平成25年度司法試験に関するアンケート調査結果報告書
平成25年9月6日
法科大学院協会司法試験等検討委員会
1.まえおき
法科大学院協会司法試験等検討委員会は、本年5月に行われた第8回司法試験について、すべての法科大学院を対象としてアンケート調査を行い、全73校から回答(回答率100%)を得た。多忙の中、ご協力いただいた会員校の責任者・担当者の方々に厚く御礼申し上げたい。
調査は、これまでと同様、法科大学院教員の立場から見て、各科目の試験内容を適切と評価するどうかを尋ね、その理由の記載を求めるとともに、末尾に試験全体につき意見を記載してもらう形式で実施した。
この報告書は、回答集計と付記された理由・意見を取りまとめたものを各委員に送って関係分野についての評価を依頼し、その結果を報告書案にまとめて全委員に回覧した上で作成したものである。
回答校の割合は、短答式試験及び論文式試験必修科目については、ここ数年と同水準の90%程度、論文式試験選択科目については、61.1%(昨年度は62.5%強)に達し、高水準となっている。本アンケート調査が回数を重ね、法科大学院協会加盟各校に定着してきた結果といえる。これは、法科大学院制度に対して厳しい批判が向けられている現状において、各法科大学院が、法曹養成制度における司法試験のあるべき姿及びそのような司法試験と法科大学院教育との連関性について、実証的な検証が必要であるという強い意思を有していることをも示している。
回答内容全体を概観すると、短答式試験については「適切」「どちらかといえば適切」とする回答が併せて88.8%、論文式試験については、必修科目86.2%、選択科目74.8%であり、いずれも高評価を受けている。比較すると、一昨年及び昨年の数値は、短答式試験が一昨年87.3%、昨年度85.6%、論文式必修科目が同じく83.3%、85.5%、論文式試験選択科目が同じく82.9%、78.8%であるから、試験問題に対する積極的評価は、ここ3年間、高い水準で安定しているといえる。
しかし分野ごとに試験問題の評価をみてみると、短答式においては民事系の商法分野の評価が僅かに低く、論文式必修科目においては行政法分野の評価が僅かに低い。短答式及び論文式のいずれについても評価の高い刑事系とは格差がある。論文式選択科目においては、「適切」「どちらかといえば適切」とする回答の合計の割合を見てみると、労働法分野と倒産法分野がいずれも85%程度であるのに対して、知的財産法分野及び経済法分野が70%を割っており、他の分野は75%程度というように、ばらつきがみられる。
試験全体についての意見は、例年同様、個別教員の長文の意見が多く概要を示すことは到底できないが、概して各分野の試験問題の質及び分量が安定していることを認めつつ、法曹としての法的素養より知識の量を確認する傾向に陥っているとの批判は続いている。
試験制度とりわけ司法試験の合否決定等試験制度の枠組みや運営のあり方については、最終日に短答式試験を置く試験日程は受験者への負担が大きいとして、その改善を求める意見が多数あった。選択科目の廃止が検討されていることについては、受験生の負担軽減の観点から肯定的な意見も見られたものの、大多数は、新たな法曹養成制度や法科大学院制度の導入趣旨に照らして廃止に反対するものであった。予備試験を経由しての合格者が多数に及んでいることに対しては、予備試験の位置づけを慎重に検討するべきであるとの意見が目立った。
予備試験受験者の動向やその本試験結果は、司法試験制度及び法曹養成制度の在り方に大きく影響を与えると思われるから、その分析及び検討には、予備試験受験組の者の属性に関する必要な情報の公表が必要不可欠である。担当官庁にしかるべき考慮をお願いしたい。
また、政府の関連会議における検討において、本アンケート調査結果及び寄せられた意見等に十分な考慮を払われるよう要望したい。
※ 以下の記述中に、アンケート回答校数として小数点のある場合は、1回答校に複数の種別の回答があったことの反映であることを注記しておく。
2.短答式試験について
(1)公法系
(a)憲法分野
62校から回答が寄せられ、そのうち、「適切」と回答したものが26校(41.9%)、「どちらかといえば適切」が31校(50.0%)、「どちらともいえない」が2校(3.2%)、「どちらかといえば適切でない」が2校(3.2%)、「適切でない」としたものは1校(1.6%)という結果であった。昨年度は「適切」と評価した回答が24.6%であったところ、本年度は、昨年度に比べて評価が高くなっており、「どちらともいえない」、「どちらかといえば適切でない」、「適切でない」が、合わせて5校しかないため、広くほとんどの法科大学院から高評価を得ているということができよう。
「適切」であるとした回答に付記された意見を見ると、「出題範囲が満遍なく、また、問題の内容・水準も、憲法の基礎的学力を図る上で適当であると評価する。」「判例・学説についても、過度に細かい論点に拘泥していない点を高く評価する。」「基本を素直に問う問題であり、受験生の能力を比例的に測ることができる。」等の評価がなされており、「どちらかといえば適切」との回答においても、「各分野から基本的な内容の問題が出題されている。」「安定感がある。」等の同様の評価がみられるが、他方で、「正誤問題の一部の肢については、正誤が必ずしも明確に語れないものもあるのではなかろうか。」「学説の当否を聞く正誤問題が若干みられる点は問題である。」「学説の正誤を問う問題は、どうしても唯一の正答を導きにくい、…学説の当否を問う問い方はごく少数にとどめるべきであろうと考えられる。」との複数の指摘もなされている。
他方、「どちらともいえない」、「どちらかといえば適切でない」、あるいは「適切でない」とした回答に付記された意見では、「昨年度と比べると、判例に関する出題がかなり減っているように思われる。出題傾向を年ごとに変えることは適切ではないのではないだろうか。」との指摘や、問題形式として、8択等の問題が多いことについて、「少しミスをした受験生も、相当に実力の低い受験生も同じ結果となる…、実力を正確に測る形式のものとはいいがたい。」との指摘もあった。
概して、本年度の憲法短答式問題についての評価は大変高いということができようが、学説の正誤を問うことの難しさや、実力を正確に測るための問題形式の工夫については、今後も継続的に検討されるべきであろう。
(b)行政法分野
回答を寄せた(当該分野に係る無回答を含む)のは73校。「適切」と評価したのが30校(46.2%)、「どちらかといえば適切」が25校(38.5%)、「どちらともいえない」が8校(12.3%)、「どちらかといえば適切でない」が2校(3.1%)、無回答8校(11.0%)という結果であった。
「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると、84.7%に達する。この数字は、昨年度を9ポイント上回る素晴らしい数字である。全体としてたいへん優れた出題であったと言ってよいであろう。高い評価の要因としては、昨年同様、基本重視の姿勢を挙げることができる。
「適切である」に丸をつけた30校について言えば、ほとんどが「基本的」ないしは「基礎的」な事項に関する適切なレベルの出題であると評価している。「どちらかといえば適切である」に丸をつけた25校も、おおむね同様の評価をしているが、細かな知識を問いすぎているとの指摘もいくつかあった。
「どちらともいえない」と評価した8校(12.3%)中には、難易度にバラツキがあることを指摘するものがいくつかあった。また、問題数が多すぎるという指摘、問題文の量が多いという指摘、それに出題形式を単純化せよとの意見が見られた。このグループにおいては、全体として、受験者の負担が重い出題と評価されているように思われる。
「どちらかといえば適切でない」と評価した法科大学院からは、「条文無しで解答できなければならない問題と言えるかどうか」という視点が提示され、そうとは言えない問題が見られる旨の指摘があった。ただし、これは、問題の難易ではなく、素材選択の適切性という観点からの指摘であるように見受けられる。
(2)民事系
(a)民法分野
短答式の民法分野について回答があったのは65校であり、8校が無回答であった。適切とするのが33校(50.8%。昨年度は46.2%)、どちらかといえば適切とするのが27校(41.5%。昨年度は44.6%)、どちらともいえないとするのが5校(7.7%。昨年度は7.7%)、どちらかといえば適切でないとするのが0校(0%。昨年度も0%)、適切でないとするものは0校(0%。昨年度は1.5%)であった。適切・どちらかといえば適切と答えた割合は、昨年度同様約9割とかなり高い。
適切である・どちらかといえば適切であるという回答を寄せたもののうち、自由記述欄の個別意見の中で肯定的理由としてあげられているものは、ほぼ昨年度と同様であり、基本的な知識として必要な内容を的確に問うものであること、全体として分野のバランスが取れていることを指摘するものが少なくなかった。また、分野横断的な知識を問う問題や考えさせる問題があったことについて、評価する見解もあった。
これに対し、問題点を指摘する意見としては、一部、細かな知識を問う問題があった(とりわけ一般法人法に関する第7問)ことを指摘するものが目立った。また、予備試験の短答式の問題と一部重複しているが、同一水準を要求してよいのかという問題提起もあった。試験時間とのバランスを考えると、同一の問題の中で、肢問ごとに事案が異なるなど、受験生の負担が多いという意見も散見された。
以上のような指摘もあったが、全体としては、昨年度と同様、肯定的な意見が多かった。
(b)商法分野
短答式試験の商法分野について回答のあった法科大学院は68校(昨年より6校の増加)で、5校が無回答であった。
回答のあった法科大学院のうち、「適切である」との回答が23校(33.8%。昨年より4校の減少)で、短答式試験科目の平均値47.6%を10ポイント以上も下回り、全科目の中で最低であった。「どちらかといえば適切である」との回答が32校(47.1%)で、昨年より6.5校増加したが、両者を併せた肯定的な解答は80.9%で、昨年と比べて3.7ポイント減少し、2年連続の減少となった。
これに対して、「適切でない」とする回答は0.5校(昨年、一昨年は0校)で、3校(4.4%。昨年より2校の減少)の法科大学院が「どちらかといえば適切でない」と否定的な評価をしている。なお、「どちらともいえない」と回答した法科大学院は9.5校(14.0%)であった。
「適切である」、「どちらかといえば適切である」と考える理由として、会社法・商法総則・商行為法・手形法の各分野からまんべんなく出題されていること、全体として条文と判例を基にした基本的な知識を問う問題であり難易度も適切であることがあげられていることは、例年通りである。肯定的な回答の中にも、選択肢の一部に難易度の極めて高いものがあること(複数意見)、(設問としての難易度を調整するためか)組み合わせ問題が多いことを懸念する意見があった。
「どちらともいえない」、「どちらかといえば適切でない」とした回答が、条文の細かな知識を問う問題が多いことを否定的に考える理由としてあげているのも、例年通りである。
個々の設問では、社債等振替法の出題(第40問)について疑問を呈する複数の意見があったが、これは、振替法の細かな条文の知識を問うかのような選択肢が含まれていることへの懸念と思われる。また、第45問について、知識頼りでなく論理的思考力を試す設問として評価する意見と、不適切とする意見とがあった。個人的には、論理的思考力を試す設問があって良いとは思うが、第45問がそのような設問かというと、首をかしげざるをえない。
結論として、昨年同様、「基本的」な知識を問う出題であることは評価できるが、やや「知識」偏重に陥っている点が懸念されるということが、回答の全体的な意見であったとまとめることができよう。
(c)民事訴訟法分野
73校から回答を得たが、無回答が8校(11.0%)であった。したがって、それを差し引いた65校のうち、「適切」と答えたのは31.5校(48.5%)、「どちらかといえば適切」と答えたのは25.5校(39.2%)、「どちらともいえない」は6校(9.2%)、「どちらかといえば適切でない」は2校(3.1%)、「適切でない」は0校である。
「適切」と「どちらかといえば適切」との回答を合わせると、57校(87.7%)であり、民事訴訟法に関しては、多くの法科大学院が短答式の試験問題の内容を評価しているといえる。なお、この数字は、昨年が61校(92.4%)だったのに比べると減少しており、また、一昨年の数字62.66校(94.9%)と比べても、ここ2年間連続して減少している。ただ、それでも9割近くの学校が試験問題の内容を評価しているのであり、出題内容は、依然として多くの法科大学院に評価されているといえる。
自由記載欄でも、「適切である」と回答したものの中には、「基礎的な知識を幅広く満遍なく問う問題である」との評価が多かった。その他、「学説状況、判例の射程をも問うている」「法科大学院の授業レベルに適合するものである」「すなおに考えて解答できる問題」「論文試験では問えない実務に必要な具体的知識について全体から問うている」といった肯定的な回答がみられた。ただ、56問の選択肢5の「移送の申立てにより」の言葉使いは誤解を与える、64問は、実務上の重要度は理解できるものの、民事訴訟法に関する基本的知識とまでいえるかどうか、疑問である、といった具体的な指摘も見られた。
それに対して、「どちらかといえば適切である」と回答したものの中には、肯定的評価を前提としているものとは思われるが、むしろ問題点を指摘する回答が多かった。たとえば、「細かい知識を問う問題がある」「条文の内容をそのまま問う問題がやや多かった」「知識のみで回答可能な問題が多く、思考力を問う問題が少ない」等である。また、具体的な問題を挙げ、その問題点を指摘したものもあった。たとえば、56問の選択肢5は「移送の申立てにより」ではなく「移送の申立てがなされても」とすべきではないか、58問の4では、訴訟脱退に被告の同意は不要だとする学説も存在するのではないか、62問のオでは、これらの複数の選定当事者が固有必要的共同訴訟人の関係に立つ場合には全体との関係で訴訟は中断するのではないか、63問の設問の下から2行目に「抗弁を含まないもの」というのは「抗弁を含まないものないしは抗弁とはなり得ないもの」とするか、いっそ「抗弁とはいえないもの」とした方がよかったのではないか、71問は細かすぎるのではないか、等である。
また、「どちらともいえない」と回答したものの中には、「適切な問題もあるが、たとえば管轄や送達等について、六法を参照しないで解答させるには無理のある、かなり細かい問題もある。」「やや実務的な細かい点の暗記を必要としている」をはじめとして、細かな知識を問いすぎているとの意見が多かった。その他、「単に条文の知識のみで解答できるようなものは、出題する意味があろうか。」また、「もう少し問題を絞り、基本的な法概念、制度趣旨などを考えさせる出題というのは実現可能性はないか。」といった回答もあった。
なお「どちらかといえば適切でない」と回答したものとして、「63問は考えさせる問題であるが、59問、62問、67問は細かい知識だけを問う問題」であり、「時間に比して問題数が多」いとの意見があった。
(3)刑事系
(a)刑法分野
刑法分野・短答式について回答があったのは67校(昨年度70校)であった。
回答としては、「適切」とするのが39.4校(58.8%。昨年度は70校中34.5校)、「どちらかといえば適切」が23.3校(34.8%。昨年度は29.5校)であり、「どちらともいえない」とするのが1.8校(2.7%。昨年度は3校)、「どちらかといえば適切でない」とするのが1.5校(2.2%、昨年度は3校)、「適切でない」とするのは1校(1.5%、昨年度0校)であった。「適切」と「どちらかといえば適切」を併せて積極的評価を示すものが62.7校(93.6%)となった。昨年の70校中64校(91.4%)、一昨年の73校中60校(88.2%)よりも高い比率で、肯定的評価がなされている。
回答に付された理由をみると、「基本的な判例・学説の知識を確認する内容となっており、適切である」、「基本的な事項を問う問題が多く、法科大学院での学習成果を試すという観点から見て、良問であると思われる」、「質量共に基本事項の理解度を見るのに適した出題であると考える」といった形で、出題分野のバランスや難易度を評価する肯定的な意見が大半であった。
改善意見としては、昨年までと同様に、「条文知識の問題はやや細かすぎるきらいがある」、「犯罪論については適切であるが、刑罰論については条文上の細かな知識を問うものが見られ、もう少し刑罰の本質や犯罪論との関係などを問うのがあってよいのではないか」といった批判が引き続いており、また、出題形式についても、「5肢にわたって正誤を問う問題とその配点について、他の問題とのバランスがとれているか」と疑問を呈する意見も見られた。
(b)刑事訴訟法分野
刑事訴訟法分野・短答式について回答があったのは65校(昨年度63校)であった。
回答校の範囲内では、「適切」とするのが34.8校(53.5%。昨年度は63校中28.5校)、「どちらかといえば適切」が24.5校(37.7%、昨年度は32.5校)であり、「どちらともいえない」とするのが4.2校(6.5%。昨年度は2校)、「どちらかといえば適切でない」とするのが1.5校(2.3%昨年度は0校)であり、昨年度と同様に「適切でない」とする回答校はなかった。この結果、「適切」と「どちらかといえば適切」を併せて積極的評価を示すものは59.3校(91.2%)に及んでいる。昨年度の63校中61校(96.8%)には及ばなかったものの、一昨年度の65校中47校(72.3%)と対比しても、積極的・肯定的な評価が継続していることがうかがえる。
回答に付記された理由をみると、出題範囲分布のバランスや難易度の適切さを指摘する肯定的な意見が多数を占めた。具体的には、「基本的な条文・判例の理解を問う問題と、論理的解釈から解答を導く問題がバランスよく配置されている」、「出題事項・水準ともに妥当である。解答も時間内に十分可能と思われる」、「基本的に条文や判例等の基本的知識を問うものである。また、実務上重要な問題についてもバランス良く触れられている」、「基本判例、条文の知識を適切に問う問題となっており、実務家の基礎を身につける誘導を十分にしている」といったものである。
このように設問全体に対する意見は概して肯定的であるものの、一部の設問に対しては、批判的な見解も見られた。例えば、「条文知識だけを問う問題はなるべく減らすべきである」、「知識偏重型の細かな知識を問う問題も、これまで同様に出題されているという点は問題として残る」、「控訴及び略式手続に関する問題(39問、40問)まで出題する必要があるのか」といったものである。細かな知識を問う設問については、継続的に批判が見られるところである。
3.論文式試験について
(1)公法系
(a)憲法分野
62校から回答が寄せられ、そのうち、「適切」と回答したものが29校(46.8 %)、「どちらかといえば適切」が26校(41.9%)、「どちらともいえない」が3校(4.8%)、「どちらかといえば適切でない」が3校(4.8 %)、「適切でない」としたものは1校(1.6 %)、という結果であった。寄せられた回答の88.7%が「適切」あるいは「どちらかといえば適切」と評価しているのであるから、昨年度85%であったのと比べ、さらに評価が高く、相当な良問であったと見ることができよう。
「適切」であるとした回答に付記された意見を見ると、「基本事項の確認とともに応用能力も問われる良問である。」「基本書と判例の原文を読み込んでいれば答えられる基本的な問題と、それを応用した問題が組み合わされていて、しっかりと考えさせる問題であった。」「決して奇をてらった問題ではないが、従来の概説書等で十分に検討されていなかった論点についての憲法上の主張を検討させようとしており、記憶力に頼った定型的記述を行うことでは対応できない問題であった。」等と、高く評価されていることがわかる。また、質問形式についても、「設問2で『B県側の反論についてポイントのみを簡潔に述べた上で』としたことも、受験生に親切である。…資料も適量である。」「設問文が過年度の問題に比べて、より明確になっている。」等、適切と評価されている。
「どちらかといえば適切」との回答に付記された意見の中でも、「時事に題材をとるのは良いと思う。」「一見すると平易だが、高度な論点を含み、憲法について考える力を見るのに適した良問であると言える。」と、高く評価されているが、他方で、「実質2問であり、分量的に多い。」「ボリュームとしては時間不足となるのではないかという懸念がある。」「処理能力の速さが重視されすぎている感が否めない。」等、分量の問題、時間不足を指摘するものが複数みられる。
他方で、「どちらともいえない」、「どちらかといえば適切でない」、あるいは「適切でない」との回答に付記された意見の中には、「もう少し論点を絞って出題してもよかったのではないか。問題の事案が必要以上に複雑化されているような印象がある。」「出題の方法に工夫がないと思います。」等のほか、一部、採点において正当な評価が十分なされるかについて懸念を呈する意見が寄せられている。
本年度の憲法の論文式試験問題については、基本的理解を問うとともに応用力を試すことができる良問であるとして、ほとんどの法科大学院が高く評価している。質問形式や資料等についても適切と評価されており、来年度以降も安定した出題が望まれよう。
(b)行政法分野
回答を寄せた(当該分野に係る無回答を含む)73校のうち、「適切」と評価したのが22校(34.4%)、「どちらかといえば適切」が27校(42.2%)、「どちらともいえない」が8校(12.5%)、「どちらかといえば適切でない」は5校(7.8%)、「適切でない」が2校(3.1%)、無回答が9校(12.3%)であった。
「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると76.6%になるから、昨年より8.3ポイント落ちているとはいえ、まずは良い問題であったということができる。ただし、昨年は、回答を寄せた66校のうち、「適切」と回答したところが32校(48.5%)であったから、それと比べると、本年度は圧倒的な好評価とまでは言えない。また、消極的な評価(「どちらかといえば適切でない」と「適切でない」)をしたところが、昨年は3校に止まったのに対し、今年は7校に増えているのも気にかかるところである。
「適切」と評価した22校は、たいてい誘導の適切さを指摘している。すなわち、問題文に付された資料を丁寧に読めば、たとえ土地区画整理法という素材に馴染みがなくても、しかるべき解答に辿り着けるはずだということである。「勉強しておればできる問題」、「考えさせる問題」、「法的推論の能力を試す問題」といった表現も同様の趣旨と理解してよいであろう。したがって、このグループに属する法科大学院の評価は、ほぼ一致しているとみてよいと思われる。
「どちらかといえば適切である」のグループにおいても、「考えさせる問題」と評価している法科大学院が多い。「どちらかといえば」という限定が付いた理由は区々であるが、素材の選択に問題があるという意見が多いように見受けられる。定款変更の認可という素材が通常の講義では取り上げられることのないものだということであろう。通常の講義でこの問題に解答できるレベルまでもっていくには相当の工夫を要するという指摘があったが、これも異質な素材への対応能力を養うのは難しいという趣旨かもしれない。なお、このグループには、「誘導が多すぎる」、「誘導文に沿って解答させるという特徴が出過ぎている」という評価が見られた。つまり、もっと自由な発想で書かせるようにした方がよいのではないかということであり、このことと、「適切」グループの多数意見が誘導の適切さを指摘していることとの兼ね合いをどう見るかについて、議論が展開されることを期待したい。
「どちらともいえない」のグループでも、すべてが問題が難し過ぎると評価しているわけではない。しかし、平均的なレベルを超えているとの評価があるのも事実である。また、弁護士事務所の会議録による「解答の誘導」が採点基準にどう反映されるかが分からないと難易を判定できないという意味で「どちらともいえない」と回答した法科大学院があった。
「どちらかといえば適切でない」のグループでは、今回の問題は難問であったと評価されているように思われる。具体的には、この問題を解答するには時間が足りない、出題が通常の講義の範囲を超えているという意見が寄せられている。
「適切でない」との回答では、作問の素材がまちづくり行政の分野に偏っていることと、処分性の有無に関する問題が多いことが指摘されている。前者の批判は、他のグループの回答にもいくつか見られた。
(2)民事系
(a)民法分野
論文式の民法分野について回答があったのは64校であり、9校が無回答であった。適切とするのが28.5校(44.5%。昨年度は41.7%)、どちらかといえば適切とするのが28校(43.8%。昨年度は40.9%)、どちらともいえないとするのが5.5校(8.6%。昨年度は12.9%)、どちらかといえば適切でないとするのが1校(1.6%。昨年度は4.5%)、適切でないとするのが1校(1.6%。昨年度は0%)であった。本年度は適切・どちらかといえば適切とするパーセンテージが85%を超え、昨年度と比べると5ポイントほど上がっている。
適切である・どちらかといえば適切であるという回答を寄せたもののうち、自由記述欄の個別意見の中で肯定的理由としてあげられているものの多くは、基本的な事項の正確な知識を基礎に法的に構成する能力を試しているとの意見、法科大学院の授業内容に対応しているとの意見に、ほぼ集約される。これは、昨年度とほぼ同様である。また、現場での思考力・分析力が試される問題であることを評価する見解も多くみられた。
他方、適切である・どちらかといえば適切であるという回答を寄せたものの中の意見も含め、今回の出題に対する疑問点・改善すべき点としては、次のような指摘があった。まず、「c. どちらともいえない」、「d. どちらかといえば適切でない」、「e. 適切でない」と回答したコメントにおいては、事実関係の整理に時間を要する、現場で考える時間が必要である等の理由から問題の分量が多いという指摘が多くみられた。ただし、問題量については、適切であるというコメントも多数みられ、両論拮抗していた。また、設問3の最高裁判例を提示している点について、賛否両論あった。判旨の射程を考えさせる問題であり良問であるといった肯定的な意見があった一方で、不要である、資格試験としての司法試験にはふさわしくないという意見も存在した。また、採点基準が不明確である、あるいは明示してほしいという意見も複数あった。いずれも、近年の現場での思考力、分析力を要求する出題のあり方と関係するものであるといえる。
以上のように、さまざまな改善への意見も寄せられているが、全般としては肯定的な意見が多数を占めていた。
(b)商法分野
論文式試験の商法分野について回答のあった法科大学院は67校(昨年より5校の増加)で、6校が無回答であった。 回答した法科大学院のうち、「適切である」との回答が31校(46.3%。昨年より3校の増加)、「どちらかといえば適切である」との回答が24校(35.8%。昨年より3.5校の増加)であり、肯定的な回答をした法科大学院の割合は昨年から改善されたが、必修科目全体の平均値を下回り、行政法に次ぐ低さとなっている。
これに対して、「適切でない」とする回答は0校(昨年より1校の減少)であり、「どちらかといえば適切でない」とする回答は1校(1.5%。昨年より4校の減少)で、昨年と比べて否定的な回答をした法科大学院の数は大幅に減った。なお、「どちらともいえない」との回答は11校(16.4%。昨年より3.5校の増加)であった。
「適切である」、「どちらかといえば適切である」と考える理由としては、会社の機関の領域から、基本的かつ実務的にも注目されている論点について、事実関係を正確に理解して会社法を適切に適用する基本的な知識と能力が問われると同時に、深く論じることもできる出題であること、個々の設問に適度な誘導がなされて量的にも適当であり、かつ、資料を読み解くことを要求する設問が入っていること、基本的な条文・判例・通説を理解して事案に適用する能力を問う出題であること、実務的に重要な中小規模の閉鎖会社に起こりがちなテーマを扱う出題であること、閉鎖会社の法的問題を横断的に問うており、受験生の実力が正確に反映される内容であること、事案に無理が無く素直な良問であること、があげられている。しかし、これら肯定的な回答の中にも、下記の否定的な意見と同じ疑問を提示するものが相当数あることは、昨年と同様である。
「どちらともいえない」、「どちらかといえば適切でない」と消極的な評価をした回答は、基本的な問題だが、論点が多すぎて、試験時間内に十分な解答を行うが難しく、事務処理能力に比重がかかりすぎていること、を疑問点としてあげている。論点が多すぎてじっくり考える時間がないとの疑問は、昨年も多く出されていたところであり、出題委員の先生には再考を促したい。個人的には、設問3の②について、平均的な合格答案(得点53点前後で1,000番前後)を想定すると、暗記した論証パターンを書き出す金太郎飴の答案しか書きようがない(残り時間の制約を考えると特にそうである)と思うので、出題者が受験生のどのような能力を測定することを意図して、この出題をしたのか全く理解できない。
難易度については、昨年のような難問ではなく、受験生の実力を計測するのに適切な基本的な問題であるとする回答がほとんどであったが、得点にあまり差がつかず、ちょっとしたミスで不合格となることを懸念する意見もあった。
(c)民事訴訟法分野
無回答8校を除く65校中、「適切」と答えたのは35校(53.8%)、「どちらかといえば適切」と答えたのは23校(35.4%)、「どちらともいえない」は4校(6.2%)、「どちらかといえば適切でない」は3校(4.6%)、「適切でない」は0校である。
「適切」と「どちらかといえば適切」との回答を合わせると、58校(89.2%)であり、他の科目に比して、それほど大きな差はないものの、もっとも評価が高かった。したがって、民事訴訟法に関しては、多くの法科大学院が、短答式の試験問題と同様、論文式の試験問題についても適切であると評価しているといえる。なお、この数字は、一昨年が62.5校(93.3%)、昨年が63校(95.5%)であったのに比べ、若干減少している。なお、今年も昨年に引き続き、「適切でない」と回答した法科大学院はなかった。
次に自由記載欄からみると、「適切である」と回答したものの中には、「判例の意義と射程を深く考えさせ、理論的応用力を試す問題である」、「基礎的事項に関する正確な知識に基づいて論理的に考える力を問う問題」、「法科大学院での学習成果を問うのに適切である」、「基本的な論点でありながらも判例の正確な理解と現在の学説・理論状況の正確な理解を問うている」、「考えさせる問題で、単に判例の結論だけを暗記するだけでは正答にならない」ものである等、基本的な問題である点、判例の正確な理解と学説・理論状況の正確な理解を問うている点、自分の頭で考えさせる問題である点が多くの法科大学院によって評価されていると思われる。また、試験のためだけの問題ではなく「実務で扱う可能性のある事案である」点、「問題文の長さも適切である」ことを評価するものもあった。これに対し、設問2、設問3につき、判例についての知識にやや偏りがちのように思えるとの指摘があったほか、設問4は相当高レベルの問題で、受験生にとってはやや難しすぎるのではないかとの回答もあった。
それに対して、「どちらかといえば適切である」と回答したものの中には、上記と重複する肯定的な意見も多く、良問であるとの回答が多かった。ただ、それと同時に「量が多すぎて時間は決定的に足りない」、「判例の解釈の整合性に終始させているきらいがあり、法律家としての立論能力を図り切れているかについては、留意が必要なようにも思われる」といった問題点を提示する回答も複数みられた。
「どちらともいえない」と回答したものの中には、「採点基準が分からないので判断が困難」「論理的思考力を試すにはよい問題と思えるが、ただ扱っている分野がどうしても限られた法科大学院の授業時間内では扱えないものも多い」「設問4に関連して、信義則のような一般条項を問題とする以前に、民事訴訟法の直接の適用解釈が問題となるところを問うべきではないか」「設問3の問題文の趣旨がわかりにくい」といった回答があった。
「どちらかといえば適切でない」と回答した法科大学院は3校あったが、「解釈論というよりも政策論を問ういているのではないか」「一部の学説を前提とした設問があった」「問題数が多すぎる」との回答であった。
(3)刑事系
(a)刑法分野
刑法・論文式には66校からの回答があり、回答校は昨年度の70校から減少した。
回答内容は、「適切」32.9校(49.8%。昨年度24.5校)、「どちらかといえば適切」26.1校(39.5%。昨年度35.5校)であり、併せて積極的評価を示すものが59校(89.3%。昨年度60校)である。昨年度と同様に、一定の積極的評価が与えられていることを意味すると思われる。
「どちらともいえない」とする回答は5校(7.6%。昨年度6.5校)であり、「どちらかといえば適切でない」は1校(1.5%。昨年度3.5校)、「適切でない」も1校(1.5%、昨年度0校)であった。
付記意見をみると、好意的・積極的評価の理由として、「基本的な判例・学説の知識を踏まえつつ、解答者自らが考えた上での対応を求める内容になっている」、「時間配分に工夫の必要があるが、具体的事例中の論点発見と論理的思考力が問われる構成」、「設問の量が適切である。事例のいくつかの論点につき、事実を踏まえて論じさせることになっており、共犯を含め全体的な分析・総合の論述力を問うことになっている。受験生を悩ませる問題だとは思うが、問題文の量を抑えめにしているので、じっくり考えさせる出題になっていると思われる。ここ数年問題の量がやや過剰で、事務処理能力で差がつくという印象を持っていたが、今年の問題はよく考えさせる良問ではないかと思う」、「重要判例を念頭に事実関係を具体的に分析させることにより、具体的事案を前提とした判例の理解と、未知の事案に対する問題発見能力・事実評価能力とが適切に問われる内容となっている」といった形で、理論と具体的事実との行き来を重視した法科大学院教育の成果を判定するのに適した質及び量を備えた問題であるとの指摘が目立つ。
他方、批判的な意見として、内容としては適切ではあるものの、扱うべき論点の数が多く、時間内での回答が困難ではないかと危惧する意見が目立った。具体的には、「内容的には適切な方だが、論点が多すぎる。もっとしぼった方がより良い議論をさせることができる」、「近時の最高裁判例を学んでいればとり上げるべき論点が何かが容易にわかるが、いずれの論点も学説の対立が激しいため、時間内の処理が難しい」、「最近の重要な判例をしっかり勉強していれば、考えられる問題であるが、2時間で整理して答案を作成するにはやや複雑に過ぎる」、「『早すぎた実現』と『公共の危険』だけでも、それなりに対応が必要だが、間接正犯や錯誤が絡むので論点が多すぎる。行為の一体性を否定・公共危険認識は不要という解答の方針が当然の前提なのか。真面目に考える者こそが時間不足に陥って途中答案に終わってしまうのならば、あまりいいことだとは思えない」、「法科大学院の授業で取り扱われる重要判例を素材とし、それを組み合わせた問題でよく考えられた良問だと思うが、論点が多く、これを2時間で書くのは困難ではないかと思われる」、「内容は良問であるが、量が多い。実務にとっても重要な論点で構成されている」、「理論的な知識・判例の知識の確認という観点からは適した問題であったと思うが、時間内に事実関係を正確に分析・評価するには、やや難解であったと思う」「問題内容は適切であるが、解答時間に照らして、論じるべき点がやや多すぎる」などと多数に及んだ。
もっとも、問題分量や解答に必要な時間については、改善がみられているとの意見も、「法科大学院の刑法教育において取り上げるべき最高裁判例が問題事例のベースに用いられながら、問題事例の具体的事実に工夫がなされることで、最高裁判例の射程に含まれるのかをその場で検討させること、および、問題文量や争点の数など一定押さえられることで、あまり考えもなく書き散らすような論述を排し、的確な現場思考を適切な文章で論理的に示す方向を目指すことは、今後も継続していただきたい」、「問題文が比較的短く、設例の全体像を把握しやすかったことから、論述を尽くすことができなかったという受験生の声がなかった。一昨年度の問題に比べると、改善されたように思われる」といった形で指摘されている。
(b)刑事訴訟法分野
刑事訴訟法・論文式には65校からの回答があり、昨年度の62校から増加している。
回答内容は、「適切」とするのが33.6校(51.7%。昨年度は62校中26校)、「どちらかといえば適切」が24.4校(37.5%。昨年度は28校)であり、併せて積極的評価を示すものは58校(89.2%)に及んでいる。昨年度は62校中54校(87.1%)、一昨年度は64校中41校(64.0%)であった。積極的評価(とくに「適切」との回答)をした法科大学院を比率で見ると、一昨年度はもとより、昨年度をもかなり上回っている。
他方で、「どちらともいえない」とする回答は5校(7.7%。昨年度は7.5校)であり、「どちらかといえば適切でない」および「適切でない」とする回答は、それぞれ、2校(3.1%。昨年度は0.5校)、0校(昨年度も0校)であった。
回答に付記された理由は、法科大学院で履修している基本的な知識の応用能力を試す問題として、難易度・出題分野の分布ともに適切であったとするものが多かった。特に、例年に比べて、回答時間に無理のない分量に絞り込まれたという好意的な意見が多かった。具体的には、「法科大学院で学んだ基本的な判例・学説が理解されていることを前提に、もう一歩先を考えさせる問題となっている」、「問題数も適切で、内容も基本的な知識を根本から理解しているかを問う問題であるため、受験生の能力を適切に測ることが出来ると思われる」、「論ずべき問題点の個数が適切である。また、難易度も、法科大学院において学修すべき標準に適合している」、「前年に引き続き基本的な論点に関して考察力を問う内容であり、論点数、分量も適切である。基礎がしっかりとできている受験者であれば、現場での考察によって高得点が可能であろう」、「問題の内容は基本的な良問であり、分量も従来と比べて少なくなり2時間で回答できるものとなった」、「問題の分量との関係では、一定の解釈論を展開したうえで事実に対する意味づけとあてはめを答案に書き示せるだけの時間がいちおう受験生に与えられたように思われ、問題ない。出題されたテーマも、大枠として適切であった」、「解答に要する知識は特に高度なものを要求しているわけではないが、丹念に事実を読み込ませ、考えさせる問題になっている。証拠法では、立証趣旨による場合分けがきちんとできるかが問われており、代表的な裁判例に即した良問」、「複雑な解釈論を必要とするものではなく、条文とその解釈についての基本的な理解を前提に、与えられた事実を丁寧に評価させる問題であり、実務家に必要とされる基礎的能力を問うものとして妥当である。例年、ボリュームが過多であり、時間内にじっくり思考して処理するのが困難な面があったが、今年は改善がみられる」、「実務上、基本的で重要な問題点について、基本的な理解・応用力を試す良問であり、論点の数も例年のように過多ではない」といったものであった。
他方、伝聞法則に関する出題に戻った点については、出題分野の偏りを懸念する意見がみられた。「証拠法については、出題分野がやや偏り過ぎている」、「内容的には基本的事項であり適切と思料するが、出題される分野に偏りがある」、「証拠法は、伝聞証拠以外にも重要なテーマがあり、さらに証拠法以外にも重要なテーマがあることから、伝聞証拠に偏らない問題の作成という点は、今後の検討課題だと思われる」、実況見分調書の証拠能力についての問題が繰り返し出題されており、出題の偏りという点でも疑問の余地がある」、「難易度は適切であるが、出題領域が伝聞法則に偏っているきらいがある」、「これまでの出題と合わせて見ると、証拠法の主題が伝聞法則、それも実況見分調書の問題に偏り過ぎている。このような出題の偏りは、法科大学院生に誤った意識を与えるおそれがある。もっと広い視野から多様な主題を出題するべきである」といった意見である。
また、回答すべき分量の多さに対する批判は続いている。具体的には、「やや分量が多い」、「出題の形式・内容は適切と考えるが、解答すべき事項が試験時間に比して多すぎると思われる」、「問題文の分量が依然として多いことから、問われるべき問題点の一層の絞り込みを行い、多くの受験生との関係で、論述の有無のみならずその内容によって評価がなされることが可能になることを期待する」、「全体としてみると、触れるべき論点がかなり多いので、解答時間が不足する受験者が多いように思う」といったものである。
(4)知的財産法
知的財産法について回答があったのは47校であり、26校からは回答がなかった。適切とするのが14校(29.8%。昨年度は36.2%)、どちらかといえば適切とするのが12.5校(26.6%。昨年度は44.7%)、どちらともいえないとするのが12校(25.5%。昨年度は17%)、どちらかといえば適切でないとするのが7.5校(16.0%。昨年度は2.1%)、適切でないとするものは1校(2.1%。昨年度は0%)であった。回答をした大学院のうち56.4%が適切・どちらかといえば適切を選択しているが、昨年と比べると2割ほど割合を下げている。
肯定的意見としては、基本的な知識を問うものであるという意見に、おおむね集約される。これに対して、今回の出題に対する疑問点・改善すべき点としては、第1問の難易度が高いという意見が多かった。また、最新の法改正に関わる細かな論点を問うているという意見もあった。第2問については、内容は適切であるが分量が多いという意見が複数見られた。また、出題分野が限定されているという指摘もあった。
全体的に見て、難易度に関する叙述が多くみられ、その点が「適切・どちらかといえば適切」という評価の若干の低下につながったものと思われる。
(5)労働法
アンケート結果は、無回答を除き回答校47校を母数とすると、23.5校(50%)が「適切」、16.5校(35.1%)が「どちらかといえば適切」としており、両者を合わせると40校(85.1%)が肯定的に評価している。「不適切」との回答はなく、「どちらかといえば不適切」が1校(2.1%)で、「どちらともいえない」としたのは6校(12.8%)であった。「適切」及び「どちらかといえば適切」という肯定的評価の比率は、2007年が75.6%、2008年が76.8%、2009年が90.6%、2010年が73.8%、2011年が76.5%、2012年が同じく76.5%であり、本年は、極めて高評価だった2009年に次いで肯定的評価が多い年となった。また、「適切」との評価の比率は選択科目中最も高くなっており、「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせた回答の比率も、倒産法についで2番目に高くなっている。
問題の内容についてみると、第1問は、募集広告における待遇の記載の法的意義、期間を定めた契約の形で採用してその後引き続き正式に雇用するかどうかを判断する採用形態の法的意義(いわゆる試用期間と評価されるか、当該期間満了の効果をどう評価するか)、就業規則所定の賞与の不支給に同意する旨の意思表示の法的意義と効力等について問うものと思われ、第2問は、いわゆるロックアウトの正当性、争議指令に違反した労働者の統制処分の可否及び当該争議行為の正当性等について問うものと思われる。
これら両問を通じたコメントとして、肯定的に評価したものが挙げる理由としては、問題の難易度が妥当なものであること、上記のような基本的で重要な論点が取り上げられていること、重要な判例の理解をベースにした出題となっていること、事案の分析・評価及び重要な事実の取捨選択を丹念に行うことが求められていることなどが目立っている。また、以上に関連して、法科大学院での授業水準に合致していること、実務上も問題となることの多い事項が取り上げられていること、個別的労働関係法と集団的労働関係法とがバランスよくカバーされていることなどに言及した回答もみられた。
ただし、集団的労働関係法を取り上げた第2問については、第1問に比べると、受験生にとってはやや難しいとの指摘や、事案の内容が現実的でない、あるいは、より明快なものにすべきであるとの指摘など、問題点を指摘する回答がやや多くみられた。これまでも、集団的労働関係法を扱った問題について同様の傾向がみられた年があるが、この点については、集団的労働関係法が現在の法科大学院生にとっては必ずしも身近なものではなくなっており、法科大学院で判例等を通じて学習する時間にも限界があることを反映している部分があるのかもしれない。その他、第1問、第2問を問わず、問題の量や論点が多く、受験生が時間内に十分対処できるかにつき懸念を示した回答も若干みられた。
以上のとおり、集団的労働関係法の取扱いについてなお検討すべき点の指摘等もあるが、総じていえば、本年の労働法の問題については、適切な出題であるとの評価が多かったと総括できると思われる。
(6)租税法
回答を寄せた37校のうち、16校(43.2.%)が「適切」、13校(35.1%)が「どちらかといえば適切」、8校(21.6.%)が「どちらともいえない」と回答し、「どちらかといえば適切でない」、あるいは「適切でない」との評価をした法科大学院はなかった。ただし、無回答が36校、49.3%に及び、昨年同様、他の選択科目と比べて率が高いのが気にかかる。本年は、「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると78.3%となり、昨年の61.5%をかなり上回る高い評価となった。一昨年の「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせた評価は81.5%であったため、租税法では、相変わらず「隔年現象」(良くなったと思えば翌年また下がる)が続いているように見受けられる。
「適切」であるとした回答に付記された意見を見ると、「基本的知識を問う問題であると考えられ、条文の解釈ないし理解についての日頃の基礎的な勉学の成果を試す問題として、適切である。」「裁判例の動向を踏まえつつも基本的な論点を問うている。」「日常的な出来事を題材に、租税法の基礎的知識から直近の判例等までをバランスよく問うている。」等、高く評価されていることがわかる。
「どちらかといえば適切」との回答に付記された意見の中でも、「具体的事例を素材にしつつ、租税法の解釈・適用に関する基礎的な素養を問うている点が高く評価できる。」「現在の標準的な教育課程を踏まえたバランスの良い出題である。」との高い評価がみられるが、第2問の設問1についてどこまで言及すべきかわからないとする指摘や、法人税の部分が小さく、また、私法と関連した論点が少ないとの指摘もあった。
「どちらともいえない」との回答に付記された意見の中には、「量的に多すぎる」、「出題が個人所得税に偏っているとともに、本質を問うているとは言い難い。」「もう少し基礎的な設問でいいように思う。」等の指摘がみられるが、それでも、「どちらかといえば適切でない」あるいは「適切でない」との評価は皆無であることから、概して肯定的な評価がなされているということができよう。
本年度の租税法の問題は、日常的な具体的事例を素材にしつつ、租税法の解釈・適用の基本的理解を適切に問う出題になっているという観点から、高い評価がなされている。法人税の取り上げ方等の課題は常に存すると考えられるが、今後も法科大学院の標準的な教育課程を踏まえた安定した出題がなされることが望まれよう。
(7)倒産法
無回答23校を除く50校中、「適切」と答えたのは22校(44.0%)、「どちらかといえば適切」と答えたのは21校(42.0%)、「どちらともいえない」は3校(6.0%)、「どちらかといえば適切でない」は4校(8.0%)、「適切でない」は0校(0.0%)である。なお、無回答が23校(31.5%)あり、必修科目に比べて無回答の数が多いが、この傾向は他の選択科目にも共通して見られる点である。
「適切」と「どちらかといえば適切」との回答を合わせると、43校(86.0%)である。この数字は、一昨年が44校(86.3%)、昨年が43校(81.1%)であり、ここ3年間はそれほど変わっていないといえよう。この数字を見る限り、倒産法に関しては、多くの法科大学院が、論文式の試験問題の内容については評価しているといえる。
次に自由記載欄からみると、「適切である」と回答したものの中には、「法科大学院での学習を前提とした出題」である。「典型的な事案につき、基本的な理解から近時の実務的問題点までを検討させる問題」である。「判例・学説について普段からしっかりと勉強していた受験生にとって、その実力を十分に発揮できる問題」、「実務にとっても重要な点で構成されている」、「基本的な点を問う素直な問題であるが、いろいろと思考の幅を試す問題となっており、法科大学院の教育方針を忠実に踏襲している問題」、「学生の到達度に応じた答案が引き出せる良問である」といった肯定的な回答が大勢を占めたが、問題の量について、適正であるとするものと、量的にやや厳しいかもしれないとの回答が分かれた。
「どちらかといえば適切である」と回答したものの中には、重要な事項を問うている点、応用力を問う問題である点、基本的論点を考えさせる問題である点が指摘されているほか、実務上の関心が高い事項であり良問であるとする回答が多かった。それと同時に、「最近の判例から題材を得るとヤマが当たりやすいことには注意が必要である」「設問2では再生債務者の財産管理が失当という判断を求められているが、授業では、民事再生の管理命令までは手が及ばないのが実情である」「第1問設問1の、ファイナンス・リースの問題などは、法科大学院を修了したばかりの受験生に、その出題趣旨を理解できるものかどうか、やや気になった」「若干難しい」「再生計画の履行に係る問題等は、やや実務的関心に傾き過ぎるという意見もあるかもしれない」「問1設問2は、学界の理論的関心や法曹界の実務的関心はともかく、受験生には難度の高すぎる問題ではなかったかと思われる」などの点を指摘する回答があった。
「どちらともいえない」との意見の中には、「採点基準がわからないので判断が困難」のほか、3時間の試験時間で、実質7問に解答しなければならず、時間的にはやや厳しいのではないか、そうだとすれば、時間的制約の中、出題者が期待するような適当な解答に至ることは、法科大学院における倒産科目の構成が多くは多くは2科目4単位であることにかんがみて、やや厳しいかもしれないとの指摘があった。
「どちらかといえば適切でない」と回答した大学院は4校あったが、「選択科目の問題としては、難易度が高すぎると思われる」「ファイナンス・リースに関する最判平成20年12月16日の趣旨は、最判平成7年4月14日との関連で、明確ではなく、ファイナンス・リースに関する出題は、法学学習者に対して、適切でない」「小問はどれも歯応えがあり、全部について相応の論述を展開するとなると、時間が足りない」「先端的な問題すぎる。通常のロースクールの倒産法では教えるのが難しい分野の出題である」との回答があった。
「適切ではない」と答えた法科大学院はなかった。
(8)経済法
経済法について、回答のあった法科大学院は43校(58.9%。昨年より3校の減少)で、無回答は30校(41.1%)であった。
問題が「適切である」と評価したのは11.5校(26.7%。昨年より9.5校の減少)、「どちらかといえば適切である」と評価したのは18校(41.9%。昨年より1校の増加)であり、肯定的な評価(29.5校)が回答のあった法科大学院の7割弱を占めた。これは選択科目全体の平均値の74.8%を約6ポイント下回っており、知的財産法に次ぐ低い数字である。他方、「適切でない」との回答は昨年に引き続いて0校であったが、「どちらかといえば適切でない」との回答は5校(11.6%)で、昨年より4校増加した。なお、「どちらともいえない」との回答は8.5校(19.8%)であった。
「適切である」、「どちらかといえば適切である」とする回答において、独禁法の基本的理解を問う出題であること、考えさせる実践的問題だが勉強していれば解答できる良問であること、一定の事実から独禁法上の問題を検討する形式が現実の実務に近く実践性を問う設問であること、技術ライセンス契約と事業者団体の活動という、実務で独禁法の解釈が求められているテーマを対象とする設問であること、競争促進効果や社会公共的妥当性を検討させる複眼的な思考を問う問題であること、問題文の量が適切であること、経済法の分析能力を測ることができる問題で難易度も適切であること、が肯定的に評価する理由としてあげられていた。
他方、「どちらかといえば適切である」、「どちらともいえない」とする回答で否定的に評価する理由としてあげられたのは、2問とも類似論点が相当の部分を占めていること、第2問は判決・審決の学習だけで正確に解答できるとは限らず、公取委の相談事例集の学習まで要求されるとの誤解を生じさせる危険があること、専門性の高い実務的な問題で受験生にとっては難解であること、論点があまり明確でなく、かつ多面的に論じるための事実が少ない、ないし分析に必要な事項に不明な点が多いこと、2問とも公取委の相談事例をそっくり素材としている印象があること、第1問は先例不足であること、である。なお、採点実感等で、受験生に対して要求レベルを具体的に示すことが望ましいとの意見もあった。
「どちらかといえば適切でない」とする回答は、問題自体は考えさせる良問だが、量及び難易度からして3時間で通常のできる学生がこなすには難しすぎ、上位5%の学生を識別するには適切だが、合格答案となる上位20%程度の学生の習熟水準を適切に測定できる問題ではないこと、特定の領域に絞った出題で、基本的な競争法理念の理解を試す問題からほど遠いこと、実務にとって重要な論点だが、第1問は出題者の意図が不明で、市場構造要因などの解答に必要な情報が明らかでないこと、複数の解答があり得る問題で、基本的・基礎的知識を問う問題として不適切である、ことを否定的に評価する理由としてあげている。
(9)国際関係法(公法系)
回答41校中、適切と評価するもの12校(29.3%)、どちらかといえば適切であるとするもの19校(46.3%)で、積極的に評価するものが75.6%となっている。他方で、どちらともいえないとするものが7校(17.1%)と増えたほか、どちらかといえば適切でないとするもの2校(4.9%)、そして適切ではないとするものも1校(2.4%)あった。昨年度と比較すると、判断を保留する評価が増えた分(9.1%から17.1%)、積極的に評価するものの割合がやや減少する一方で(84%から75.6%)、消極的な評価はほぼ同じ(7%から7.3%)といった点が今年度の特徴である。
第1問は、国内管轄事項と干渉、国家元首・外交官の免除、株主の外交的保護、第2問は国家管轄権、犯罪人引渡、国家責任の追及など、それぞれ国際法上の基本的な論点が問題内容となっている。設問それ自体は基本的な理解を問うものとして適切であったとの意見が多かった。「国際刑事法、国家責任法、外交関係法など、国際法の主要な分野を広くカバーしたうえで、実務的にも重要な論点を扱っており、良問だと考えられる」、「特に、教科書の章毎に分断的に勉強するのではなく、分野横断的に、あるいは分野間の連関を意識して勉強する必要があることを示す点でも、良問である」、「基礎的な知識とともに、国際法上必要な法的思考能力を求め、具体的な適用状況を考えさせるものとして適切」といった意見がその代表である。この点は、「適切である」との評価だけでなく、「どちらかといえば適切である」とした評価でも確認できる。たとえば、「国際法に関する最近の動向や重要な判例等を意識した設問」、「基本的な問題を取り上げる構成としては適切」、「2問とも、国際法の基本的事項についての知識を問う問題で、素直な良問」、「出題の趣旨は明確で、国際法上の諸制度の基本的な理解を問う内容」、「国際法の過去の判例からも想定できる内容であり、論文構成の一応のイメージが、バランスよくできあがるような設問」という意見が出されている。
他方で、「設問の事実関係が複雑」であり、「論点が多すぎる」のではないかという趣旨の意見が、「適切である」「どちらかといえば適切である」「どちらともいえない」「どちらかといえば適切でない」のいずれにもみられる点は注意を要するであろう。とりわけ第1問については、「やや関連判例を盛り込みすぎている感は否めない」、「個々の問題は、基本的論点に関するものとは思うが、それでも広範囲にわたる学習を余儀なくされる受験生の立場からすると、やはり多少荷が重い」、「設問の内容が複雑すぎて、受験生が内容を整理し、十分な解答をするには時間が足りない」、「各枝問が大きな論点を含んでおり、受験生にとって詳細に論じることは時間的に不可能」、「法科大学院の講義の範囲を超える」といった批判が投げかけられている。ただ、総合的な評価としては判断が分かれており、「設問の問題文にはいろいろな問題点が詰め込まれていて、初見では時間内に十分な解答を書くことができるかという懸念をもつが、枝問の内容は特定の論点のみを聞いており、国際法を勉強した学生であれば、簡明に解答することが可能」という意見がある一方、「いずれも典型的な論点を組み合わせた設問で全体的には良問と思われるが、第1問はやや難しい」、「例年と比べて、やや難易度が高い」という評価も多くある。昨年度より積極的な評価が減少する結果となったのは、後者のような印象がやや多数を占めたからではないかと思われる。
そのほか、問いの立て方や質問の仕方に一考を促す意見も提起された。「第1問、第2問とも、刑事管轄権に関するものであるが、‥‥2つの設問は別個の分野について問うことが望ましい」、設問の中で、「普遍的管轄権の行使が認められるとして‥‥」といった形で前提を与えることに対して、「現実に生じうる問題について法律上の論点を発見し、整理する(場合分けをする)ことが法曹としては重要であることに鑑みると、その能力を見るという観点からは、出題の仕方に再考の余地があろう」といった意見のほか、論点が多すぎるとの批判との関連では、「論点を増やすより、論述を深める方に受験生の注意を向け」るべきで、「積み上げ式の小問を設けるような工夫がほしい」という要望も出されている。さらに個別の出題方法については、「第1問で通商制限の話を持ち出しておきながら、両国間に条約上の義務はないとするのは設問の仕方として疑問」であり「非現実的な設定」との批判のほか、「第2問の設問には、「どのように応じるべきか」とか「どのような責任追及ができるか」といった抽象的な質問があり、質問意図が不明確」、第2問の枝問2についても「問題の趣旨が必ずしも明確ではない」という意見がある。
以上、いくつかの点で改善すべきところがなお残されているということは言えるであろう。事実関係の複雑さや論点の多さからやや難易度は増しているという印象を与えるものではあるが、今年度の問題についてもおおむね肯定的な評価が与えられているのは、これまでの意見や指摘に率直に耳を傾けて出題作業を行った関係者の尽力によるものであることは間違いない。例年と同じく繰り返しになるが、作問に関する出題者のこうした努力に敬意を表するとともに、上記の課題を考慮に入れつつ、オーソドックスな事例問題を通じて、国際法の基本的知識に関する理解力、分析力および応用力を把握するような出題傾向が今後も維持されていくことを期待したい。
(10)国際関係法(私法系)
国際関係法(私法系)について回答があった48校中、適切と評価するもの23校(47.9%)、どちらかといえば適切であるとするもの13校(27.1%)であり、積極的に評価するものが75%となっている。他方で、どちらともいえないとするもの10校(20.8%)、どちらかといえば適切でないとするもの2校(4.2%)もあった(なお、適切でないとするものは0校であった)。
こうした割合を昨年度と比較すると、適切と評価するものが増えたものの(36.2%から47.9%)、どちらかといえば適切であるとするものが若干減少しており(44.7%から27.1%)、積極的に評価するものが全体としては微減となっている(80.9%から75.0%)。他方で、どちらともいえないとするものはほぼ変わらなかったが(19.1%から20.8%)、昨年度は0であったどちらかといえば適切でないとする評価(2校、4.2%)がわずかではあるが示されたという点が、今年度の特徴として指摘できよう。
具体的な評価としては、第1問、第2問ともに国際私法に関する基本的な知識・能力を問うものであったという点では共通していると言える。ただそのことを前提に、そうであるが故に積極的な評価をするものが大半を占める一方で、平易にすぎるあまり受験生の能力を的確に選別できるか否かにつき疑問を付する意見もあり、それが消極評価の一つの要因となっている。
他方で、(問題全体としては積極的に評価する立場をも含め)以下のような点に個別の指摘があった。すなわち、第1問については、日本法上の特別養子縁組については考える必要がないことが問題文の中で必ずしも明確にされていないことが受験生に混乱を与えたのではないか、日本民法の知識を前提にしないと十分な解答ができない問題であるとすれば国際関係法(私法系)としての出題として適切なのかについて、問題視する意見があった複数あった。また、第2問については、設例があまりに具体性に欠けるのではないか、労働法について一定の理解がないと解答できないとすれば国際関係法(私法系)としての出題として適切なのかについて、問題視する意見が複数あった。
以上、積極的な評価が大半を占めたことを前提に、しかし、上記の指摘をも参考にしつつ、国際関係法(私法系)についての基本的な知識・理解を問うという枠組の下、的確な選抜が可能な出題が今後も期待される。
(11)環境法
回答を寄せた(当該分野に係る無回答を含む)73校のうち、「適切」と回答したのが13校(29.5%)、「どちらかといえば適切」が19校(43.2%)、「どちらともいえない」が10校(22.7%)、「どちらかといえば適切でない」が2校(4.5%)で、「適切でない」との回答は無かった。それに無回答が29校(39.7%)である。「適切」と「どちらかといえば適切」を合わせると72.7%となり、まずまずの数字であるが、昨年(80%)より7.3ポイント、一昨年(92%)と比べると19.3ポイント落ちている。
しかし、今回の問題は、「適切」に丸をつけた法科大学院からは熱烈な支持を受けている。高い支持を受けた要因をまとめると、今日実際に発生している環境問題の状況が作題に的確に反映されているということになろう。かなり長文の意見を寄せて来られた法科大学院があったが、とくに設問3の意義を評価する部分(生物多様性基本法25条と環境影響評価法改正との関係)に、法科大学院における環境法教育にかける熱意が感じられた。ほかに、「マニアックな論点が消えた」ことを評価する声もある。
「どちらかといえば適切」と回答した法科大学院も、書かれている意見はかなり丁寧なものが多い。今回の問題が良問であることは、このグループでもおおむね認められているようである。「どちらかといえば」という限定句が付いた理由を読み取るのは難しい。文章の端々からの推測を踏まえてまとめると、「知識によって差がつく」ということであろうか。それはすなわち、使用する教科書によって、あるいは担当する教員が最近の具体的問題をどこまで詳細に把握しているかによって、今回の問題を解答するのに必要な知識の受験者への伝わり方に相当の差が出るのではないかという意味のようである。
「どちらともいえない」のグループにも、「読むテキストによって答えやすさが異なる」という趣旨の回答が複数見られた。しかし、このグループにおいては、解答すべき量が多すぎることを問題視していることが、かなりはっきりしている。また、刑事系の問題を講義で十分には扱えない事情を吐露する回答があった。
「どちらかといえば適切でない」と評した意見の中に、第1問の設問3が「法的な分析」によって明確に解答できるものでないことを指摘するものがあった。環境法の問題においては、法制度の設計の背後にある様々な事情も問われることになると思われるが、今回はこのような意見も出ているということである。また、私法分野からの出題もなされるべしとの指摘もあった。
環境法は行政法、民法、刑法等々、様々な法分野の知識が要求されるので、教える側の態勢作りがなかなか難しい。今回寄せられた意見の中には、このことを考えさせるものがいくつもあった。無回答が多いことも、限られた時間では複数教員の意見を総括することができないという事情を物語っているように思われる。
以上。
司法試験等検討委員会委員(50音順、本報告書作成に関わった委員のみ)
小幡 純子(上智大学) 角田 雄彦(白鴎大学) 笠井 治(首都大学東京、主任)
交告 尚史(東京大学) 酒井 啓亘(京都大学) 幡野 弘樹(立教大学) 早川 徹(関西大学)
早川 吉尚(立教大学) 三上 威彦(慶応義塾大学) 山川 隆一(東京大学)
※割合計算の結果、各合計が100%とならないことがあります。