の授業との関連性があり適切と思われる」「いずれも定まった正解があるとはいえない問題であり、相応の応用力と対応力を求められる」等の肯定的な意見が見られた一方で、「問題数がやや多く、一部の問題は、難解であった」「すべての問題を十分に考えた上で答案を作成するのは難しい」「問題が例年よりもレベルが高く、設問も多いと思われる。とくに設問3②③について、未修生を考慮するともう少し解答に向けてのヒントがあった方がよかった」「設問の意図や問題文中の誘導にやや分かりにくいものがあった」「高度かつ慎重な検討を要する事項が数多く問われている点、訴訟代理権の確認というややマイナーな論点を前提として論述が求められている点など、受験生に酷と思われる点が散見される」「一部の問題は特定の判例の知識が要求されることに若干の疑問がある」「一部に趣旨が分かりにくい問題があるので、改善すべきである」といった意見も寄せられていた。総じて、解答量が多く、じっくり考える時間がないといった意見が多かった。
「どちらともいえない」と回答した法科大学院は6校あり、昨年から倍増しているが、「問題・設問の内容自体はいずれも適切であるが、与えられた時間内に期待された解答をするには時間・設問数が多すぎる」「判例や学説理論の現状に照らしてみても、受験生が解答するには難易度の高い設問がみられた」「もう少し判例を使って論理展開を尋ねる問題があってもよい」「問題文の内容、課題の分量等からみると、2時間ですべてを解答することは、かなり困難であったのではないかと思われる。設問2の課題1につぃては、出題の意図が読み取りにくい。会話による誘導にもひと工夫が必要だったように思える」「少し難しすぎる」「設問1は出題が予想されていた論点を正面から取り上げており、これがよかったかどうかは疑問がある。ただし、設問1に対する解答と設問2との論理的整合性が問われた点は適切である。設問3は法科大学院教育にはなじまない出題ではなかっただろうか。作問の意図もみえにくい」「設問2・3の出題趣旨が標準レベルの受験生には理解しにくい」といった意見が寄せられた。
「どちらかといえば適切でない」と回答した法科大学院は8校あったが、これは昨年の4倍であり、その理由も積極的に述べられている。すなわち、「設問は3つだが、実質的に解答しなければならない問題が6~7程度と多い。2時間で6~7程度の解答事項に、上記の(採点実感)レベルで解答するには、時間が足りない」「問うている問題が多く、受験者がゆっくりと考える時間がない」「(a)設問1課題1は、判例が、第三者に対する総有権確認訴訟を固有必要的共同訴訟とする根拠と、第三者と非同調者を被告とする総有権確認訴訟を適法とする根拠を整合的に説明することは、学説上も非常に困難な問題であるとされていると法科大学院の授業で教えているにもかかわらず、それについての回答を受験生に短時間で求めている。(b)設問2課題1は、法科大学院における教育課程において習得すべき基本的な知識を前提にその応用力を試す問題とはなっていない。(c)設問3下線部分③は、法科大学院における教育課程において取得すべき知識を前提とすれば、多くの視点から検討し得て(争点効・訴訟告知など)、しかもこれらをまじめに検討しようと思えばそれをどこまで検討すればよいかを見通せないため(たとえば参加的効力の主観的範囲・客観的範囲を詳細に論じる必要が本来ある)、短時間での回答を求める試験にとって適切であるか疑問である。(d)設問が長く、しかも多くの作業を課す設問があったため、時間が足らず、法科大学院において習得した知識を存分に発揮できなかった受験生も多いと思われる」「設問1、2は適切だが、設問3は出題に無理がある」「問題文が非常に長く、また設問の数も多いため、所定時間内で解答することが非常に困難と思われる」「設問によっては、何を聞きたいのか判断に迷うものもある」「29条法人であることの根拠の不明瞭さは、設問1・2を取り組むにあたり、回答不能を引き起こしかねない。……設問3は29条該当性につき肯定して出された判決の後訴への様々な判決効の及び方を問うのは、当事者能力の欠缺を看過した確定判決の効力として把握するにしても検討すべき問題であり、良問であった。が、おそらく29条該当性につき真摯に検討した、法律家としての素養はむしろ備えていた受験生が設問1・2で消耗して、時間を失ったというケースが相当程度あったものと推察される」「基本的な理解力を試すものではない。あまりに特殊な状況における問題であり、実務家としての適性を問うものではない」との回答が寄せられた。
「適切ではない」と回答した法科大学院は3校あった。これらからは、「問題文中に記述されている、最判平成6年5月31日の理解は、一般的な理解とは異なっている。一般的でない理解を受験生に押しつけるような問題は、法科大学院での教育の正解(ママ)を反映できず、望ましくない」「事例が長く、指示も複雑であるなど、落ち着いて取り組む内容になっていない」「難しすぎる」との回答が寄せられた。
(3)刑事系
(a)刑法分野
刑法・論文式には66校からの回答があった(昨年度67校)。
回答内容は、「適切」26.5校(40.2%。昨年度33.5校)、「どちらかといえば適切」29.5校(44.7%。昨年度25.5校)であり、併せて積極的評価を示すものが56校(84.8%。昨年度59校)である。昨年度と比べて微減している(昨年度88.1%)。全体としては積極的な評価が与えられていると言ってよいであろうが、「適切」とする評価は2年連続で減少しており(昨年度50.0%、一昨年度56.0%)、やや含みをもった評価も少なくなかったように思われる。
「どちらともいえない」とする回答は6校(9.1%。昨年度5校)であり、「どちらかといえば適切でない」は3校(4.5%。昨年度3校)、「適切でない」は1校(昨年度0校)であった。
付記意見をみると、好意的・積極的評価の理由としては、「基本的な理解及び常識的な判断力があれば解答が可能な範囲内で、問題発見の能力や事実評価の能力等が深く問われる内容となっている」「基本的な論点について、正確な理解の有無を問う問題であり、法科大学院教育の成果が適切に反映される問題である」「法科大学院における授業内容に即した内容になっている」というように、法科大学院教育の成果を判定するのに適した問題であるとの指摘が多く見られる。 他方、批判的な意見としては、「試験時間との関係で、検討すべき事項が多すぎる」「時間・紙幅の制約がある中で解答するには分量が多すぎる印象を受ける」「罪責を問われる者が4名で、ボリュームが多すぎる」といった論点の多さや時間内での回答の困難さを指摘する意見が目立つ。しかも、今年度については、全体としては「適切」「どちらかといえば適切」という評価をしているにもかかわらず、分量の多さに苦言を呈する意見がかなり見られるのが特徴である。このアンビバレントな評価の背景を読み解くことは容易ではないが、「問題」そのものを見る視点と「試験問題」として評価する視点とが微妙に交錯しているのではないかと思われる。「論述すべき点は基本から応用まで幅広く用意され、じっくりと考え論じる時間が与えられれば、実務家の資質を見るのに適切な良問であると思われる。しかし、相変らず2時間で書くのは極めて困難であると思われる量的出題である」との意見は、このあたりの事情を端的に示しているものといえよう。
また、この分量の多さという点は、受験生の姿勢、ひいては、法科大学院で学ぶ学生の学習態度にも少なからぬ影響を及ぼしているように思われる。採点実感では、「主要な論点について暗記していたいわゆる論証パターンを単にそのまま書いたにすぎないように思われる答案が見受けられた」ということが指摘されているのに対し、「事務処理能力を問うことは大切だが、行き過ぎると、採点実感で批判されているいわゆる論証パターンの安易な使用を誘発しかねない」「答案に書くことができる内容がかなり限られるため、深く理解することよりも論点を処理すればよいという学修態度を招くことが懸念される」「作業量が多く、分量的に、丁寧に考えて書くということはやや困難ではないかと思われる」といった懸念が表明されている。
なお、近時の下級審判例に素材を求めたと思われる論点については、やや批判的な意見が見られる。おそらく出題する側では、そのような下級審判例について特に知らなくとも基本的な事柄をしっかり理解していればきちんと解答への筋道を描けるはずだ(また、それが好ましいことである)と考えているのではないかと推察されるが、時間が限られている試験問題への対応という観点からすると、このような出題は、受験生に対して、近時の下級審判例にも目を通さなければならないというメッセージとして受け止められる可能性があることにも留意する必要があろう。
今年度は出題趣旨・採点実感についても意見を募った。個別の問題については若干の疑問や注文が出されているが、概ね好意的な評価が多いようである。「出題趣旨、採点実感は、出題の意図、求められる解答水準などが明確に示されており、適切といえる」「年を経るごとに詳しくなっており、かつ出題趣旨と採点実感を熟読することで解答すべき事柄、解答すべきでない事柄が分かるようになってきている」「採点実感において、受験生が陥りがちな不適切な記述方法への注意が促されており、参考になると思われる」「いずれも受験生にとって必要な情報が盛り込まれており、適切である」などがそれである。もっとも、出題趣旨・採点実感は、受験生に対して非常に強い影響力をもっているだけに、もう少し内容に配慮・工夫が求められるのではないかといった趣旨の意見があることは注目される。なお、出題趣旨・採点実感が法科大学院の教育にとって役に立つという意見がいくつか見られる。このこと自体は決しておかしなことではないが、法科大学院の教育内容が司法試験の出題内容や出題形式に過度に引きずられることがあってはならないであろう。司法試験が法科大学院の教育内容を反映したものになるべきなのであって、法科大学院の教育内容が司法試験によって規定されるというのは好ましいことではない。
(b)刑事訴訟法分野
刑事訴訟法・論文式については、64校からの回答があった(昨年度は62校)。
出題の内容につき、「適切」と回答したのが14.5校(22.7%。昨年度は33.9%)で、「どちらかといえば適切」とする28校(43.8%。昨年度は53.2%)と併せて、積極的評価を示すものは、合計42.5校(66.4%)であった。その割合は、全体の約3分の2に達しているが、昨年度の62校中54校中(87.1%)、あるいは、一昨年度の65校中63校(96.9%)といった高い数値には及ばない。
他方、「どちらともいえない」は13校(20.3%)で、昨年度の5校(8.1%)から増えている。
また、「どちらかといえば適切でない」は6.5校(10.2%)で、これも昨年度の3校(4.8%)から増えている。「適切でない」については、昨年度及び一昨年度がいずれも0校であったのに対し、2校(3.1%)となっている。
このように、法科大学院の教育現場からの評価は、昨年度までと比べて幾らか低下したように見える。
回答に付記された理由をみると、今年度の出題を積極的に評価する意見は、実務法曹養成を任務とする法科大学院教育のあるべき内容に沿ったものであることを理由とするものが多い。「基本的な事項と実務手続の事項を適切に聞いている」「何を論じるべきかが比較的明らかであり、その内容については、法科大学院における教育を前提に、実務と理論を踏まえた論述を求めるものであった」「刑事訴訟実務基礎等法科大学院での教育内容を踏まえたものになっている」「法科大学院における刑事訴訟法教育の内容とレベルに見合った出題である」などの諸回答である。このような立場からは、今年度の問題は、「基礎知識を問う問題と、制度趣旨から自分なりに考察する問題のバランス」がよく、「過去問の中でも適切な出題」と評価されている。また、「従来短答式で出題された内容も論文式に取り込」み、訴訟法の短答式試験廃止にうまく対応したとの指摘もされている。ただし、このような出題傾向は、見方を変えれば、実務的観点を重視するあまり、解釈論の基本をおろそかにすることにもつながりかねない。「実務的すぎるように思われる。もう少し基本的な問題にしてほしい」という意見は、そのあたりの機微を示すものというべきであろう。
理論と実務のバランス重視、具体的場面に即した手続の動的理解重視の傾向は、公表された「採点実感等」においても明瞭にうたわれている。例えば、「実務教育との有機的連携の下、通常の捜査・公判の過程を俯瞰し、刑事手続の各局面において、各当事者がどのような活動を行い、それがどのように積み重なって手続が進んでいくのか、刑事手続上の基本原則や制度がその過程の中のどのような局面で働くのか等、刑事手続を動態として理解しておくことの重要性を強調しておきたい」との箇所が、その現われである。実際、今年度の問題においては、〔設問1〕が職務質問に端を発した留め置きの適法性、〔設問2〕が検察官への事件送致直後の接見指定の可否、〔設問3〕が公判の証人尋問における共犯者証言の伝聞性、〔設問4〕が公判前整理手続における主張整理と異なるかのような内容の被告人質問等の可否を、それぞれ問うており、捜査の端緒から公判における被告人質問まで、刑事訴訟手続の一貫した理解が問われるものであった。「平均的かつ最新の問題が散りばめられている」「刑事訴訟法の主要問題をほぼ網羅している」との諸回答は、この点を肯定的に捉えた結果であると考えられる。
ところで、今年度の出題でとりわけ目を引くのは、〔設問4〕において、公判前整理手続で明示されたアリバイ主張に関し、その内容を更に具体化する被告人質問等を刑事訴訟法295条1項により制限することの可否について問う、最高裁判例(最二小決平成27年5月25日刑集69巻4号636頁)に酷似した事例が出題されたことである。公表された「出題趣旨」によれば、この設問は、「公判前整理手続の意義及び趣旨の理解並びにそれを具体的場面において適用し問題解決を導く思考力を試すもの」であり、上記最高裁「決定を踏まえた論述まで求めるものではない」とされているが、最新判例の知識の有無によって、大きな差がつく問題であるとの印象も否定できない。案の定、この設問に関する評価は大きく分かれた。すなわち、肯定的な意見としては、「学生には比較的なじみのないと思われる論点が出題されたが、適宜条文も示されていたので、単なる知識に止まらない思考能力を検証することができたのではないか」「受験生にとっては予想外の問題であったと思われるが、手続が有機的に連関していることを意識して、制度趣旨や刑訴法の基本原則について、単に丸暗記でなく、その意味するところを本当に理解しているか……を測ることのできる良問」であるなどと評価するものが存在した(「出題趣旨」や「採点実感等」の意図するところであろう)。しかし、その一方で、「前年度に出されたばかりの最新の最高裁判例に関する知識が前提となるような問題を出題するのは妥当ではない」「おそらくほとんどの法科大学院では授業で扱っておらず、かつ、それを知っていないと解答が困難な論点を扱ったものであり、出題自体が不適当」であるという厳しい意見も散見された。ニュアンス・程度の差はあるが、数としては否定的な評価が多かった。
この〔設問4〕については、法科大学院の教育現場に一定のインパクトを与えたものと思われ、この他にも様々な回答が寄せられた。「最新の判例事案であることが明らかな事例が出題されているが、論述式において」重視されるべきは、「要件と事実のあてはめ、論理的思考能力」であって、判例を知っているか否かで差がつくような出題傾向は、「受験生をして、判例偏重の誤解を与えるとともに、判例への批判的分析の視点を失いかねず、これが実務家の意識へとつながってしまうことには危惧を抱く」旨の指摘や、「『出題の趣旨』や『採点実感等』で書かれているところを前提としても、そうした形・レベルでの応用力を『司法試験』の段階で測るべきかどうかについては疑問も」残り、「受験生がLSで『実務基礎科目』にも真摯に取り組んでいたのかどうかを論述試験の中で確認したいのであれば、どのLSの実務基礎科目でも確実に取り扱っていると思われる基礎中の基礎(勾留請求の是非、事実認定(犯人性・殺意の認定)など)を問う形でそれをするのが適切ではなかろうか」との具体的提案が、その例である。また、「その場で六法のみを頼りに考えさせる趣旨では良問」としながらも、「実務でも扱いが悩ましく、対応が定着していない分野であって、出題するには時期尚早」である旨の指摘もあった。
あと、例年議論になる問題の分量であるが、「出題内容は良いが、解答量がやや多すぎる」、「内容は適切だが、分量が過多だと思われる」、「問題としては良いが、4問あり全体の量がやや多すぎる感がある」、「個別の質問は、概ね適切」であるが「事例が長いこともあって、全体の事務処理量がやや多すぎる」といった回答が多く見られた。すなわち、設問自体は良問であるが、2時間という試験時間を前提にすると、解答すべき内容が多すぎると受け取る向きが多数派だったということができる。この点を敷衍して、司法試験が「要領よく答案をまとめるスキルを問う試験にならないか懸念される」「多論点型で非常に論じることが多い……問題形式では、予備校などで教える論証パターンを記憶してとにかく無難に一つずつこなしていくという受験生が多くなるのではないか」「この分量にソツなく対応できるということと、法律家にとって必要な能力を正しく測ることの間にどの程度の相関関係があるか疑問である」などと指摘するものが散見された。また、前記〔設問4〕にも関連して、「設問数が多く、設問4が必要であったのか疑問である」「設問3まででよい。設問4は、出題意図は分かるが、限られた時間でその趣旨を理解して答えるのには無理がある」と端的に指摘する意見も存在した。司法試験が実務法曹としての登用試験である以上、ある程度の事務処理能力を試すことは不可欠であるが、適切なラインがどのようにして引けるのか、研究者及び実務家を交えて、引き続き議論することが必要に思われる。
(4)知的財産法
知的財産法について回答があったのは38校であり、29校からは回答がなかった。適切とするのが7.5校(19.7%。昨年度は20.9%)、どちらかといえば適切とするのが26.5校(69.7%。昨年度は36.0%)、どちらともいえないとするのが3校(7.9%。昨年度は26.7%)、どちらかといえば適切でないとするのが0校(0%。昨年度は14.0%)、適切でないとするものは1校(2.6%。昨年度は2.3%)であった。回答をした大学院のうち約9割弱が適切・どちらかといえば適切を選択しており、肯定的評価をしている回答が多い。
個別意見および出題趣旨等についての意見の中で肯定的理由として挙げられているものの多くは、基本的な知識を問うものである、適切に応用力を求めている、難易度が適切であるという意見におおむね集約される。
これに対して、疑問点・改善すべき点としては、論ずるべき内容が多いという指摘が複数あった。また、具体的なあてはめが要求されたことについては、それ自体について肯定的な意見がある一方で、設問2のブックカバーについて、設問文から図柄をイメージすることの難しさを指摘する意見があった。
以上のように、改善に向けての意見も寄せられているが、全般としては肯定的な意見が多数を占めていた。
(5)労働法
アンケート結果は、回答校42校を母数とすると、23校(54.8%)が「適切」、14校(33.3%)が「どちらかといえば適切」としており、両者を合わせると37校(88.1%)が肯定的に評価している。「適切でない」との回答はなく、「どちらかといえば不適切」が2校(4.8%)で、「どちらともいえない」としたのは3校(7.1%)であった。「適切」及び「どちらかといえば適切」という肯定的評価の比率は、2007年が75.6%、2008年が76.8%、2009年が90.6%、2010年が73.8%、2011年及び2012年がともに76.5%、2013年が85.1%、2014年が84.8%、2015年が81.0%であり、本年は、2009年に次いでこれまで2番目に肯定的評価が多い年となった。また、「適切」との回答の比率は、選択科目全体の中で最も高くなっており、「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせた回答の比率は、租税法、知的財産法に次ぐ高さとなっている。
問題の内容についてみると、第1問は、長時間の時間外労働を行っていた労働者が「うつ的症状」に陥った事案において、同人に対する解雇の効力、並びに、休職命令を発令した場合の休職期間満了時点での復職の可否及び退職扱いの当否等の問題を問うたものと思われ、第2問は、新規採用時の基本給額が義務的団交事項になるか、団交拒否に抗議するためのストライキ実施の通知に対する社長声明文の掲示が支配介入に当たるか、ストライキにより就労できなくなった組合員による賃金・休業手当請求の可否等につき問うたものと思われる。
これら両問を通じたコメントとして、肯定的に評価した回答において挙げられている理由としては、基本的であるとともに重要かつ現代的な論点が取り上げられていること、最近の重要な判例の理解をベースにした出題となっていること、法的ルールに照らして的確に事実の当てはめを行うことが求められていることなどが目立っている。
他方で、第1問に関しては、労基法19条の適用に当たり問題となる業務起因性につき判断基準の詳細まで記述を求めるのは難しいのではないか、労基法19条と労契法16条の双方の適用につき解答を求めることは必須といえるか、うつ症状が業務に起因する場合には休職期間満了についても労基法19条の類推適用等が問題になりうるのではないかなどの指摘がみられた。また、第2問については、特定の下級審裁判例の知識の有無で評価が左右されるのではないか(採点のあり方に関わる点ともいえるが)、やや平板にすぎないかといった指摘がみられた。
以上を総合すれば、本年の問題の内容と難易度は、全体としては、例年と同様に適切なものとして良好な評価を行うことができるものと考えられる。
(6)租税法
回答を寄せた27校のうち、13校(48.1%)が「適切」、12校(44.4%)が「どちらかといえば適切」、2校(7.4%)が「どちらともいえない」と回答し、「どちらかといえば適切でない」、「適切でない」と回答したものはゼロという結果であった。無回答が40校、59.7%と過半数に及んでおり、昨年同様、他の選択科目と比べて率が高いのが気にかかる。本年は、「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると92.6%となり、昨年の80.6%、一昨年の73.67%に比べてさらに高い評価となった。
「適切」であるとした回答に付記された意見を見ると、「出題範囲は租税法に関する基礎的な部分でありながら、各人の租税法に関する理解の深度を問うこともできる良問であった」「法科大学院における租税法教育の基礎的な事項の理解を前提としつつ、基本的なものから比較的最近のものまで、重要な裁判例に目配りする必要性を合わせて実感させる内容となっている」「租税法の重要論点に対する受験生の理解力を問う問題であり、問題の難易度、分量ともに出題として適切である」「法科大学院の授業でカバーする基本的な学習内容の枠内において、受験者の思考力や論述力を試すための工夫をこらしている」「法科大学院で学ぶべき基本的な論点を押さえながら、他説への言及や制度全体としての整合性など高度な内容も問いかけるものとなっており、バランスがよい」「現実に生じうる事案から課税上の判断を求める点で当該試験の趣旨に照らし適切である」「基本論点について深い論述を求めている」等、きわめて高い評価がされていることがわかる。
「どちらかといえば適切」との回答に付記された意見の中でも、「前年の試験問題と比較しても、量・質ともに適切である」「法科大学院における授業内容に即した内容になっている」「他の法分野の知識も含めて問う問題であり、法科大学院制度の趣旨にかなっている」等の積極的に評価する意見が寄せられているが、他方で、「所得税について多面的な検討を求めている点ではよい問題であるが、やや難易度が高い」「法科大学院の学習の範囲内において基礎の理解と応用能力を問うものであるが、時間的に厳しい」「出題範囲が所得税に比重を置きすぎている嫌いはあるが、問題および設問自体は基本的かつ標準的な難易度である」との指摘もなされている。また、個々の設問については、「出題の内容はよいが、素材が下級審の裁判例に登場し必ずしも法科大学院で扱わないものであるので、裁判例を読んだことがあるか否かで大きく左右される点が若干気になる」「第1問設問1は、直近の判例を読んだことがあるか否かで大きく差が付いてしまうと思われます」「第1問設問2については、法人税の出題が所得税の問題に比べ応用的にならざるを得ない。受験生の立場に立てば、もう少しわかりやすい基本的な問い方があったのではないか」「第2問・設問2の問い方が、やや分かりづらいのではないか」等の意見が付されていた。
「どちらともいえない」との回答に付記された意見の中には、「第1問は知財を勉強しているか否かで差がつくことは避けられないし、改正前の特許法が大前提の出題は余り望ましいものでない」「第1問については、同じく選択科目となっている知財法の出題範囲である特許法の解釈を踏まえて、事案における課税関係を問う問題となっている。問題文には、特許法の解釈を問う問題ではないとの注釈があるものの、解答にあたっては、特許を受ける権利の内容や職務発明における同権利の帰属についての特許法の基本知識等も必要であったと思われ、この点についての説明がもう少しされていても良かったのではないかと思われる」等の指摘がなされている。
本年度の租税法の問題は、租税法に関する基礎的論点の出題でありながら、各人の租税法に関する理解の深度を問うこともできる良問であるとの観点から、高い評価がなされている。「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると92.6%となり、大多数の法科大学院から、積極的評価が得られているということができよう。
(7)倒産法
無回答22校を除く45校中、「適切」と答えたのは22校(48.9%)、「どちらかといえば適切」と答えたのは17校(37.8%)、「どちらともいえない」は1校(2.2%)、「どちらかといえば適切でない」は5校(11.1%)、「適切でない」は0校(0.0%)である。なお、無回答が22校(32.8%)あるが、選択科目の中では、一番少ない数字である。
「適切」と「どちらかといえば適切」との回答を合わせると、39校(86.7%)である。この数字は、一昨年が37校(74.0%)、昨年度が43校(91.5%)となっており、昨年に比べて4.8ポイント減少しているが、一昨年よりは高い数値であり、倒産法に関しては、多くの法科大学院が、論文式の試験問題の内容については評価しているといえる。
次に自由記載欄からみると、「適切である」と回答したものの中には、「簡単な設例をもとに、基本的な制度の仕組みを条文に則して整理する問題が含まれており、法科大学院での授業目標にかなうものでありつつ、実務に携わる際の基本的な力の涵養につながるもの」「理論と実務の両面を意識した、幅広い分野からの出題であり、良問」「基本的な論点と現場思考の問題とがバランスよく出題されており、問題として適切」「過去の司法試験問題と重なる内容も一部見られるが、破産法及び民事再生法上の重要問題の中から、近時の判例の動向等も踏まえて、将来倒産実務に携わる者が習得しておくべき基本的かつ必須の問題が出題されており、出題分野、倒産実務や法科大学院での授業との整合性、難易度等、いずれの観点からも適切」「破産法及び民事再生法のいずれについても、基本的事項をベースにして条文や判例等を参考にすれば解答しうる設問であった」「倒産法の基本的な問題かつ重要な問題である」「幅広い観点からバランス良く学習成果を測定し得る出題となっている」「論点がそれなりに明確であるといえる」「本学法科大学院での授業では、細かい点は別にして、これらの内容はいずれも説明していたものであり、授業をまじめに聞いていれば解ける問題であり、法科大学院での授業内容が踏まえられているといえる」「条文の理解を問う点、基本的な判例の知識を問う点、良問」といった高評価がなされている。
「どちらかといえば適切である」と回答したものの中には、「今年の問題は、基本をしっかりと押さえさせる問題」「設問内容が実務で注意すべき点であることについては評価できる」「出題分野や論点の設定は適切であり、法科大学院修了者に求められる知識・能力を試すものとして良好な問題」「前年の試験問題と比較しても、量・質ともに適切」「内容的には、基本的なものが多く全体のバランスも良い」「基本をしっかりと押えさせる問題」「制度および判例など、基本的事項を正確に理解していることが問われる問題であり、適切」「法科大学院における授業内容に即した内容」といった肯定的な回答が多かったが、それと同時に、「複数年度を通してみると、年度により難易度にややバラつきがあり、選択科目の限られた頁数で何をどこまで、どう勉強し、どう書くべきか迷う原因ともなっている」「小問が多く、知識を羅列するような答案が多くなってしまうのではないかと思われる」「特に第1問について、分量が多すぎるように思われる」「問題文が長く、問題の量が多すぎる」「やや問題数が多い」「複数年度を通してみると、年度により難易度にややバラつきがあり、選択科目の限られた頁数で何をどこまで、どう勉強し、どう書くべきか迷う原因ともなっている」「民事再生法について、条文を探せないと解答できない問題であり、他の選択科目と比較すると、破産法だけでも条文が多い中、受験者の負担がやや重い印象を受けた」「従来の採点実感で「基礎として求められる」とされていたとはいえ、民事執行の知識が直接問われている問題については受験生の中には戸惑った者もいたのではないか」といった問題点を指摘する回答も寄せられた。
「どちらともいえない」との意見として、「それ自体は良問と考える。しかし、分量が多すぎる」との回答があった。
「どちらかといえば適切でない」と回答したものの中では、解答時間に比し問題数が多すぎるという意見が多かった。その他、問題を具体的に指摘して、「第1問、設問1(1)動産売買先取特権という法的根拠はともかくとして、民執190条1項3号・2 項の許可という手続まで問うのは、倒産法の範囲を超えているのではないか。(2)この問いかけで、破53条の制度趣旨を答えさせるのは無理があると思われる。学説が大きく分かれている点であり、この論点を知っていることを要求するのは法科大学院教育に対する過大な要求であるように思われる。(3) αのDへの売却の経緯次第では、不当利得・不法行為になる余地があるように思われる(名古屋地判昭和61年11月17日判時1233号110頁)。」「第2問、設問1。民事再生法155条1項但書を問うだけの狭い問題であり、設問2に小問が2つあることを考慮に入れてもなお、民事再生法の理解を広く試せるとは思えない。また、①から③までは条文通りにあてはめるだけの簡単な問題であるのに対して、④は支配会社の債権の劣後扱いの可否という理論的にも相当難しい問題であり、受験生としては、実は簡単な①から③までについても何か難しい問題があるのではないかと疑心暗鬼になったのではないかと思われる。極端に難易度の違う問題を、このような形で並列することには違和感を覚える。さらに、出題趣旨には『本件における具体的事情を摘示して』とあるが、問題文には支配株主である旨の事実が示されているだけで、劣後化の基礎となるような不当支配あるいは過小資本を伺わせるような事実は示されていないため、受験生は当惑したのではないかと思われる」「設問2(1) 再生計画の遂行や変更は、実務的には重要であろうが、わざわざ司法試験で問うまでの論点かどうかには疑問が残る。(2) いろいろな(しかもきれいではない)数字が問題文中にちりばめられている中で、民再189条3項の要件を満たすかどうかの具体的な計算を受験生にさせるのは酷である」「設問は、いずれも倒産処理法の基本的事項であり、問題としてこれらの事項を取り上げたことは妥当である。しかし問題文が長すぎ、受験生の負担が大きい。また、第2問の設問2は、問題を特殊な事情をもって設定しており、これでは、倒産処理法の全体像の正確な理解を判断しがたい」といった回答があった。
「適切ではない」と回答した法科大学院はなかった。
(8)経済法
経済法について、回答のあった法科大学院は41校(61.2%。昨年より2校の増加)で、無回答は26校(38.8%)であった。
問題が「適切である」と評価したのは20校(48.8%。昨年より1校の増加)で選択科目の中で、労働法(54.8%)、倒産法(48.9%)に次ぐ数字である。「どちらかといえば適切である」と評価したのは13校(31.7%。昨年より2校の減少)で、肯定的な評価をした法科大学院の数は昨年より1校減少して33校で、回答のあった法科大学院の80.5%を占めた。これは選択科目全体の平均値の84.4%を約4ポイント下回っており、昨年(平均値を7ポイント上回っていた)と比べて評価が低くなった。他方、「適切でない」との回答は3年連続で0校であったが、「どちらかといえば適切でない」との回答は5校(12.2%)で昨年より3校増加した。なお、「どちらともいえない」との回答は3校(7.3%)で、昨年と同数である。
「適切である」「どちらかといえば適切である」とする回答は、独禁法の基本的知識と基本的な要件の当てはめを問うオーソドックスな問題で、法科大学院における教育内容に即した経済法の学習成果を量るのに適切な問題であり、問題の分量も適度であることを肯定的に評価する理由としてあげる。これに対して、「どちらかといえば適切でない」とする回答は、いわゆるハードコア・カルテルに関する出題に偏っており、論点も意思連絡の内容の認定に主眼を置いた問題に偏っていることを問題点としてあげる。「どちらともいえない」とする回答が、やや実務に偏りすぎていると評価するのも、これと同趣旨であろうか。
問題のレベルについては、「どちらかといえば適切でない」と回答した法科大学院も、難易度は適切であったと評価している。
出題趣旨・採点実感に関する回答では、例年と比べて詳細・丁寧に記述されており、受験生にとって望ましいと高く評価する意見がある一方で、出題趣旨と採点実感を併せ読んでも、どのような評価が行われたのかが明らかでない部分があり、「○○と答えた答案が多かった」という記述だけでは、それが望ましい解答であるのかがわからないため、学生の学習上のみならず、教育上も問題であるとの意見もあった。
(9)国際関係法(公法系)
回答は前年度より6校増加して36校である。そのうち、適切と評価するもの15校(41.7%)、どちらかといえば適切であるとするもの12校(33.3%)で、積極的に評価するものが75.0%であった。他方で、適切ではないと評価するもの1校(2.8%)、どちらかといえば適切ではないという評価するもの3校(8.3%)であり、どちらともいえないとするものが5校(13.9%)となっている。消極的な評価(適切ではない、どちらかといえば適切ではない)がなかった昨年度と比較すると、今年度は、消極的評価が増加する一方(0%から11.1%)、その分、積極的に評価(適切、どちらかといえば適切)するものの割合(93.3%から75.0%)と、判断を保留する評価が減少した(26.7%から13.9%)のが特徴である。
第1問は、島をめぐる領域紛争や軍事活動を題材として、国連安保理の手続や決議案の内容の法的根拠、さらに国連による紛争の平和的解決や強制措置の手続的問題などが、また第2問は、外交官の特権免除や在外公館の不可侵といった外交関係法や、私人の活動により引き起こされた損害に関する国家責任の問題などが問われた出題内容となっている。全体としては、「幅広く基本的な分野から出題されている点で適切」であり、「これまでやや難しいと感じられる出題が続いたが、本年の問題はこなれた出題で好ましく感じた」という感想や、「国際組織法、外交関係法、国家責任法の分野にかかわる基本的な問いであり、外交実務の観点からすれば設問自体は主要な論点を抑えており、妥当な水準」という評価のほか、「法科大学院での国際法教育とやや趣旨が異なり、知識を重視している」という留保した上で、「知識の要求度はそれほど高くはないので、全体としては優しい問題」という評価もある。しかし他方では、「基本的な理解を問う問題としながら、実務上難しい問題を含んで」おり「難易度の高い設問がある」との意見や、「より実務に即した学習及び法理解を求めるという出題趣旨は理解できる」としつつも、「出題内容及び要求される学習到達点は、外務一種の出題としては適切だと思われるが、司法試験の出題課題としては適切なレベルのものではないのではないか」といった否定的な意見も見られた。
特に評価が分かれたのが第1問である。「国連憲章の基本的な構造、国際判例および国連の実行も問う形となっており、教科書的な出題範囲でありながら正確な理解を問う形となっている」として適切とする評価もあったが、出題内容が「出題趣旨」や「採点実感」で求められている基準と整合的か疑問視する向きもある。たとえば、「第1問の3.の「安保理決議案が仮に全会一致で採択された場合」という条件づけについて、安保理決議が全会一致で採択された場合の法的効果(全会一致ではないが必要な賛成を得て採択された場合との違い)というような問題の取り上げ方をしている教科書が(どの程度)あるか疑問」といった点や、「安保理決議が全会一致で採択された場合の法的効果を、安保理決議が全会一致ではないが必要な賛成を得て採択された場合と比較して問うておきながら(出題趣旨)、他方で「国際機構の総会等の決議の効力一般との対比から説き起こす答案」(採点雑感)を期待するのは無理があるという実感」が表明されている。また、「国連総会に関しては、広範囲の国際関係法(公法系)では、今日、やや周辺的な出題」で「教育する時間がない」という印象も示された。
このような意見が出てくるのは、「設問に対する回答に際して付随的な関連知識を求めている」ということにその一因があるとの指摘もある。「第1問の設問2では、国連憲章2条4項違反を回答すれば十分なところ、「同条3項及び第4項の両方を論じることを期待した」とあ」り、また「設問3で安保理決議の法的拘束力を論じさせる場合にも、根拠は国連憲章25条と48条で十分と思われるところ、「総会等の決議の効力一般との対比から説き起こす」ことが望ましいとされて」おり、こうしたことは、「受験生にとっては、どこまで回答が求められるのかが設問から読み取りにくい」例として挙げられている。
また、第2問については、「設問3は、国際法上、実務的にも理論的に極めて重要な論点ではある」が、「ここまで正確に教育する時間がないとの印象はある」という意見があったものの、「外交関係法及び国家責任法の基本的理解を問う出題である」として肯定的な評価があった以外、特段の意見は付されなかった。
このほか、今回の「出題趣旨」や「採点実感」について、好意的な意見が多かったことは特筆されるべきであろう。「丁寧なコメントになっており、受験生にもわかりやすい」「非常に具体的かつ詳細に記述されているので今後の受験生には大いに参考になる」というのがその代表例である。また、「出題趣旨」や回答例について、「出題委員が、問題の適切性を採点後に自問することができ、妥当な出題を確保する一助となり得る」よう、「司法試験直後に公開」すべきとの意見もあったことを付記しておく。
なお、「司法試験科目における国際関係法(公法系)選択者が1%台にとどまっている現状」を危惧し、司法試験の出題内容のほか、法科大学院における国際法教育への課題を提起した意見もあることは注目される。すなわち、出題については、そうした現状とともに、「分野の細分化が著しい国際公法の特性を踏まえると、より国内の法曹実務に密接にかかわる分野から出題するような配慮が今後は必要」ではないかとされ、また法科大学院における国際法教育については、「グローバル化が進む現代社会において国際公法分野の重要性は認められる」が、「受験生が少ない現状が続いており再考の余地がある」という。この点に関しては、国際関係法(公法系)の内容についてどのような程度の水準まで提供するかも含め、法科大学院における国際法教育の趣旨を今一度再確認する必要があろう。したがって、「国際関係法(公法系)選択者の司法試験合格者の修習後の進路や現在の業務について、今後の国際法教育の在り方の参考に供するため、可能な限り追跡調査」を行うことも一考に値する指摘である。
以上、いくつかの点で改善すべきところがなお残されている。例年と同じく繰り返しになるが、作問に関する出題者の努力には敬意を表するとともに、上記の課題を考慮に入れつつ、オーソドックスな事例問題を通じて、国際法の基本的知識に関する理解力、分析力および応用力を把握するような出題傾向が今後も維持されていくことを期待したい。
(10)国際関係法(私法系)
国際関係法(私法系)についての35校の回答のうち、適切と評価するものが10校(28.6%)、どちらかといえば適切であるとするものが18校(51.4%)となっており、積極的に評価するものが80.0%となっている。他方で、どちらともいえないとするものが6校(17.1%)、どちらかといえば適切でないとするものが1校(2.9%)、適切でないとするものはが0校(0%)であった。
こうした割合を昨年度と比較すると、どちらかといえば適切と評価するものはほぼ横ばいであったものの(52.6%から51.4%)、適切であるとするものが若干減少したため(31.6%から28.6%)、積極的に評価するものが若干減少する結果となっている(84.2%から80.0%)。他方で、どちらかといえば適切でないとするものはほぼ横ばいではあるものの(2.6%から2.9%)、どちらともいえないとするものが若干増加している(13.2%から17.1%)。なお、適切でないとするものは、昨年度と同様に今年度も存在しない。
このようにみてみると、高い評価が与えられてはいるが、昨年度と比較すると、評価に若干の低下が見受けられるということになる。
具体的な評価としては、一部の回答を除いて、昨年度と同様に、第1問、第2問ともに国際私法に関する基本的な知識・能力を問うものであったという点、出題範囲のバランスの良さという点に、概ね高い評価が与えられている。また、昨年度の回答の一部にあった、相互に関連がない小問を積み上げるのではなく、じっくり総合的に考えて解答するような設問を望む声に応えたのか、今年度については従来よりも思考力を問うことができる問題であったという評価が多かったのも印象的であった。
しかし、昨年度と同様に、今年度においても、一部の設例や設問につき、実務上ほとんど想定され得ないものであることにつき、批判がある。また、実務上は重要な規定の適用を解答の便宜から無視して構わないとしていることにも、同様の観点から批判があった。また、今年度については、講義の中で扱うことが少ない論点が出題されていたという観点からの批判が散見された。
以上、積極的な評価が大多数を占めたことは前提にしつつも、しかし、(積極評価の立場をも含め)改善を求める上記のような意見が少なからず存在しているという事実をも勘案しながら、基本的な知識・理解を問うという枠組の下での適切な出題がなされることが今後も期待される。
(11)環境法
回答を寄せた37校のうち、「適切である」と回答したのが13校(35.1%)、「どちらかといえば適切である」が18校(48.6%)、「どとちらともいえない」が2校(5.4%)、「どちらかといえば適切でない」が4校(10.8%)で、「適切でない」が0校(0.0%)であった。それに無回答が30校(44.8%)である。「適切である」と「どちらかといえば適切である」を合わせると83.8%であるから、回答を寄せた37校の中では、かなり高い評価を得たということができよう。昨年と比べると、「適切である」と回答した学校が3校減り、「どちらかといえば適切である」が4校増えている。無回答校が5校減ったことも、特記に値しよう。
「適切である」との評価が昨年に比べて数を減らした原因は、問題の量にあると思われる。「適切である」と評価した学校の中にも、小問が少し多いのではないかとの印象を述べる意見があった。同様の意見が「どちらかといえば適切である」のグループに3件、「どちらともいえない」のグループに1件、「どちらかといえば適切でない」のグループに1件見られた。とくに「どちらかといえば適切でない」のグループの1件は、単なる印象論ではなく、出題数の多さを消極的な評価の主要な理由として挙げているように思われる。
他方、出題内容に関しては、全体として好評であったと言える。とくに、環境法の基本理念と個別法領域の原則との繋がり、訴訟と政策との融合といった関連付けの手際に賛辞を呈する意見が幾つか見られた。難易度に関しても、たいていの意見で適切と評価されており、「どちらかといえば適切でない」のグループで出題数の多さ批判した意見も、出題されている問題を一つ一つ見れば、とくに難度の高いものではないと述べている。
なお、本年度は出題の趣旨・採点実感の記載がたいへん丁寧で、読み応えのある文章になっている。その点について、学習の指針として役立つといった好意的な意見が幾つか寄せられた。しかし、今後の出題傾向に関する危惧の念を表明する意見もあったことを最後に記しておく。
以上。
司法試験等検討委員会委員(50音順、本報告書作成に関わった委員のみ)
青木 孝之(一橋大学) 小幡 純子(上智大学) 交告 尚史(東京大学)
酒井 啓亘(京都大学) 高橋 直哉(中央大学、主任) 幡野 弘樹(立教大学)
早川 徹(関西大学) 早川 吉尚(立教大学) 三上 威彦(慶応義塾大学)
山川 隆一(東京大学)
※割合計算の結果、各合計が100%とならないことがあります。