平成26年度司法試験に関するアンケート調査結果報告書
平成26年9月5日
法科大学院協会司法試験等検討委員会
1.まえおき
法科大学院協会司法試験等検討委員会は、本年5月に行われた第9回司法試験について、すべての法科大学院を対象としてアンケート調査を行い、全73校中の72校から回答を得た(回答率98.6%)。多忙の中、ご協力いただいた会員校の責任者・担当者の方々に厚く御礼申し上げたい。
調査は、これまでと同様、法科大学院教員の立場から見て、各科目の試験内容を適切と評価するどうかを尋ね、その理由の記載を求めるとともに、末尾に試験全体につき意見を記載してもらう形式で実施した。
この報告書は、回答集計と付記された理由・意見を取りまとめたものを各委員に送って関係分野についての評価を依頼し、その結果を報告書案にまとめて全委員に回覧した上で作成したものである。
回答校の割合は、短答式試験及び論文式試験必修科目については、ここ数年と同水準の93%?81%程度、論文式試験選択科目については、58.5%(昨年度は61.1%)に達し、高水準となっている。法科大学院制度に対して一層厳しい批判が向けられている現状において、各法科大学院が司法試験の出題傾向に強い関心を持ち、法科大学院を中核とする法曹養成制度における司法試験のあるべき姿について、批判的な検証が必要であるという強い意思を有していることを示していると評価できよう。
回答内容全体を概観すると、短答式試験については「適切」「どちらかといえば適切」とする回答が併せて87.8%、論文式試験については、必修科目87.9%、選択科目76.9%であり、いずれも高評価を受けている。比較すると、一昨年・昨年の数値は、短答式試験が85.6%・88.8%、論文式必修科目が85.5%・86.2%、論文式試験選択科目が同じく78.8%・74.8%であるから、試験問題に対する積極的評価は、ここ3年間、高い水準で安定しているといえる。
しかし分野ごとに試験問題の評価をみてみると、短答式においては、行政法分野の評価がやや低く(「適切」「どちらかといえば適切」とする回答を併せた割合について、行政法分野では80.5%であるのに対し、その他の分野では86.3%?91.5%)、論文式必修科目においては刑事訴訟法分野の評価が非常に高い(「適切」「どちらかといえば適切」とする回答を併せた割合について、刑事訴訟法分野では96.9%であるのに対し、その他の分野では85.1%?88.2%)。論文式選択科目においては、「適切」「どちらかといえば適切」とする回答の合計の割合を見てみると、労働法分野・経済法分野・環境法分野では80%を超えているのに対して、知的財産法分野・租税法分野・倒産法分野・国際関係法(私法)分野では70%台、国際関係法(公法)分野では70%を割っているというように、かなりばらつきがみられる。
試験全体についての意見は、例年同様、個別教員の長文の意見が多く概要を示すことは到底できないものの、各分野の試験問題の質及び分量が安定していることを認めつつ、法曹としての法的素養より知識の量を確認する傾向に陥っているとの批判は続いている。
試験制度とりわけ司法試験の合否決定等試験制度の枠組みや運営のあり方については、最終日に短答式試験を置く試験日程は受験者への負担が大きいとして、その改善を求める意見が継続して見られる。選択科目の廃止が検討されていることについては、受験生の負担軽減の観点から肯定的な意見も見られたものの、大多数は、新たな法曹養成制度や法科大学院制度の導入趣旨に照らして廃止に反対するものである。予備試験を経由しての合格者が多数に及んでいることに対して、予備試験の位置づけを慎重に検討するべきであるとの意見も繰り返し述べられている。
来年度から短答式試験の対象科目が削減される点に対する懸念も多く指摘されており、大別すると、対象科目から除外される分野に関する知識確認等が疎かになるのではないかという不安、存続する3科目での出題内容が難化して受験生の負担軽減という趣旨に反することにならないかといった危惧の2つである。
さらに、かなり具体的な提案として、司法試験委員会に対し、論文式試験の各科目について、「両極端な見解を取りながらも、なお「優秀」と評価された2例ぐらいの答案」を「参考答案として公表することを求める意見があった。」。
法科大学院制度を中核とする法曹養成制度の在り方の再検討が進められている中で、政府の関連会議等において、本アンケート調査結果及び寄せられた意見等に十分な考慮を払われるよう要望したい。
※ 以下の記述中に、アンケート回答校数として小数点のある場合は、1回答校に複数の種別の回答があったことの反映であることを注記しておく。
2.短答式試験について
(1)公法系
(a)憲法分野
61校から回答が寄せられ、そのうち、「適切」と回答したものが26校(42.6%)、「どちらかといえば適切」が29校(47.5%)、「どちらともいえない」が3校(4.9%)、「どちらかといえば適切でない」が2校(3.3%)、「適切でない」としたものは1校(1.6%)という結果であった。昨年度とほぼ同様の回答結果であり、「どちらともいえない」、「どちらかといえば適切でない」、「適切でない」が、合わせて6校しかないため、広くほとんどの法科大学院から高評価を得ているということができよう。
「適切」であるとした回答に付記された意見を見ると、「総論・人権・統治の各分野から万遍なく出題されており、難度も基礎知識を問うものとしては適当である。」「主要な裁判例や基本概念から出題されており、また引っかけのような技巧的問題もなく、実力を正しく判定できる」、「憲法についての基礎的な学習を着実に積み上げて行けば、確実に正解に辿りつける設問となっている」、「出題範囲、分量及び難易度の何れも法科大学院における憲法教育の水準に相応している。」「統治分野にも配慮がなされている」等の評価がなされており、「どちらかといえば適切」との回答においても、「出題の内容・形式・難易度とも、おおむね適切である。」「出題の内容・形式・難易度とも、おおむね適切である。」等の同様の評価がみられるが、他方で、「一部に判例の趣旨・文脈から切り離して、その文言を部分的に取り上げてたずねる不適切な設問がみられた。」「両立可能性を問う問題は、深く考える受験生にとって、却って難解ではないかと懸念される。」「憲法問題に対して諸説あり得ることを考えると、『正しい』とか『誤っている』とか言い切っていいか、疑問の残る肢もあるのではないか。」「質問の仕方がやや不明確な問題が少し含まれている」等の複数の指摘がなされており、また、「部分点の取扱いに再考の余地がある。」「「初期に比べてあまりにも簡単すぎないか。予備試験と同一問題の比率が高すぎないか。」との意見もみられた。
「どちらともいえない」「どちらかといえば適切でない」「適切でない」との回答においては、「受験生が慎重であればあるだけ迷ってしまう不適正な問題文があった。」「「紛らわしい問題が多くロースクール生にとって難しい。」等のほか、「簡単すぎて工夫が足りない。」との意見もあった。
概して、本年度の憲法短答式問題についての評価は、出題範囲・難易度・分量に関して、いずれも高いということができようが、実力を正確に測るための質問形式の工夫については、今後も継続的に検討されるべきであろう。
(b)行政法分野
回答を寄せた(当該分野に係る無回答を含む)のは72校。「適切である」と評価したのが19校(26.4%)、「どちらかといえば適切である」が27.5校(38.2%)、「どちらともいえない」が7校(9.0%)、「どちらかといえば適切でない」が3.5校(4.9%)、「適切でない」が1校(1.4%)、無回答13校(18.0%)という結果であった。校数に小数点以下の数字が出ているのは、複数回答を寄せたところが1校あったためである。
「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると、64.6%になる。2012年度が75.7%、2013年度が84.7%と上り調子であったのに、本年度は大きく低下した。昨年度とは20.1ポイントの差がある。これらの2つのカテゴリーでは、寄せられた意見の内容はあまり代わり映えがしない。多くの意見において、全体的には基本的な良問であるが、良くない問題が2つ3つあると指摘されている。ただし、その2つ3つが必ずしも一致しないところが興味深い。法科大学院の学習の範囲に収まっているかどうかという観点から眺めているのか、瑣末な知識を問うていないかどうかという観点から眺めているのか、その観点の違いが現れているようにも見えるが、それだけでは説明できない面もある。この点については、また後で触れる。
「どちらともいえない」ないし「どちらかといえば適切でない」と評価した法科大学院から寄せられた意見を見ると、「適切」「どちらかといえば適切」と答えた法科大学院と比べて、難問ないしは細かすぎる問題が多い(2つ3つに止まらない)という印象を受けているように思われる。問題文が長すぎるものが多いという指摘もある。また、部分点方式は基礎知識を確認する試験においては不適切だとの意見が見られるが、この批判は「適切」「どちらかといえば適切」のカテゴリーにおいても見られた。
「適切でない」と評価した法科大学院の意見では、地方自治法や独立行政法人通則法に絡む問題は受験生の負担を過大なものにしていることが明確に指摘されている。ほかのカテゴリーの法科大学院においても、2つ3つの「良くない問題」のうちに地方自治法や行政組織法関係の問題を含めているところは多い。それらの問題はなぜ良くないのか。地方自治法や行政組織法の分野も捨てきれないものがあるとすれば、結局は、ある法科大学院の意見で表明されたように、法曹にとって「真に必要な行政法の知識は何か」というところに立ち返って、それぞれの意見を比較検討する必要がある。だが、行政法が短答式から外されるとあれば、そのように唱えてみても空しさだけが残る。
(2)民事系
(a)民法分野
短答式の民法分野について回答があったのは62校であり、10校が無回答であった。適切とするのが35.9校(57.9%。昨年度は51.6%)、どちらかといえば適切とするのが20.8校(33.5%。昨年度は40.3%)、どちらともいえないとするのが4.3校(6.9%。昨年度は8.1%)、どちらかといえば適切でないとするのが0校(0%。昨年度も0%)、適切でないとするものは1校(1.6%。昨年度は0%)であった。適切・どちらかといえば適切と答えた割合は、昨年度同様約9割を占めている。
自由記述欄の肯定的理由としては、昨年度と同様、基本的な知識として必要な内容を的確に問うものである、全体として分野のバランスが取れている、という指摘にほぼ集約される。
これに対し、問題点を指摘する意見としては、一部、細かな知識を問う問題があったことを指摘するものがあった。また、肢問ごとに事案が異なると受験生の負担が多いという意見、問題の分量が多いという意見もあった。今年度は、判例の知識を問う問題が増えたという指摘があり、判例を問う際にある程度事案を明確にする必要があることと、試験時間の制約とのバランスが問われているものと思われる。
以上のような指摘もあったが、全体としては肯定的な意見が多かった。
(b)商法分野
短答式試験の商法分野について回答のあった法科大学院は62校(昨年より6校の減少)で、10校が無回答であった。
回答のあった法科大学院のうち、「適切である」との回答は28校(45.2%。昨年より5校の増加)で、民事系科目の中で最低の数字であるが、短答式試験科目全体の平均値45.9%とほぼ等しく、全科目中の最低であった昨年度と比較すれば改善されている。「どちらかといえば適切である」との回答は26校(41.9%)で、昨年より6校減少した。両者を併せた肯定的な回答は87.1%で、昨年と比べて6.2ポイント増加し、短答式試験科目全体の平均値87.8%とほぼ等しくなった。昨年まで肯定的な回答が2年連続して減少していたが、商法の短答式試験が最後となる年に改善が見られた。
これに対して、「適切でない」とする回答は2.5校(4.0%。昨年は0.5校、一昨年は0校)と増加したが、逆に、「どちらかといえば適切でない」との回答は0校(昨年は3校、一昨年は5校)と減少した。両者を併せた否定的な評価は5校→3.5校→2.5校と、この3年間で明らかに減少している。なお、「どちらともいえない」と回答した法科大学院は5.5校(8.9%)であった。
「適切である」、「どちらかといえば適切である」と考える理由として、会社法・商法総則・商行為法・手形法の各分野からまんべんなく出題されていること、全体として条文と判例を基にした基本的な知識を問う問題であり難易度も適切であることがあげられていることは、例年通りである。肯定的な回答の中にも、細かな知識を問う設問があることを懸念する意見(複数意見)や、組み合わせ問題という出題形式が適切であるか疑問であるとする意見があった。 「どちらともいえない」とした回答では、設問が株式会社に偏っていることを懸念する複数の意見があった。
「適切でない」とした回答は、細かな知識を問う問題が多いことをその理由としてあげており、受験生に不要な勉強を強いることの懸念を表明する意見があった。
例年どおり、商法全般にわたって「基本的」な知識を問う出題であることは評価できるが、やや「知識」偏重に陥っている点が懸念されるということが、回答の全体的な意見であったとまとめることができよう。
(c)民事訴訟法分野
72校から回答を得たが、無回答が9校(12.5%)であった。したがって、それを差し引いた63校のうち、「適切」と答えたのは32校(50.8%)、「どちらかといえば適切」と答えたのは25校(39.7%)、「どちらともいえない」は4校(6.3%)、「どちらかといえば適切でない」は1校(1.6%)、「適切でない」は1校(1.6%)である。
「適切」と「どちらかといえば適切」との回答を合わせると、57校(90.5%)であり、民事訴訟法に関しては、多くの法科大学院が短答式の試験問題の内容を評価しているといえる。なお、この数字は、3年前が62.66校(94.9%)、一昨年が61校(92.4%)、昨年が57校(87.7%)と、3年連続で減少していたが、今年度は、2ポイント以上上昇している。
自由記載欄でも、「適切である」と回答したものの中には、「基本的な問題が多かった」、「幅広い分野について基本的な知識の正確さを問う問題であり、しかも細かすぎる事項が問われていない」、「法科大学院の授業をよく反映し、かつ、無理のない内容である」との評価が多かった。このような評価は、例年とほぼ同様である。
ただ、「論述では聞きにくいところも多く、次年度から担当がなくなることは問題である」との意見や、57問1および3は微妙であり、「明らかに誤っているものを撰びなさい」とでもしておいた方がよかったのではないか、さらに、62問記述3はやや細かすぎるのではないかといった具体的な指摘も見られた。
それに対して、「どちらかといえば適切である」と回答したものの中では、「基本的知識で解けるように作問が工夫されていいる」、「条文・判例との基本的理解を求めるものである」、「広い分野から出題されている」という理由が多く見られ、基本的には、「適切である」と答えたものと一致した評価がなされている。なお、個別的な意見として、「法律知識を問うにとどまらず、法的推論能力を判定する問題を少し増やしてもよいのではないか」、「訴状審査や調査嘱託等、条文を見ないで回答させるのに無理があると思われる問題が散見される」、「少し細かすぎる問題が散見される(問63肢4、問64肢エ)」、「問70、問71のようなやや事例に類するような問題の比率を高めたらどうか」等があった。
また、「どちらともいえない」と回答したものの中には、やや細かすぎる問題が多いとの指摘多かった。そこでは、問63,問67が指摘されていた。
なお「どちらかといえば適切でない」と回答したものとして、「司法試験当初に出題されていた思考能力を問う問題は姿を消し、単なる暗記を求める問題が大部分であるのは極めて遺憾である」との意見と同時に、問62、問63の出題趣旨は何であるか、と問う回答があったほか、「解答方法が複雑すぎる」との指摘もあった。
昨年度はなかった「適切でない」との意見が1校から寄せられたが、具体的な指摘はなかった。
(3)刑事系
(a)刑法分野
刑法分野・短答式について回答があったのは65校(昨年度67校)であった。
回答としては、「適切」とするのが36.5校(56.2%。昨年度は67校中39.4校)、「どちらかといえば適切」が21校(32.3%。昨年度は23.3校)であり、「どちらともいえない」とするのが5.5校(8.5%。昨年度は1.8校)、「どちらかといえば適切でない」とするのが1校(1.5%、昨年度は1.5校)、「適切でない」とするのは1校(1.5%、昨年度1校)であった。「適切」と「どちらかといえば適切」を併せて積極的評価を示すものが57.5校(88.5%)となった。昨年の70校中62.7校(93.6%)、一昨年の70校中64校(91.4%)と比べて、その比率は低下しているものの、概ね肯定的に評価されているといえよう。
回答に付された理由をみると、「判例を中心に、基本的な法的知識の理解を問う問題となっている」、「各分野からバランスよく出題されており、難易度も適当」、「基本的な事項を問う問題が多く、法科大学院での学習成果を試すという観点から見て、良問である」といった形で、出題分野のバランスや難易度を評価する肯定的な意見が大半であった。
改善意見としては、「判例の知識を問うものが多い点は偏りがある」といったものの他、「細かい条文の知識を問う問題が以前より増えているため、受験生が暗記に頼るようになり優秀な法律家の養成に悪影響の生じることが懸念される」といった批判(同趣旨の批判が他に2校ある)が注目される。また、出題形式については、「第15問のようにややパズル的な出題がある。これは、実務家養成のために重要とは思えない」とする意見(同趣旨の意見が他に2校ある)も見られた。
なお、各設問の選択肢に関し、第3問のイは適切でない、第13問の3は誤りであると思料する、想定されている事実関係自体に曖昧さを感じる(第14問の4、第18問の2など)といった意見が寄せられた。
(b)刑事訴訟法分野
刑事訴訟法分野・短答式について回答があったのは62校(昨年度65校)であった。
回答校の範囲内では、「適切」とするのが22校(35.5%。昨年度は65校中34.8校)、「どちらかといえば適切」が31.5校(50.8%、昨年度は24.5校)であり、「どちらともいえない」とするのが5.5校(8.9%。昨年度は4.2校)、「どちらかといえば適切でない」とするのが2校(3.2%昨年度は1.5校)、「適切でない」とするのは1校(1.6%。昨年度は0校)。この結果、「適切」と「どちらかといえば適切」を併せて積極的評価を示すものは53.5校(86.3%)に及んでいる。昨年度の65校中59.3校(91.2%)、一昨年度の63校中61校(96.8%)には及ばなかったものの、積極的・肯定的な評価が継続している。
回答に付記された理由をみると、出題内容の難易度の適切さを指摘する肯定的な意見が多数を占めた。具体的には、「基本的な条文や制度の理解を問うもので、難易度も適切」、「基本的条文・判例・学説についての正確な習得及び応用力を問うものであり、正に短答式試験の趣旨に合致した出題である」、「質・量ともに適切である」といった意見である。出題手法についても、「条文、判例の知識を問う問題だけではなく、具体的な手続場面における法的判断について検討させる問題が出題されている」といった肯定的意見が見られた。
このように設問全体に対する意見は概して肯定的であるものの、一部の設問に対しては、批判的な見解も見られた。例えば、「条文をかなり正確に暗記していなければならない選択肢がある」、「一部、細かな条文の知識を問うものがあり、学生にそこまでの要求をするのは酷ではないかという印象がある」、「大部分は、論文式試験でも問われるべき基本知識であるものの、一部については、 条文・判例をいたずらに暗記させる傾向を有するものである」、「錯覚を起こさせるクイズのような設問もあり、単純化が望ましい」、「ややパズル的・論理操作重視な問題が多く、基本知識の確認というよりは事務処理能力の迅速さが重視されるかのような出題量・出題形式だった」といった意見である。また、出題形式について、個数問題を批判し、個別に正誤を問うべきであるとする意見もあった。
さらに、「予備試験と問題が相当数重複している点は検討を要するのではないか」、来年度から刑事訴訟法が対象科目から外されることについて「対象科目の削減が妥当かについては、疑問なしとしません」とするなど、試験制度自体に対する疑問を呈する意見も見られた。
3.論文式試験について
(1)公法系
(a)憲法分野
61校から回答が寄せられ、そのうち、「適切」と回答したものが34校(55.7 %)、「どちらかといえば適切」が18校(29.5%)、「どちらともいえない」が5校(8.2%)、「どちらかといえば適切でない」が3校(4.9 %)、「適切でない」としたものは1校(1.6 %)、という結果であった。本年度は、「適切」と回答したものが55.7%と過半数を超えたことが特記されるべきであるが(昨年度は46.8%)、昨年度は、「適切」あるいは「どちらかといえば適切」と評価した回答が約90%であったのに比べ、本年度は84.2%であり、若干異論もみられているが、全体として、高い評価が得られた良問であったと見ることができよう。
「適切」であるとした回答に付記された意見を見ると、「素直な出題であり、法科大学院の授業をしっかりこなし理解しているかを問う出題となっている。」「基本論点に関わる出題内容で、かつ受験生の法科大学院での学習成果、理解度が適切に評価しうるものとなっており、分量も適切」、「出題趣旨が明確で、難易度も適切な良問である。」「重要な判例法理の意義と射程をしっかりと身につけておけば、対応できる問題であり、その際の受験生の展開力次第で、はっきりと受験生相互間の実力差が示される設問となっている」、「過度な知識を要求せず、標準的な知識の運用能力を問うている」、「問題文と事案にしっかりと向きあうことを求める良問である。」「法科大学院での基本的な勉強をきちんとしてきた学生の努力が素直に報われる正統派の良問である」等と、高く評価されていることがわかる。
「どちらかといえば適切」との回答に付記された意見の中でも、「基礎的な知識を前提として、発展的な内容まで論述することが可能な問題である。」「論点の所在を把握するのが比較的容易であったように感じられ、受験生にとっては取り組みやすいものであったのではないか。また、具体的な事案の内容も現代の問題状況を反映していた、適切であった」と、高い評価がみられるが、他方で、「論点は基礎的であるが、事案のベースにされている判例はややマイナーな印象がある。その意味ではやや難しい。」「議論の手がかりは与えられているものの、立場によっては、結論を出そうとすると十分な資料が与えられていないということになりかねない点があるようにも思われ、どこまでを自己の理解する常識に照らして記述すればいいのか、戸惑う受験生もあったのではないかと懸念される。」との指摘がみられる。
他方で、「どちらともいえない」、「どちらかといえば適切でない」、あるいは「適切でない」との回答に付記された意見の中には、「経済的自由の問題としてよく論じられているテーマであり、かつ現代性もある点は評価できる。ただし、考察を深めるための資料が十分に用意されていない。」「少々易化し過ぎているのではないか。短期的に基本事項だけを学んだ学生と比べて、法科大学院で先端的な内容を学んだ受験生が相対的にデメリットを受けるのではないかと懸念される。」「例年と比較すると今年は問題がやや易しくなった感がある。」「政策の合理性判断が主で、憲法適合性判断を問う性質が薄い印象である。」「公法総合の要素が強い。憲法の観点からの問いとしては難しい。」等の指摘がなされており、また、「採点の配分割合が相変わらず明示されていない。…配点比重でも示せば、受験生がどれだけ時間と分量を割けばよいのかの判断の一助となろう。」との意見があった。
本年度の憲法の論文式試験問題については、出題趣旨が明確で、基本的な理解から、現代的テーマの事案を考えさせる良問であるとして、ほとんどの法科大学院が高く評価している。憲法の出題としての異論、平易化についての意見も若干みられるが、論文式試験問題としては、昨年度に引き続き、概ね適切と評価されているといえる。来年度以降も安定した出題が望まれよう。
(b)行政法分野
回答を寄せた(当該分野に係る無回答を含む)72校のうち、「適切である」と評価したのが27.5校(38.2%)、「どちらかといえば適切である」が24.5校(34.0%)、「どちらともいえない」が4校(5.6%)、「どちらかといえば適切でない」は2校(2.8%)、「適切でない」が1校(1.4%)、無回答が13校(18.1%)であった。校数に小数点以下の数字が出ているのは、複数回答を寄せたところが1校あったためである。
「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると72.2%になるから、昨年の76.6%より4.4ポイント落ちているとはいえ、7割を超えているのであるから、まずは良い問題であったということができる。ただし、一昨年つまり2012年度はこれら2つのカテゴリーで84.9%に達していたから、2年連続で数ポイントずつ下がっており、気になるところではある。しかし、無回答校が昨年度は9校であったのに対し、今年度は13校と4校も増えているのをどう見るかという問題もあり、単純に比較することはできない。
今年度の問題は採石法という比較的馴染みの薄い法領域に関する問題であったにもかかわらず、「適切である」と回答した法科大学院の評価は非常に高い。たいていは、「行政法の基礎知識があれば解答できる」とか「細かな判例知識を必要としない」といった趣旨の意見を寄せている。それは結局、問題文と資料をしっかり読めば自分の頭で論理を組み立てられるはずだ、それだけの材料は与えられているということである。
「どちらかといえば適切である」と回答した法科大学院も、同じようにかなり高い評価をしている。「適切である」のカテゴリーと比べた場合の違いは、問題文がやや長いことを指摘する意見が散見されることである。また、問題の量についても、やや多いという意見がいくつか見られた。より具体的に、訴訟形式と訴訟要件充足性について問う設問3で時間不足に陥る受験生が多いのではないかとの危惧を表明した法科大学院があった。
「どちらともいえない」と回答した法科大学院についてみても、問題の質に対する評価はけっして悪くはない。寄せられた意見が4件のみであるから、大きな傾向を読み取ることはできないが、問題量が多すぎると評価した法科大学院が2校あった。問題の量という観点は「どちらかといえば適切である」のカテゴリーと共通しており、どちらのカテゴリーで回答するか、回答者としては難しいものがあるかもしれない。
「どちらかといえば適切でない」と回答した法科大学院は2校のみであるから、これまた大きな傾向を読み取ることはできないが、問題がよく「練られている」こと自体は否定されていないように思われる。問題文最後の「弁護士のFの立場に立って」という制約の射程が定かでないとの指摘があったことを特記しておく。
「適切でない」と回答した法科大学院は1校のみであるが、その意見において2点重要な指摘がなされている。まず第1点は、採石法をそのまま素材としたのでは、これを講義で取り上げた法科大学院の出身者と取り上げなかった法科大学院の出身者とでは、解答のし易さに差が出るので、架空の条文を素材にする等の工夫を要するということである。そして第2点は、設問3で訴訟要件まで問うたがために、実体的解釈についての深い考察が法科大学院生の間で軽視される傾向を助長する結果になったのではないかということである。いずれも傾聴に値するが、この指摘を直ちに受け容れて作問方針の変更に結び付けるのは容易でないように思われる。なお、この意見においても、今年度の問題が個別行政法の実体的解釈を問う良問であることは認められており、上記の提言はそのことを前提としたものである。
(2)民事系
(a)民法分野
論文式の民法分野について回答があったのは62校であり、10校が無回答であった。適切とするのが33.4校(53.9%。昨年度は43.4%)、どちらかといえば適切とするのが21.3校(34.4%。昨年度は44.3%)、どちらともいえないとするのが3.3校(5.3%。昨年度は9.0%)、どちらかといえば適切でないとするのが2校(3.2%。昨年度は1.6%)、適切でないとするのが2校(3.2%。昨年度は1.6%)であった。本年度は適切・どちらかというと適切とするパーセンテージが昨年度と同様85%を超えている。
自由記述欄の個別意見の中で肯定的理由としてあげられているものの多くは、基本的な事項の正確な知識を問うものである、法科大学院の授業内容に対応している、現場での思考力・分析力が試される問題である、といった指摘にほぼ集約される。これは、昨年度とほぼ同様である。今年度は、出題分野に偏りがないことを評価する意見も複数あった。
他方、今回の出題に対する疑問点・改善すべき点としては、現場で考える時間が必要である等の理由から問題の分量が多いという指摘がみられた。また、現場での思考力・分析力を要求する出題のあり方についての反対意見も複数あった。
以上のように、改善に向けての意見も寄せられているが、全般としては肯定的な意見が多数を占めていた。
(b)商法分野
論文式試験の商法分野について回答のあった法科大学院は62校(昨年より5校の減少)で、10校が無回答であった。
回答した法科大学院のうち、「適切である」との回答が27校(43.5%。昨年より4校の減少)、「どちらかといえば適切である」との回答が26校(41.9%。昨年より2校の増加)であり、肯定的な回答をした法科大学院の数は昨年より減少したが、その割合は、昨年が82.1%だったのに対して、今年度は85.5%であり、3.4ポイント改善された。
これに対して、「適切でない」とする回答は1校(1.6%。昨年より1校の増加)であり、「どちらかといえば適切でない」とする回答は0校(昨年より1校の減少)で、否定的な回答をした法科大学院の数は昨年と同じく1校であった。なお、「どちらともいえない」との回答は8校(12.9%。昨年より3校の減少)で、必修科目の中で最も多かった。
「適切である」、「どちらかといえば適切である」と考える理由としては、基本的かつ重要な会社法上の論点について、詳細でやや複雑な事実関係に基づいて自ら論点を発見して検討することが求められており、問題発見能力と解決能力の双方が適切に問われていること、登記簿を資料としたことは実務に根ざした教育という面から評価できること、同族的閉鎖会社の実態を反映した実務でありそうな事案を取り扱っていること、があげられている。しかし、肯定的な回答の中にも、論点が多すぎることを懸念する意見が多く(昨年より明らかに増えている)、さらに、事実関係が不必要に込み入っていることや、事実6の記述が不十分で事実の把握につき受験者に混乱を招いていないかを危惧する意見があった。これで、本当に問題として適切であったと評価できるのか疑問であるように私には思える。
「どちらともいえない」とやや消極的な評価をした回答が、基本的な問題だが、論点が多すぎて、試験時間内に十分な解答を行うことが難しく、事務処理能力に比重がかかりすぎていることを疑問点としてあげていることは、例年どおりであるが、今年は、これに加えて、事実関係が錯綜して把握しにくいこと、事実6の記述が曖昧で受験生を不必要に戸惑わせることを懸念する意見があった。
上記の懸念される点を突き詰めて考えると、今年の試験問題は悪問であり「適切でない」と評価した法科大学院の意見に行き着くことになる。
基本的な問題だが論点が多すぎることは、ここ数年、指摘し続けてきたことだが、改善される気配はない。それどころか、今年の問題はさらに悪化している。私には、設問3でDの責任を問う出題意図が理解できない。まさか、取締役としての権利義務を負う(会346条)ことの知識の確認ではなかろう。しかも、その前提となるEの取締役選任の総会決議がないことが事実6からは明かでない。「Dは…Aと相談の上で、平成24年5月20日、…こととした」という事実は、どのように読むのが正しいのだろうか?私はてっきり、5月20日に役員選任決議を行う定時総会が開催されると思ったのだが、そうではないかもしれない。付記意見に、設問3の趣旨が仮に事実上の取締役(Eの?それともDの?)を問うものであれば不適切であるとの指摘があるのは、悪い冗談にもならない。 EやDの地位が明らかでないことに加えて、タチが悪いのは、どのような行為についての責任が問われているのかが明らかでないことである。受験生としては、責任が問題となりそうなすべての行為について、答案で挨拶しておかなければならないのか不安になる(特にDについて)。それにしては、配点が30%と低い。おそらくは、土地の所有権移転登記請求が代表訴訟の対象になるか(事実4・9)を聞きたかったのだろうが、それなら、Eの責任だけを問えば、問題としてすっきりするのに、何故、そうしなかったのだろう?個人的には、事実関係の記述は不適切だし、設問3で何が問われているのか理解できないのだが、アンケートの回答結果が良いことに鑑みると、これらは単に私の理解力不足に起因しているのだろう。
(c)民事訴訟法分野
総回答校72校のうち、無回答8校を除く64校中、「適切」と答えたのは38校(59.4%)、「どちらかといえば適切」と答えたのは17校(26.6%)、「どちらともいえない」は5校(7.8%)、「どちらかといえば適切でない」は4校(6.3%)、「適切でない」は0校である。
「適切」と「どちらかといえば適切」との回答を合わせると、55校(86%)であり、他の科目とほぼ同様の数字である。ただ、9割近い法科大学院が肯定的な評価をしており、民事訴訟法に関しては、論文式の試験問題についても、適切であると評価されているといえのではないか。ただ、この数字は、昨年が58校(89.2%)、一昨年が62.5校(93.3%)であり、3年連続で減少しており、昨年に比べても3ポイント減少している。なお、今年も昨年に引き続き、「適切でない」と回答した法科大学院はなかった。
次に自由記載欄からみると、「適切である」と回答したものの中には、「判例の規範を具体的に当てはめさせる良問」、「基本的知識に関する正確な理解と応用力、さらには実務的センスまで問うことができる問題である」、「法科大学院における標準的な学修内容をふまえており、かつ学力の定着を適切に識別できる」、「ポピュラーな問題であり、真剣に勉強していれば回答可能なもの」、「判例百選に収録されているような基本判例を素材に考えさせる問題になっている」、「既判力の意義を根本的に考えさせる良問」、「実務に連動する重要な領域である和解についてのテーマは適切」等の積極的評価が目立った。また、問題点を指摘した回答はなかった。
「どちらかといえば適切である」と回答したものの中には、上記と重複する肯定的な意見が多かった。ただ、それと同時に「問2は手続法の本質に関するものとはいえず、民事訴訟法の能力を見る問題としては、やや適切性を欠く」、「問3の誘導がやや不適切」、「論点が多岐にわたり、試験時間との関係で解答の負担が過重になることが懸念される」、「例年より難易度が低くなっているように思う」といった回答もみられた。
「どちらともいえない」と回答したものの中には、「分野として適切であったかどうか疑問がある」、「問題の趣旨も読み取りにくさがあった」、「2年連続して判決効に関する類似した問題が出されており、もう少しバランスよく出題すべきである」、「やや実務的な志向が強い」といった一般的な意見のほか、とくに問3について、「訴訟上の和解という、授業の内容・構成としては、おそらくマイナーな領域に固有の論点を問うたり、既判力の範囲というメジャーな領域に含まれる論点ではあっても、相当の学習の積み重ねを要する議論を検討させることに、法曹となり得る基本的な資格を有しているかを判断すれば足りると考えるべき司法試験の趣旨に照らし、かなり高いハードルを課すことを強いるものとはならないか」といった回答があった。
「どちらかといえば適切でない」と回答した法科大学院は4校あったが、問題点として、「民訴の理論上の本筋に関する問題とはいえないため、この問題では受験者が本当に民訴を理解しているかどうかがわらない」、「設問3は一部の学説に偏っている」、「ここまで踏み込んだヒントを与えたのでは、何をどのように論ずべきかについて筋道がつけられているようなもの」という指摘のほか、具体的な設問につき、設問1に関して「L1『訴訟上の和解に表見法理を適用することの可否に限定する』とその後のL1『我々の側として用意できる法律論』が同じなのか、それ以外の法律構成を求めているのか、不明確に思える」、設問2に関して「相手方弁護士が当事者本人の意思確認をしないで締結した和解の効力争わせないという法律構成を受験生に求めることが、はたして、法曹の資質を問う司法試験の問題としてふさわしいのか、違和感を感ずる」、設問3に関して「例えば、民訴117条を参考にする説と一部請求を相互に比較して解答した場合に、どのように評価されるのかに関し、試験の総括として示すことが望ましい」、さらに本設問全体について、「訴状副本等がB社の本店所在地の住所に宛てて送達され、同社の従業員が受領した旨の送達報告書が作成されているとされ、本件口頭弁論には限にCがB社の代表者として出頭し答弁をするな度するということは、実際には考え難い非現実的なことであり、無理がある設定」といった回答があった。
(3)刑事系
(a)刑法分野
刑法・論文式には67校からの回答があった(昨年度66校)。
回答内容は、「適切」37.5校(56.0%。昨年度32.9校)、「どちらかといえば適切」19.5校(29.1%。昨年度26.1校)であり、併せて積極的評価を示すものが57校(85.1%。昨年度59校)である。昨年度と比べて微減した(昨年度89.3%)が、一定の積極的評価が与えられていることを意味すると思われる。
「どちらともいえない」とする回答は3校(4.5%。昨年度5校)であり、「どちらかといえば適切でない」は6校(9%。昨年度1校)、「適切でない」は1校(1.5%、昨年度1校)であった。
付記意見をみると、好意的・積極的評価の理由としては、「刑法理論の正確な理解が具体的な事実関係に即して問われており、単なる論点の丸暗記では対応できない設問」、「問題文が短めで平易である一方で、細部では自分なりに考えて結論を出す必要もあり、受験者の実力を試すのに適切な出題」、「法学未修者でも、3年の教育課程をまじめにとりくめば対応できる問題」、「基本的な理解及び常識的な判断力があれば解答が可能な範囲内で、問題発見の能力や事実評価の能力等が深く問われる内容となっている」、「刑法総論・各論の双方の観点から考察検討を求めており、法科大学院でのしっかりとした学習の度合いを測る良問と思われる」、「全体的には、具体的な事実に基づいて考えさせる部分が多く、基本事項の正確な理解とその応用力を見るのに適した問題であると思われる」といった形で、法科大学院教育の成果を判定するのに適した質及び量を備えた問題であるとの指摘が多かった。
他方、批判的な意見としては、例年見られる「若干難易度が高い感がある」、「論点にやや偏りが見られる」、「少々細かすぎる問いもあった」、「若干、検討すべき論点が多いような印象を受けた」、「所定の時間内に答案を受験生が納得する内容で完成させることはかなり困難であったのではないか」といった論点の多さや時間内での回答の困難さを指摘する意見が、今年度もいくつか寄せられた。また、今年度は、「事案としてはやや不自然な印象を受けるところがないではない」、「設例に事実として不自然であったり、現実性の乏しかったりする部分がある」、「事実を詰め込みすぎの感があり、特に乙の関与等、実務ではあまり考えられない事例となっている」、「客を探す空車のタクシーが歩道上の客を轢くなど、設定に無理のある設問になっている」など、状況設定の不自然さを指摘するものが目立つ(もっとも、この点に関しては、「試験問題という制約があることからすれば許容範囲」、「考えさせるために、事実関係の設定が技巧的になるのはやむを得ない」といった意見もあった)。 更に、「事案の処理という実務家に要求される能力を図る問題としては、理論的関心に重点が置かれ過ぎている面があるように思われる」、「問題文に殺意の存在が明示されてしまっており、旧司法試験の論点型問題に回帰した印象を受ける」、「もっと基本的でかつ現実的な問題を深く考えさせる出題をするべきである。刑法学者を養成するのではなく実務法曹となるための基礎力を試す試験であることを出題者は銘記するべきである」、「理論的な関心に強く引きずられ、策に溺れた作問になっており、実務家登用試験としての性格を見失っている。解答時間に対する配慮も足りない。失敗作と思う。法科大学院教育の目指すところとは異なり、いわゆる『論点』について要領のよい、答案を手早くまとめることができる能力を重視しているように思える。もう少し基本的かつ単純な問題が望ましい」といった厳しい意見も見られた。もっとも、他方で、「事実の分析と条文への当てはめを丁寧にすることを求めている点で、実務家の適性を問うのに適切であると感じられる」、「素朴で実質的な問題であり、現行の司法試験当初の問題に復したようで受験者の実力を測るため有益であると考える」といった対照的な意見も見られる。
なお、評価方法との関係で、「仮定的因果の扱い方に定説がない現状では、『回避可能性』がなければ『結果』がないと言い切る見方も無視はできない。甲の翻意も乙の行為も全てが無意味かも知れず、終盤の諸事情を切り捨ててしまうような解答をどう評価するのかが気にかかる」との指摘が見られた。
(b)刑事訴訟法分野
刑事訴訟法・論文式には65校からの回答があり、昨年度65校とほぼ同様であった。
回答内容は、「適切」とするのが37.5校(57.7%。昨年度は65校中33.6校)、「どちらかといえば適切」が25.5校(39.2%。昨年度は24.4校)であり、併せて積極的評価を示すものは63校(96.9%)に及んでいる。昨年度は65校中58校(89.2%)、一昨年度は62校中54校(87.1%)であったから、積極的評価をした法科大学院を比率で見ると、一昨年度はもとより、昨年度をもかなり上回っている。
他方で、「どちらともいえない」とする回答は1校(1.5%。昨年度は5校)であり、「どちらかといえば適切でない」および「適切でない」とする回答は、それぞれ、1校(1.5%。昨年度は2校)、0校(昨年度も0校)であった。
回答に付記された理由は、法科大学院で履修している基本的な知識の応用能力を試す問題として、難易度・出題分野の分布ともに適切であったとするものが多かった。特に、例年に比べて、設問2について、実務的・当事者的観点からの出題として高く評価する意見が多く見られた。具体的には、「単に知識を試す問題ではなく、具体的事実をいかに適切かつ丁寧に摘示できるかといういわば事実認定能力をも重視しており、良問であると考える」、「事実が持つ意味を考えさせたうえで判断を求める問題である。また、刑事系でははじめて、当事者の視点に立った問いが設定されている」、「単なる抽象論の丸暗記ではなく、具体的事実関係に即した思考力を問うための工夫がされており、非常に良問であると感じた」、「〔設問2〕について、訴因変更の要否と可否の問題につき、判例の規範を覚えているだけでは十分な解答はできず、現場での応用力が問われている点で、とくに、手続の流れに沿って解答させる問題であり、実務科目の修得の程度が問われている点で、適切であるといえる」、「訴因変更の要否に関して、検察官に対する行為規範としての見地から問う姿勢は、実務基礎教育における修得内容も重んじる傾向を示すものであり、法科大学院教育の成果を問うものとして適切である」、「訴訟が動的なものであることを意識させる良問だと思う」、「実務上重要な証拠法の分野からの出題が無かったが、その分、公判前整理手続や検察官の講じるべき措置を問うことによって実務的観点が問われたのであろう」といった意見である。
もっとも、設問2について、「設問2は、実際に問われていることは非常に単純であるが、出題の趣旨を読み取るのに戸惑うかもしれない。もっと分かりやすい問を立てるべきであろうと思われる」、「設問2について、訴因変更の問題を検察官の立場から回答させるというのは良問であろうが、設問形式のゆえに戸惑った受験生も多いのではなかろうか」といったかたちで出題趣旨の把握の難しさを指摘する意見もあった。
また、証拠法に関する出題がなかった点については、出題分野の偏りを懸念する意見がみられた。「証拠法の分野もバランスよく出題したほうがより適切であろう」、「証拠法について全く問題がなかった。はたしてこの問題で、受験者の刑訴分野の学修を測ることができるといえるか、疑問である」といった意見である。
なお、回答すべき分量の多さに対する批判は減ってはきたものの続いている。具体的には、「2時間の試験時間では十分な論述をするのに足りないと考えられる。十分な時間を与えてじっくり論述させる方向にシフトすべきではないか」、「実務に即した出題で適切であるが、問題が長過ぎる」、「評価が必ずしも容易ではない事案なので、きちんと分析し評価するには時間が不足したのではないかと思われる」、「時間との関係で回答すべき内容が多く、過度に事務処理能力の評価に傾く結果となる点では、問う事項数を減らす形での改善が求められる」、「時間内解答としては負担が重くないかと思われる」といったものである。
(4)知的財産法
知的財産法について回答があったのは45校であり、27校からは回答がなかった。適切とするのが15校(33.3%。昨年度は30.4%)、どちらかといえば適切とするのが20.5校(45.6%。昨年度は27.2%)、どちらともいえないとするのが7.5校(16.7%。昨年度は23.9%)、どちらかといえば適切でないとするのが1校(2.2%。昨年度は16.3%)、適切でないとするものは1校(2.2%。昨年度は2.2%)であった。回答をした大学院のうち約8割が適切・どちらかといえば適切を選択しておりが、昨年と比べると2割ほど割合を上げている。
肯定的意見としては、基本的な知識を問いつつ、適切に応用力も求めているという意見におおむね集約される。これに対して、疑問点・改善すべき点としては、問題の分量の多さ、あるいは肢問数の多さを指摘する意見が複数見られた。難易度については、難しすぎる、易しすぎるという意見もあったが、肯定的意見も含めると適切とする意見が多数を占めた。
以上のように、改善に向けたコメントもあったが、全体的に見て肯定的な意見が多数を占めていた。
(5)労働法
アンケート結果は、回答校47校を母数とすると、24校(51.1%)が「適切」、16校(34.0%)が「どちらかといえば適切」としており、両者を合わせると40校(85.1%)が肯定的に評価している。他方、「不適切」との回答が1校(2.1%)、「どちらかといえば不適切」が2校(4.3%)で、「どちらともいえない」としたのは4校(8.5%)であった。「適切」及び「どちらかといえば適切」という肯定的評価の比率は、2007年が75.6%、2008年が76.8%、2009年が90.6%、2010年が73.8%、2011年及び2012年がともに76.5%、2013年が85.1%であり、本年は、極めて高評価だった2009年には及ばないが、2013年とほぼ同程度に肯定的評価が多い年となった。また、「適切」との評価の比率は経済法に次いで高くなっており、「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせた回答の比率は選択科目中最も高くなっている。
問題の内容についてみると、第1問は、経営不振の企業が行った、職種変更を内容とする配転命令の効力、及び早期退職と職種を変更しての再雇用等の提案を拒否した労働者に対する解雇の効力等(いわゆる変更解約告知に関する留保付き承諾の取扱いを含む)を問うたものと思われ、第2問は、労組法と労基法における労働者概念の異同についての理解を記述させたうえで、具体的事案の中での労働者性の具体的な検討を求めたものと思われる。これら両問を通じたコメントとして、肯定的に評価した回答において挙げられている理由としては、問題の難易度が法科大学院の教育内容からみて妥当なものであること、上記のような基本的で重要な論点が取り上げられていること、最近の重要な判例の理解をベースにした出題となっていること、法的ルールに照らした事案の分析を行うことが求められていることなどが目立っており(ただし、事案の内容につきより明確にすることが求められるとの意見もあった)、その他に、解答時間との関係での問題の分量についても適切であるとの理由もみられる。
もっとも、第2問に関しては、労基法と労組法における労働者概念の異同という論点を直接示してその解説を求めている点、事案の分析についても、法的手段(請求)を考えさせつつそれに関して問題となる点を探求させる形のものになっていない点、法理としてまだ確立していない論点が取り上げられている点(第1問についてもおおむね同様の指摘があった)などにおいて、第1問に比べて批判的な指摘が目立っている(「不適切」・「どちらかといえば不適切」という回答が昨年に比べてわずかながら増加したことには、この点が影響しているとみられる)。
以上を総合すれば、本年の問題の内容と難易度は、例年と同様に適切なものであったとして高く評価できるものではあるが、第2問については、特に出題形式に関し、現在の司法試験制度の趣旨に含まれるであろう、法律実務家となるにふさわしい発想力や思考力を判定するという観点などからみて、検討すべき課題を若干残しているように思われる。
(6)租税法
回答を寄せた34校のうち、14校(41.2.%)が「適切」、11校(32.4%)が「どちらかといえば適切」、6校(17.6.%)が「どちらともいえない」と回答し、「どちらかといえば適切でない」が2校(5.9 %)、「適切でない」と回答したものは1校(2.9 %)という結果であった。無回答が37校、52.1%、と過半数に及んでおり、昨年同様、他の選択科目と比べて率が高いのが気にかかる。本年は、「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると73.6%となり、昨年の78.3%には及ばなかったが、一昨年の61.5%に比べるとかなり高い評価となった。昨年まで、租税法では、「隔年現象」(良くなったと思えば翌年また下がる)が続いていたが、本年については、昨年と引き続き、安定した出題となっているとみることができよう。
「適切」であるとした回答に付記された意見を見ると、「基本的な論点について、奇をてらうことなく標準的なことを聞いている。分量も適切である。」「具体的な事例を通じて、租税法の基本的な法的構造及び基本的な法的問題の理解を問う構造になっていた点が評価できる。」「受験生の多様な能力を見ていこうという出題の狙いがよくうかがわれる。」「内容・分量ともに適切であり、偏りもないと言える。」等、高く評価されていることがわかる。
「どちらかといえば適切」との回答に付記された意見の中でも、「日頃の学習において単に法令の内容を暗記するのにとどまらず法の趣旨や学説に留意することを求める姿勢が現れている点で、きわめて適切だと考えられる。」「他の国家試験と比して難易度の点に置いて適切と考える。」との高い評価がみられるが、他方で、「内容は適切であると考えますが、やや分量が多いのではないか」、「第2問については、裁判例にはあるものの、やや特殊な事例についての出題であるようにも思える。」「第1問設問3や第2問設問1は、通常の法科大学院生が勉強していることを期待するのはかなり困難な、新しい裁判例に題材を採っており、これらの判決の知不知で試験成績に大きな影響を及ぼしうる点で、やや問題であるように感じる。」等の指摘もみられた。また、「どちらともいえない」との回答に付記された意見も含め、「所得税法と法人税法とで出題のバランスを配慮されることが望ましい。」「バランスの点で所得税に偏っていた。」「法人税の問題の比重が小さすぎる。」との、例年同様の意見がみられた。
また、「どちらかといえば適切でない」あるいは「適切でない」との回答に付記された意見の中には、「『趣旨』に基づく解釈適用を問うことは、現実には必要な場合もあるとは思いますが、司法試験の問題としては疑問があります。」「一般に教えない政・省令・通達に関する出題は適切でない。」との指摘があった。
本年度の租税法の問題は、現実に生じている問題状況を踏まえ、近時の裁判例を素材として、租税法の解釈・適用の基本的理解を適切に問う出題になっているという観点から、概ね高い評価がなされている。法人税の取り上げ方・比重等の課題は相変わらず存すると考えられるが、今後も法科大学院の標準的な教育課程を踏まえた安定した出題がなされることが望まれよう。
(7)倒産法
総回答校72校のうち、無回答22校(30.6%)を除く50校中、「適切」と答えたのは16校(32.0%)、「どちらかといえば適切」と答えたのは21校(42.0%)、「どちらともいえない」は6校(12.0%)、「どちらかといえば適切でない」は6校(12.0%)、「適切でない」は1校(2.0%)である。なお、無回答が22校(30.6%)あり、この数字は必修科目に比べれば多いが、この傾向は他の選択科目にも共通して見られる点である。
「適切」と「どちらかといえば適切」との回答を合わせると、37校(74.0%)である。この数字は、昨年が43校(86.0%)、一昨年が43校(81.1%)であり、昨年に比べて12ポイントの大幅な減少となっている。
次に自由記載欄からみると、「適切である」と回答したものの中には、「具体的設問であり、実務でも問題となり得る事例設定である」、「法科大学院での学習内容が踏襲されており、設問も広い分野から問われている」、「バランスのよい出題」、「条文の正確な理解を問う問題、基本判例をベースにした問題、論理的な思考を問う問題が織り交ぜられている」、「破産法、民事再生法にわたり、基本的な条文の規律や概念の理解を問うている。また、問題文に示される、あてはめの段階で考慮されるべき事実関係にも工夫が施されている」等の積極的評価がなされている。それに対して、問題点を指摘する回答は見られなかった。
「どちらかといえば適切である」と回答したものの中には、「条文や制度の理解、破産法と民事再生法の規律の違いなど、基本的な事項を問題としている」、「幅広い理解を問うもので適切である」、「基本的理解を前提として応用力を発揮させることができる優れた問題」といった積極的な評価が多かったが、他方で、第2問は適切であるが、第1問は、細かい設問が多く、やや難易度が高すぎるととする回答が多く見られた。その他「第1問の設問2は、倒産法の理解を問う問題としては適切とはいえない」、「特定の演習書の問題意識が強く反映されてしまっている」、「倒産法の問題というより民法の問題であり、また、事案設定に若干の違和感がある」、「出題論点がややマイナーな印象がある。より基本的な論点からの出題が望ましい」といった回答もみられた。
「どちらともいえない」との意見の中には、積極的な評価をした回答はなく、「倒産法の基本的な理解を適切に図ることができるか疑問」、「どちらかというと手続法分野に重点を置いた設問が多く、倒産実体法の基本的事項について正確な理解と総合的な思考力を試すような問題を含めた方がベターであった」、「第1問は設問内容がやや変則的で法科大学院の予習内容とずれていないか」、「時間内(3時間)では回答を終えることができないのではないか」、「第1問設問1及び2のような事態が実務で生じるのは極めて稀と思われ、授業でもほとんど触れない問題」といった問題点を指摘する回答が目立った。
「どちらかといえば適切でない」と回答した大学院は6校あったが、「奇をてらう出題である」、「第1問が受験生には難しい」、「授業の進行との関係で、選択科目としての時間的制約からは、手続よりもまず実体法の問題を優先して頂きたい」、「破産の設問1は、法科大学院で修得した基礎学力で対応するのは難しい」、「(設問の題意を)3時間で処理することは、法科大学院での通常の倒産法の教育内容として想定されるレベルに相応しいものなのか、顧みて検証したい」、「試験時間内での解答をするには問題の質・量が適切でない」、「やや難易度が高すぎる」といった回答があった。
「適切ではない」と答えた法科大学院は1校あったが、「第2問は適正と考えるが、第1問の設問1と2は、実務的に極めて稀にしか生じない事態について問う問題で、破産法の基本的な思考と関連性がなく、偶々勉強していたかどうかで良否が別れてしまう問題であり、凡そ適切とは言い難い。昨年に続いて、受験生に酷な問題であるといえる。他の科目のように、全問、基礎的な理解力を問う問題に転換すべきである」という意見であった。
(8)経済法
経済法について、回答のあった法科大学院は42校(58.3%。昨年より1校の減少)で、無回答は30校(41.7%)であった。
問題が「適切である」と評価したのは25校(59.5%。昨年より13.5校の大幅増加)で選択科目の中で最高の数字である。「どちらかといえば適切である」と評価したのは9校(21.4%。昨年より9校の減少)で、肯定的な評価(34校)が回答のあった法科大学院の8割超を占めた。これは選択科目全体の平均値の76.9%を約4ポイント上回っており、労働法、環境法に次ぐ高い数字である。他方、「適切でない」との回答は昨年に引き続いて0校で、「どちらかといえば適切でない」との回答は1校(2.4%)で昨年より4校減少した。なお、「どちらともいえない」との回答は7校(16.7%。昨年より1.5校の減少)であった。
「適切である」、「どちらかといえば適切である」とする回答は、独禁法の基本的知識と基本的な要件の当てはめを問うオーソドックスな問題で、法科大学院における教育内容に沿った出題であること、を肯定的に評価する理由としてあげる。
問題のレベルについて、肯定的な回答が適切あるいはやや易しいと評価するのに対して、「どちらともいえない」とする回答には、よく練られた問題だが、少し難易度が高いとする複数の意見があった。
「どちらかといえば適切でない」とする回答は、問1の占有率リベートは教科書等の解説が十分でなく難しいのではないか、問2の基本合意と競争の実質的制限の推認も、推認方法が最高裁判決により統一されたと言いがたいため迷いが生じうることを否定的に評価する理由としてあげている。問2については、法科大学院の授業内容を理解していれば解答できるとの意見がある一方で、法解釈の基本的素養を試験する司法試験の問題として適切かを疑問とする意見もあった。
個別の意見としては、課徴金を出題しなかったことについて、肯定に評価する意見と、出題を求める意見とがあった。また、受験生の思考力を問う出題を求める意見があった。
(9)国際関係法(公法系)
回答40校中、適切と評価するもの7校(17.5%)、どちらかといえば適切であるとするもの20校(50%)で、積極的に評価するものが67.5%となっている。他方で、適切ではないという評価はなかったものの、どちらかといえば適切でないとするものが7校(17.5%)に増えており、そのほかどちらともいえないとするものが6校(15%)あった。昨年度と比較すると、判断を保留する評価がほぼ横ばいで(17.1%から15%)、積極的に評価するものの割合が昨年度から引き続き減少する一方(75.6%から67.5%)、その分、消極的な評価が増加した(7.3%から17.5%)といった点が今年度の特徴である。
第1問は、軍艦の無害通航権、私的武装集団の行為に起因する国家責任の帰属、集団的自衛権のような武力行使の正当化事由など、第2問は条約の国内適用可能性、一方駅行為の国際法上の意義、政府承認の要件など、それぞれ国際法上の基本的な論点が問題内容となっている。設問それ自体は「個別具体的な条文解釈を求めながら、同時に国際法の基本的な問題について考えることを求めており」、「現実的な事例で基本的な論点」を問うものとして適切であったとの意見がある。「どちらかといえば適切である」とした評価でも、「事例内容はやや込み入っているが、国際法原則に関する多角的理解がバランスよく問われている」、「古典的かつ時事的問題であり、必ず講義内で触れられる(べき)論点で‥‥根拠条文もはっきりしており、受験生にとっても普段の勉強の成果が問われるという意味で良問である」、「幅広い分野の理解を問うもので、難易度もおおむね妥当」といった肯定的な意見も見られた。他方で、積極的な評価とするものでも、「問題文中の事実は、受験生が短時間で理解し解答することを考えると、やや複雑すぎる」という声もある。第1問の問3について、「甲国の想定される反論のうち、どこまで触れることが求められているのか、やや判断に迷いを生じさせる問い」であり、「ただ単に自衛権行使の要件の適否だけでなく、甲国のとった措置の正当性又は違法性阻却事由‥‥にまで触れることが求められているとすれば、かなり深い内容が必要」であるとか、「論点が多岐にわたり、記述内容も多くなる」という懸念や、第2問について「仮想事案は工夫して作成してあると思われるが、問いに引きずられてやや回りくどく感じる」というのはその例である。「設例は一見複雑に見えるが、十分勉強していれば、小問の指示を通じて論点を的確に整理して解答することができる」という好意的な意見もあるが、事案の複雑さに加えて、「やや難易度が高いようにも感じられた」というのが、問題の適切さを肯定する評価が減少した一因であろう。
この点は、問題が適切ではないと評価した理由にも表れている。「枝問が多すぎる」、「問題が複雑で、難しすぎる」、「事実の設定が過度に複雑で錯綜している」、「受験生にとって意味が読み取りにくい、あるいは複数の解釈の可能性がある問いかけが多い」というのがその代表例である。より具体的には、第1問に関して、甲国の政府の声明の必要な措置の中身を機雷封鎖や阻止行動、武力による攻撃破壊というように特定したほうが受験生にとって通過通航、強化された無害通航、軍艦の領海通航など個々の議論に集中しやすくなったはずとの指摘もある。また、「時事的問題を取り上げた点は評価するが、第1問が集団的自衛権、第2問が武力紛争法というのは、‥‥問題に偏りがある」、「2問とも一見して有事(戦争)絡みの問題であり、バランスを欠いている」、「特に第1問については法曹実務で求められている国際公法の知識とは乖離している」というように、設例の対象が適切だったか疑問視する向きもある。結局のところ、「第一問も第二問も、現代的な国際穂上の問題が含められており、主題として概ね妥当であるが、それだけに受験生は何を想定して書けばよいか迷ったのではないか」ということがいえ、これは作問だけの問題ではなく、翻って、「これにしっかりと答えるだけの指導が法科大学院の国際法教育においてどれだけなされているか」という疑問を法科大学院側につきつけることになっている。
そのほか、設例を複雑化した弊害からか、事例中の出来事の時間的経緯につい不統一なところが見られたり(第1問について、原油生産施設破壊作戦は2013年秋で、乙丙間の安保条約の締結は「後に」とされ、丙国の空爆は一か月後とされている)、事実に不明確なところがあったり(第1問で、Y連盟の軍事拠点が乙国内にあるのか、甲国内に訓練基地があってそこに撤収したのかなど)、さらに法的評価が必要な事実かどうかが微妙な行為が含まれていたり(第1問で、Z軍部隊の行動開始の情報を乙国から入手したということにどのような意味があるのかなど)する点も設問の適切性にマイナス評価が与えられる原因であろう。受験生の立場からすると、第2問で、あまり見慣れない「上級軍人」という言葉を使うことも気になるところである。事実や用語は受験生から見てわかりやすく理解しやすいものでなければならないことは当然である。
以上、いくつかの点で改善すべきところがなお残されているということは言えるであろう。事実関係の複雑さや論点の多さから難易度は昨年より一層増しているという印象を与えており、これを反映して、今年度の問題について否定的な評価が増えていることに出題者にはぜひ留意していただきたい。例年と同じく繰り返しになるが、作問に関する出題者の努力には敬意を表するとともに、上記の課題を考慮に入れつつ、オーソドックスな事例問題を通じて、国際法の基本的知識に関する理解力、分析力および応用力を把握するような出題傾向が今後も維持されていくことを期待したい。
(10)国際関係法(私法系)
国際関係法(私法系)についての40校の回答のうち(そのうちの一つは匿名希望のものであった)、適切と評価するものが14校(35.0%)、どちらかといえば適切であるとするものが14.5校(36.3%。なお、端数は第1問と第2問につき分けて評価をした回答が一つあったことによる)となっており、積極的に評価するものは71.3%となっている。他方で、どちらともいえないとするものが7校(17.5%)、どちらかといえば適切でないとするものが4校(10.0%)、適切でないとするものはが0.5校(1.3%。なお、端数は第1問と第2問につき分けて評価をした回答が一つあったことによる)であった。
こうした割合を昨年度と比較すると、どちらかといえば適切であるとするものが増加したものの(27.1%から36.3%)、適切と評価するものがそれ以上に減ったため(47.9%から35.0%)、積極的に評価するものが全体としては減少となっている(75.0%から71.3%)。他方で、どちらともいえないとするものが減少する一方で(20.8%から17.5%)、どちらかといえば適切でないとするものが増加し(4.2%から10.0%)、昨年度は0であった適切でないとするものが現れたという点が(1.3%)、今年度の特徴として指摘できよう。
具体的な評価としては、一部の回答を除いて、第1問、第2問ともに国際私法に関する基本的な知識・能力を問うものであったという点、出題範囲のバランスの良さという点にも概ね高い評価が与えられている。この点、昨年度においては、平易にすぎるあまり受験生の能力を的確に選別できるか否かにつき疑問を付する回答があったが、今年度についてはそうした回答は見られなかった。
しかし、今年度については、一部の設例や設問につき、設例の現実性や適切性に対する疑問、さらには、出題の趣旨が受験生に分かりづらかったのではないかとの批判が、(全体としては積極的に評価する立場をも含め)多数寄せられており(特に第2問に集中しているが、第1問についても無いわけではない)、その点が消極的な評価の一因となっていたと言える。
この他、実務的な視点がより一層取り込まれるべきであるという観点からの評価あるいは批判が散見されたことも、今年度の特徴として挙げられよう。
以上、積極的な評価が大半を占めたことは前提にしつつも、しかし、消極的な評価が昨年度さらには今年度と漸増し続けていることをも勘案しながら、今年度に関する上記の指摘、特に、設例の現実性や適切性という点、受験生目線での設問の趣旨の理解しやすさという点における改善要請を十分に参考にしつつ、国際関係法(私法系)についての基本的な知識・理解を問うという枠組の下での適切な出題がなされることが、今後も期待される。
(11)環境法
回答を寄せた(当該分野に係る無回答を含む)72校のうち、「適切である」と回答したのが19校(26.4%)、「どちらかといえば適切である」が13校(18.1%)、「どちらともいえない」が6校(8.3%)、「どちらかといえば適切でない」が1校(1.4%)で、「適切でない」との回答は無かった。それに無回答が32校(44.4%)である。
「適切である」と「どちらかといえば適切である」を合わせると44.4%となり、昨年(74.4%)より30.0ポイントも落ち込んだ。一昨年つまり2012年度は80%、さらにその前の2011年度は92%であったから、2011年度と比べれば、半減していることになる。しかし、無回答の法科大学院が昨年は26校であったのに対して、今年は32校と6校も増えている。この数字を前にして単純な比較はできない。ちなみに、実際に回答を寄せた39校を母数として計算すれば、「適切である」と「どちらかといえば適切である」を合わせて82%になる。
実際、「適切である」あるいは「どちらかといえば適切である」と回答した法科大学院の意見を読むと、今回の問題の質に対する評価はかなり高い。どちらのカテゴリーの意見を眺めても、「基本」、「基本的」、「基本問題」といった語が目に付く。つまりは、いたずらに難解な問題ではないということであり、日頃の学習の成果を試すという趣旨からはたいへん優れた出題であったと評価できる。また、出題分野と論点の双方についてバランスがとれているという指摘もいくつか見られる。
では、「適切である」と「どちらかといえば適切である」の違い何に由来するのか。回答者の評価を分けたものは、やはり問題の量であろう。「どちらかといえば適切である」と回答した法科大学院の中には、これだけの数の問題を時間内にこなすのは難しいとの意見を寄せたところがいくつかある。そうした問題量の多さを懸念する声は、「どちらともいえない」と回答した法科大学院の意見において、一層切実なものになっているように感じられた。
「どちらかといえば適切でない」と回答した法科大学院は、たとえば行政法学上の届出の概念を知っていれば或る程度答えを導き出せてしまえる面があるところを捉えて、今年度の問題はやや知識偏重ではないかと評している。
以上。
司法試験等検討委員会委員(50音順、本報告書作成に関わった委員のみ)
小幡 純子(上智大学) 角田 雄彦(白鴎大学) 笠井 治(首都大学東京、主任)
交告 尚史(東京大学) 酒井 啓亘(京都大学) 高橋 直哉(中央大学)
幡野 弘樹(立教大学) 早川 徹(関西大学) 早川 吉尚(立教大学)
三上 威彦(慶応義塾大学) 山川 隆一(東京大学)
※割合計算の結果、各合計が100%とならないことがあります。