平成23年度新司法試験法科大学院協会アンケート調査

平成23年9月5日

平成23年度回答付記意見

※ 標記アンケート調査に対する回答内容を,司法試験等検討委員会において,同種類と思われる内容毎に,適宜,1項目「・」内にとりまとめているため,ひとつの「・」に表記された意見は複数校の意見の場合もあるので,留意されたい

1.短答式試験について

(1)公法系

(ア)憲法

 a.適切である

・ 必要な知識を的確に理解しているかを問われる良問と考える。出題範囲・難易度のいずれも適切なため。難易度がこの程度がちょうどいいように思われる。基礎的知識の理解を問うものである。代表的な判例の正確な理解を問う問題が中心となっている。基本判例および基本的な学説の理解を問う問題であるから。出題の内容及びレベルが適切であり,受験生に着実な学習を促すものとなっている。偏りなく出題されており,難易度も通常の勉強をしていれば正しく解答できる程度であると思われる。判例・学説についての基本知識を問う問題であり,法科大学院の教育に対応する水準。また,肢も3つに絞られ,問題文の長さも適当であり,時間内の解答も十分可能な量である。判例の理解を問うことは法律家養成の試験としては適切であると思われるため。出題範囲が憲法分野全体に及び,出題レベルも平均的である。標準的な設問だから。

・ 内容,分量ともに適切。ただし,文意が確定できない,主題と問う内容が整合していないなど,改善を要する問題も2,3ある。

 b.どちらかといえば適切である

・ 重要な判例の理解を求めるもの。基本的な知識や論理的思考力を試すものが多かった。基本的知識を問う問題となっていて,法科大学院で教えた内容の中におおむね入っている。知識偏重でない工夫がなされている。条文と判例の正確な知識を前提に,基本的な理解を問うものとなっている。簡潔・基本的な出題でよい。判例を対象とした問題について,微妙な選択肢が減少した。かなり工夫されている。難易度など適当である。短答式の難点解消にはなお努力を求めたい。

・ 出題範囲は概ね基礎的知識に収まっているが,法科大学院の授業で扱うことのできる範囲には限りがあることからすると,さらに重要な基本概念や判例に絞ってもよいと考える。

・ 出題範囲はバランスよく出されており,個々の問題は難易度としても適切であると考えます。ただ,「正しいものに○,誤っているものに×を付した場合の組み合わせを選びなさい」という聞き方が必要なのか検討していただければと思います。「正しい場合には1を,誤っている場合には2を」という聞き方で統一できるのではないかという印象を持ちました。過酷な試験スケジュールの中で不要な負荷をかける必要はないのではと感じました。

・ もう少し問題を簡素化してもいいのではないか。さらに簡単でもよいとは思う。判例の正確な理解が前提となっているが,正確さを求めすぎている感が否めないから。概ね基礎的理解の確認程度の出題になっているが,選択肢の中には判例の細部の知識を問うものも散見されるので,なお改善が必要である。若干,判断に迷う肢があるようにみうけられる。

・ 一部肢の意図が受験生にとってわかりにくいものも含まれているが,おおむね基本的知識を問うものと評価できる。問題内容は適切であるが,未だ最高裁判例に傾斜しすぎるきらいがある。

・ ①問題自体は平易なものであり,憲法についての法曹として必要最小限度の知識・理解を確認する試験問題として基本的に適切であると思われるが,なお受験者に無用な誤解を与えないよう表現ぶりについて改善する必要があるところもある。②3つの選択肢の正誤を問い,すべて正解した場合に2点を与えるという全問正解型の問題が9問あるが,3つの選択肢のうち2つの正誤につき正解しても0点となるという配点には,知識偏重の学習を助長する恐れがあり,疑問がある。

・ 問題の型に数種あるが,特殊な型がなく,知識の正確度が問題型式にとらわれず,反映されやすい。例年と同様の問題形式は,今後も続けられるべきである。判例の趣旨を問うものも,人権論を中心に多く出題されている。最近の重要判例の趣旨を問うものとして1(最判平成17・1・26民集59-128),4(最判昭和51・4・14民集30-3-223),9(最判平成最判昭和51・5・21刑集30-5-615),19(最判平成18・3・1民集60-2-587)の合計4問があるが,重要判例を,原文に照らし,正確に理解しておくことが要求される。このような出題形式は好ましいことである。

  また,数種の判決の趣旨を問うものとして,3(プライバシー),5(思想,信条の自由),6(政教分離原則),7(表現の自由の制約の合憲性をめぐる判断枠組み),8(財産権の制限と補償の要否),18(違憲審査制)の合計6問。これらは,判例百選掲載判例の趣旨などを基本書と共に正確に理解しておくことが必要である。

 基本原則や統治論についても,特別に難解なものは,あまり認められない。

  もっとも,第2問,いわゆる特別権力関係論について,正解とされる「ア」は,「特別権力関係内部における公権力の行使は原則として司法審査に服さないこと(司法審査の排除)」と解説されているところである(芦部信喜『憲法第5版』(2011年,岩波書店)106頁。同旨,長谷部恭男『憲法第5版』(2011年,新世社)132頁。傍点-筆者)。基本書に記載された「原則として」にこだわって例外を考えると必ずしも「正しいもの」と判断しないことも考えられる。基本原則については,論者によって定義が微妙に異なるが,その設問には,細心の注意が必要である。

・ おおむね適切であるが,一部に,最高裁判所の判例の文言を,文脈を無視して抜き出したような問題がある。また,「見解が導き出せる場合/導き出せない場合」を尋ねる問題は,論理的可能性を尋ねるものか,実質的内容の妥当性を尋ねるものか,その趣旨が不明である。

・ 概ね適切な設問であると考える。が,以下の2点について疑問がないではない。

  第1に,行政訴訟の訴訟類型の選択が問われた点について,問題の良しあしとは別問題として,原則憲法の問題である以上,訴訟類型の選択,訴訟要件,複数ありうる訴訟類型のうちなぜそちらなのか等,どの程度書けばよいものか判断に迷う問い方である可能性がなくはないのではないか。とくに中止命令→公表に処分性の有無の判断にはそれなりの時間と紙幅が必要かと思われる。今後とも訴訟類型の選択を問うのであれば,そこにどの程度の配点がなされるのか等の採点基準を示すべきであろう。第2に,A大臣の改善勧告および中止命令の根拠条文(X社が法7条のどの号に違反したとされたのか)が明らかではなく,そのことを前提にすると「法で具体的に明記されていない」とX社が主張している部分について,法7条6号の授権を受けた政令を読んでみないと判断がつきかねるのではないか。「個人権利利益侵害情報」(法7条2号・3号)の不明確性について検討すればよいとも思われるが,いまひとつ出題の意図が判然としない感がある。X社が法のどの条項違反で改善勧告,中止命令および公表を受けたのかを明記すべきであったのではないか。

・ おおむね,基礎的事項を取り上げていると感じられるし,判例の理解を問う設問でも,そこで取り扱われている判例は妥当であると思われる。ただ,判例の理解を問う設問で,選択肢における判決の趣旨の理解が,一義的に正しいといえるかわからなかったり,細かい点に立ち入っていたりすることがないでもない。たとえば,第4問の「イ」は,「人口比例の原則」が「考慮要素にとどまる」という点が誤りなのだと推測するが,(他の要素に比べて重要であることは間違いないが)考慮要素であるとの整理も不可能ではないような気がする。また,第5問のイは,外部的行為―内部の思想・信条という,最近流行の論点であるが,まだ基本書で安定的な記述がなされる程度にまで至っていない論点を取り上げることの是非はともかく,通常は私人間効力の論点との関係で紹介される三菱樹脂事件を,この論点との関係で事実関係を紹介して理解させることまでを法科大学院の授業で要求しているのだとすれば,酷ではないかという印象を受けた。そもそも,判例の趣旨を尋ねる設問が多すぎる,尋ねている点が細かすぎるのではないかという印象である。

 c.どちらともいえない

・ やや難しい設問が多く見られた。最高裁判例関連が多かったことや設問形式が異なったものもあったことなど,これまでと少し傾向が違っている面があったが,それ自体は問題ないと思われる。

・ ①形式的な点では,表現に違和感のある,ないしミスリーディングな点が散見される(第2問イ「国公立学生」,ウ「本質的な問題」(→「本質的な欠点」「本質的な点で問題」?),第11問ウ「例え」,第17問ア「内閣の」(→「内閣による」?),第17問エ「担っている」(→「有している」)など。)②数少ない論理問題の多くは,「aからbが『導き出せるか』どうか」問うているが,「導き出せる」かどうかというのは曖昧な問い方であり,工夫が必要ではないか(以前は出題形式がもっと多様であったと思われる)。③これも個別の点になるが,第13問ウは,前段と後段との関係が設問で示されておらず,とりわけ後段だけを独立に見れば適切とも不適切とも言えるのではないか。

・ 個人的な意見ですが,公法系第5問のイ.は判例になっているともいえそうだし,なっていないともいえそうです。なっているのとなっていないのとの境界が不明です。

・ 新しい傾向として,以下のような,「aの見解からbの見解が引き出せる場合には1を,導き出せない場合には2を選びなさい」(e.g., 設問12・20)とか,「bの見解がaの見解の根拠となっている場合には1を,そうでない場合には2を選びなさい」(e.g., 設問15)という推論判断能力を問うものがいくつか導入された。このこと自体は,難易度を多少上げることになると思うが,悪い試みではない。ただ,上引のように,「a」と「b」を使った問いかけ方が逆向きになされたり交互に出題されたりすると,ミスリーディングを誘わせるだけの悪い試みにも転化しかねない。

また同種の試みであるが,〔第5問〕三菱樹脂事件の最高裁判例(次のaに相当)を使って,「aは最高裁判所の判例を要約したものであり,bはその批判として書かれたものである。bがaの批判になっている場合には1を,bがaの批判となっていない場合には2を選びなさい」という問題での選択肢には疑問を感じるものがある。この場合,提示された「判例の要約」なるものが文字の表面だけをカバーしたに過ぎず,当該判例の論理をカバーしたとは言えないのではないかという,出題のあり方にかかわる問題が含まれているように思われる。

・ 昨年に続いて国会および平和主義からの出題がないが,ややバランスを欠くのではないか。また個別の設問について,以下,述べる。第2問だが,「特別権力関係論」は学説上克服され,かつ最高裁判所も克服している。この論の理解を問う出題そのものに疑問の余地が無くはないかと思う。第5問の肢ウのaの文章だが,東京電力塩山営業所事件の知識を問う問題であるが,問題の形式からして,いきなり「本件における」という表現は改善の余地があるかと思う。第13問の肢ウだが,通説にたてば「×」となるが,問題文に何に照らしての正誤なのかを示す文章がないため,「○」も正答でありうるのではいか。第14問の肢ウについても同じことが言えるであろう。「国民」の意味は法律に定めに先立って,憲法そのものから確定する必要がある。かくして確定された「国民」は有権者でなければならず,憲法改正権者でばければならないとの考えも成り立ちうると思われる。第19問の肢イだが,正当は「2」であろうが,それ以前に「尊重するものとする」という条例の文言が首長に「法的義務」を課すという文章自体を「誤り」とも判断でき,やや混乱しそうである。

・ 人権分野の出題は必要な基礎知識を問うものになっていると思うが,統治機構分野からの出題が知識偏重のものになっている。

 d.どちらかといえば適切でない

・ もっと簡単でよいと思います。判例の細かい知識を問う出題が散見される。判例の細かい知識を問う問題が多く,端的にいって,難しすぎると思う。若干細かすぎる設問がある。

・ 問題の分量(問題文の長さ)等は適切かと思いますが,以下の2点について,やや適切性を欠くと考えます。1.出題分野が人権分野に偏りすぎている感があります。人権分野が重要なことは承知しておりますが,論文試験も人権分野から出題されており,このような状況は,受験生の学習における人権分野への偏重をきたす惧れがあるのではないかと考えます。出題については,短答式だけで考慮するのではなく,論文試験も含めて考慮したうえで,憲法全体から偏りなくなされることが望ましいと思います。2.問題が問うている内容が,やや「知識」に偏っているという印象を受けました。判例の具体的内容を問う問題が多く出題されていますが,その中には,判例の論理展開の流れよりも判例が用いている「言い回し」を問うものが見受けられます。このような出題の仕方は,結果的に,受験生に「判例を暗記しておけばよい」という学習方法を選ばせることになってしまいます。受験生が判例を学習するにあたって「何が重要か」を考え,それを身につけておけばとけるような問題を出題することが望まれます。

 e.適切でない

・ 出題分野は概ね適切である。しかし,基礎学力を確認する問題としては細かすぎ,とくに未修者の基礎学力を判定する問題としてはふさわしくない。年々その傾向が強くなってきている。また,出題の形式も短時間で説かせるには煩雑すぎる。より基礎力を問い確認する問題に改善するか,このような問題であるなら短答式は廃止すべきである。

(イ)行政法

 a.適切である

・ ほぼ法科大学院の教育内容(モデル案)に則した問題になっている。最近の判例からも出題されていて適切である。行政法の基本的な知識が問われており,法科大学院における学習を通じて,十分に解答できる出題である。いずれも行政法上の基本判例を,近時の判例も含めて正確に理解しているか否かを問う問題であり,適切である。基礎的事項に重点をおき,考えさせる内容も含まれている。バランスよく各分野から出されている。例年どおり,地方自治法,行政組織法をも含めた行政法の幅広い領域からの出題であり,また出題形式も多様であり,短答試験ながら受験者の知識・理解を問ううえで適切である。基本事項とその応用力が問われている。

・ 判例の理解や学説の見解などについて,どのレベルの解答を求めているのか,全く疑問が無いというわけでは無い点,また,1問あたりの量が相当多いものがあることなど問題なく適切といえるかは再考の余地はあるが,判例・学説についての基本知識を問う問題であり,概ね適切である。

・ 行政組織法と地方自治法に関する出題がやや多く,これらを選択科目として履修した者が有利であったかもしれない。

 b.どちらかといえば適切である

・ 論文試験学習との連携ができている。

・ 全体としてみると奇問難問のような問題はなく,bと回答しうるものであるが,短答式試験は各法分野の基本的な知識と理解を問う問題に限定すべきであると考えるので,この観点から見ると今年度の問題にはやや難しい問題がいくつか含まれているように思われる。判旨を挙げて考えさせる問を増やしてほしい。

・ 条文や判例について基本的知識を習得していれば,十分対応できる問題となっている。適切な良問だと思います。ただ,標準的な最近の教科書に掲載されていないような設問が見受けられましたので,これについては避けていただけると幸いです。内容はごく一部の問題を除いて適切。しかし,個々の法令の引用などにより問題文が長文化する傾向が引き続きあり,解答者に時間的に過酷な面がある。基本的な知識や思考力を問う設問が多く,評価できる。やや細かすぎる知識を問う設問もあるが,許容範囲内である。行政法に関する基礎的な知識・理解を,条文・判例を中心に作題されており全体としては適切と思われる。やや細かい知識が必要とされる問題も一部存在しており,ここまで要求するのは酷(特に未修者)ではと思うところもある。時間内の解答は量的にやや厳しいかもしれない。

・ 概ね適切な範囲から出題されていたといえる。基本事項及び重要な判例の理解を求めるもの。短答式問題としてはこの程度が適切であろう。それほどの難問はなかった。概ね適切であるが,正誤問題の一部に,趣旨が不明確で,判定に迷うものがあった。概ね基本的な問題を中心に構成されている点は評価できるが,必ずしも基本的な知識とはいえない技術的な事項や難易度の高い設問も散見される。基本的な設問が多く評価できるが,細部にわたる問題があることと分量が多い点に改善を望む。問題がやや細かくなっていて,難易度が増している。出題分野のバランスが取れており,おおむね適切な内容の問題である。やや難易度が上がった印象があるので,基本的な問題とした方がよいのではないか。

・ 全体として難易度は適切であると思う。しかし,問題作りの素材に平成21年の最高裁判決を―しかも2つも―使うのはどうか。もう少し間を置いて,講義の中で確実に取り上げられるようになってから使うようにしたい。重要判例解説で取り上げられたから学生は知っているはずだという前提に立つべきではない。過去の出題に比べ良問が多い。ただし,なお2~3問知識偏重問題があった。

・ おおむね妥当なレベル(なお第11 問は憲法だが国家賠償であり行政法にまたがる)。過去に出題例もある個別の最判について問う問題は,第25,26,29 問と3 問に増加し,判例批判や判例解釈の余地を封じ込める傾向は,はたして望ましいことだろうか。概ね良問だが,一部瑣末にすぎる問題(31,39,40など)や,やや難問と思われるもの(32など)がある

・ 新司法試験の開始当初は,行政法は,行政事件訴訟法,行政手続法,行政不服審査法,行政代執行法,情報公開法等の基本的な条文を正しく理解していれば比較的容易に溶けるものが多かったが,最近は,内容的には,個々の肢において難解なものがあり,完全正解にはなりにくいものもある。第32問のうち,情報非公開処分取消訴訟の肢(ウ,エ)は,最高裁判例の肢でもあり,行政法学上も正しく理解することが求められている。また,同じく肢イは,判例百選や比較的コンパクトな基本書においては論じられていない。理論的に難解な問題になりつつあるといえよう。また,第33問の住民訴訟の被告適格について,地方自治法242条の2の条文を参照条文として掲げて検討させている。しかし,行政法の基本書においては住民監査請求や住民訴訟についての項目が見受けられないため,ともすれば,コアなカリキュラムからは除外されそうであるが,実務上は住民訴訟は多数ある。演習で使用する教材などで,住民訴訟について習熟しておく必要がある。

・ 憲法よりも行政法の方が難しく,基本的な教科書や演習教材を細かく読み込むことや演習教材で事例問題に習熟しておくことが求められるが,基本書といっても,行政法という単一の法律があるわけでなく,著者によって行政法の大系は異なるから,できる限り上記の各法令に即して出題されることが望ましい。第37問など,行政訴訟等の事例問題に絡めた問題を多く採用することは,7科目もある短答式試験の趣旨に照らし,問題を難解にするので,あまり多用されるべきではない。また,第39問のウにおける行政手続法上の意見公募手続については,審議会に関して,限られた範囲の委員からの情報収集にとどまるという批判がみられたことを直接の契機として整備されたものとは必ずしもいえない。その意味で,ウの肢は正しいとも誤りともいえない微妙な見解であって,受験生を悩ませたであろう。

・ 「知識のみならず理解を試す問題をさらに望みたい。条文および判例についてかなり正確な知識がないと解けない問題が多数を占めていると思います。第28問のイは,自治事務などについては可能と見る余地があるのではないでしょうか。第33問のウの「市長C」は,機関としての市長を指すのか個人としてのCを指すのか明らかでなく,受験生が戸惑うと思います。」他に,「単純な知識ではなく,その場で考えさせる問題については,普段の勉強の進度が適切に反映される良問ではないでしょうか。」との意見もあった。

・ 部分点方式の多用は疑問。

 c.どちらともいえない

・ 細かい条文の知識を問う設問が多いので,改善すべき。基礎的内容の問題もあるが,そうとはいえないものも見受けられる。これまでのものよりも,難しくなっている。やや難易度が高いと思われる。やや問題が難しいのでは。

・ 判決の論理を聞くものはよいが,出題した意図がわかりにくい問題が散見される。21問(各問いに法律の優位や行手法の趣旨に関わりを持たせることは不自然ではないか。また,イは学説の理解によって結論が変わりうる),35問(エのように規定の有無を聞くのは適切か),36問(ウ 相当の期間の経過は,本案勝訴要件と見る余地もあるのに,設問では訴訟要件であることが前提であるかのような書き方をしており,混同を招く。なお,「何らかの応答処分を相当期間内に受けなかった」という表現よりも「何らの応答処分もされずに相当の期間が経過した」の方がよいのではないか。)39問(行政法の知識と関わりがない設問ではないか)。また,33問(住民訴訟の被告)は出題範囲として適切か疑問がある。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 以前に比して細かな知識を問う問題が多くなったように感じる。細かな制度,判例の知識を問う問題が散見される。

・ 例年のことであるが,出題形式に問題がある。○○○,○××のような正誤組合せ問題は,受験生に過度の負担を強いるものであり,形式として妥当ではない。

・ 制度・条文の本質的理解ではなく日本語の些末な限定的表現の違いを読みとる受験技術的問題や,複数の肢設問を全部正解しないと点数が付かず,肢設問の中に正解に悩む微妙な設問が含まれている問題が相変わらず多数出題されている。また,第33問の肢ウは,公金支出権限がBに委任されている以上,Bは地自法243条の2第1項後段の職員として賠償命令の対象となり,損害賠償請求の対象とはならない。したがって,本肢は誤りであると解される。しかしながら,出題者はあえて地自法242条の2第1項第4号の後段を参照条文として掲載せず,賠償命令の問題を考慮の外に置いて,本肢を正解としている。この設問は,地方自治法の実務的勉強をしている者にはかえって不利益となるものであり,適切とは考えられない。

・ 解答番号42番は,判例の「趣旨」というより例外的に除外される部分を尋ねるもので,不適切。この肢を「1」と解答した受験生は,単に判例の主たる論旨に則っただけであり,「処分無効=公定力無し」という知識を欠いているとは限らない。その知識を問いたいのであれば,もっと素直な尋ね方をすべき。素直な設問では受験生の実力の差が測れないのはわかるが,このような引っ掛けを設けたり細かな条文知識を問うのではなく,重要判例の射程やその論理的帰結を問うような問題を出題したほうが良い。

(2)民事系

(ア)民法

 a.適切である

・ 原文・判例の基本的知識を問うものとなっている。民法全般に亘る基礎的理解を問う問題である。基礎知識の習得を問うのに,良問である。非常にストレートな基本問題である。基礎的な知識を問う問題であり,内容,レベルとも妥当と考える。民法の基本的法知識を適切に確認できる出題である。分量および難易度も適切である。出題分野,難易度のいずれも適切であるため。基礎知識の確認としては,必要かつ十分な問題と考える。条文や判例に関する基本的な知識や理解を問う内容となっている。各分野からバランス良く出題されている。量的にも,難易度的にも3年間の学習で対応できる問題であること。基本的事項に関する内容が満遍なく問われており,形式的にも複雑な出題はなされていないことから,司法試験考査委員会の申合せに沿った出題と言える。条文の解釈及び判例の正確な理解を求めるもの。6回目ともなると,既に出題されたことのある条文や判例の準則を問うものがどうしても目につくが,そのこと自体は,実務家として共有すべき基礎的な知識を問うという出題趣旨からすれば,むしろ望ましいことと思われるから。

・ 以下の理由から適切である。①選択肢の文章量が適切である(長すぎない)。②基本事項(条文そのものから解答できるものも含まれている)を尋ねてはいるものの,正確に理解していないと正答に辿り着かない問題である。③「判例の趣旨に照らせば」という設問も,論文試験用に頭に入れておかなければいけないものがほとんどある。④設問の問い方が複雑なものがない。

 b.どちらかといえば適切である

・ 基本的な理解を問う問題が多く,適切であると思われる。適切だと思うが,やや容易な印象がある。基礎的知識に基づく問題発見の能力及び論理的思考能力を測るのに適切な問題だと思います。基本的事項を問う問題が多かったから。基本的な知識が問われており,おおむね適切である。基礎的な理解・知識が問われている。基本を問うている。一部にやや細かな知識を問う問題があるが,全体としては基本的な知識を正確に有していることを確認する問題であるといえる。条文の基礎知識を問う良問が多い。ほぼ全領域から出題されている。基本的な知識を問う素直な問題が多く,内容面では適切な出題だった。ただ,さらに長文化が進んだことは歓迎できない。とくに未修者において,考える時間が足りなかったものと思われる。分野もバランスよく,奇問・難問もなく,基本をふまえている。ただし問題文の出し方にもう少し工夫があってもよいと思う。

・ 各分野・各論点の基礎的な知識を問うものが多い点は適切であるが,細かすぎる判例の知識を求める設問が散見される。レベル平年並み。やや細かい判例の趣旨を尋ねる問題もある。わりとすなおな問題が多いが,「判例の趣旨に照らし・・・」とするものが多いのは,必ずしも適切とはいえない。各分野からバランスをとって出題しており,全体についての学習を促すものとなっている。ただ,判例の知識により込み入った問題を解かせる設問が多くなった印象を受け,時間が不足するのではないかとの危惧をもつ。

・ 各問において求められている知識(とその理解)の水準は,法学未修者1年次(ないし2年次春学期まで)の基礎科目において必ず触れられる基礎的なものにほぼ限られており,その点では適切と考える(ただし,第6問の判例知識,第11問の条文知識,また,第2問,第5問,第27問各問の選択肢の一部での条文知識は,適切とまではいい難い)。しかし,未修者が受験する試験時間としては,適切とまでは言い難い。なお,第25問の選択肢エで,「契約の解除又は損害賠償を請求する場合」との記述は,「解除を請求する」ことになってしまう点で表現として不適切である。566条3項では,「契約の解除又は損害賠償の請求は」とされている。やや不動産に関する問題が多いような気がします。細かい知識を問う問題ばかりが散見される。

・ 問題にばらつきがある。きわめて平易なものが後半部分に多いが否定するつもりはない。条文・基本判例を正確に把握していれば確実に解答できる肢に徹底してもらいたい。深読みから誤答が生じるような肢は望ましくないので,表現は条文・判例に忠実な形の問いにしたほうがよい。そうでなければ,真面目に勉学していた者がかえって誤るような結果になることがある。たとえば,第2問エのようなひっかけ問題も適切とは思えない。正確な理解を問う問題といわゆるひっかけ問題との区別は難しいところがあるが,講義中にその区別を明示的に注意するもののほかは,細かな区別を求めるべきではない。そうでなければ,その結果,そうした対策のための予備校が栄えることになる。

  なお,短答式試験は法科大学院でその分野を教えている教員が全員満点がとれるレベルの問題でよい(少なくとも試験出題者の全員が条文を含むなんらの資料をみずに満点がとれる問題にしてもらいたい

・ 短答式については内容において特に問題はないと思われるが,「適切である」と断言まではできないので,「どちらかといえば」と考える。なお,選択肢のaとbとの間に概念的に格差が大きすぎるように思う。おおむね基本事項を問うものとなっているが,選択肢の一部には,まだ紛らわしい記述が残っており,受験者を悩ませたのではないかと思われる。

 c.どちらともいえない

・ 「判例の趣旨に照らして」との留保が他の科目に比べて多いが,比較の基準が明確でなく問題がある。旧試験が終了して,過去の問題よりやや難しくなっている印象を受ける。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 個々の問題をみれば適切な問題が多いが,解答時間との関係で問題数が多すぎること,六法を参照させずに細かな条文の知識を問う(=細かな条文の暗記を強いる)問題が少なくないこと,時間不足・情報不足の中では難易度が高いと思われる問題も散見されることなど,(疲労がたまっている最終日に実施していることも含め)受験生に対し必要以上に高いハードルを設定しているように思われる。

(イ)商法

 a.適切である

・ 会社法上の制度等の正確な理解を問う問題が多く,また手形法・小切手法,商法総則商行為法の分野まで広く問う問題もあり,適切である。広範囲に亘り,基本的な知識を問うている。中には,異同や比較の問題があるが体系的に知識を理解しておく必要性から適切である。なお,細かい知識を問う問題もあるが,この程度は必要であり適切である。商法の基礎を問う問題で非常に適切である。難易度がほど良い程度である。問題が特別に難解ではないから。各領域からバランス良く出題され,難易度も適当と思われるから。細かい知識問題が減少した。やや細かい問題もあるが,おおむね適切である。基本的な法律問題が問われている。なお,問47の5がやや細かすぎないか。

・ 基本的な条文の理解や制度趣旨を問う問題であり,理解度に対応する形で得点差がつくものと思われる。また,十分に時間を割くことができない第47問,第48問及び第53問も,要求される個々の知識は若干細かいとはいえ,各受験生において制度の基本を理解できていれば解答可能な難易度である。基本的知識を問う問題であり,適切であるが,第53問のような考えさせる問題が会社法分野にあってもよかった。去年と違い,細かい条文の知識を問うものはほとんどなく,基本的理解を問う内容であった。基本に立ち返ると正解にたどり着ける問題が多い。授業で扱う基本判例の正しい理解を求める出題の趣旨が読み取れる。

 b.どちらかといえば適切である

・ 出題範囲が広すぎるのではないかという点は,検討の必要があるように思われるが,問題自体は概ねコア・カリキュラムに沿った内容で,難易度も適切である。商法の科目間のバランスが取れているため。

・ 基本的な問題であると考えられる。基礎的な理解・知識が問われている。基本を問うている。総則の問題がもう少しあってもいいと思います。条文の細かい知識を問いすぎている。基本的な知識を問うものが多く,難易度は適切と思われる。ただ,もう少し判例の知識などを確認する選択肢があってよいのではないか。細かすぎる選択肢も見受けられるが,全体としては,基本的な知識や基本事項の理解によって正解にたどり着ける設問になっている。基本的な条文・制度上の知識があれば正解にたどり着ける問題が多く,ほぼ適切と思われる。おおむね基本的な事項を工夫して問われていると思われる。試験委員のご心労を拝察いたします。

・ 全分野をまんべんなく出題していることは適切であるが,会社法に関しては条文知識ばかりではなく,基本的な判例の知識を尋ねる問題も含める方がよいのではないか。概ね基礎的な条文・判例の理解が問われていた。ただ,単に瑣末な知識を問う問題も見受けられた。従来よりは大分よいが,まだ若干難しい部分がある。昨年に比べればかなり問題の質は改善されたが,まだ重要とは到底思えない些末な知識を問う問題が散見される。若干細かすぎる問題がある。第45,47,48問など。

・ 出題のテーマおよび難易度については,適切であると思います。商法総則・商行為分野からの出題が少なくなっています。適切であるのか,疑問のあるところです。相変わらず網羅的に出題されているが,今年はきわめて基本的な問題も多く見られる。「なんとなく知っている」では点数はとれず,丹念かつ正確な勉強が必要であるという印象を受けた。ただ,やはり若干細かすぎる出題も多いと感じた。

・ 昨年度商法分野については,特に会社法分野で,細かな知識を問う問題があったが,今年度は,全般において,条文理解,基礎的な知識の確認を行う問題が出題されており,適切であったと考えている。もっとも,解散制度の条文理解の正確さを問う問題(第47問),交互計算の担保的効力の論拠を問う問題(第53問)は,問題のレベルは適切であるが,そもそも,破産法との関係や実務における利用度を考えれば,法曹として必要な専門的な法律知識を確認するという短答式試験の趣旨からは細かすぎる印象を持つ。細かすぎるような問題はないではないが,概ね適切である。会社法については適切。商行為(交互計算)についての問題は細かすぎる。

・ 昨年にくらべると基本問題を素直に問うている問題だから。例年に比べ比較的素直で簡潔な設問が多いような印象を受ける。その中でも,第46問や第53問のように規定や学説の趣旨を問う問題は良問であると思われる。ただ,解散を扱った第47問で,あえて委員会設置会社を扱うのは些末な問いのように思われる。一部,内容的に些細な知識を問う設問47や設問51もあったが,全体的には,ほぼ適切であると考えられる。今後においても,実務に携わってからの習得で十分間に合うような知識問題や法務省令等を知らなければ解答できないような問題は出題するべきではなく,基本的には今回の難易度をベースとした出題が望ましいと思われる。

・ 判例の理解を求める問題が少ない。まだ細かな知識だけを問う問題がある。一部難しすぎる問題がある。

 c.どちらともいえない

・ 良問も多いが,条文の細かい知識を問う問題が混在している。やや,知識偏重ではなかろうか。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 細かいことを問いすぎである。基本的な知識を問うというより細かい知識を問う問題が少なくない。細かい知識を問い過ぎているのではないか。細かな知識を問う問題が多すぎる。従来同様細かい知識を問う傾向にあり,詰込み型学習を要するものである

(ウ)民事訴訟法

 a.適切である

・ 条文・判例と基本的な内容を問うものであるから。基本的な理解を検証している。難易度が適切である。法科大学院の授業でカバーできる程度の水準であるから。論文試験を補う出題,例えば条文知識を問うもの,応用的な質問等がバランスよく配されていると思う。問題について,質的・量的に適切であると考える。再審にまで及ぶ民訴法全般にわたる基礎的理解を問う問題である。問題のレベルが例年に較べて平易であり,受験者が備えている基礎的な能力を測る問題として適切である。必須の基礎的知識が全体にわたって幅広く問われており,基本的な理解力を試験する問題として適切であると思われる。受験生の理解をはかるのに適している。条文,民事訴訟法判例百選掲載の判例,及び代表的体系書における叙述を題材としており,それらの正確な知識・理解を問う問題として,適切であると考える。出題分野,難易度とも適切である。ほぼ基本書および条文を理解していれば解けるものであり,問題の質も適度である。

・ 特に63問,66問,72問は考えさせる問題として評価できる。56問のようにやや細かい知識を問う問題が減っているのは適切であると考える。

 b.どちらかといえば適切である

・ 出題に工夫が感じられる。問題は基本的事項を問うものであり,適切であると思います。正確な理解が身についているか試される問題となっている。昨年度に比べ,基本的な理解を問う傾向が強まっているように見受けられる。おおむね基本的な事項が問われており,適切であると思料する。条文・判例の基本的知識を問う問題が中心で,適切と考えられる。基本的知識(理解)を問う問題だから。出題に偏りがない点。勉強量によって差が出る問題である。概ね条文と基礎的知識の理解を試す問題の枠内にあるといえ,これから大きく逸脱していない。条文や判例や基本的知識で解答可能。

・ 条文・基本知識を確認する内容のものが多い。いくつか細かい知識を問うものがある。ほぼ条文知識に関する問題であるが,やや細かすぎる点もある。基本的には,適切だと思いますが,もう少し理論的な内容を問う問題の割合を増やした方がよいと思います。総じて基礎的な知識を広く問うていて,短答式の趣旨に整合的であるが,少数ではあるものの,細かい条文の暗記に頼らざるを得ない設問が混在している点が気になる。全体としては基本的な理解を問う良問が多いと思う。しかし,一部に条文の細かすぎると思われる内容や判例の説示の細かな論理展開を覚えておかないと答えにくい事柄を問うものがあると思う。基礎的な理解・知識が問われている。例年通り,細かすぎる問題が少ないながらも存在する。単純な知識を問うものが散見された。一部にやや細かい設問が見受けられる。細か過ぎる知識が問われている点は感心しない。

 c.どちらともいえない。

・ 判例の趣旨等を問う設問は,法科大学院の講義において十分対応可能な水準の問題であったと思われる。教科書と条文をきちんと考えながら読み込むことで対応できる問題であったと思う。パズルのような問題はなく,良い問題であったと思う。ただ,やはり,量的にはかなり多いとは思われる。控訴・再審は受験生には少し厳しかった。

・ 短答式は,民事訴訟手続の開始から終了までの領域につき,条文の基本的理解や,主要判例の理解を問うものであれば足りる。実務家としてミニマムといえる条文や判例の学修が不全な受験生を排除できれば,その役割を果たしたものといえるだろう。かかる観点からすれば,出題内容は概ね妥当とは思うが,民事系全体をみると,全74問(民36問/商19問/民訴19問)を150分で回答することが求められており,およそ1問を2分で回答しなければ消化できない。民訴の問題中には,単純な形式の正誤判定問題の他に,第66問,第68問,第69問や第72問のような事例による正誤判定問題(このうち,第66問は組み合わせ型の問題でもある)があり,また,第63問や第74問のような事例をもとに判例法理を問う出題(なお,第68問,第69問,第72問も判例の理解を問うものである)があり,時間的には厳しいかもしれない。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 重箱の隅をつつく記憶力だけの試験になっている。問題数を減らし,思考力を重視する傾向が望ましい。

(3)刑事系

(ア)刑法

 a.適切である

・ 基本的知識を幅広く問うている。条文及び判例の理解を問う基本的問題が多く,適切であると思われる。受験生の基本的な知識の有無,問題処理能力の高低を計ることが可能な問題であると思われるため。さほど難しくなく,オーソドックスな問題であったように思う刑法総論・各論の学習範囲につき,まんべんなく出題され,基本的な事項についての知識が問われている。とくに判例を正確に理解しているかが要求されている点は評価できる,良問といえる。問題内容が分り易い。いくつかの細かい知識の点を問うたものがあったものの総じて難易度は適切なものと思う。特別難解ではなく,適切であったと思われる。出題範囲,難易度(少し易しいともいえるが,基本的知識を問うという意味でむしろ望ましい)ともに適切である。内容,難易度とも妥当なものだと思う。基本的知識と事実への適用能力を試すのに適切な問題だと思われる。基本的な論点の理解度を問うものであるから。事案の解決を考えさせる問題。複雑な形式によることなく,基本的な知識および推論能力をバランスよく確認する内容となっているから。論理的思考,基礎的な知識がバランス良く聞かれている。判例を中心とした,基本的な知識を問う内容となっている。基本的知識を前提とした理解力を問う出題。全問が1年次生の授業科目の範囲内の基本的な内容である。刑法総論・各論の問題点を偏りなく問い,しかもいずれも,基本的な理解を問う素直な問題である。

・ 設問内容・形式に工夫がみられる。各論と総論各10問で計20問が交互に配置されている点でバランスが良い。20問のうち,判例の知識を問うものが15問,学説の理解を問うものが5問であり,その配分は適切であり,かつ,いずれも基本的な問題と思われ,内容上も適切である。第19問と20問は,事例を通して判例の立場で考えさせる形式の問題であり,判例の正確な理解をみるということでは適切というものの,この形式があまり増加すると全体として難問化する懸念もある。今回は,総論,各論各1問であり,適切と考える。

 b.どちらかといえば適切である

・ 本学の教育課程に概ね合致している。基本的な判例をよく理解していると対応できた。全体からバランスよく出題されており,基本的知識が修得されているかを確認するのに概ね適切な水準と思われるが,第12問のような調べれば分かる程度でよいと思われる技術的な事柄に関する出題が含まれており,改善の余地がある。第7問事例Ⅱは2項強盗殺人たりえないことをより明確にした方がよいように思われる。第4問は①②④,第16問は③までで解答可能であり,もう一工夫が望まれる。

・ ○実務家養成の観点からみて,おおむね適切な出題範囲・内容であるものの,ほとんどが基本判例としてよいものとはいえ,判例の結論を数多く暗記することが必要で,とくに未修者にとって過度な要求と思われる場合もある.○個々の問題は,特に難しくはないものの,問題文の情報量が多いために試験時間内に考えて解答することは,かなり難しい。他の科目のように,もっと問題を単純化することが望ましい。

  パズル的な問題は不要。

・ 問題数が依然として多すぎるように思われる。解答時間に比して問題点の量がやや多すぎる。問題数がやや多いように思う。出題に工夫がみられるが,制限時間との関係でやや分量が多い。もう少し基本的な問題を多くしてもよいように思われる。分量がやや多いのでは。基本的に大変適切と思われるが,比較的短時間のうちに答えさせる問題としては,やや複雑に過ぎるかの感がある問題も絶無ではない。出題方式が多様化しその場での論理思考を問う問題も組み込まれた点は評価できるが,問題分量の多さ,条文のを(ママ)要するもの,「正しい」肢と「誤っている」肢の双方があることなど事務処理能力を問うにも過度の負担となりかねない点で改善を求めたい。

・ 判例を知っているかどうかを問う問題で,やや知識偏重の感あり。基本的な知識を問う問題が網羅されていたので。受験者の能力を見ようとする点は評価できるが,やや細かい。問題の範囲はよい。しかし適切でない長過ぎる問題があるし,A説・B説・C説に基づいて結論を求めるような問題は,適切でない。判例を中心とすべきである。例えば,4問,7問,14問は不適切。再検討が必要である。

・ おおむね適切であるが,刑法解釈の基礎的理解よりも,判例の知識を問う問題が多い点には問題がある。

・ 判断を迷う問題もある。ex.執行猶予←短答式

・ レベルの高い問題が多少存在する。

 c.どちらともいえない

・ 出題領域・難易度とも適切であるが,部分点のない問題が多く,全くできない受験者と途中まではできる受験者とに得点差がつきにくいものとなっている点に,再考の余地があるものと思われる。負担が重い。判例の立場という限定が,設問と必ずしも整合でない。

・ 平易であり,実務に必要な基本的な知識を問う問題,論文問題で問うことのできなかった部分をカバーする問題としては,適切であるが,反面,刑法の基本的な考え方についての理解を問う問題に欠ける。

・ 総論の問題は,易しい問題が多く,しかも総論においても周辺的な部分の設問の割合が多く,また,総論の理解を確認する問題としては物足りない。他方,各論の問題は,条文判例のこまかなところを聞くものが多く,基本的な事柄を理解しているかを確認する問題としての工夫が足りない。ここまでこまかな知識がたくさん聞かれると,未修の学生には少し厳しいかと感じるし,二回目,三回目のものが有利になるだろうし,また,勉強に際して,こまかな知識に拘泥する傾向をうむのではないかと危惧する。こまかな知識がなくても,推論で回答できるのならそれでもよいのだが,そうした工夫はこらされておらず,単純に知っているか否かだけで差がつく問題となっている。問題が十分に練られておらず,全体にアンバランスである。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 予備試験問題と同一問題が数コ見られたのは不適切。

・ ①日本は判例法の国ではないのに,判例知識(それも極度に単純化された)を問う問題が多すぎます。②部分点をもっと与えてもよかったのでは?

(イ)刑事訴訟法

 a.適切である

・ 刑事手続に関する基本的な法令および判例が網羅的に問われている。問題の難易度,分量ともに適当と思われる。満遍なく条文,判例の知識を問うていて,難問,奇問もない。幅広い分野から出題されている上,特に実務に関連する問題は,本学における刑事実務科目で扱っている内容ともよく適合しており,法科大学院教育を念頭に置いた適切な出題と評価できる。質・量ともに例年どおりであり適当と思われる。法科大学院の教育課程で身につけるべき基本的な知識を広範囲に問うものであり,短答式試験の本旨に合致する出題内容である。教科書を読むことの大切さを示している。法曹となるために必要最低限のレベルの出題であり,適切と考える。基本的知識を問いつつ,裁判員裁判など実務に直結する知識を問う問題もあり,適切であると考える。幅広く主要な事項が問題に取り上げられており,思考力・推理力をも問うものとしてほぼ適切であると思います。問題処理能力を試すものとしてある程度は適切だと思われる。

 b.どちらかといえば適切である

・ 短答試験問題については,一部の問題については手続の細かな知識を問題とするものの,全体的に素直で基本的な問題だと思います。特にひねった問題や奇問はなかったように思います。細かい条文の知識を問うわりに部分点を与えない不適切な設問も一部にはあったが,その他の設問は実務的な能力を吟味する設問等も多く,概して適切であった。基本的知識を問うものが多く,もう少し難易度が高くてもよかったのではないか。基本的事項の理解度を問うもの。法科大学院の授業および自学自習によりおおむね対応可能な設問である。暗記だけでなく,判例の内容についても理解を問う適切な問題が多い。年により難易度に差がある点が気になる。

・ 全体として,刑訴法に関する条文及び重要判例についての基本的知識が習得できているか否かを問うものといえ,適切である。ただ,やや細かすぎると思われる部分が見受けられないではなく,受験生がこれを意識しすぎると,暗記に頼る傾向が出てくるおそれがある。条文の暗記を強いる細かい知識を要求する問題もあるが,基本的な実力を試す良問が多いと思われる。少し細かすぎる点を問う問題があった。

・ 問われている知識自体は適切な水準だと思料する。他方で,出題形式で難度が上がっており,未修者にとってやや厳しいのではないかと思料される。「正しい」あるいは「誤り」の個数を答えさせる問題が多すぎ。おおむね適切な水準だと考えるが,やや細かい知識を問う設問があるほか,個数問題とすることで,適切に受験者の能力を測ることが難しくなっているのではないかと思われる。受験者の能力を見ようとする点は評価できるが,やや細かい。出題のレベルは相当と考えるが,細かい知識の有無のみを問う印象の出題が若干数みられる。過去問の活用を検討すべきではないか。細かい知識が要求される問題もあり,基本的知識に裏打ちされた法的思考力を重視する授業内容とズレが生じるおそれがある。条文知識を問う問題が若干多すぎる気もします。概ね適切であると考えられるが,要求されている知識が若干細かいのではないかと思われる出題も見られた。なお,細かい知識が要求される記述がいくつかの肢に含まれていても―他の肢との兼ね合いで―基本的な知識があれば回答できる問題になっていれば不都合はないと思われるが,今年度の出題には,細かい知識そのものがないと解けない問題も含まれていたように思われる。数問につき,細かすぎるものあるいは難解なものがあるため。

・ 供述録取書や冒頭手続の実例を示した問題などは,実務科目との整合性が高い良問と思われる。他方,権利保釈の除外事由に関する問題など,やや難度が高すぎるのではないか(そこまでの暗記を求めなくてよいのではないか)と思われるものが散見されるように感じる。条文,判例を中心に出題するのは,実務的には適切である。実務家として必要な基本的な手続を身につけていることを問う問題であり,全体的に平易でもあって適切であるが,周辺法を含めた記憶重視の問題となっており,「受験勉強」が必要。

・ 基本的な事項を問う設問になっていると思うが,判例を考慮しなければならない場合,最高裁判例を基準とするなどの点を明示しておく必要があると思う。

・ 問題文が長すぎるのではないか。問題量がやや多すぎるように思われる点を除いて適切である。解答時間に比して問題点の量がやや多すぎる。

 c.どちらともいえない

・ 条文の細かな知識を前提とした問題がやや多いように感じた。細かな知識を求めすぎている。細かい知識を問うものがある。ほぼ適切な出題であるが,やや細かい感じがする。全体的には良問が多いとは思うが,相変わらず細かな知識を問う問題も含まれており,改善が必要である。また,実務的な問題も増えているような感じがするが,選択肢からすると,思考力を試す問題にとどまっており,過酷な試験日程の中であえて取り上げるべき問題とは思えない。

・ 設問の中には,たとえば告訴に関する問題や保釈に関する問題など,法技術的で細部にわたる知識の有無を問うようなものが含まれており,法科大学院教育で身につけた基本的知識・理解を確認する試験としては不適切。各系とも問題数が依然多過ぎる。条文を見れば分かる問題に答えさせる意味があるのか疑問。

・ 細かな知識の有無を問う出題が多かった。実務において,正確に暗記しておく必要がなく,その都度六法を確認すれば済むような知識は,受験生にも求めなくて良いのではないだろうか。第30問,第34問等,具体例に即して解答させる問題は適切だと思われる。また第 36問のように(その内容自体は難解ではないかと思うが),その場で考えれば 解答可能な様式の問題があっても良いのではないかと思う。

・ 短答式試験の制度趣旨,現行制度の性格からすれば,問題自体は概ね妥当である

とは思う。しかし,そもそもこのような短答式試験が制度的に適当であるか疑問がある上,刑事政策に関わる問題が無くなったことは問題だと思う。

・ 通信傍受,即決裁判,裁判員裁判など特殊な手続を問う問題があり,やや細かい知識を問うものではあるが,消去法で正解に達することができる。明らかに正しい,誤りの選択肢で何とか正解できるので,問題はないと考える。対策として,これらの特殊な手続を細かく勉強する必要はないが,制度趣旨・理念などは理解しておく必要がある。

  個数を問う問題などで部分点のない問題があり,これらの配点合計は17点で,いずれの問題でも,1個だけ間違っても,全滅。他方で,個数を問う問題は,本当は正しい選択肢を誤りとし,誤りを正しいとすれば正解になるので,正確な理解度を測ることはできず,適切とはいえない。とはいえ,問うている内容は,基本的な理解を問うものではある。

 個数を問う問題などで部分点がない点を除けば,基本的な理解を問うものであり,適切である。単純に条文の知識を問うのではなく,具体的な手続に則して理解を問うており,実務的な感覚をも試す問題もあり,適切な内容となっている。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 実務的なセンスや知識を問う問題となっているが,他方,処理量が多く,かなりの処理スピードが必要とされるため,多くの受験生にとって時間が不足すると思われる。

・ ○本年の問題は,条文の知識を問うものが多かったが,細かい規定の別の暗記を要求している問題があった。条文を中心に据えることは妥当であるが,基本的な手続の流れを確認するものとしたほうがよいと思われる。

  ○昨年度に比べても問題量が増え,かつ,難しくなっているように思います。刑法についても同様の傾向があるように思います。これを時間内に解答するのは,至難の業ではないでしょうか。

  ○問題の情報量が多く,試験時間内での解答は困難である。特に第28問は,問題文が複雑すぎる。同じことを,もっと単純な形で尋ねることができる。第32問や第36問は,尋ねている知識が法科大学院レベルとしては細かいか,特殊にすぎると思う。第36問の記述中,エを誤りとする題意も読み取りにくく,適切ではない。

・ 細かい条文知識を問いすぎている。正解の個数を問う問題は適切ではないのではないか。

・ 出題範囲が広すぎる。

・ 出題領域は適切だが,問題の全体量が多く,パズル的解答を求める設問形式が多用され,必要な知識を正しく理解していても,そこから設問形式に従って答えを導くまでの時間(この時間は,学力とは何の関係もない)が無駄にかかり,時間内に解くことが困難な状況を作り出している。とくに,昨年も指摘したが,正しい(誤っている)ものの個数を答えさせる問題は,学力を正確に測ることさえできず,極めて不適切な出題形式である。

 e.適切でない

・ 記憶や単なる知識に頼って解決を求める問題が多すぎる。

・ 刑訴訟法関係の短答式試験について,出題範囲を刑事訴訟法の基本問題に絞り込むという配慮がない。むしろ,刑事手続の全般について,細かな知識を網羅的に要求する問題の作り方となっている。このほか,答えの選択肢の中にいわゆる「ゼロ解答」があるとか,長文の問題が多いとか,問題の作り方には疑問が多い。結論として,「適切でない」といわざるをえない。

2.論文式について

(1)公法系

(ア)憲法

 a.適切である

・ 前年度は制限時間内に回答するには分量の多い設問が立てられていたが,その点も改善し,内容・形式とも良問であると考える。基本的なテーマの現代的応用事例につき,法的構成や具体的分析・検討の能力を問う問題となっている。昨年同様,学生に社会に目を向けるよう促す良問だと思う。問題文に提示されている仕組みや事実関係を適切に分析することが求められており,救済につき問うことも含めて,「公法系」の一分野としての憲法の出題として適切である。問題の難易度も適切であり,今後も本年度程度の難易度の設定が継続されることを望む。昨年度に比べて,問題が複雑になりすぎないで,法科大学院で学んだ法的思考をくわえれば,比較的解答しやすい問題ではなかったと思われる。難易度・分量ともにほぼ適切である。考えさせる問題である。事案解析能力および論理的思考力を問うものである。思考のプロセスを問う出題形式で,適切であると考えます。

・ 現代社会においてアクチュアリティーがある問題について,通り一遍の知識では歯が立たない出題となっており,受験生に憲法の基礎的観念について深い理解を求めるものとなっているから。時事性のある問題を素材にしてよく練られた問題として評価できる。第1回新司からとられている原告側-被告側-自分の見解という三面構成での検討を求める出題形式と相まって,受験生の思考力,論理構成力を問うにふさわしい問題である。テーマも奇をてらったものではなく,複数の憲法条文に関わる事例が用意されており,設問自体も例年同様に法曹適性を判定するのに適当である。現代的問題にそくして憲法を実際的に考察することを求めている。規制される権利と規制する利益の間の利益衡量を事案に即して行うことを要求している点。仮設の法律の仕組みを踏まえた上,実際の訴訟提起を意識した憲法上の主張をすることが求められている。現実の社会問題を意識した,基本的な憲法解釈が問われている。現代的な社会問題に関する設問だから。

・ 基本概念,判例の論理の正確な理解を踏まえ,事案に対応した展開力を試すものであり,法科大学院における教育に対応する水準の問題である。偏った知識を問うものではなく,また,実務を意識した問題である。違憲審査の方法基準を問う問題として適切である。

・ 例年と比較すると難易度が多少低くなっていると感じられるが,本年度の難易度は適切なものと考えられるから。受験生の迷う余地がさらに少なければなおよいと思う。

 b.どちらかといえば適切である

・ 内容は,基礎から考えさせる問題であり,適切である。ただし,原告側Xの主張を構成するに際して,Xがどのような理由と目的で改善勧告に従わないのかについて,Xの言い分を示す資料がある方が,問題を深く効果的に検討させられるのではないか。学生に考えさせる出題であるといえる。基本的な知識の応用力を問う適切な出題といってよい。ただし,事案の記述には,説明不足の点もある。

・ 憲法及び憲法訴訟に関わる行政訴訟の重要知識を,事案に即して展開させようとする点で,狙いは適切である。ただし,普段の教育経験,及び若干の受験者に聴取したところからすれば,こうした狙いに即した解答がどの程度あるのかについては不安もある。時事問題に取材する点は良いと思う(ただし,インターネット関係に偏る必要はないと思われる)。

・ 訴訟類型の提起は憲法の問題として必要かどうか疑問に感じている。

・ ①訴訟類型についても聞いている点は,より実務的な見地から憲法上の問題につき検討させようとするものとして評価できる。法科大学院生が,憲法・行政法それぞれの観点からのみ問題を考察する分断的な思考方法に走るのを防止する効果が期待される。ただ,問題文からは訴訟類型についての問いについての配点が明らかでないので,受験者はどれほど深く論ずればよいかとまどったのではないかと思われる。②今年も時事的,社会的な素材を用いており,生きた現実の中から憲法問題を考えさせるものとして評価できるが,これまで表現の自由に関わる問題はよく出題されていることからすると,他の分野から出題することが適切であったのではないか。

・ 現代的問題を素材とする良問だと思います。受験生が憲法学の基礎的理解を前提として考える力を試すことができると考えます。また,問題文の量としても適切ではないかと思います。

・ 「a.適切である」に丸をつけない理由:ユーザの手続参加権〔憲法31条〕問題への誘導として,問題文末尾の「行政手続法の定める手続に従って」のたった一言のみで足りるといえるか,必要があれば手元の六法をも見るべきだということについては昨年の採点実感にも記載されていたことを考慮に入れても,意見の分かれうるところでないか。

・ 時事的な問題であるのはよい。プライバシーに比して,情報提供会社の権利が同じようなレベルにあるのか,出題内容そのものが問題という訳ではないが,比較という面ではやや疑問がある。

・ 提起すべき訴訟を訊ねることは,新司法試験の性格から見て適切である。他方,現代的問題を素材とする趣旨は理解できるが,その問題に関して詳しい受験生にとっては,その知識に引きずられるが故に,設問で問題とされている憲法上の権利や論点を誤解するおそれがあり,出題の趣旨を明快にするよう一層の工夫,ないし,より標準的な事例の出題が求められるのではないか。

・ 法廷メモ事件や未決拘禁者の閲読の自由で,「思想・人格の形成発展と民主政の発展」という2点が指摘されている。今回の論点は自己実現という形での表現の自由だが,自己統治とは違う観点から国民の知る権利に奉仕する,インターネット時代の表現の自由という捉え方は新しい。今回の出題は,そうした判決を踏まえて受験生に新しい理論構成を問い,そのことが憲法理論の発展につながるという含みを持たせている点では大変良い問題だと思う。

  表現の自由とプライバシーが中心的な位置を占める答案になろうかと思う。フィルタリングの問題(2008年)が出たときに,問題文が8頁もあり,しかも2頁の内閣府の広報資料と称するQ&Aの資料が付いていたが,処理に迷って時間切れになる受験生が結構多かったようだ。今回は資料を含めて問題文5頁,設問2問で,分量は旧来よりもスリムでありながら,内容的には充実している問題だと思う。設問のスタイルが定着しており,受験生が安心して解答できる。

・ 一応誰でも答案用紙を埋めることはできそうだから。問題としてはよくできていると思うが,新司法試験の問題はもっと易しくしてよいと思う。

・ 訴訟選択を問うものとして行政法との融合的な問題が加えられている。

・ 問題自体は適切と思うが,たとえば解答時間を2時間30分としたらどのような結果になるかも考えてみてはどうか。問題のレベルとしては適切であるが,2時間で回答するには分量が多い。

・ 何の人権の問題であるのか,またそもそも人権に対する制限であると評価しうるのか,という点を考えさせる問題であるとお見受けした。現在の社会で実際に起きうる問題をテーマにしている点は,毎年の傾向であるが,評価できる。ただ,基本書を繙いても,確たる「解答」がなく,様々なアプローチが可能であろう点は,評価が分かれうると思う。単なる暗記では解くことができず,基礎的事項を踏まえて考える力が問われる,とみるならば,良問ということになる。しかし,確たる「解答」がないと思われる点は(冒頭の二つの「論点」いずれもそうではないかと思われる),法律専門職としての入口の試験に過ぎない司法試験で問うのに適切なレベルをはるかに超えているのではないか,これは学者なり憲法問題に関心のある実務家なりが考えるべき問題なのではないか,とみるならば,いたずらに受験生を不安に陥れる(ある受験生からは,「この問題だと,どれだけ勉強すれば合格できる,ということが見えません」と言われた)点で,悪問なのではないか,とも考えられる。もっとも,後半の危惧は,実際の採点の目安が明確になれば,解消されるのかもしれない。採点実感やヒアリングでのコメントを待つ次第である。

・ 昨年は,解答時間に対して回答内容がやや多すぎたように思われましたが,今年の出題では,この点は改善されているようで,適切な出題内容かと思います。また,問題文の長さ,添付資料等についても適切だと思います。今年の出題だけを採り上げれば,とくに不適切な点はないと考えられるのですが,年によって出題の難易度に大きな差があることが少し気になりました。毎年の出題の難易度の均一化は難しいかと思いますが,改善の努力を望みます。

 c.どちらともいえない

・ 1 形式的:数年,ほぼ同様の質問形式で,弁護士の立場(設問1),あなたの考え(設問2)を相手の反論を想定しながら論じる形式になっている。受験生は,この形式に熟知しているため,どのように書いたらいいかは練れているはずである。設問1では,憲法訴訟論の簡単な知識が問われ,さらに,人権の基本的な理解度が問われる,設問2では,さらに,人権への深い洞察力が問われる関係で,この質問形式は有効かもしれない。

  しかし,逆を言えば,新鮮味がなく,問いかけにそろそろ変化があってもしかるべき時期にきているかもしれない。行政法の設問に仕方が極めて典型的なやりかたをとっているのと対照的に思われる。憲法訴訟に拘るのであれば,判決を予測することもある。ただし,答案をまとめる側からすれば,「憲法上の問題ごとに」(設問1)という問いかけは,解答が複数あることを示唆するものであるが,その論点を時間内ですべて書かなければならないかの心配がでてくる。その点から,毎回書いていますが,配点を設問毎に明記していただきたいところである。

  2 実質的:このところ,極めて現代的な社会問題が注目され,これに関する出題がなされるという傾向がある。社会の実態を立法に託すことは,必要であろう。この表現行為の現代的な変容に着目する問題が,過去にも出題されており,この点に偏りすぎているのではないかということもある。立法目的を考慮し,これに対する対応措置の正当化と必要性を問うことになるので,「3段階審査」の手法から描くのが最ものような印象を受け,さらに,自由に対する国家の侵害の程度を検証することになるために,各,大学院でいかなる教育をしているかの質が問われることにもなろう。その点からは,旧来の比較考慮論では不十分なのかが,受験生からは心配になるところである。

  工夫があったのは,「行政手続法」を中間の手続きに入れ込み,侵害を行った側に行政的な中止命令を行った点を,受験生が手続きから正確に読み取っているかを問うている点であろう。その意味では,行政法の知識が問われるところであり,この出題の意欲が表れているところかもしれない。

・ 私人間効力論の処理の仕方,個人情報の保護の範囲,X社の情報伝達権の範囲等,論点が散らばっているが,一見して簡単な問題も,解答に結構差が出るのではないかと思われる。どの点が重点なのかを見極めて書いた答案が優秀なのか,それとも全体の流れが纏まっているのが優秀答案なのか,そこの点を出題者の側から示唆していただければ幸いである。

・ もう少し意外性がほしかった。(中央大学)

・ X社からの依頼内容を明らかにしないまま,「どのような訴訟を提起するか」を問うのは如何なものかと思う。また,事例内容をみる限り,中止命令が抗告訴訟の対象たる処分か否かは,相当の字数を費やして論じ得ることができる,行政法上の論点である。そして,設問文を読む限り,この点については,「憲法上の問題」に限って論じるよう求められているわけでもない。「公法」の問題である以上,ここで,行政事件訴訟法上の論点を論じてもおかしくはないはずだろう。しかし,そのことが,出題者の趣旨であるとも考えにくい。論じるだけの素材が,問題文において提供されているとは言いにくいからである。「行政手続法の定める手続に従って」というだけでは,中止命令が処分である旨の前提が,十分に明確にされたとは思えない。この問いに対し,行訴法上の論点をどこまで論じるべきなのか,戸惑った受験者が多くても不思議はない。訴訟選択を問うのであれば,依頼者の依頼内容を明確にした上で,訴訟選択を論じ得るだけの素材を問題文の中で示すべきである。

・ 事実状況に不明確,情報不足なところがあり,原告の主張が書きにくいように思われる。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 「家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像」が,どういう画像か分からない点に疑問を感じます。

・ 

 e.適切でない

・ 今日的な題材を素材にして基本的な知識や論理力を問うことはとても良い。しかも,今回のように,訴訟形態を意識しながら,憲法上の主張をさせることも良い。しかし,時間は2時間である。そのなかで,憲法上の問題ごとに主張内容を書くことは当然であるが,そのことが強調されると,中心的な論点や論点の関連などが軽視され,「論点主義」に陥る可能性がある。また,今回もそうであるが,憲法の出題は難しすぎる。専門の研究者でも見解が分かれる出題は資格試験として不適切であり,学説・判例の見解を,憲法訴訟の技術を用いて運用できるかを問うのであれば,既存の最高裁判例と類似の事案で十分である。例えば,従来から合憲性が議論されてきた何らかの国家行為について,最高裁の判例に照らして判断するとどのような結論が導かれるのか。また,原告が当該国家行為の違憲性を争う場合にどのような準備書面を用意すべきか,その概要を解答させるという出題でも,法科大学院での学習成果を問うには十分である。現在の出題では,「採点実感」でも指摘されているように,ほとんどの受験生が満足な解答を示すことができず,実力に応じた得点差の出ないような採点結果になっているようである。受験生の実力を測定する試験としては,明らかに不適切であり,早期の改善が必要と考える。

 

(イ)行政法

 a.適切である

・ 弁護士と職員の質疑には丁寧すぎる感があるが,全体としては適切であると考える。

・ 論文式試験は考えさせる良問。勉強しておれば必ず解答できる。基本的論点をバランス良く訊いている。オーソドックスで,よく考えられた問題である。最後の設問も行政法の問題としては適切である。出題された分野は適度に幅広く,難易度も適切である。理論的な面での習熟と,実定法を読みこなす技術的な面での習熟とを相関させる良問であった。基本事項とその応用力が問われている。実力を十分に測ることができる問題と考える。

・ ロースクールの教育と対応し,学生の思考力を試している出題であったから。法科大学院の授業内容と適合しており,学習の達成度を十分に測ることができる設問である。

・ 設問1は予想された典型論点であり,判例の基礎知識を問う問題である。論文式の思考力を試す問題としてはいかがとも思われるが,判例の正確な理解を前提に具体的事実関係を読み解く能力を問う問題として是としたい。設問3は解釈論を踏まえた立法技術論を問うものであり,柔軟で実務的問題意識を持った受験生を選抜するには良い問題であったと考えられる。従来のように,原告の立場で訴訟類型と訴訟要件を論じさせるのみではなく,条例の立法論を含む多様な問題について考えさせるよう,工夫されている。最近の判例に基づく実務的な問題であり,行政法の力を試すのには適切な問題であった。偏った知識を問うものではなく,また,実務を意識した問題である。また,法曹の資質を問うという視点からは適切妥当な問題を設定すると共に,行政法学を勉強する上で,行政が今日直面している課題への関心を求める設問もあり,と同時にそれが基本的な勉学を求めるものであることから,全体として,行政法学についての知見等を問う上で適切妥当という印象を持った。

・ 思考力が問われる問題(とくに設問3)。ただし,時間内に処理するのは容易でないと思われ,その点が検討の余地ありか。実力の試される良問。盛沢山に過ぎる印象もあるが。類似の事例で最高裁判例が出ているので,その判例を知っていれば答えやすい問題だと思います。設問3については,「地方自治法」の授業では現行地方自治法の下での条例制定権の範囲について検討しましたが,行政法の授業ではそこまでカバーできないので,地方自治法を履修しなかった学生には難しかったと思われます。 設問3は新しい出題形式であり,受験生にはとまどいもあったと想像するが,行政法の仕組みを考える上での良問である。

・ 法科大学院の必修の授業で取り上げる内容について,新しい判例もふまえつつ,基本的な知識と法解釈能力を問う適切な出題であったと考えている。原告適格が出題されたためとも思うが,試験時間を考えると,資料の分量が多かった印象はある。行政法5~6単位程度のロースクール教育に鑑みれば学生の実力を試せる適切な問題だった。また全体的に過去の採点実感で指摘されていた注意点が意識された出題であり好印象をもった。

・ 本問の事案及び設問は,行政救済法の論点に偏ることなく,行政法総論からもなるべく多くの論点を問うことができるよう作成されており,またそれらは古典的な重要判例のある論点でもあり,基本を大切に勉強した学生が実力を発揮できる良問である。もっとも,平成22年公法第2問のような各論,応用論点からの出題も日頃の法科大学院での学習成果を問ううえでときには有用である。なお本問の分量はやや多めであったように思われ,情報処理能力も問われる問題であったと思われる。

・ やや難しいが,正確で深い理解が求められた良問である。立法政策を問うている点も良い。

 b.どちらかといえば適切である

・ 予備校型学習では対応できない設問となっているところがよい。昨年度と比較するなら基本論点を問う出題となっている。基本的知識が幅広く問われている印象である。通常のカリキュラムの範囲内だった。

・ 著名な最高裁判例の事例を題材にしたもので,問われている問題点も法科大学院で勉強した学生であれば,解答が可能な内容になっている。設問3の出題方法が目新しく,何をどこまで書くことを要求しているのかが,やや掴みにくいのではないかと思われる。目新しい視点での解答を求めるときには,問題文中にもう少しヒントを与えてもよいのではないかと思う。

・設問3は,難しくセンスが問われるが,問1と2はオーソドックスな出題でバランスがとれている。問題量が多く,時間内に解答するのは難しいと思う。考えさせる問題であり,適切であるが,若干,受験生には切り口がつかみにくい問題が含まれている。

・ 良問ではあるが,ボリュームがありすぎると思う。設問1と設問2だけにして,受験者にじっくり書かせてあげた方がよいのではないか。設問3は多少政策法学的な思考を要する問題であり,戸惑う受験者がいるかもしれない。この問題を入れるのであれば,たとえば設問2の(2)を外すなどして,問題量を減らすべきであろう。行政法論文式は,昨年から3 問となった。昨年は問題内容からかろうじて許容しえたが,今年から3 問形式が続くとなると,受験生にとって負担となる一方で,各問も解答内容が結果として薄くなりやしないかと懼れる。

・ 問題は実質4問だが,配点が出題者の意図を示しているようである。配点が3.5(〔設問1〕と〔設問2〕(2))のところはなるべく厚く書く。解釈論だけではなくて立法論も大事だとしつつ,そこに1.5しか配点されていない。全体的には,欲張りすぎの問題ではないかという感じがする。弁護士会でも,都道府県や市町村の任期付公務員として議会事務局に弁護士を派遣したり,法律職の副市長を入れたらどうかという職域開拓の議論をしている。行政の分野で弁護士が役立つきっかけとしても,法制局で法律を作ったり,都道府県や市区町村議会の議会事務局で条例を作る作業に関わる意義があると思う。単に解釈学として,ある規制を法解釈して訴訟を組み立てること以外に,法律や条例の規定内容を考えられるかという力量も,高く評価できると思う。

・ 第三者の原告適格,選択可能な訴訟類型,行政指導の限界,許可の取消しの適法要件,条例による許可制度創設の制度設計と法律適合性という,行政訴訟法上及び行政実体法上重要でかつ多面的な論点を問う優れた問題であるが,受験生にはやや難しかったのではないか。

・ 住民訴訟の問題については地方自治法を選択した者が有利になるとの指摘もあるが,住民訴訟自体はメジャーな行政訴訟のひとつであり,広く用いられている教科書・ケースブックにおいても取り上げられているので不適切とは言えない。また,選択科目では法律基本科目の知識をふまえることが多いので,他の科目においても類似の問題は生じうる。

・ 出題方針・内容は適切であるが,〔設問3〕は実効性確保の点に絞るべきではなかったか(行政法の基本的学力を知るうえでは,利害調整についてまで聞く設問とする必要はない),および資料1〔会議録〕は問題を解く上で不要なのではないかという疑問がある。

・ 素材・論点ともにオーソドックスであり,行政法の基本を習得しているかどうかを問う問題として,相当程度に適切と考える(ただし,設問2(1)は,難易度が少々高いのではないか。適法と考えられる訴訟を複数挙げさせることはともかく,さらに,それらの中で相対的に優位なものを指摘させるのは,かなりハイレベルの論点ではないか)。立法論を求める設問3には賛否両論があるかもしれないが,「解釈能力がなければ立法能力なし」と考える立場から高く評価したい。

  難があるとすれば,解答すべき論点が多すぎると思われる点である。殆どの受験生は,求められた論点の全てを書くだけの時間がなかったのではなかろうか。もう少し論点を絞った問題にすべきであったようにも思える。書くべき論点を増やすことの趣旨は理解できるが,薄く広い内容の答案が,相対的に上位の答案とされる可能性が高くなる問題は,果たして望ましいものなのかどうか,再検討の余地があるようにも思える。

・ 設問が多岐にわたり,やや多いとの感もあるが,おおむね適切な内容だと考える。全体としては,法科大学院での教育内容に沿うものであり,適切であると思われるが,原告適格の問題については,最新の最高裁判決を基にしており,もう少し工夫があってもよかったように思われる。

・ 行政法の基本的な知識を応用して解決できる適切な問題と思います。また,分権時代において条例についての質問はその重要性を喚起するによい出題と思います。ただ,広い問題設定のため,受験生によっては,何を答えてよいか戸惑うことも考えられるように思います。ただし,解答の分量が多く改善が望まれる。内容は適切である。しかし設問が数多く多岐にわたる。配点割合が冒頭に記載されている点は評価できるが,配点が比較的少ない【設問3】の設問の文章が比較的長く,しかも複数の質問事項がある点は,解答の分量を判断するに際して解答者を混乱させるかもしれない。設問数を少なくするか,まとめるなどの工夫が可能ではないか。

・ 行政法の論文式については,行政法の基本的な知識を応用すれば解決できるような問題を出題していただけるよう希望します。

・ 設問数がやや多い。やや不親切な点がある(資料2 モーターボート競争法の3条が示されていない)。

・ 最判平成21 年10 月15 日(場外車券売場事件)を下敷きにしていることは明白。設問1 の原告適格は,まさに上記最判の争点。設問2 は,平成16 年行政事件訴訟法改正による公法上の当事者訴訟および差止め訴訟の使い方を問うもの。設問3は,国家公務員試験では常套だが,大袈裟にいえば条例立法技術を問う司法問題では新傾向。我々からすれば「裁判行政法」から脱皮し予防法学的に政策・立法も視野に「やっと行政らしくなった」問題。受験生にとって,決して難しすぎることはないように思われる。

 

 c.どちらともいえない

・ 時間の割に,設問と添付資料が多いのではないか。問題のレベルは妥当であるが,設問が多い。試験につき解答量が多すぎる。よい問題であるが,分量が多く,解答すべきことがらも多岐にわたり,与えられた時間内に解答を完成させるのは至難でないか。

・ テーマ自体は昨年度よりはオーソドックスな問題であり,その点で評価はできるが,①相変わらず問題文全体が長すぎること,②時間との関係で問題数が多すぎること,③設問3が何を答えさせようとする趣旨かが問題文からは判然としないこと,の3点の理由で適切であるとは言い難い。問題文をもう少し短くし,設問も2問程度として,じっくりと考えさせる問題にしたほうがよいと思われる。

・ とくに設問2は,行政実務・判例等に詳しくない受験生にとっては負担になったかもしれない。受験生に聞いたところ,どのような解答をしていいのか,頭が「真っ白」になったと言っていたので,教員が感じた感想とそれほどかけ離れてはいないのではないかと思った。反面,設問1と設問3は基本的知識があれば,十分に答えられる問題である。

・ 国家賠償からも出題すべきである。いちがいに回避すべきものではないが,出題委員の公表論文から容易に出題内容が予想できる。

・ 回答すべき論点が制限時間に比して多すぎる。なお,行政法において地方自治法に関する出題を行うのであれば,事後の採点実感等何らかの形で学習の必要性をもっと明確に示しておくべきである。大半の法科大学院では現行のカリキュラムと単位数では,事実上対応できていないと思われる。

・ 問われている論点はいずれも概ね基本的な事項に属すると評価できる。ただし,所定の解答時間に鑑みて設問が過多であり,一つ一つの論点についてじっくり考えさせるというより,個々の論点を的確かつ簡潔に捉えることを主に求めているように見える点は,この試験の趣旨から適切であるか疑念がある。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 読むべき資料が長く,検討すべき事項が多く,2時間では足りないと考えられる。2時間の割に小問が多すぎる。

(2)民事系

(ア)民法

 a.適切である

・ 理論面での思考力と事案処理能力の双方をはかるうえで,適切である。基礎的理解と応用力を問う問題である。基本的な知識を具体的事案に適用して展開する能力を問う問題であるといえる。基本資料の講義で十分対応できる内容である。現場思考で差がつくであろう。基本的な複数の論点が関わっており,受験者の基本的な力と分析力を試すのに適切だと思う。設問において受験者が解答すべき問題点を的確に指摘している。特に,第2問が良問である。事実関係がやや複雑であるが,受験生の法的思考力を適切に確認できる良問が出題されている。法科大学院で習得する学識を踏まえた問題と考える。

・ 民法の多様な論点を盛り込んだ出題でいずれも「事案に即して考える力」を試す良問であるが,事案の内容がやや複雑すぎ,受験生に与える負荷も大きかったと思われる。

・ 問題も長文にすぎず,法的論点を中心に聞いている。しかし,要件に該当する事実の拾いあげが多すぎると考える。実践知は実務を通して学ぶべきもので,学校教育は基礎となる法律知識の習得が重要と考える。その意味では,さらに,典型的な法的論点を問う設問を期待したい。

・ 本年度,統合問題から個別問題になり,民訴のような民法問題から脱却できて良かったと思われる。ただ,時間的には2時間というのは厳しかったかと思われる。解答がある程度誘導されており,方向違いの答案で失敗することが少なくなったこと。これまであまり出題されることのなかった不法行為の問題が出題されたこと。

 b.どちらかといえば適切である

・ 広範囲にわたって民法の基礎的知識を確認する問題となっている。基本をふまえており,内容についても,よくねられている。設問ごとに出題の狙いが差異化されており,全体として適切と思われる。条文等の基本的な知識の理解を前提に,一方当事者の立場から,予想される相手からの反論も踏まえながら,自らの請求や主張の根拠につき,事実に即した検討が求められていること,また,損害賠償請求の相手方の選択や賠償額の減額等の検討も求められていることなど,論点主義ではなく,事案に即した法的問題解決能力を幅広い観点から試す問題であり,適切な問題だといえる。

・ 基礎的な知識が確認できる点評価できるが,多くの論点を短い時間で論じることになり,傾向として論点中心の一行問題と類似している。論ずべき事項がやや多いように思われる。内容的には良問であると思われるが,2時間という時間の中で解答を作成することを考えると,若干分量が多いように思われる。問題のレベルは適切であると考えるが設問を1~2つ減らしても良いのではないか。時間が足りないように思われる。問題の分量が多く,時間が不足である。内容的には,基本的事項の知識,判例の応用ができるかを問うもので,大変良いが,問題を盛り込みすぎて分量的に2時間で書けないのではと危惧される。要件事実を踏まえて答えさせる問題であり,基本的な点が問われていることは適切であるが,時間内に答えるにはやや量が多くないかとの疑いはある。あまりにもややこしい事案を無理に作り出した感じがしないでもないが, 複雑な事案から法律的に意味のある行為を抽出して整理する能力を判定するという点では適切といえる。

・ 時間的制約から,問題の本質に迫るのは困難である。事例分析という観点からも従来までの判例の理解を問うという観点からもよく考えられた問題だとは思うがいかんせん時間が2時間と限られており,書くべき分量もそれなりになるので,求められているラインまで到達するのは至難の業かと思われる。

・ 事件の展開に即して多様な論点を問い,特定の判例の知識に偏ることなく,全体的な知識によって受験者に考えさせ,争点を把握する力をみることができる点では適切であるが,損害論の論点の建て方は適切でない。

・ 事実関係から本質的な要素を抽出し,法的構成をさせるという目的に適った出題である。ただ,設問3の(2)は,理論的にも十分熟していない論点であり,基本的な知識・構成能力を問うという点では必ずしも最適の問題とはいえないのではないか。

・ 民法の本質を問う問題となっている。しかし,「要件事実」の部分の内容が薄くなってしまっているが,今後もそうなるのかが不透明ではある。

・ 出題された事案の分量,問われた設問の難易度については,適切であると考える。しかし,問われている点の全てを論述しようと考えると,試験時間内に処理し切れる分量と言えるかという点で若干疑問もある点で,完全に適切であったとまでは言えないと考える。

・ 問われている論点は,不当利得,不法行為等の基本問題であるが,長文の事例問題のために事実関係を正確に見極め,法律構成の組み立てに時間がかかり,限られた試験時間内に蓄えられた学力を十分に発揮できるか若干の問題がある。

・ 大大問は今年から無くなり,必ずどの科目が試験されるかが試験に取りかかる前に分かり,その1 科目(例えば民法)について2 時間が与えられる論述試験となった。それが原因かどうかわからないが,事実が長く複雑になった。そこまでは,問題ないとしても,問いの数が多すぎる。設問が3つあり,設問1(配点10 分の4配点)と設問3(10 分の3の配点)がそれぞれ2つの問いから成っており,設問2(配点10 分の3)は問いが1つであった。問いの数が5問ということになる。

・ それぞれの問いは,既存の知識を十分に活用すればと解けるもの,判例の理解があれば解けるもの,既存の知識というのではなく現場で考えつかなければならないものとバラエティに富み,どれも良問である。しかし,この問題数を2 時間に解くのは,受験生に酷である。あまりに団子状の得点分布になり,困難を受験生に強いることによって,選抜をしなければならい事情があれば別であるが,そのような事情がなければ,問題数を絞って,その上で,答案の出来具合を見たほうが実力が判定しやすいのではないか。時間が余りに足りなくて,逆で団子状の得点分布になることを危惧する。

 c.どちらともいえない

・ 問題内容は適切だが,問題文が長すぎる。出題分野,難易度は適切であるが,分量が多すぎるように思われるため。論点が多そうで,時間内に仕上げられない恐れがありそうだから。問われた論点自体は適切だと思うが,問題の分量や登場人物の多さなど,事案の分析に時間が取られすぎる印象がある。その結果,十分な時間をかけて解答を書けない学生もいるように考えられる。

・ 問題は良いが,やや難易度が高いのではないか。余分な情報をもう少しカットできないでしょうか。幅広い問題を扱っている点が評価できます。実務を意識している。問題が複雑すぎて時間内での処理は困難。設問のような考えさせる良問でありながら,このような本格的な良問を十分に考えさせるだけの時間を与えていない。明らかにモニターが不十分と思料する。(2時間の中で全問につき事例分析,思考,構成,起案のすべてを行える者が果たしているだろうか。作成者自身が試してみられるとよい。)不当利得や工作物責任といった比較的マイナーな分野の論点が主たる論点となっているのは適切とは言えない。

・ 思考力を問おうとするあまり,普段の勉強で出てこないような事例や普段の学習の結果からは思考ないし解答プロセスの異なる構成となるような問題がこれまでの新司法試験の論文問題でも見られるところであるが,事例の読み取り(複雑な事例はよい)から導けるものは典型的な基本論点・基本設例に解消・簡略化できるものとするほうがよい。今回の民事系の問題も基本的な問題(論点)ではあるものの,民事系設問1及び2にみられるような,あまり考えたことのないような切り口の問題になっている。それではかえって基本的な学習をしてきた者が思考プロセスを誤って不合格となり,基礎力のないものが偶然に高得点になるということが起こってしまうことがある(後述のように,これまでそういう例が多々起こっているように見受けられる)。思考力も確かに重要ではあるが,まずは基本的な法的知識と法的思考を身につけた者が確実に合格できるような問題にすべきであって,やや高度の思考力(考えたことのない問題を解答できるような能力)を求めるべきではないと考える(実力のある受験生が「たまたま」問題(の解答の道筋や考え方)を見誤って不合格となり,それよりもはるかに実力のない受験生がほどほどにうまく(適当に)書けたために,ずっとよい成績を得て合格している例が生じているのは望ましくない。実力がある者(暗記している者という意味ではない)が常にいい成績がとれる試験が望ましい)。

  事案はもっと複雑で読み取りの難しい問題でもよいが,論点や答案の書き方の道筋は基本的で分かりやすいものとなるほうがよい。

  なお,今後は,法科大学院協会で策定される(?)共通的到達目標(コア・カリキュラム)で示された範囲から出題してもらいたい。

・ 民法と民訴法との融合問題がなくなり,かつ,考慮する必要のない論点があらかじめ多々摘示されるなど,白地で考えさせることがなくなり,論点がほぼ自動的に浮き出てくるような設問になっているので,融合問題を復活させるべきとの意見がある一方,融合問題とすると出題できる論点が限られてしまうことから,問題がパターン化するおそれがあり,「とって付けたような」融合問題なら別々の出題でもよいとの意見がある。

・ 民法・商法・民事訴訟法の出題が,融合ではなく問題別になったことは評価の分かれるところであろう。民法に関する第一問は,論点が多岐にわたっており,時間の制約から考えれば,旧司法試験の論文式に回帰したように見える。

 d.どちらかといえば適切でない

・ ここ数年の出題が素直な問題であったのに比べると,今年は癖のある問題という印象を受ける。受験生は答案構成に戸惑ったものと思われる。実務家としての基本的な素養を問うのが司法試験であるとすれば,このような出題が適切だとは思えない。

・ 問題文が複雑で長すぎる。事案を理解するだけで時間がかかる。今年は,いわゆる論点をそのままずばり答案に書けばよいような問題が多く,昨年までと比べて考えさせる面が弱くなっているように思われる。

・ 問題が時間の割に多すぎる。試験問題に比し,事案が長く複雑であり,設問,論点が多すぎる。2時間の試験時間に比べて問題の量が多すぎる。

 e.適切でない

・ 小問全5問のうち,法定債権からの出題はやや適切さを欠ける。設問1(1)の転用物訴権は,法科大学院の基本的な必須学習事項とまではいえず,設問3(2)の素因競合についても,予備知識なしに基礎的知識と論理だけでの解答はやや困難であるといえ,未修者も受験する問題としてはやや疑問が残る。設問2は,解除の前提として具体的な事案から債務内容を確定していくことが必要であり,その点で良い問題と考えるが,未修者が十分な解答をするには時間不足が想像される。

  あたかも転用物訴権や素因競合に関する判例の規範をそのまま使って立論をするような解答を求めているかような出題のようにも感じられ,全体として不適切といえる。

・ 3つの設問を解答するのに,2時間は余りにも短すぎるから。

(イ)商法

 a.適切である

・ 基本的な条文,論点知識を具体的事案できちんと運用できるかを問うており,適切な出題である。基本的な条文の理解と,これに関する問題点を考えさせる良問であり,適切である。計算書類等の資料は批判もあるかもしれないが,実務も視野に入れ,むしろ好ましいと思う。会社法の基本問題から現場で筋道を立てて考える力を問う問題だから。自己株式の取得と処分という両側面から,効力や責任を総合的に問う問題であり,実務上重要であるもが受験生が避けがちな分野である計算の知識も要求されることから,適切な出題と思われる。規律の趣旨をそれぞれの場面においてしっかりと認識し,相違点を示した上で解答することが望まれているものと思われ,表面的な知識だけでは解答しにくい設問もあり,その意味でも適切な出題と思われる。実務的な要素が適切に問題に組み込まれている。事例を分析し,条文を基に,その場で論理的思考を整合的に展開できるかを問うものである。実務に近いながら基本的な問題と思われる。一見,複雑かつ難解に思われ,またやや現実離れした事案にもみえるが,問題点を整理していくと,どの論点も基本的な知識や判例の理解を問うものとなっており,よく勉強した受験生ほど回答しやすい問題となっていると感じられる。

・ 一見マイナーな領域の問題のようでありながら,基本的な法的思考力を問える設問内容になっている。会社法の基本的な知識(自己株式の取得と処分)および応用力を問う問題で適切である。自己株式の取得・処分に関する基本的な問題を組み合わせ,全体としては標準的な難易度の問題が出題されている。要求される論述量も適切である。毎年の傾向どおり,基本的な論点を実務的な書面も参考にしながら検討する問題であり,適切な問題であると思う。問題の分量も適切。奇をてらった設問もなく,素直に回答できる。基礎学力を問う良問である。受験者の力量を適切に判定することができる問題である。

・ 会社法としてはいつも読む分量が若干多いのではないかと思っている。小問を3つ出すのは仕方ないとして,事案を簡略化して,読む分量をもう少し減らすべきと思う。新司法試験にふさわしい現実的な事例が挙げられ,多面的・総合的な学力を問うており,実力・論点は明快でありながら,考えさせる論点であり,しかも論点相互間における論理的整合性が求められる点において良問であるといえるが,論点が多岐にわたるため,解答時間の不足が懸念される。また,瑕疵ある自己株式取得の効力については,瑕疵の態様に応じた個別的・理論的な検討が十分になされていない学説の現状に鑑みれば,受験生にどの程度の検討を要求しているのか疑問である。

が現れやすい問題であると思われる

 b.どちらかといえば適切である

・ 学説上固まっていない問題も含まれているが,考えさせる問題としては適切である。条文を基に,現場思考力,論理的思考力を問う問題である。基本的な条文・制度,最新判例を含む基本判例および基本書を的確に理解し,その運用能力を身につければ,十分に解答を導くことができる問題と考えられる。中心的な問題につき様々な点を問うものであり,妥当である。判例がないが,学説上議論がなされているところを問い,回答者に考えさせる意味で,応用力を問うことは意義がある。

・ 出題内容は,コア・カリキュラムとの関係,試験時間と論点のバランスからみて概ね適切である。ただし,設問は独立させて,各設問の配点を明示するべきである。

・ 会社法において整理・整備された点についての理解,および適切な条文操作を求めるものであり,良問であると思います。ただし,求められる内容を適切に答えるには,やや時間不足となるのではないかと,思われます。但し,試験時間に比して解答すべき問題が多すぎるのではないかという印象を受けた。

・ 設問の①,②,③に配点の記載がないが,必要なのではないか。なお,問題の内容については適切である。条文や制度・学説等に関する基本的理解があれば解ける問題であり,適切である。

・ 昨年度から引き続き,会社法制定に伴う解釈上の論点を問う問題であり,要件事実的な当てはめというよりは,各論点間を整合的に解釈する力の評価に重点を置いた試験といえる。理論的な理解により,正しい回答にバリエーションが存在するため,自らの主張を説得的に論じる力で評価を行おうとするものといえよう。この点は,法律的な知識の有無や論述力を見る上で有益な問題であったと考える。しかし,この点を重視するため,昨年以上に,要件事実論的な,事実の評価をする面が少なくなり,実務的な力の涵養度を評価しにくくなったのではないかと懸念している。

・ 問題自体は会社法上の基本テーマとして適切であるが,解釈上争いがあって,それが後の答案展開に影響を与える問題が含まれている。例:財源規制違反の自己株式取得の効力など。

・ 基本的な法律問題の理解力を試す良問である。なお,問題文において定時株主総会における通例的議題にも触れた方が良かったのではないか。

・ 自己株式の分野に偏りすぎではないか。欲を言えば,もう少し広がりのある問題であれば,なお適切であったと考える。

・ 解答時間に照らして,解答すべき論点が多すぎる。内容は適切であるが,設問の表現にやや不明確な点があり,また分量としては若干多いように思われる。

・ 判例の素材がないと思われる形態を軸に,基本的な事項の理解を前提として,実務家として理論運用能力を問う趣旨であれば,適切であると考える。もっとも,ある見解に依拠したほうが書きやすいとすれば,その点は再考の余地があると思われる。

・ これまであまり司法試験では出題されてこなかった分野であるが,冷静かつ丹念に問題文を読めば,問題点の把握はそれほど困難ではないという印象を受けた。論文試験の傾向も次第に固まりつつあり,受験生にとっては何を勉強すればいいかが,明らかになってきた。法科大学院の授業でもこういった問題の傾向を一層考慮に入れ,総合力の育成を心がける必要があると感じた。

・ 計算規則を参照しなければならないのか迷う部分がある。

 c.どちらともいえない

・ 問うている内容自体はおおむね適切だと思われるが,剰余金の額,分配可能額を計算させることは,商法の能力を問う問題としては不適切ではないか。

・ 本年は,自己株式取得に関する法律関係と自己株式処分の効力,及び自己株式取得と処分に関する役員の責任関係の出題であった。問題の分量,資料に基づく正確な知識の確認など,妥当な出題であると考えられる。但し,自己株式の取得や処分の問題それ自体は,法的論点は多いものの,実務的にはそれほどメジャーな事項とはいえず,この点では,新司法試験の出題としては,試験と実務にやや乖離感があるのは否めない。設問③で,役員の責任を問うことで,全体としてのバランスを取った形となっている。今後については,試験のための試験となるような個別事項は極力回避し,法制度上かつ実務的にも重要事項について,本年のような出題が期待されるところである。

・ 設問の趣旨が明確でない部分がある。内容については,適切な問題であると考えられる。ただし,何を答えさせたいかが必ずしも明確でないため,受験者の本来の実力を測定する問題となっていない。配点が示されていないことに戸惑った受験者も少なくないようであり,出題者の意図が伝わりにくい原因にもなっていると思われる。

・ 2時間の解答時間において,それぞれの小問について費やせる時間配分が難しい。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 現実感覚に乏しい。

・ 解答を引き出すために,かように長文の問題文が必要であろうか。設問自体は,基本的または重要な事項を問うものであるが,特定のテーマに集中した過大と思われる分量の設問となっているため,受験者の力量を適切に測定することができなかったのではないかと推測される。

・ 自己株取得と財源規制違反問題については議論が混乱しており最判もない状況で出題するのは無責任すぎる。

・ 内容は良問であるが,2時間の試験時間内では書くには設問の量が多過ぎる。

 

(ウ)民事訴訟法

 a.適切である

・ 思考のプロセスを重視している。問われていることがわかりやすい。基本に遡って考える問題である。出題自体は取っつきやすいが,問われる内容は深い。制度の違いを問うなど確実な理解を要するものであるから適切である。問題は基本的事項を問うものであり,適切であると思います。基本的な内容を理解していれば,十分に対応できる問題だと思われるから。いずれも民事訴訟法の基礎的問題であり,問題の出題形式,質,量ともに適切である。よく練られた問題である。問題について,質的・量的に適切であると考える。

・ 民事訴訟法の問題は例年と同様基本的な原理に遡って解答することを求めるものであったが,昨年,一昨年ほどひねった問題でなく良問と思う。

・ 実務的な要素が適切に問題に組み込まれている。実務に近い点と,考えさせるタイプの問題であったから。実力がそのまま反映される良問である。  

・ 昨年と比較して設問の趣旨が明確な点は評価する。内容も,大方の基本書で触れられている問題であり,これを単に知識として述べるだけではなく,一定の立場からの説得力ある論述を求めるなどの工夫がされており,新試験の趣旨に合致していると思われる。今後とも,この程度のレベルを維持されたい。難易度が適切である。制度の基本的な理解を前提としつつ,その趣旨を踏まえて,じっくりと考えさせる問題であったと思われる。基本の理解度と,それを展開応用する能力の双方を,バランスよく測ることのできる問題だと思う。制度間の差異を理解していることを前提として,利用すべき制度の選択を行わせるなど,単に判例のフレーズを覚えているだけでは対応できない,まさに実務の現場での法的思考力を問う問題となっている。受験生の理解をはかるのに適している。民事訴訟法の基礎的な分野からの出題であり,かつ考えさせる問題である。基礎的知識の理解力を試す基本的問題である。

・ 従来のような大問題ではなく,今年からは,民事訴訟法にしぼって出題されているので,受験生は解答しやすかったと思われる。設問1は,権利自白について正確な理解を問う良問と考える。設問2,設問3は多数当事者を題材にして,当事者間の関係を問う良問と考える。重要判例をもとに論じさせる【設問3】,制度の本質を問う【設問1】等学生の能力を正面から捉えようしており,分量も適切と思われる。概念論でなく実務に即した応用力を問う問題である。 

 b.どちらかといえば適切である

・ 考えさせる問題である。基本的な理解を問うている点。論知的思考力を問う問題で適切と考えられる。一応法科大学院の授業でカバーできる程度の水準であるから。

・ 権利自白,当事者参加,共同訴訟といった重要な事項につき,基本的な知識の有無が問われており,適切な問題であると思料する。3問中2問を多数当事者訴訟から出題することは,法科大学院での授業の時間配分からして疑問を感じざるを得ない。ただし,問題内容そのものは基本的論点を問うもので,概ね適切である。

・ 概ね基本概念や制度趣旨を問うもの。しかし,設問3は,問題文がひねってあり,一見出題意図がわかりにくくなっている。落ち着いて読めば分かるとも思われるが,このように分かりにくくする必要があるかどうか疑問。昨年までの試験は難し過ぎ,本年度程度の難易度なら評価できるが,設問がやや細かすぎる。前年度に比べ,何を尋ねているかがより明確になった。また,融合問題ではなく,民事訴訟法独自の出題であったので,例年よりも,民事訴訟法の知識・能力を評価しやすい出題になっていると思う。

・ 基本的な知識を基にして考えさせる問題である。昨年のように受験生をとまどわせるような設問がない。昨年度に比べ,出題内容が素直になっているように思われ,その点は評価できる。ただし,多数当事者訴訟の比重が若干大きすぎるように思われないでもない。学者の問題意識から出されたともいえ,学生にはやや難しそうだが,応用力を問うものとしては良い。

・ 講義においてよく取り上げるテーマについて学説・判例の理解を誘導的に問う形になっている点は,受験生に対して親切であるが,出題は,問題文章の記述量を含めてもう少しコンパクトな方がよいのではないかと思う。

・ 一部の設問がやや難しすぎるのではないか。問題がやや細かすぎる。

・ 民法・商法・民事訴訟法の3分野それぞれに分けての出題になったことで,これまでのようなあり得ない事案ではなくなったことはよかった。民事訴訟法の3つの設問は,①民事訴訟法における基礎的な概念を踏まえた上で当該事案の具体的事実を拾えるか,②条文解釈・条文操作ができるか,③民事訴訟における利害関係者(裁判所も含む)の利害状況をきちんと勘案できるか,をそれぞれ問う問題であった。望ましい方向で問題作成がなされたと思う。ただし,出題にあたって「民事訴訟法を横断的,鳥瞰的に理解しているか」という観点も必要であると考える。

・ 設問1の一方の立場に立ってつきつめて考えさせるとの聞き方はおかしいのではないか。権利自由の撤回の許否についての考え方を聞くべきである。

・ 〔第1問〕は,原告代理人の立場から,被告による権利自白の撤回制限をどのような理由に基づき根拠づけるかを問うものである。また,〔第3問〕は,判例理論によれば,その共同訴訟人の共同訴訟形態が,本訴請求との関係(共同被告)では通常共同訴訟であり,中間確認請求との関係(実質的には共同反訴原告)では固有必要的共同訴訟であると解される場合に関して,裁判官の立場から,共同訴訟人の1人がした不利益な陳述につき,どのように対応すべきかを問うものである。いずれも試験会場において問題点を検討し,どのように解答すべきかを考えさせる良問である。

ただし,〔第2問〕については,①原告(代位債権者)Bが求めているのは,目的物の自己への給付でなく,債務者Aへの所有権移転登記手続であることのほか,②本問が最判昭和48・4・24民集27巻3号596頁とは異なる事案を前提としていること(参加を求めているのが債務者Aではなく,原告(代位債権者)Bとは別個の債権者Fであること。Fは,原告Bが債権者でない(原告適格がない)と主張しているわけではなく,「原告適格が否定される可能性がある」と考えているにすぎないこと)に気づく必要はあるが,それにさえ気づけば,あとは独立当事者参加と共同訴訟参加の要件該当性を吟味すれば足り,その場で考えさせるという要素が少ないように思われる。3との設問のなかでもっとも配点が高い問題であるから,もう少し工夫があってもよかった。

・ 試験時間との関係で,問題数が多いように思われる。

 c.どちらともいえない

・ 一応よい問題だとは思う。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 問題傾向がこれまでよりは少し素直になった感があることは評価できるが,あの時間であれだけの量の問題を解かせても,余り思考力,表現力の試験にはならないのではないか。

・ 各法領域ごとの出題となり,受験生にとっては,取り組み易かったのではないか。それぞれの設問においても,問題文中に相応の誘導が施されており,その点では,回答すべき論点を見失い,逸脱する可能性は低かったと思われる。しかしながら,たとえば,設問1は,権利自白の撤回を検討する趣旨だが,これが許されないとする立場からの立論を促す題意であって,確かに実務家としての能力とはいえるが,自白時点で本人訴訟であったこと等々の事実に鑑みると無理筋の感。設問2は,2つの当事者参加制度の適否を検討するものだが,債権者代位訴訟提起による債務者の処分禁止効の捉え方,管理処分権/当事者適格の帰属で,大きく2つの構成に分かつことになり,このいずれによるかで,議論の流れは異なってくるだろうし,訴訟物が債務者への移転登記請求権であることも注意を要する。設問3は,本訴と中間確認の訴えにおける共同訴訟人の1人による訴訟行為(本訴請求の認諾/中間確認請求の放棄)を裁判所として,どのように処理するかを問うもので,判例によれば,それぞれの共同訴訟の性質が決定され,そこから訴訟行為の可否が帰結されるはずだが,そのままでは先決的権利関係に関する中間確認と本訴との間で,矛盾抵触が起こるから,これを回避する方途を検討する必要があるのであって,単に判例の見解に依拠するだけで事足れりというのでは回答の体をなさないということだろう。ざっと見ただけで,相当程度の正確な理解を前提に,しかも相応の深い考察,検討を尽くさねばならない点が存するのであって,これを2時間で回答するのは,至難の業ではないか。もちろん,採点の方法にもよるとは思うが,表層的で平板的な回答であっても,論ずべき点をなぞっていれば(実務家としての処理能力の点から),ある程度の評価を得られるとすることも肯けるが,設問を2問程度に減らし,十分に時間をかけて考察され,練られた回答を評価することがあってもよいのではないか。

(3)刑事系

(ア)刑法

 a.適切である

・ 法科大学院生なら当然おさえているべき総論上の重要判例を素材とした出題で,解答に必要な知識の量,事案分析の難易度からみて,ちょうどよいレベルの問題であり,解答上必要な事実関係も適切に設定されており,良問と思われる。受験生の基本的な知識の有無,問題処理能力の高低を計ることが可能な問題であると思われるため。設問内容・形式に工夫がみられる。総論・各論の重要論点が長文の事例中に適度に盛り込まれた良問といえる。解答時間に対する問題の量も適切であると判断した。法科大学院に要求される教育内容を踏まえた適切な問題であると思われる。最新の判例を契機として理論的な検討がなされている途上のテーマが選択された上で事実関係の切り取り方・整理の仕方を問うものであり,紋切り型の論述パターン暗記では対処できない内容であるため。基本的知識と事実への適用能力を試すのに適切な問題だと思われる。基本的事項に関する設問である。基本的な論点の理解度を問うものであるから。論点が分かり易くて,事実の分析力を試す良問で,分量も適切である。

・ 複雑な事実関係から論点を拠出。問題の設定,問題文の長さ,論点の数の観点からして良い問題と思われる。基本的な理解及び常識的な判断力があれば解答が可能な範囲内で,問題発見の能力や事実評価の能力等が深く問われる内容となっているから。事案を的確に読み解き,その法的意味を正確に理解する力を問う内容となっている。事実認定と事実の評価とのバランスの取れた問題である。

・ 論点としては典型の一つといえようが,正当防衛の要件,共謀の成立と継続性,殺意の成否等を具体的事実に即して判断させる問題であり,論点の正確な理解と刑法の運用能力をみるうえで適切であると考える。正当防衛に関する基本的論点が出題されていた。

・ ○あまり論点を拡大することなく,最近の判例上・理論上の課題として,法科大学院教育においても注意して扱われることが想定される重要問題を中心に,具体的事実の丁寧な評価を求めるものといえる。

・ 平成に入ってからの最高裁正当防衛判例の正しい理解と事案に即した適用能力を試している。正当防衛に関する最近の判例を踏まえたうえで,どのように処理するのが妥当かを考えさせる問題であった。正当防衛を中心に,判例・学説において指摘される重要事項を理解しているかを問う良問である。時系列的に刻々と変化する場面で罪責検討を要求する事例は,その他,各関与者の構成要件該当性の確定(実行行為の内容・共同正犯の成立範囲など)といった基本的な知識の有無を問い,評価できると思料される。法曹になる者,誰もが知っておくべき,近時の最高裁判例を複数組み合わせた上で,そこにアレンジを加えることで,それらの判例を正確に理解しているかを問う点で問う点で,実に適切である。基本的な問題ながら,判例の射程とも絡み,事例にも工夫が見られる。基礎的な力がないと解けない問題なので適切。

 b.どちらかといえば適切である

・ 基本的な理解を問う非常によく練られた問題である。

・ 事例がやや複雑。事実認定に比重が置かれすぎているきらいがある。良問であるが少し,問題文が複雑すぎることと,副次的論点が多いように思え,受験生はどこまで書けばよいのか迷うのではないか? 出題範囲・難易度とも適切と思われるが,2時間という試験時間を考慮すれば,検討すべき論点が多すぎて,じっくりと考えて解答するという受験者には向いていない問題のように思われる。論点数を減らすように求めたい。

・ 論点が若干少なかったかもしれません。

・ 今回の論述問題は昨年度より解答しやすかったのではないかと感じた。各人の罪責を問うにあたって,事実の推移を見極めた上で侵害の自招性や侵害の終了等の判断をさせつつ,各人の行為の正当防衛ないし過剰防衛の成否を検討し,あわせて殺意の認定等の判断もさせようとしたものであると理解しているところ,ただ,もしかしたら具体的事実を摘示するだけにとどまる答案も相当数出てしまい,理由付けや問題点の理論的整理,正当防衛の条文解釈の点が合否にどこまで反映するのか,受験生の全体の解答次第によっては,あてはめの優越だけが合否を左右することになりはしないかという点が気になった。近時の判例を理解しておくことが求められる問題であったが,思考力を問うという点では,十分ではなかったように感じられる。

・ 刑法的思考力を問う良問であろう。

・ 正当防衛の知見を問う素直な出題であり,レベル的にも妥当だったと思いますが,各論的要素が少なすぎるのが気になります。

・ 学生の理解度を問うための問題として良かったと思うので。事例が,やや細かすぎると思う。解答時間に比して問題点の量がやや多すぎる。やや時間が足りないのでは。

・ ゼミ生の中には「殺意」を認定させるのには材料不足ではないかとする者もいた。事実認定についてどこまで書けばよいのか迷うところがある。細かい事実の適示で,何を取り上げるか迷う部分もあるが,何とか解決可能と思われる。個々の論点処理を判例等の知識で処理するだけでは足りず,事実の流れを全体的な観点から把握することを求めるテーマで適切と評価できるが,事実の重要性が問われるにもかかわらず,いくつかの具体的事実が詳細に示されず受験者にその扱いの危険を過度に負わせると思われる点で改善を求める。

・ 問題自体はアクチュアルな論点が含まれていてどこまで深く理解しているか問うものであり,適切である。ただし,解決の可能性が複数考えられ,適切に採点できるのかという点に疑問が残る。刑事系刑法については,今年度の問題は全体的にみて難問というものではなく,適切な問題であったと評価できる。論文問題については,実務家としての事務処理能力を問うという点により重点が置かれているようにも思われる。

 c.どちらともいえない

・ 出題趣旨は推し量れるが,ここまで入り組んだ描写をすべきか疑問がある。

・ どの事実をどれだけとりあげて事案を処理するかで差は出るだろうから,試験問題としてはこれでもよいのかもしれないが,もう少し,事実関係を微妙な状況設定にして,法律構成においても多様な解答パターンの考えられる問題であってもよかっただろう。今年の問題は少し物足りないと感じた。法科大学院生の向上心を引き出すような問題であって欲しい。

・ 論点主義の答案を避けようとする姿勢が伺える点はこれまでどおり評価できる。但し,受験者に刑法総論の考え方がしっかりと身に着いているかを判断するための論述問題であったかという視点から眺めるとき,昨年の問題と比べてやや見劣りがするように感じられた。

・ 論点に飛びついて機械的な論述を行うという型にはまった思考では合格点に達しないと思われる。事実を的確に拾い上げて評価し,それを総合して擬律判断を行うという基本を問う問題であることは理解できるが,2 年ないし3 年間の法科大学院における刑法教育の到達点を図るには余りに視野の狭い問題であると思われる。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 刑法総論への片寄りが見られる。

・ 2時間で行うには,事例が複雑すぎるのでは?刑事法に限らず,全体に問題が難しすぎて,調理師の資格試験でフランス料理のフルコースを作らせているような観があります。

・ 事例処理能力を重視したような設問で,大学において修得した能力を試すものとして相応しくない。

 e.適切でない

・ いたずらに複雑すぎる。短時間の解答では混乱する。

(イ)刑事訴訟法

 a.適切である

・ 重要かつ基本的な問題についての理解を問うものであった。基本を理解していないと答えられない良問が多い。刑訴法の重要な論点に関する基本的な知識を問うものであるため。基本的な理解が欠かせない分野について事例及び設問が工夫されている。

・ 細部の点はさておき,基本的に法科大学院で実施すべき教育内容・方針に沿うものといえる。伝聞法則が繰り返し出題されているが,これが重要論点であることの出題者のメッセージであろうと推察される。同じ論点でありながら,単なる繰り返しでなく,様々な角度・視点から理解度を問うなど,出題方法に工夫がみられ,法科大学院における教育の在り方を考える上でも参考になる。

・ 法曹となるために必要最低限のレベルの出題であり,適切と考える。ただ,論述式試験については,解答時間との関係で,若干分量が多いと言えるところもあるように思われる。やや量が多いか?

 b.どちらかといえば適切である

・ 法科大学院の授業および自学自習によりおおむね対応可能な設問である。

・ 設問1で逮捕①~④まで述べさせるより,設問2にもっと比重を置けるようにした方がよかったのではないか。また,問題文に誤記と思われる点があったのはいただけない。

・ 設問1については,場面毎の逮捕の適法性を一貫して論じさせる点では,論点が散漫ではなく,適切だと思われる。ただ,実質的には,逮捕について4 問,伝聞について2問,計6問を解答することが要求されており,分量としては多いだろうと思う。伝聞については,毎年出題される結果,事案?が複雑化してきたのではないか。それが,伝聞法則に対する基本的な理解を問うために相応しいのかどうか少々疑問に感じる。やはり論点が多い。4種の逮捕をそれぞれ検討する必要があるのか疑問。

・ 論文式試験問題については,事例は少し複雑ですが,内容の理解は困難ではないと思います。また,設問も捜査・証拠に関するもので,論点が豊富ですが,時間をかければ解けると思います。

  全体の印象としては,妥当な問題だと思います。

・ 基本的論点に関する出題であるが,論点がやや多い。所定の試験時間内でふれるべき事項をすべて論じるのは受験生にとって難しかったように思われる。事例が,やや細かすぎると思う。検討すべきことが多い。事実関係がやや複雑で,解答をする時間が足りないように感じます。解答時間に比して問題点の量がやや多すぎる。

・ 逮捕・勾留に関する具体的な要件を事実に即して考えさせる出題趣旨は実務に直結する点で適切であるし,同様に伝聞証拠に関する基本的知識を問う点も適切であると考えるが,設問1の逮捕②において,一見すると誤記のような問題文があり困惑した学生も散見され,その点が残念であった。

  出題問題数・時間の関係からやむを得ないかと思いますが,捜査中心の問題となっており,もう少し公判審理関係の問題をも含むものであってもよいのではないかと思います。

・ 法科大学院で真面目に勉強し,過去問にも取り組んでいれば,容易に問題点を把握できる問題であったと思われる。昨年度と異なり,実務と乖離したような部分もなく,良問といえる。ただし,実力のある学生でも,時間内で全てを書ききることは難しかったと思われ,求める回答の量はもう少し減らした方がいいであろう。

  なお,受験生が充分に理解できていないために,伝聞法則が毎年出題されるのであろうが,「法曹としての資質」を見極めることが試験の目的であるとすれば,伝聞法則を出題し続けることが望ましいとは思われないので,この点も改善すべきと考える。問題としては適切であるが,出題傾向が固定しすぎている。

・ 比較的基本的な問題点をベースとし,実務的な感覚を踏まえて事例を分析検討できる能力が試されており,概ね適切と考えられるが,受験者の注意力を敢えて試しているかのような,いわばひっかけの問題が盛り込まれていた点(乙の現行犯逮捕に関して,犯行を現認した者が司法警察員Qでありながら,逮捕した者が司法警察員Pである点)については,不適切であると考える。

・ 刑事訴訟法の出題ミスが,受験生に対し,答案作成の時間配分で悪影響を与えた可能性があり,不公平な現象が生じた恐れがある。一方,設問の全体の流れとして,学説の対立ではなく事実を拾って,丹念に評価する能力が求められている点で評価できる。

・ 設問の趣旨自体は,刑事訴訟法分野における基本的かつ重要な論点についての理解を問うものであり,そのレベルも適切なものであると考えられる。実務的な問題として評価される一方,設問1がやや難しいのではないかとの指摘がある。なお,問題文に不適切な点があったとされていることについては,示されている対処方針にしたがって,不公平の生じない処理が行われることを望みたい。

・ 問題の程度は適切と考えるが,法曹としての素養を判定するための試験としては,十分に構成を練り,論述力を発揮できるような分量であるべきで,4つの逮捕・勾留についての論述を求めたのは分量が多すぎ,2つから3つが適当であったと考える。

・ 捜査に関しては,実際に生じ得る問題点を論じさせる内容であり,よいと思われる。証拠に関しては,実際には生じないであろう問題点を論じさせる内容になっており(弁護人が不同意とすれば,検察官は当該証拠調請求を撤回し,別の証拠を証拠調請求すると考えられ,当該証拠の伝聞例外という問題は現実化しないと考えられる),疑問がある。試験時間との兼ね合いで,論ずべき事項が多すぎると思われる。

・ 例年どおり,捜査関係で1問,証拠関係で1問が出題されていて良いと思う。ただ,できれば,事例部分をもう少し短くできるようであれば,その方が望ましいと思う。資料が添付されるときは,なおさらそうだと思われる。別件逮捕に関する事実認定などを含めると,もう少し問題の数を少なくすべきではなかろうか。やや時間が足りないのでは。

・ 具体的事例を呈示して捜査,証拠についての好個の論点を問う良問であるが,証拠法の出題が伝聞法則に傾きすぎるきらいがある。証拠法は重要なテーマですが,訴因制度も重要なテーマだと思いますので,証拠法に問題が偏っているという点は,今後の検討課題だと思われます。

・ 手続については,手続の流れに沿って適法性を検討していくという問題であり,内容は(現行犯逮捕者の違いが誤記であるかどうかはともかくとして)かなりよいと思うが,盛りだくさんに過ぎる。いわゆる論点に飛びつきそれに深入りする答案を排除するという意識があるのかもしれないが,浅く要領よくしていく「事務処理能力」のみが問われているように思われる。証拠法は,性質上難しいのであろうが,例年類似の問題が出題され,固定して来ているのが懸念される。毎回同じ論点をだすのはいかがなものか。

 

 c.どちらともいえない

・ 出題量が多すぎるため,受験生が思考に十分な時間を割けなかったのではないかと危惧する。受験生にとって,盛りだくさんすぎる傾向がある。問われている内容は法科大学院の教育に適したものだと思料する。他方で,時間内に論文で解答するには分量が多く,また,出題領域が今年度も伝聞法則に関するものであり顕著に偏りが生じている点で問題なしとしない。問題内容は適切であるが,時間内に論述するには,分量が多すぎるように思われる。なお,乙を現行犯逮捕した司法警察員はPでよいのか?Qではないのか?

・ 試験時間に比べて問題量が多すぎる。そのため,効率的な解答の筋を辿る答案を奨励する懸念がある。問われている内容自体は適切であると思われる。ただ,問われている各問題点について(かりに中心的なものに限るとしても),問題提起を的確に行い,規範をきっちり立てて(反対説に触れることまでは要求されていないとしても,少なくとも自説の論拠を十分に示しつつ)回答しようとすると,恐らく二時間という時間内には論述しきれない分量だったのではないかと思われる。なお,問題文中の誤植(ないし法務省のウェブページ上の表記によれば「不適切な点」)は,今回の試験に回答する際に受験者を混乱させたと思われるだけでなく,今後の新司法試験の出題全体に対する受験者側の信頼をも揺るがせ,回答の際に受験者側に無用な負担を負わせることになる可能性がある(常に誤植の可能性を念頭に置きつつ回答しなければならないとすれば,受験者には酷であろう)。今回の試験の採点に際して最大限配慮していただくことを切望するとともに,今後同じようなことが起きないよう適切な防止策を講じていただけることを強く願う次第である。

・ 刑事訴訟法の重要論点について,正しい法解釈論の知識を,具体的な事案の個性を正しくとらえたうえで適用する力を試すものであり,問題の性質としては,法科大学院の教育課程における到達目標として適切である。ただし,限られた時間内で十分に思考して解答するには,検討すべき事項がやや多いようにも思われる。また,すでに法務省により公表されているとおり,問題文の事実関係の記載にミスがあったことは,極めて遺憾である。極限状態において試験問題に取り組んでいる受験生にとって,そもそも解答時間に余裕がないことと併せてみれば,問題文の不明確さによる影響は決して小さくない。再発防止を強く望む。

・ ○論点としては,実務的に重要な点であり,実務家法曹登用試験という性質に適していると考える。ただ,論じるべき点が多岐にわたっており,2時間という試験時間内での対応を求めることには若干の疑問がある。事務処理能力も重要ではあるが,まずは,論点の本質的な理解を問うことが重視されるべきではないか。○「問い」の設定自体はよく考えられた適切なものだと思いますが,資料の量が膨大なので,制限時間内に法律構成をまとめ,事案に適用したうえで解答するのは難しいように思います。○試験時間に比べて,論じるべき点が多すぎる。もっと問題点を絞って,深く考えさせるべきである。○公判手続に関する出題が,数年来,伝聞法則に偏りすぎている。その結果,受験者や法科大学院生に誤った先入観を持たせるおそれがある。もっと,幅広く出題するべきである。○問題文中,逮捕②の主体をPとしたのは,単純な誤記または誤植であろう。司法試験委員会の発表は,そのことを曖昧にしていて,適切ではない。

・ 〔設問1〕は基本的な論点に関するオーソドックスな設例で教育課程に即した出題になっているといえる。〔設問2〕は伝聞法則の原理・趣旨を問う問題だとすれば,教育課程にも即しており,一応,了解可能な出題と言えるが,出題趣旨が示されていない現時点においては,適切さに対する最終的な判断はできない。また,全体として解答すべき量がやや過大すぎる。〔設問2〕で印刷行為や別件捜索の適法性も論じさせる趣旨だとすると,さらにその傾向は強まる。

・ 今年の問題の狙いには賛同できるが,「不適切な点」を出してしまったことについては,猛省をしていただきたい。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 事実評価について,受験生レベルでは困難または受験生を混乱させかねない部分がある。特に別件逮捕・差押関係。事案に不適切と思われる部分があり,処理量も異常に多いと思われる。事案が複雑すぎる。ひねり過ぎている。基本的事項を理解しているか否かを問うもので足りる。基本科目という観点から見た場合,細かい論点が多すぎ,また,実務家でも意見の分かれるようなむずかしい論点が含まれている。もっと基本に立ち返った出題が望まれる。問題文が長過ぎ,回答者に無用な負担を与え,混乱させ得る。証拠能力を問う証拠の個数及び手続の適法性を問う逮捕の個数とも多過ぎるため,回答者を無用に混乱させ得る。登場人物が多過ぎることも混乱の因となり得る。手続の適法性を問うには,設例の事案が適切なものになっているか疑問。解答時間に比して事例文が長すぎる。思考,論理構成能力よりも迅速処理能力で差がつくように思われる。もっと単純明快な事例で,自主的,独創的に思考できるかを問う問題にするべきである。本年の問題は,論じるべき点が多すぎる。問われている内容は,基本的な理解を問うものではあるが,とにかく論ずべき物が多すぎする。完全に解答するには,論点が多すぎて,時間も答案用紙も足りないはず。論点が多岐にわたり,論述が途中になった可能性大。逆に,要領よく必要な点をまとめる能力が問われたともいえるが,本問を要領よくまとめるのは,かなり高度の能力が要求される。

  なお,本問の特徴としては,基本的な法制度の理解を前提に,具体的な事実を当てはめていくというもので,実務的に有用であり,多岐にわたる論点を必要な範囲で要領よくまとめるという能力も試せるという点では,悪問ではない。なお,法律解釈はいらないのかという指摘はあるかも知れないが,自己満足的な解釈は不要であるから,そのような批判は成り立たないと考える。今後の教育としては,基礎的な理解を深め,事実を大切にする能力の涵養が必要である。

・ 問題の範囲や難易度など概ね例年通りで,受験生の実力を問う上で適切だと思う。

しかし,出題に誤りがあったと思われ(現行逮捕者QとすべきをPとしてしまったと思う),真剣に取り組んでいる(人生をかけて取り組んでいる)受験生を思えば,出題者としてあってはならないことだと思う。

・ 捜査の主体につき,本来QとあるべきところをPと取り違えた出題ミスは言語道断である。受験者は,これで相当悩んだはずであり,採点の際に,配慮するという程度の問題ではない。ここで悩んだために,ほかの問題が解けなかった可能性がある。問題文に余分な記述がないという格言が崩れてしまったのであり,出題ミスの影響は大きい。管理委員会のコメント及び通常の捜査の常識からして,単純な取り違えであり,絶対にやってはいけない初歩的なミスであり,断固抗議すべきである。

   もっとも,問題全体からすると,PとQの取り違えは,大勢に影響はない。他に論ずべき重要な点が多くあり,ここにかかわっている余裕はない。しかし,受験生は,単純な取り違えを何か深い事情があるに違いないと深読みしてしまったと思われる。この点で出題ミスは罪深い。

・ 昨年に比べてテーマ的に多少難しく,また,分量からしても,時間的に厳しかったものと思われる。第2問について。万引きを現認した者と現行犯逮捕した者が違うとして,現行犯逮捕の適法性を論じさせる狙いで問題を作成しているのかどうか,出題者の意図がわからない。その狙いがあるのなら,逮捕した者がどういう認定資料をもとに逮捕したのか明らかにしておくべきである。そういう狙いがない,つまり現行犯逮捕の適法性を論じさせる意図がないのであれば,現認者と逮捕者を別人にするような設定をやめるべきである。受験生を惑わせるような事例を作るべきではない。

・ 問題文が長過ぎ,回答者に無用な負担を与え,混乱させ得る。証拠能力を問う証拠の個数及び手続の適法性を問う逮捕の個数とも多過ぎるため,回答者を無用に混乱させ得る。登場人物が多過ぎることも混乱の因となり得る。手続の適法性を問うには,設例の事案が適切なものになっているか疑問。

 e.適切でない

・ 逮捕②の部分が適切な形で出題されていたとすると,法科大学院修了者に対する要求水準・分量の点で,ともに適切な出題であったと考える。しかし,出題者として,逮捕②につき,逮捕者はQであったという設定であったのか(単純な誤記),PもスーパーMの外で待機していたという設定であったのか(情報不足),分からないが,いずれにしても,問題の点検体制について批判を免れない。また,論じる内容が本質的部分(違法の内容)で大きく異なることとなるため,真に公平な採点が可能か,疑問が残る。

・ 事例がありえない。刑事訴訟法関係の論文式試験については,ここ数年,頭の中で無理矢理ひねり出した事例だという感が強いが,今年度の事例をみてその思いを一層強くする。しかも,無理矢理作った事例問題であるからこそ,論点が多すぎる。試験時間が2時間だということを考慮していない。現実に生じた重要な事案をベースに,刑事訴訟法の基本論点について,十分な時間的余裕の下で論述を尽くさせるような事例問題が出題されることを望む。出題の基本方針について,猛省を求めたい。

(4)選択科目

(ア)知的財産法

 a.適切である

・ 特許法については,特許権の消尽と並行輸入についての問題,著作権法については,複製防止手段の回避による複製と翻案権,著作者人格権についての問題であるが,いずれも基本的論点についての理解を問う問題であり,法科大学院で通常教える論点や目を通すべき判例の理解ができていれば,対応できる問題である。問題の質,難易度の点でも適切であると考える。基本的な問題が出題されている。法科大学院の教育内容に適合している。

  平成18年(第1回)以来本年までの倒産法の各試験問題は,基本的に倒産実務に配慮しながら,倒産実体法の基本的な理解及び倒産手続ないし制度についての条文レベルの知識等を問うものであり,倒産実務家を目指すものとして必要不可欠な基礎的素養に関わるものであると考える。論点の選択と難易度とも適切である。具体的な判例の理解とその応用を適切に問いにしてあるため。従前,ややもすると重箱の墨をつつくような論点を中心とする事例が出題されることが少なくなかったなか,今回は特許法がBBS事件最判,著作権法がときメモ事件最判という有名裁判例を素材としつつ,いずれの問題もひねりが効いており,よく勉強していた者が相対的に高得点をとることができる問題のように思われる。分量は適切である。また,各設問で尋ねられている論点も基本的なもので好ましく思われた。基本的な制度・裁判例に関して,通常とは別の角度から光をあてることで,正確で深い理解を問うものとなっているから。新司法試験開始以来,最も良い出題と言えるのではないか。典型的な論点についての理解があれば論述できる問題であるから。基本判例をベースに応用力を問う設問であったため。条文定義を確認する問題は,学習習熟度が測れて適切である。いずれの問題も最高裁判決で取り上げられた問題について尋ねるもので,重要な判決例を読んでおくという通常の勉強をしていれば回答(ママ)可能な問題である。重要な最高裁判決の正確な理解を前提として応用的な思考力を問う内容であり,良問と考える。

・ 1・2問ともそれぞれ重要な論点であるが,多岐にわたらずしかも単に記憶しているだけでは的確に回答が出来ず基本的な理解が及んでいるか否かが試される良問であると考える。また,時間内にどのようにうまく論理的な回答が出来るか否かについても判別ができる問題であったと考える。

・ 第1問は,国内消尽および国際消尽についての根本理解を問う良問と思うが,1と3(2)以外は結論・理由付けが分かれるだろうから,採点は難しいかも知れない。

 b.どちらかといえば適切である

・ 重要かつ著名な最高裁判決を中心とした基本的な問題の理解を問う良問である。多くの論点について,講義内容・レベルと調和しているから。思考力を問うことができるように思われるため。

・ 1問目(特許法)・・・国際消尽の基本最高裁判例,損害賠償請求,等,特許権侵害(訴訟)関係の基本的な考え方を問う問題であり,概ね良好かと思われる。2問目(著作権法)・・・基本判例ならびに条文を問う点で概ね良好かと思われる。ただし,30条1項3号を問うていると推測される問題があるが,もし,ゲームのダウンロードがこれにあたるかどうかを聞く問題であるとするならば,ちょっと時期尚早ではないか。 学界等における議論がまだ熟していないように思われるからである。

・ 第1問,第2問共,判例の事案をもとに「考えさせる」問題であったが,論点が多過ぎ,与えられた試験時間内でじっくり論述することが難しいと思われる。出題論点を絞り,受験生の論理力を試す問題を望む。実務に必要かつ適切であるが,受験生が試験時間内で全部解答できるかという点がやや疑問である。著作権は,少し内容が豊富すぎのように思う。時間的制約に対し,論じるべき内容がやや多すぎるではないか。

・ 出題のレベルは適切である。ただ,長い事例を出題するのであれば,論点の幅を広げて,様々な角度から法律全体の理解を問う内容にできないか,さらに検討して頂きたい。

・ 著作権法が比較的簡単であるのに対して,特許法は弁理士資格を有する受験生でないとわかりにくい問題が多いように思う。問題作成のご苦労は理解しているが,コンピュータプログラム等のように著作権法と特許法の臨界領域のケース事例を出題してもよいかもしれませんね。

・ 第1問(特許法),第2問(著作権法)ともに,難問に属するものであったが,もう少し素直な問題であって欲しかった。特許法の設問4は,「設問3で侵害となる」ときが前提であり,受験生によっては,設問3で,どのようなときに侵害になるのかと深く考えた受験生には,酷であったように思う。ますます難しくなる傾向にならないよう,出題にあたり慎重に検討してほしい。

・ 難易度的に申し分ないが,新法(平成21年の著作権法改正)について記述した教科書が非常に少ないなかで,新法に触れる問題が出題されたのはいかがかと思わなくもない。

・ 良問であるが,海外判例(LG事件)に通じた者には,有利過ぎるおそれもある(特許法),複雑怪奇な問題ではなく,普通に勉強し,また「ときめきメモリアル」の最高裁判決を勉強していれば,簡単とはいわないが,それなりに回答できる(著作権法)。

・ 実務上の重要な論点について,現実的に十分に発生し得る事例を前提とした問いかけをしている点,おおむね,相当である。ただし,十分に判決例が蓄積されていないにもかかわらず,単発の判決例で示された要件を過度に一般化するような評釈,模範解答が出回りがちな論点を選択していることは,受験生に対して不親切であるか,または,出題者自身が「単発の判決例で示された要件を過度に一般化する」過ちを冒している危険がある点,懸念される。

 c.どちらともいえない

・ 試験時間に比して,特許法の設問数が多い。判例に片寄り過ぎる。学生全体のレベルを考えるともう少し量が少ない方が良い様に思います。 

・ 特許法の出題は,当然知っているべき著名判例をベースにしたものではあるが,純粋に特許法の問題であるかどうかに疑問が残る。

・ 良くもなく,悪くもないと思うが,結局は論点を外さないような技術的な解答を求める出題しか出されないというのでは,”知的創造”が問題である知的財産法の分野にしては,”創造的”でないように思う。

(イ)労働法

 a.適切である

・ 法律の知識より,主要事実を丁寧に整理できるか否かを問う形式であるから。2問ともに,典型論点を論じるものになっているとともに,論点数,論じるべき量も適切であるから。多数の論点を織り込んだ,考えさせる問題として適切。解雇・就業規則の効力という基本的な問題が出題されている。例年と違って今年度は解答時間3時間を考慮して作成されていると推測されます。基礎的な知識・理解を問う問題であるから。広い領域に跨って,基本論点の摘出と応用能力を求めているから。労働法の基本的事項の理解と具体的事案における応用・分析の能力を判定するのに有益な問題となっている

・ 以前は,一つの事例に含まれる論点が多すぎて,各論点に関する知識を要領よくまとめる技術のみが求められ,法的思考力を問う試験になっていないことが問題であった。しかし,今年度の問題は,奇をてらわず,解雇・雇止め(問題1)や労働条件の集団的不利益変更(問題2)という基本的な論点にしぼったうえ,事件についてきめ細かい情報を与え,それを法的に解決する能力(法的思考力)が問われており,とても良い問題だと感じた。いずれも労働法の基本的な論点を考えさせるもので,難易度も適切であったと思われる。第1問は,解雇・雇止め,第2問は就業規則変更と労働協約による労働条件の変更という基本的な論点にかかるもので,分量・難易度とも問題はない。

・ 設問1は,労働契約法16条による解雇と,民法628条による解約(やむを得ざる事由による解約)について問う設問である。解雇についての部分は,メジャーな論点であり,比較的差のつきにくいものであるが,民法628条による解約については,期間設定の意義を踏まえた解答が求められるものであり,さらに,労働契約法16条との違いをどのように考えるかという点でも検討が必要である。解答者のリーガルマインドを十分にはかることのできる良問であると考える。

  設問2は,就業規則の不利益変更と労働協約による不利益変更について問う設問である。この論点は,労働法の中でもメジャーなものである。もっとも,設問で示された各事実をどのように検討するか,特に,代償措置をどの程度重視するかといった点で,解答者の能力が問われるものであると考える。設問1同様,設問2も,解答者のリーガルマインドを十分にはかることのできる良問であると考える。

・ 近時の実務上重要な問題を題材として,単純に判例を記憶していれば解答できるというものではなく,現場での論理的思考を試す問題を出題しているから。労働法に関しては,実務家としてすぐに直面するような事案について,労働法の基本的な判例や学説の知識を駆使して現場で考えさせる問題が出題されており,現行の出題のあり方を継続すべきと考えます。

 b.どちらかといえば適切である

・ 概ね基本を重視した事例で,設問の立て方も分かりやすいと思われる。オーソドックスな論点であった。基本的な問題をあらためて積極的に設問を工夫している点。基礎的なテーマ選択がなされている。

・ 第1問について:解雇はもっとも多い紛争なので,実務家になるための訓練として有用であるが,下記のような疑問を感じた。

  第2問について:労働協約の不利益変更の問題について,最高裁判例をきちんと理解していれば十分に解答でき,試験問題として適切であろう。

・ 全体としては時宜に適った良問といえるが,高年齢者雇用安定法については,今後新司法試験用六法に収録することにより,同法の解釈と関わる問題そのものに関しても出題を可能とすることが望ましいと考える。実務でありそうな設定で良い。ただ,あてはめ重視で文章力で差がつきそうな問題のように感じた。基本的な問題が問われている。基本的であるだけに,採点のあり方が問われるところではある。特定の説のみを基準にすべきではないであろう。

・ 第二問は出題意図も明快で良問。第一問は「あなたの見解を述べなさい」とする趣旨が不明。

・ 出題の難易度は適正と思われるが,出題の範囲が労働契約法に偏っている点はやや問題と思われる。

 c.どちらともいえない

・ 団体法の問題があったほうがよいと思われる。(神戸大学)

・ 第2問,事例末尾の「退職金の額は・・・変化はない」という表現が分かりにくいように思われます。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 第1問,第2問ともに易しい問題ではなかったと思われ,試験問題としての適切性に若干の疑問がある。

・ 第一問は事例に現実味がなくあまり適切でなかったが,第二問は工夫が見えた。第1問は良問とはいえない。第2問は就業規則論と労働協約論があり,時間不足となるのは確実である。

・ 問2の肢問の(1)の設問の意図が不明瞭である。2問目の大問題は複雑すぎるのではないか。

・ 問題が長すぎる。長文の割に論点が細かすぎる。明らかに落とし穴を作っているとしか思えない。

・ 労働契約法から4分の3の設問がなされており,労基法,労組法にも目配せをした出題を望みたい。特に,これまでも労基法に関連した出題は少ないように思われる。また,第2問は,労働契約法施行前の就業規則の不利益変更の効力が問われており,過去にもこうした設問がみられたが,この点について出題者の出題意図が不明であり,明らかにしていただきたい。

・ 基本問題の域を出ていない。

(ウ)租税法

 a.適切である

・ 幅広い論点を含む事例が設定されている。法科大学院の講義で十分対応できる。昨年より事実の中から問題点を分析する能力を問う問題となっている。所得税法の基本的な考え方を具体的な事例にそくして問うものであり,よく工夫されていた。昨年の出題対象が学習者に動揺を与えたことと比較して,評価できる。欲を言えば,一昨年以前の出題と同様に,会社の関係する取引を部分的に取り込む問いかけがあれば,民事系との関係で総合的な学習意欲を増すであろう。租税法の基礎的知識を深く問う出題であった。基本判例の正確な理解を踏まえた上で事案を適切に処理する能力,条文を丹念に読解して当てはめる能力,所得課税の理論的構造に関する理解,という租税法学習にとって必要な諸要素をバランス良く問うた出題であり,大変好感を持った。)

・ 法科大学院における租税法の履修の中心である所得税法の租税実体法の学習を真面目によく考えて行っておれば対応できる良問である。昨年のようにマイナーな,ゆえに知っているか否かだけで差がつく,手続法分野に偏っているということがなく,よい。授業に即してきちんと勉強した人が正しく報われる,よい問題である。問題文の量は例年より多いが許容範囲内である。今後もこのような出題傾向が維持されることを強く期待する。

・ 今年は二問とも所得税に関する出題となった点で,新しい傾向であるといえるが,設問自体はオーソドックスなもので適切であった。

・ 実務的な視点からの問題だけでなく,理論的な視点からの問題も出題されていて,所得税法の基本的な理解を幅広く問う内容になっており,法科大学院における租税法教育の理念に合致する問題といえる。

・ 質問(設問)について,どこまで言及すべきかかなり迷う問い方であったように思う。

 b.どちらかといえば適切である

・ 法科大学院における教育内容の範囲内にほぼ収まっているほか,奇をてらった出題や特定の分野(たとえば租税手続法)に偏った出題がなかった。

・ 第1問は,所得税法における所得の帰属の問題,収入の確定時期,自家消費など,いずれも基本的な事項を問うものであった。解答も過去の重要な判例(東京高裁平成3年6日6日判決の親子歯科医師事件,最高裁平成21年4月28日決定の弁護士報酬の収入すべき時期など,本学では授業で解説をおこなった。)をベースに一定レベルの回答が期待できる。その意味で,適切な問題であるといえる。ただし,問題文が無意味に長すぎ,かえって余計な混乱をまねく恐れがあり,問題文をもっと簡潔にすべきであったと考える。

・ 第2問は,商品先物取引に対する課税問題を問う実務型の問題である。最近のFX取引など,金融商品に対する課税のあり方が問われている中で,時事的な観点からも,雑所得の分類,損益通算の禁止,損失の繰越控除などは,比較的,回答可能なところであろう。ただし,単に知識を問う問題であるので,新司法試験の問題としてふさわしいかどうかは疑義を抱く。なお,損害賠償金については,2007 年に損害賠償金の必要経費性をめぐる問題の出題があったが,過去問を整理しておけば,損害賠償金の受領時の課税の有無,および弁護士費用の必要経費不算入性は明らかであったものと考える。

・ 2問とも単独でみれば適切な問題である。ただ,どちらも所得税の問題であり,あまり差異がなかった点が気にかかる。2問中1問は法人税の問題としたり,実務的視点を強く示すほうがよかったかもしれない。所得税の問題としては2問とも適切であるが,法人税の問題も出題してほしかった。

・ 問われている論点が基本論点であることは評価できる。第1問の素材とされている判決が基本判例であることは評価できる。第2問の素材とされている判決は,新規判決ではあるが基本判例とはいえず,受験生が対策をしたかどうかによって出来不出来が左右されると思われるため,やや適切さを欠くように思われる。第1問における事実関係が多量であるため,答案構成能力と時間配分が問われるであろう。両問とも所得税が論点であり,法人税が絡む箇所がなかったことは,やや疑問が残る。

・ 第1問は,事案をよく読み込んだ上で所要の解答を求めるという,よく検討された良問だと思われる。ただ,56条との関係などで答案の再検討を強いられた者にとっては,時間を相当に使ってしまったのではないかと懸念される。第2問は,第1問の解答に時間を要することがあらかじめ想定されており,それとの関係から問題文を短くしたのではないかと想像するが,第1問との比較においてややアンバランスな感があることは否めない。なお,法人税に関する出題がなかったが,設問の中に一つ又は二つあってもよかったのではと思われる。

・ 第一問および第二問ともに,どちらも基本的なことを問う問題であり,判例等をしっかり勉強していれば解けると思われる。ただし,第一問は問題文がやや長すぎて,時間内に論点をみつけ出すことに苦労する受験生がいるかもしれない。もっとも,そこで優劣をつけるために,あえて長くしたというのであれば,それはそれでありうる考え方である。

 c.どちらともいえない

・ 当然に授業でおこない,出題の想定範囲の問題であり,かつ余り論点が容易にわかる。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 問1は,事実関係が長すぎる。また生計を一にしている事実を述べながらも共同事業とも受け取れ,このことがその後の解答に大きな影響を与え過ぎる。矯正歯科医も管理支配基準を問おうとしているのか権利確定主義を問おうとしているのか不明快。問2は適切だが,特定の事件を知っているかいないかで大きく点数に差が出る点は判断に悩む。

・ すべて所得税法に関する出題であり,従来出題されてきた法人税に関するものがないという点が気になるから。過去の問題と比較し,出題範囲がやや所得税に偏っている。

 e.適切でない

・ 第1問設問1は事実認定問題としては複雑に過ぎる。すべてを丁寧に検討していたのでは他の問題に振り向ける時間が足りなくなる。法的論点を時間不足で十分に対応できないのでは正当な能力評価ができるか疑問。また,「前受金」は会計用語であって,租税法問題に不適当である。第2問は回答範囲ないし設問趣旨が明確とはいえない。能力のある受験生ほど論じる範囲を拡げて迷いかねない。不適切である。

(エ)倒産法

 a.適切である

・ 基本的事項を問うものであり適切である。〔第1問〕〔第2問〕ともに,破産法・民事再生法の領域における基本事項を問うものであり,また,実務上問題となりそうなところを問う良問である。問題事例が実務上起こり得るものでありながら,シンプルになっており,受験生には取り組みやすかったように思われ,好印象を受けた。また,基本的な論点を主として尋ねていることから,授業でとりあげている基本項目の正確な理解によって差が生まれる良問のように思われた。基本的な内容であり,また,実務的でもある。基本的な事項を問う問題。現場思考を求める問題である。基本的な論点から,応用的な論点までバランスよく含まれている。基本的な問題をごくまっとうに問うている。倒産法をよく勉強している学生が高評価を得られる良問と感じた。学生の勉強量が成績に適切に反映される問題である。例年と同じく倒産法の基本的な事柄を問うもので適切と思う。基本的な理解を問うものとして適切と考える。受験生の理解をはかるのに適している。出題分野,量的にも適切であると考える。基本的な問題であるが,選択科目の難易度としては適切であると評価する。本年も,破産手続,再生手続の両方が出題されており,また倒産実体法(別除権,双務契約の解除など)と手続法の問題が組み合わされており,妥当と考える。平成21年と22年の「新司法試験の採点実感等に関する意見」は,「特定の傾向に偏することなく,基礎的な事項の理解を確認する問題と受験者の問題発見能力を試す問題,倒産実体法に関する問題と倒産手続法に関する問題,企業倒産に関する問題と個人倒産に関する問題等,幅広い出題を心掛ける」とされている。倒産処理法の授業では,このご意見にあるとおり基礎的な事項を中心としており,引き続き方針が維持されることを期待する。破産法のみならず,民事再生法についても出題されている。

・ 判例を下敷きにした問題,広い教養を必要とする良問である。しかし,3時間でこれだけの問題を解答することが可能か疑問である。

・ 受験生の実力を試すには適切な良問であるが,主要テーマに属する否認権や相殺権の分野から始めて全く出題されず,また,破産管財人の第三者性の問題などは昨年度の問題と重なる部分もある反面,両設問の事案がいずれも賃貸借であり,再生計画案の不履行の問題など受験生が関心を抱きがたい分野からの出題も含まれるなど,出題範囲については検討の余地があるように思われる。

 b.どちらかといえば適切である

・ 倒産法の典型的論点を中心に出題されており,概ね,法科大学院における修得の成果が適正に判定されると思われる。問題の全体のバランスはよいが,難問が最初にあり,順序にやや疑問がある。第2問設問1はやや難問と思われる。第1問は,やや実務的で重すぎると思われる。第2問は基本的で良問。基本的知識を問いつつ,その応用力も試されている点で,よい問題だと思う。特に第1問は,基本的に倒産実体法の基礎的論点についての基本的な知識を問う問題となっていると考えられるから。

・ 知識の少ない者が,基本的な知識を利用して解答が行えるように工夫されている。ただし,倒産法の制度理解を確認するために要求する知識の範囲がいささか狭いのではないかと考える。

・ 知識に加え,考えさせる問題。ただ,法科大学院との講義に対応するかという問題は残る。

・ 民事再生法の比重が大きすぎる。破産法だけでなく民事再生も試験範囲というのは広すぎる。

・ 第1問の1は,民法的な色彩が強すぎると思う。基本的な事項が問われており,おおむね適切な問題であると思料する。ただし,強いていうと,第1問,第2問とも,不動産賃貸借を基礎とした事例問題であり,出題にやや偏りがあるように思えなくもない点が気になる。

・ やや出題趣旨の分かりにくい問題があるが(第2問設問2),概ね適切である。

 c.どちらともいえない

・ 再生手続の比重がやや大きすぎるように思われる。問題文が平易でない。出題の趣旨を把握しにくい設問がある。特に特徴を感じない。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 各設問の内容は,決して難問ではないだろう。概観すると,第1問設問1は,賃貸借契約解除の効果を管財人に対抗できるかを問うもので,管財人の第三者性の議論。設問2(1)は,双方未履行として賃貸借契約を管財人が解除できるかを問う。借地上に抵当権が設定された建物が存するので,ここをどう解するか。設問2(2)は,建物抵当権の消滅許可請求の規律を問う。条文に沿って検討するもの。第2問設問1は,賃貸借契約の解除を理由とする賃貸目的建物の明渡請求ならびに未払賃料支払請求の訴えが係属中に,この訴訟の被告が再生手続開始決定を受けた場合,これら訴訟の帰趨を問う。係属中の訴訟の処理の論点。設問2は,再生計画の履行がされない場合の規律を問うもの。条文を適切に指摘できれば是だろう。かように,1つひとつの問題に着目すれば,LSの授業で通常扱う内容,範囲内のものといえ,過度に応用的な問いというわけではない。ただ,受験生は,これを3時間という制限された時間内に処理することを要求されているのであり,回答すべき問題は5つもあることに鑑みると,破産法と民事再生法の各手続の開始から終結までを満遍なく問う形態は,その実務上の必要性は十分認識してはいるものの,選択科目の負担としては重いというのが実感ではないか。設問数を3問程度に減ずるとか,より根本的に出題範囲を破産法のみに限定するといったことは検討の余地はないか。

 e.適切でない

・ 問題の内容,質は適切であるが,質問数が多く,さらに,民事再生法について破産法と同じ点数配分で出題されているので,制限時間内に回答させることには無理がある。とくに未修者にとっては,選択科目の勉強にはなかなか時間が割けないこと,選択科目については単位数がかぎられたカリキュラムの中では破産法を全般的に講義することで精いっぱいであること,破産法についての基本的な素養があれば,民事再生手続については,実務についてからで十分対応が可能であること,以上の理由から,主として破産法の分野からの出題で十分に受験生の学力を図るのに十分であると思われるというのが,適切でないと回答した理由である。

(オ)経済法

 a.適切である

・ 1は基礎的な問題で,受験者は点数を取りやすい。2は考えさせる問題で実力がわかる。総合すると,ほぼ妥当と評価できる。問題文の量及び質ともに適切である。通常の授業で教えられる範囲内の論点について応用力を試すものであるから概ね適切。基本的な考え方を踏まえた上での応用問題に解答させるものであり,質・量ともに適切である。両問とも,独占禁止法適用の基本的な思考方法の連続を問うものとなっている。徒に奇をてらった難解な問題ではなく,法科大学院での教育に対応した適度な難度の問題であり,受験生の実力に対する公平かつ適切な評価がなされると考えられるので。昨年より素直な問題であり,改善された。基礎的な知識の正確な理解と応用能力を問う良問である。独占禁止法の基礎的な理解を試すと同時に応用力も見る内容となっている。時間内での解答が十分に可能で,かつ法科大学院における教育で対処できる内容,範囲にとどまっていると考えられるため。第1問は,これまで出題のなかった企業結合規則からの問題であるが,弊害要件の基礎を解答させる良問であると考える。第2問も,きちんと勉強していれば解答できる問題で適切であると思われる。過去1年の新たなものを含めた実際の事例をもとに基本的な理解を試す問題である。

・ どちらの問題も,昨年までの問題と比較すると,独占禁止法の基本的理解を求められるもので,適切な問題と考える。第1問の事例は,問題としては適切な内容と思えたが,「乙製品の製造販売分野」についての何らかの対策を求められていると考えると,これまでの企業結合事例における問題解消策についてのかなりの知識が必要であり,若干難しいかとも思われる。第2問の事例は,問題としては比較的やさしい内容と思えたが,採点方法の問題だが,事例の行為が私的独占又は不当な取引制限として問題となるかどうかについても検討が求められるとすれば,難易度は若干増すと思われる。

・ 二問ともオーソドックスな出題で,基礎から始めて,きちんとケーススタディを積み上げて独占禁止法を学習してきた受験者には適切に感じられるはずであるし,排除措置などテクニカルな法執行上の設問を避け,市場画定や競争の実質的制限の有無,正当化事由の評価など違反となるか否かの実体規定の解釈上の論点に絞って検討を行えるよう配慮されていることも評価できる。

  第1問では,問題文中の企業結合に係る事実の把握や原料市場の集中進行が川下市場にどう影響するかの判断が,第2問では,競争の制限の程度(排除効果)をどう見るか等によって,適用法条が異なり得るため,重要度に応じた検討が ,それぞれ行い得るかが問われることになり ,そうした点が評価の優劣に反映されるのであれば ,法曹実務家としての能力・適性を問う試験問題として妥当なものと考えられる。

・ 第1問のうち乙製品市場での結合の影響に関する分析はやや複雑であるが,授業

において十分対応でき,おおむね適切な問題といえる。問題解消措置ではなく法的措置の

内容を答えている答案が一定程度あると予想されるが,致命的な程度には減点をすべきで

ないと考える。第2問は基本的な知識があれば答えることができ,かつ理解の程度によっ

て差が付きうる問題であり,適切である。

・ 今年度は共同新設分割に係る問題と取引拒絶に係る問題の2問であったが,独占禁止法の基本的な法概念や規制内容(特に要件)を正確に理解していることを前提に,問題文に示された事案に即して,独占禁止法の中から関連した条文を選び出し,出題の意図に沿って具体的に論述を展開していくことが求められているレベルの問題であり,難問奇問ではなく,適切な問題である。

 b.どちらかといえば適切である

・ 競争の実質的制限及び公正競争阻害性を,適切に聞いている。基本的な内容であり,また,実務的でもある。独禁法の適切な論点が問われている。応用力を試す問題としては適切である。独禁法の適切な論点が問われている。

・ 素材となった事案の選択は比較的適切である。ただし,手続(エンフォースメント)についての問がない。

・ 独禁法の比較的基本的な理解を問うものであり,量・レベルの両方から,適切であると考える。問題文の長さもほぼ適切である。なお,第1問で,「独禁法上の問題を解消するための対策」について検討させるのは,いささか困難を求めるものと思う。良問である。設問の形式がやや丸投げになっている。小設問式を少し取り入れた方が良い。企業結合規則に対する基本的な理解があれば回答への取り組みは困難でないが,問題解消措置の検討はやや不十分になりがちであると思われるため。

・ 第1問は,非常によくできた問題でよいが,第2問は,平成19年の排除措置命令と同じであり,知っていれば法令の適用において迷い(検討)が生じない点で相当に有利となる印象を受けた。

・ 第1問:M&Aの出題自体は適切。ただ難易度でいえば,とりわけ「一定の取引分野」の画定が容易ではなく,それを前提とした「競争の実質的制限」の予測は,場合によってはその評価・認定が分かれる可能性がある。第2問:オーソドックスな共同の取引拒絶の出題であり,また,基本的な理解と判例・審決の学習によって正解を導くことが出来ると思われ,適切と評価できる。

・ (1)行為規制と構造規制の両方をバランスよく問いている点は評価できる。(2)問題文のいずれの部分も有り得べき解答に結びつくようになっており,問題に表現されたあらゆる点に器用に配慮して構成できる者に有利な問題といえる。しかし,経済法は,経済的事実をいかに認識し,法規範と結びつけるかを問う能力が極めて重要で,すでに提示された事実を上手に法律にあてはめ,構成する能力よりも,経済的な因果を的確に読み込む能力が重要であると思料する。その意味では,いわゆるノイズ情報も適度に入れた問題も能力を問う意味では必要ではないかと思う。

・ 第1問,第2問とも,独禁法全体を学習していれば答えられる問題であるが,事例に含まれている論点を拾い上げ,それらの論点について,どの程度深く分析・検討できるかは,解答者の学習の程度や理解力等に依存している。そのような意味で適切な問題と考える。 第2問では,どの市場からの排除となるかにより,3条違反の構成も可能であり,課徴金への言及も予想され,出題者の柔軟な対応が期待される。

 

 c.どちらともいえない

・ ごく一部のよくできる学生にとっては良問であるが,通常の学生の達成度を見るものとしては難しすぎるように思う。授業ではカバーできない問題が含まれている。

・ そもそも経済法という科目の特性からかんがえて,短時間で丁寧な認定を行わせるということは扱える紙幅の関係から言っても難しいのは仕方ない。その中で出題者は大変な苦労をしていると推測するが,問題改善の在りかたを問うのではなく,試験科目としての適正な在り方を改めて問うことのほうが重要ではないだろうか。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 難問にすぎる。

・ 条文にないHHI指数による解答は行き過ぎである。

(カ)国際関係法(公法系)

 a.適切である

・ 全体的にバランスよく出題されている。ごく基本的なことを問う問題で,展開科目としては妥当な水準である。「事例題」としての設問として適切である。1,2問とも,小設問で国際法の基本的な理解を問うているため。国際法の基本的な理解とそれの応用を求める問題であり,適切と考えられる。国際法の基礎的で重要なポイントを的確に問う良問であった。これまでの出題の中で最も良い問題であった。司法試験を合格するうえでもっていてほしい国際法の知識の記述をバランスよく求めている。国際人権法,海洋法についての基礎的知識を問うとともに,国際法全般についての理解度を試す問題設定となっていて,適切である。国際人権法,国際請求の方法,UNCLOS(大陸棚の境界画定)・ICJ規程・規則(仮保全措置)に関する基本的理解を問うている点において適切である。最新の判例や今日的問題をふまえた題材を取り上げつつ,国際法の基本事項の理解を問う設問となっているため。国際関係法(公法)については,引き続き,基本事項の理解を問う良問の作成をお願い申し上げたい。本学のカリキュラムでは,国際公法関係の授業は2単位科目の「国際法」がおかれているのみである。法学未修者が2単位の授業をしっかり履修することによってある程度新司法試験に対応することができるよう,ご配慮いただければ幸いである。

・ 問題は複数の領域から基本知識と応用力を問うようになっており,難易度も適切であると思う。ただし,問い方が一般論でとどめるのか,提示された事案に具体的に当てはめるところまで回答を求めているのか,やや判断に迷う箇所があった。

・ 第1問の相続と不法行為が絡む問題は,法律関係の性質決定の問題として典型的なものである。夫婦A・Bの本国法が異なる場合の方がおもしろい問題となったと思われるが,それでは難しすぎるということであろうか。第2問のパートナーシップの当事者能力・保証契約の準拠法・債権代位の準拠法は,いずれも財産法分野の国際民訴・国際私法上,中心の問題ではなく,周辺的な問題であり,このような出題も必要であるように思われる。

小問3において,通則法23条に言及することを求めているのは,あまりに試験のための設問のようで,望ましくないように思われる。

・ いずれもごく基本的な問題であり,国際法を勉強した者は誰でもある程度の解答が書ける問題である。同時に,問1については,国際法と国内法,私的請求権と国家的請求権,人権条約の国内適用など第2大戦後の国際法の新動向に加え,私人の国際請求を巡る最近の国際法の展開まで広く問うている点,問2については,大陸棚制度を巡る基本的な理解を問うとともに,国際的な紛争解決手続に関する暫定措置の運用や大陸棚境界画定法理の展開の理解を問うている点が,さまざまな論点に及びうるものであり受験者の勉強および理解の度合が解答に反映される点で,適切である。ただ問2の肢問3については,もう少し親切な聞き方である方が,受験者が解答を作成しやすいのではないかと思われる。

 b.どちらかといえば適切である

・ 国際法の基本的知識の正確な理解を前提とする出題となっている。具体的な文脈(事例)にあてはめ,適切な解答を導くことを通じて国際法の基礎的知識と考え方を試そうとしている点で。国際法の重要な問題について,実体法と手続法の双方を踏まえた基本知識を問うもので,法曹関係者が実務と結び付けることができるかにやや懸念が残るものの,良問であると考える。基本的な事項を学んでいれば答えられるようになっているから。ただし,あまり考えさせる内容ではなく,また,第1問は問題としてもう少し練ったものであってもよかったように思う。

・ <第1 問について>国際人権法の基本知識を問う良問である。<第2 問の3 について>質問の趣旨がいくぶん曖昧である。付託された紛争は,A国がB 国管轄権行使の権原の有効性・対抗力を問うものと解される。3が暫定措置請求の前提となる請求主題の内容を明らかにすることをも求めているとすれば相当に難しい問題である。

・ 出題内容やその難易度も適切ではあるが,若干出題意図を理解しにくい質問文となっているところがある(たとえば,第2問設問3の「国際司法裁判所が‥‥第83条第1項の規定を宣言する」の意味など)での,修辞上の工夫が必要ではないかと思われる。

・国際人権法の問題は新司法試験の出題方針に合致しているか疑問である。

・ 従来より,設問の仕方に不明確さがある。今年も何を問われているのか受験生が迷うおそれがある。①設問で何が問われているかが,ややわかりにくい。特に,第1問における「甲の釈放」と「甲の救済」の関係については,両者を厳密に区別するか(救済とは釈放以外の賠償請求等に限定するのか),救済には釈放も含まれるのか,どちらなのか必ずしも明確とはいえない。②第2問で扱った大陸棚境界画定は,過去の出題にもあり,出題分野にやや偏りが生じているとの懸念が生じうる。また,通常であれば,大陸棚の境界画定について,国際司法裁判所がどう判断するかという出題になるはずだが,この点は設問中に解説されている。第2問3の「国際法として...規定を宣言する」という表現はややわかりにくい。

・ 問題1の設問3は「国際法を中心とし,国際人権法及び国際経済法について問う場合にも国際法の理解を問う問題に限ることとする」という限定を超える恐れもあるが,個人の国際法主体性を論じさせるという意味にとればよい問題であると評価できる。

・ 学生からすれば,国際関係法(公法系)の出題範囲が不明確であると感じたのではないか。ただし出題の難易度はおおむね適切である。

・ 人権法と海洋法の問題バランスは良い。ただし,2問目の問題での条文背景説明は助長とも感じる。いずれの問題も基本的な問題である。出題範囲については,今後も基本的な事項に絞ることが必要である。

・ いずれの問題も複数分野の知識を問う良問である。ただし,第1問目は日本語の判例評釈がまだ出ていない事件を素材としており,対応がやや困難である。第2問目は「設問」が一般的な問いになっており,想定事案を踏まえて論じさせるという形式になっていない。

・ 毎年のことではあるが,実体法にかかわる出題がないのが残念である。

 c.どちらともいえない

・ 第1問は適切であると思われる。第2問について,地理上の形状を仮設の事例としても,実際には「400カイリに満たない海洋を挟んで向かい合う国」というのは,少数の特定事例である。A国・B国という仮設の事例方式にこだわる理由があるのか疑問。

・ 事例の内容は適切である。ただ,設問中,通報手続や裁判手続に関する部分は,これまでのレベルをこえた知識が求められている。

こうした問題に十分な備えをするとなると受験者に負担になるおそれがある。(上智大学)

・ 第1問は今回から外した国際人権法の範囲に属し,国際法一般の範囲内とは必ずしも言えない。第1問-国際人権法の内容についても問うている。この点は出題方針に照らして適切か,疑問がある。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 第2問は,文意,設問趣旨ともに不明確で,設問の内容にも偏りがあるように思われる。

・ 法曹実務への有用性が低い。司法試験科目としての国際公法は受験者数の割合が最低であり,試験科目としての位置づけ,あり方を再考する必要がある。

 e.適切でない

・ 第1問は,ICJのアーマド・ディアロ事件(2010年判決)を素材にしたものであると思われる。しかし,ジェサップムートコートのアジアカップの問題とほぼ同じものであり,適切性に欠くと思われる。第1問の設問1に関して,Y国国内法における国際法上の地位が不明確であり解答できない。設問2および3について,国内救済が尽くされていない(設問1から)と思われるので,外交的保護も人権条約上の個人申し立ても受理されないであろう。設問2のなかの「請求」の意味が不明確である。そのため,一般的には認められていないような請求(たとえば,乙社とは別の乙社経営者のための外交的保護)も含めるべきか,受験生は困惑したであろうと思われる。

第2問は,総じて,説例と問題とが不一致である。説例を読まなくても解答できる問題である。特に,設問2は,説例を読まずして解答できる問題である。要件だけを質問しており,本件への当てはめが求められていないからである。説問3については,ICJが,国連海洋法条約第83条1項を適用法規と宣言することはないであろう。B国は第三国であるからである。条約は第三国を益しも害しもせず。第83条1項が慣習法規則として結晶化し,その結果,慣習法を適用することはあると思われるが,その場合でも,第83条1項を適用するわけではない。また,第83条に具現化された慣習法規則を適用することがあるだろうが,その場合でも,第83条が適用法規であるわけではない。問題の提示に一考を要す。

(キ)国際関係法(私法系)

 a.適切である

・ 事例もさほど複雑ではなく,国際私法の総論における基本的な解釈とあてはめを間違えなければ,特に難しい問題ではなく,分量的にも妥当な量と思われる。受験者の考える力をはかれる問題が出題されている。難易度・分量共に適切であると思われる。基礎知識の重視。問おうとしている論点が明確。国際民事訴訟法の部分も工夫されている。国際私法および国際民事手続法の基本的な理解を確認し,適切な応用力を問う趣旨と捉えることができる。準拠法の決定や管轄の有無を単に問うのではなく,どのように思考した結果そうなるかを尋ねており,国際私法の構造の理解度をよく量ることができるように工夫されている。

・ 第1問,第2問とも良問だと思う。基本事項の正確な理解を問う良い問題と考えられるから。問題文から出題の趣旨・解答すべき事項を明確に読み取ることができ,客観的な能力をはかる試験として,適切である。基本事項の正確な理解を問う良い問題と考えられるから。国際家族法に関する問題(第1問)は,各論に止まらず総論分野を織り交ぜて総合的な思考力を問う内容であったほか,国際財産法に関する問題(第2問)は,契約債権を中心に基本的な知識運用能力を問う内容であったと評価できる。なお,狭義の国際私法の領域に重点を置いた出題となったが,国際民事手続法の領域では法改正が予定されていたこと等の事情を踏まえると,同分野からの出題が極力控えられたのにはやむを得ない事情があると思われる。第1問,第2問とも,国際私法,国際民事手続法の観点からは,リアリティのある,また重箱の隅をつつくようなところもない,適当な出題であったと思われる。ただ,国際取引法プロパーの設問がない点で,受験生を困惑させるところがないではない。

 b.どちらかといえば適切である

・ 基本的,重要な点についての問題で,出題の意図も明確。(昨年と比べて)バランスも良いと思う。第1問,第2問ともに,国際私法に関する基本的な理解があれば解答ができる問題であり,全体の分量もおおむね適当と思われる。出題が徐々にこなれてきているとの印象を受ける。第1問,第2問を通じて,出題範囲,設問形式ともにバランスのとれたものになっていると思います。多くの論点が盛り込まれているが,問題文を丁寧に読み,事実関係を整理すれば,いずれも読み取れるもので各論点の難易度も標準的で,大変適切な問題である。

・ 例年に比べ事案の具体的事情を確認する能力や考え方のプロセスを評価する問題が増えたのは評価出来る。

・ よく練られた良問だが,やや分量が多く,また若干難易度が高いため,現在の受験生の実力をはかるのに適切かという観点から疑問がないではなかったことから,b. とした。本年の問題は,実際に起こりそうな事例を題材としており,新司法試験の目的に合致していると思われる反面,代表的な教科書に取り上げられていないような細かい論点や,百選にも取り上げられていないような論点も含まれており,難易度は過去の問題に比して極めて高かったのではないかと思われるため。

・ 第2問設問2.の趣旨が明確ではない。すなわち,単に日本法が準拠法となる可能性と乙国法が準拠法になる可能性があることを客観的に説明するだけでよいのか,いずれの解釈を採るべきかについての解答者自身の意見も書いたほうがいいのかが明確ではなく,受験者がとまどうのではないかと思われた。第2問設問2については,端的に準拠法のいかんを問う方が良いのではないか。

・ 個々の問題は,国際私法の基礎力を確認するのに適した問題であったと考えられる。しかし,国際取引法も出題対象とされている以上,この分野からの出題がなかった点はバランスを欠くように思う。国際取引に関する設問は事例との関係で,時には設ける事ができないであろうか。

・ 第1問で,日本の実質法の知識を前提としている小問が複数あり,国際私法の問題としては妥当性に疑問がある。第2問の設問1で,国際裁判管轄や外国判決の承認・執行以外にも国際民事手続法の重要問題があることを受験生の間に認識させるものであり,適切であると考える。実際に生起しうる現実的な事例が取り上げられており,設問も,過度に細かな理論的処理を問うものでない点で,適当なものということができる。但し,国際取引法固有の問題が盛り込まれなかったことは,科目選択者にやや混乱を与えるおそれがあるようにも思われる。

・ 法科大学院における国際私法・国際民事手続法・国際取引法の講義で一般的に取り扱われている範囲内の事項について基礎的学理と裁判実務に即した出題である,という点では適切であるが,やや細部にわたる出題内容であるともいえる点で,どちらかと言えば,という評価になろうと考えられる。

・ <第1問について>これまでの出題傾向からは少し変わっているが,外国人について,日本での交通事故(不法行為)に基づく損害賠償請求権の相続問題を問題にしながら,先決問題である相続権の有無に適用される準拠法を日本法とした理論構成を問い,かつ損害賠償請求権に関する準拠法決定のための法的な当てはめや外国法の適用の可否(通則法22条)を問うなど,また反致の可能性も考慮したかどうかなど,国際私法の基本的な論点につき,法律実務家に不可欠な具体的事案への法の丁寧な当てはめができるかどうかということを問うているという点は,実務的であり法科大学院の修了生に求められている内容であると評価できる。ただ,配点が60点へと変更されているとはいえ,多様な法的論点がカバーされているので,論点を中心として学習してきた受験生にとっては,設問の数が多かったのではないか,設問の2か3の内,いずれか一問だけでも十分に能力の判定はできたのではないかと思われる。

  <第2問について>金銭消費貸借契約に基づく主たる債務と保証債務に関し,外国法におけるパートナーシップについて,外国人の当事者能力を問い,保証債務履行のための準拠法と問い,かつ法定代位に関する準拠法を問うという,これも第1問と同様,実務的な問題に対して,基本的な国際私法的知識を問うという点,さらには通則法の制定で大きく変更となった債権譲渡の対抗力に関する準拠法に関する問題を問うという点で,適切な問題であろう。特に外国法人の当事者能力は,通則法上規定を設けず,民事訴訟法28条の適用問題であることを気付かせるという点や,保証債務履行に伴う法定代位の準拠法を問うという点など,実務的には非常に重要な問題であり,その意味では良問であるといえる。ただ,第1問で時間を費やした受験者にとっては,十分な時間がとれず,満足のいく答案を書けたものはすくないのではないかと思われる。

・ 内容は適切だと考えるが,第1問については設問が多すぎて力があるのに4枚に収めきれない受験生が相当数いたのではないかと懸念される。

 c.どちらともいえない

・ 特に何も問題はないと考えるので。国際取引に関する設問が不十分であると考えます。

・ 国際取引・実体法の問題がない。

・ 第1問は適切であるが,第2問がやや不適切である。パートナーシップや法定代位という法律概念は,受験生にとってはなじみの薄い概念ではないかと考える。

 d.どちらかといえば適切でない

・ いずれの問題もよく取り上げられる判例に依拠した設例に,教室設例的な問題を加味した出題で,安易で工夫に欠ける印象が残る。特にパートナーシップの当事者能力を問う問題では,当事者となり得るかと問いながら,甲国法上のパートナーシップについて民訴法29条を適用し判断すべきデータが設問中に含まれていない。設問の仕方として問題がある。保証債務による代位についても学説の理解を問うような設問の仕方で実務性に欠ける。抵触法規の基本的な適用能力と,訴状や準備書面等における主張反論に必要な限度を越えて学説の比較を問うような設問の仕方には疑問を感じる。研究者が議論を行う際の感覚での設問の仕方は新司法試験の趣旨からも設問は適切ではないであろう。

・ 第一問 質問内容がやや瑣末 第二問「パートナーシップ」概念が不正確または,少なくとも不明確。

・ 国際取引の分野についての設問が乏しい。

・ ①全体的に分量が多すぎる。特に第1問については,設問1に肢問が3つもあり,受験者がじっくりと考えて答える余裕を奪っている。

  ②問題文の形式が裁判官の視点に立ったものが多すぎる。合格者の多数は,弁護士になるのであるから,昨年度の問題文のように,弁護士が依頼人にアドバイスをする形式を増やすべきであるし,家族法についても,そのような形式を採用すべきである。

・ 昨年平成22年度の「新司法試験の採点実感等に関する意見」に,次の記述がある。

  「これまでと同様に,本年度も,次の4つの能力を受験者が有しているか否かを判定できるように出題した。すなわち,①国際私法・国際民事訴訟法・国際取引法上の基本的な知識と理解を基にして論理的に破たんのない推論により一定の結論が導けるか,②設例の事実からいかなる問題を析出できるか,③複数の法規の体系的な関連性を認識しながら,析出された問題の処理に適切な法規範を特定できるか,④法規範の趣旨を理解して,これを設例の事実に適切に適用できるか,である。」

  「狭義の国際私法,国際民事訴訟法及び国際取引法の各分野の基本的事項を組み合わせた事例問題を出題することが適切であろうと考えられる。」

  国際関係法の授業では,上記のご趣旨をふまえて,国際私法,国際民事訴訟法,国際取引法について全般的に,基本原理を広く理解させるように努めている。

  この観点から,本年の出題について4点を指摘したい。

① 国際家族法と国際取引の配点のアンバランス

  従来どおり,第1問を国際家族法,第2問を国際取引にあてているが,配点がアンバランスである(60点と40点)。

② 国際裁判管轄の問題が欠如

  本年は,国際民事訴訟法の問題として,当事者能力が出題されている。もとよりこれも重要な論点ではあるが,授業ではかならずしも充分な時間を充てているわけではなく,国際裁判管轄を中心にしている。民事紛争が生じた場合,いずれの国の裁判所に訴えを起こすかが,もっとも重要な問題である。

③ 国際取引法・ウィーン条約の問題が欠如

  もとより,平成21年度の採点実感等に関するご意見に「もっとも,今年と同様に,これらの法分野の一部からは出題をしないこともあり得る」とある。しかしウィーン条約に加入し,発効してから,わが国の事業者が同条約に関心をもっている。また本年は,国際的な保証について出題されているが,保証人であるY会社が保証債務を負担するにあたり,Aの信用力が充分であっても,なんらかの担保(たとえば甲国の銀行のカウンター・ギャランティ,スタンド・バイ・クレジットなど)を要求するものと思われる。

④ 仲裁の問題の欠如

  国際商取引では商事仲裁によって契約から生じる紛争の解決を図ることが多い。これまで仲裁が出題されたことがないが,ご一考いただきたい。

 

(ク)環境法

 a.適切である

・ 最近の環境法のトピックに焦点を当てているところ。環境法の基本的な理解を問う内容で,かつ出題方法も平明であり,環境法の基礎的な理解の精度を高めておけば,解答が可能な問題と思われる。教科書に準拠した基礎的な知識と考え方を試す問題だったから。基本的な考え方が幅広く問われている。産廃処分場の設置許可と土壌汚染の状況調査及び汚染の除去という環境法上の基本的制度を取り上げ,法制度の内容と立法趣旨及び限界を正確に把握しているか否かを問う問題であり,適切である。2問とも,基礎的な論点について,実務上の観点を踏まえた良問である。二問とも重要な改正内容と残された課題を問う問題であり,縦断的学習ができているかどうかという基本的理解を問う良問である。基礎的な問題や重要な法改正の理解について問うオーソドックスな問題であり,適切である。第1問は廃棄物処理施設の設置許可に際しての生活環境影響調査,第2問は大規模土地開発の際の土壌汚染調査と汚染対策という法改正を取り上げ,それぞれの意義と課題を問い,その上で実際に生じている争いにおける主張と論点をたずねている。いずれも,環境問題の変容に対応する法政策の正確な理解と争訟への対応という法律家に求められる理解力,法的構想力を問う問題として適切なものと思われる。廃掃法や土対法の典型論点を問う問題であり,基礎的知識と実務能力を問う問題として適切であると考えられる。

・ 基本的なものの考え方を問うのには適切な問題と考える。

・ 社会的要請と,その具体化である政策や個々の法律の法令との関係を理解し説明する能力を試すとともに,および,法令(条文)の中に記されている内容を,現実的な社会活動の中での関係主体どうしの関係として理解し,さらにその問題点や課題を判断する力を問うという点において,よい設問だと思われる。

・ 今日,重要な環境問題となっている廃棄物処理施設,土壌汚染に関する事例の検討を通じて環境法の基本的理解を問う問題となっており,適切である。ただし,昨年の行政訴訟に関する設問でも同様の点が見られたが,本年の第2問設問2のように,民法の理解を問う場合,環境法の解答としてどこまでの記述が求められているかについて,受験生が迷うという面もないではない(例えば,瑕疵担保責任の賠償範囲として信頼利益に限るのかどうかといった点。この点は,瑕疵担保責任の法的性質にも関連するが,環境法の解答としてそこまでは求められているのかどうか)。

・ 新司法試験の問題として適切であると考える。ただし,新司法試験掲載10法のみを勉強すれば足りるとのメッセージを学生に与えないよう出題にあたっても配慮が必要であると思われる。

・ 法改正や紛争事例を手掛かりとして法律を制度として動態的に捉えよ,という受験生へのメッセージが再確認された。今後10法にこだわりすぎる結果,環境法の体系からすると瑣末な論点が出題されることがないように,環境法の基本原理と結びつける設問を希望する。

 b.どちらかといえば適切である

・ 設問の難易度・分量とも概ね妥当である。出題範囲の選択には配慮が見られ,また,設問の内容も,法政策および訴訟に関する基本的理解を問う妥当なものである。試験委員の関心が出題された点でやや予想通りか。当該事柄の背景の理解を必要としているから。

・ 第1問設問1は,知識偏重になるのではないか。第2問設問1も知識があれば簡単で知識偏重になるのではないか。環境法の制度理解を求める問題であり,基本的な知識を利用して解答が行えるように工夫されている。ただし,環境法の制度理解を確認するために要求する知識の範囲がいささか狭いのではないかと考える。

・ 重要な分野からの出題であり,問われている事柄はたしかに受験者が押さえておくべき事項であるが,第1問の場合,廃棄物処理に関して設問1と設問2のすべてに答えるためには,廃棄物処理法制に関する知識のほか,差止訴訟における因果関係の証明という難題の理解が必要である。一般の法科大学院の講義ではなかなか消化できないのではないか。しかし,それを教えなければならないことは事実であり,環境法という科目の教える側にとっての難しさが身にしみる。環境法という法分野として仕方のない面はあるが,もう少し分量をコンパクトにできればと思う。

・ 資料を用いて考えさせる点は,法曹育成の観点から評価したい。ただし,2時間という時間で答案作成をさせるには分量が多いと考えられる。

・ 法改正の背景を含めて問う良問と考えるが,難易度は高いと思われる。

・ 第1問:どちらかと言えば適切である。

  設問1:廃棄物処理法の1997年改正について,その内容の理解を問い,その限界を指摘させるものであるが,このように環境問題にかかわるある法制度ないし法政策について,その内容を与えられた法文と資料から正確に読み取り,その理解の上に経ってその限界および自治体がこれにどのように対応すべきかについて,受験者自身に考察,検討を求めるもので,新司法試験における環境法の問題として適切なものと考える。法科大学院においておこなわれている環境法の教育の内容にも沿ったものといえる。

  設問2:産業廃棄物処理施設の建設差止めを求める民事訴訟において,差止めの要件,その立証責任の問題を,差止めを求める住民の代理人の立場からどのように考えるべきかを問うもので,民事法分野における基本問題の理解を問うもので,適切なものと考える,この設問も法科大学院における環境法の教育の内容を反映している。

・ 行政分野,民事分野とも最近の裁判例を素材に基本的な問題についての理解を問うており,基本的な知識(判決の争点と結論)を知った上で判決では解決が与えられていない問題への応用力(環境法令と一般的な行政規範,民事規範の関係を整理し必要な法的手段を導く力,及び判決と事例の違いを見抜く洞察力)が受験生に求められていると思う。この問題に受験生がどれだけの解答を与えられるのか興味深いが,例年に比べて多少難しく感じた受験生もいたのではないかと想像する。

 d.どちらかといえば適切でない

・ 第2問:どちらかと言えば適切でない。

  設問1は,土壌汚染対策法の考え方の基本を問うもの,設問2はそこから生ずる汚染原因者の民事責任の内容を問うもので,土壌汚染対策法の問題としてはごく基本的なものであるが,市販され,かなり広く法科大学院の環境法科目の題材として採用されている書物(環境法ケースブック)に掲載されている問題に酷似しているところは,やや問題があるように思われる。同じ問題を扱うにしても,問題の設定の仕方にもう少し工夫がされてもよいのではないかと考える。

・ 実務経験が有利になり過ぎる。

3.試験全体についてのご意見,司法試験のあり方についてのご意見

新司法試験と法曹養成制度との関連

・ 司法改革後の法曹養成は,点としての法曹養成ではなく,線としての法曹養成であるはず。新司法試験の意義と内容についても,法科大学院-新司法試験-司法修習-新人法曹研修という線の中でこそ,位置づけられ,捉えられなければならない。しかし,この原点が見失われていないか。新司法試験の現状は,法科大学院も新人法曹研修も信頼しないためなのか,いたずらに自己完結的であろうとするものになっている。その結果,短答式試験が網羅的となってしまう。論点を本来しぼりこまざるをえない論文式試験も,可能な限り網羅的であろうとするために,現実離れした事例で出題するものとなってしまう。新司法試験の基本的なあり方が,反省される必要がある。

・ 司法制度改革の当初の理念に従えば,新司法試験は法科大学院の講義及び演習並びに実務教育等を通じて学んだ基本的な法律知識をもって十分に対応できる試験でなければならないと考えているので,この基本的な考え方にそって,今後とも,新司法試験の改善に努めるべきである。

・ 法科大学院修了を司法試験受験資格とするのであれば,司法試験内容は法科大学院の教育内容と相当程度重複すべきである。しかるに,各試験科目の法科大学院での教育時間数は非常に短く,現状では,講義で言及する内容をかなり超えて司法試験に出題されている。すなわち,講義では基礎力のみを養い,学生が大いに自習して試験に臨むという構図になっている。したがって,法科大学院修了の習熟レベルと司法試験合格の習熟レベルは全く異なる。管見では,このギャップを埋める方向で法科大学院のカリキュラムおよび司法試験・修習制度を再構築すべきである。一案として,法科大学院での学修を,試験科目となっている実定法学の基礎力涵養に特化して,基礎法教育は学部が担当(未修者は聴講),実務系科目・法曹倫理科目・応用展開科目の履修を司法試験合格後のリカレント教育(資格認証制度あるいは司法修習の部分委託)とする。法科大学院の組織と学費がスリム化しながら,現在の司法試験内容に対応する程度まで教育内容を充実化できるだろう。反対に,現在の法科大学院制度を前提とするのであれば,試験内容は現状よりもずっと基礎的な内容から出題されるべきである。法科大学院が司法試験に合わせることは不可能である(試験内容が高度かつ詳細すぎる)。司法試験が法科大学院に合わせなければならない。行政法であれば,90分講義30回で話せる内容から出題して頂きたい。その結果,法曹の質が問題になるのであれば,司法修習やその後の専門弁護士資格認証・更新制度の創設により対処すべきである。

・ 短答式及び論文式で出題されている範囲と,本法科大学院が3年間の課程で教えようとしている内容との間に大きな差はないとの意見が出され,法科大学院の教育目標と新司法試験問題が乖離していると状況にはないとの認識で一致した。

・ 試験全体をロースクール教育の充実に役立つという視点で,また,試験がロースクール教育の成果を検証できるものとするための努力を常に行うべきである。

・ 刑事系の短答で足切りされた受験生が突出して多かったが,この原因について分析する必要がある。論文試験については,法科大学院教育との連続性を意識して,たとえば基本科目のいずれかの科目で法曹倫理に関わる設問を設けるなどの工夫をして欲しい。

・ 特に論文問題について,事例の内容が細かく,受験者にとって負担になるものであることが気になる。実務家になって徐々に身につける能力と,司法試験の時点で身につけておくべき能力の整理が必要ではないか。

・ 法科大学院の「理念」に沿って教育を行い学生を支援しているつもりであるが,結局のところ新司法試験合格者の数・率のみで評価されるような現状があり,なかなか「落ち着いて」教育ができない状況が続いている。その意味でも,新司法試験の改善は不可欠である。

・ なお,本学の刑事法の教員から以下のようなコメントが寄せられているので,参考までに掲載する。

  法科大学院発足以来,刑事法分野を担当し,かつ院生との交流をしてきた体験から,以下意見を申し述べたい。新司法試験制度は,優れた実務法曹を多数輩出し,基本的人権を擁護する司法を確立し,かかる制度を主体的に担う人物か否かを試すことができる制度になっているか否かを検証の基準とすべきである。さらに詳論すると,司法試験で試される実務法曹の能力とは,次の3点であると思われる。①実務法曹は,日々未知の問題に遭遇する。そのとき,実務法曹は,事案における対立利益を剔抉し,法の基礎原理にかえって回答いたる(ママ)論理過程を構築する能力を問われる。②当該事案に適用すべき規範を法律家集団がほぼ同意する大規範に基づき,事案を帰趨する中小の規範を導き出す。③当該事案につき,①,②の思考により,導いた規範に基づき,価値的,規範的評価を加える。

  そして,次の能力については,裁判官,検察官の人々は,必ずしも無条件に,同意はしないかもしれないが,在野法曹であれば,ほぼ賛成されるであろう。④それは,既に確定した判例が存在する事案であっても,判例に基づく規範を当てはめたのでは妥当な解決を得ることができないということに遭遇することも,在野法曹にとっては,しかく稀ではないのである。そうすると,司法が前記のとおり,(国会における多数派ではない)少数者の人権を守るために機能するためには,既に確定した判例にも挑戦し,それを大胆に変えていく思考能力,すなわち現行秩序や現行規範への旺盛な批判精神を備えているかが問われるのである。

  2011年3月11日の大震災,原発災害は,そのような意味で,既往の司法秩序がこれでよかったのかを実務法曹に厳しく問う事態となっている。さて,上記①,②,③については,受験生への時間的な負担,体力的な負担が過重であるとの点について,多少の批判はあったものの,一応大過なく経過してきたことは,了としよう。(但し,一部ロースクールにあった,司法試験問題漏洩の総括は不十分であるが)しかしながら,④の批判精神の存否について,十分な検証を為し得たか否かという点については,疑問なしとしない。在野の若手法曹の一定数は,人権の擁護のために献身的な努力を続けており,深い敬意を持つものであるが,在野若手法曹の多数が,弁護士法にいう社会正義と人権擁護のために日々を捧げているのか否かについては,疑問を呈さざるを得ない。この点,旧司法試験時代の方が,割合的に多くの人々が上記の方向に進んでいったと思われる実感を在野法曹同士で語り合うことも少なくないのである。よって,然るべくこの点について,深い議論が行われることを期待するものである。

・ 「当初の約束通り,合格者数を3000人程度にするべきです。法科大学院できちんと学習していれば,司法試験の成績が1点でも高い者がより優秀な法律家になるとは限らないはずです。合格後は自由競争による淘汰に任せ,本当に優秀な者,適格な者が法律家として活躍すればよいのではないでしょうか。医師国家試験のように基準点以上の者は合格という制度が望ましいと思います。また,人命を預かる医師でさえも国による研修はないのですから,司法修習も裁判官・検察官のみ国が行い,弁護士については弁護士会が独自に実施すればよいと思います。法曹一元にして法律家はまず弁護士となって経験を積み,その後希望者が判事・検事に任官し,国が修習を行うことが一番望ましいと考えます。」

・ 法曹養成の新制度(法科大学院・新司法試験・1年間の司法修習)を鳴り物入りで始めたものの,既に欠陥が明らかになっている。根本から見直す作業をすべきではないか。

・ 完全に競争試験化。となれば,学生の心情として,効率的に合格ラインに到達することが何より重要と考えるのも無理はない。いきおい授業の場でも,試験にとって利となるのかどうかが学修の指針となる傾向が窺われ,発展的な課題や,社会に現実に生起している関連問題などには関心を示さず,また,模擬裁判などの実務系科目の修得にも及び腰である。かような傾向に至った原因は,当該法科大学院の個々の教員の力量にあるとの見方もできようが,実務家養成を旨とする法科大学院で真摯に学修しても(所定の学修成果を達した者が修了認定を受けるはず),合格者が相当程度絞られる新司法試験の突破に直ちに繋がるわけではない現実を目の当たりにしたとき,やはり学生の意識が試験を念頭に置いた,試験中心のものとなることは避けられないのではないか。果たして,司法制度改革の当初目指していた法曹養成の姿は,このようなものであったのか。完全未修者や社会人の参入は減ずる一方であり,国家百年の大計を見据えた法曹像と乖離しつつあるのが現状ではないか。本学は,離島での法律相談を柱とする特徴的な臨床法科目を展開しているが,新司法試験の結果には苦戦を強いられており,あるべき理想,理念と現実の狭間で葛藤している。

新司法試験制度の仕組み,短答式・論文式試験の在り方,試験科目数,試験の出題方式,出題数等の問題について

・ 短答式試験の科目を憲・民・刑の3科目に限定する方が良い。

 短答式試験の現状では,これに合格するための知識を覚えることに時間が費やされ,考える勉強に時間を注ぐことを妨げるものとなっていると思われる。

・ 短答式試験の科目の削減を行わない限り,ロースクール教育の中で考える習慣をじっくりと身につけるタイプの学生が有利とならず,このような本格的な学習を行う学生の減少は避けられないように思われる。

・ 短答式の質問に当たり,「正しい」「誤っている」の語が使用されており,枝葉末節を問うのでなければ,論理的にあるいは事実関係から判断できるときにはそれでよいが,判例や通説からの判断を受験生に求める際には「適当」「適当でない」などの語を用い,一般的解釈に従うべきことを示唆すべきである(もしくは,判断の基準・根拠を明らかにした形で,客観度の高い設問となることを心がけるべきである)。特に,各肢の正誤を判断した上で,全体として8択の解答を求めるときには,この方法は,勉強して考えた受験生ほど悩み,失点し易いという欠点を有しており(同様のことは,幾つかの肢を示して正当肢の数を解答させる設問でも言える),「適当」「適当でない」で判断せざるを得ない設問については,各肢毎の正誤の解答を求めるようにする(部分点あり)ことが望ましい(憲法教員A)。

・ 短答式試験を廃止ないし縮小する方向でご検討願いたい。存続するにしても論文式試験と間隔をあけて頂きたい。

・ 科目数が多すぎる。行政法を選択科目としてほしい。

・ 大大問の廃止は,従来の解答では会社法・民訴法につき,途中解答の答案が散見されることへの対策として,適切であったと思われる。

  また,単なる形式の変更にとどまらず,民訴法の問題について,従来よりも解答しやすいものへと傾向が変化しているように見受けられる。

  受験生の学習へのインセンティブを高める上で,好ましいことと考える。

  ただ,論文式試験は問題数が多すぎると考える。受験生にはじっくりと考える時間を与えてやってほしい。

・ 合格者三〇〇〇名とした基本的な方針を実現するために,試験のあり方を含めて必要な検討を進めるべきである。足きり的な短答試験は基本的に廃止する方向で検討すべきである。法科大学院の意義を根本から否定する予備試験は廃止すべきである。

・ 短答試験も論文試験も質量ともにハードになりすぎていないか。未修者が3年で,既修者が2年で到達できる程度の基礎的内容の試験にすべきである。

・ (1)すみやかに5年以内3回の回数制限を廃止すること。

  (2)短答式は憲・民・刑でよい。最低限,組織技術法であるとともに,多量の条文がある会社法ははずすべきである。

・ (環境法に関して)今年のように難易度および出題内容が適切なものにしていただき,問題傾向から環境法選択者数の減少が生じないよう配慮をお願いしたい。

・ (1)短答式・論文式共に制限時間に追われて速く解答できないと合格できない試験になっているのは残念である。時間を増やすことが困難であれば,問題を減らして受験生に考える時間を与える試験に変えられないだろうか。

  (2)法科大学院の予備校化を防ぐひとつの方法として試験内容を実務家に必要なものかという観点からではなく,学問としての法律学の観点も加味したらどうか。例えば,各科目の基本原理や一般原則,あるいは歴史的観点あるいは外国法の基礎知識(もちろん各科目との関連で)を採り入れた短答式問題が出題できないだろうか。論文式は,具体的な問題処理能力を問う問題にならざるを得ないと思うが,短答式は必ずしも論文式問題と同じである必要はない。

・ 敢えて,刑法の論述問題に関していえば,毎回基本的には同じ出題形式であるが,結構長文の事実経過の記述の内から刑法上の争点を発見させ,妥当と思われる刑法的解釈論を事実を摘示して思考させる,いわば裁判官的視点からの事実認定と法解釈適用を試みさせるものである。そろそろ視点を変えて,弁護側あるいは検察側の視点からも立論できる作問を試みても面白いではないかと思う。一考されることをお願いしたい。

・ 短答試験はやや細かすぎる問題が出されているのではないかという意見がだされ,また論文試験は問題量に比し試験時間が短すぎるということではほぼ意見が一致した(但し,試験時間を延長すべきか,問題量を減らすべきかについては,意見が出されなかった)。

  試験時間を各問毎に分けたことの是非については特に意見は出されなかった。

  また,短答式刑事訴訟法問題で指摘されているように,個数を問う問題は適切ではないという意見が,他科目担当の教員からも出された。

  刑事訴訟法の出題ミス及び東京池袋会場での終了時間に関する不手際につき,新司法試験の信頼を損なうことになるので,十分に注意すべきであるとの意見が多くの教員から出された。

  その他,ある教員から,個人的意見として,次の意見がFD会議で出された。

  受験生の負担減を図るべきである。例えば,商法と行政法は選択科目にしても良いのではないか。他方,法科大学院には,実務教育の前倒し的教育も期待されていることを踏まえれば,理論的な問題とともに,より実務に即した内容の問題を,各科目の試験に含めることも検討の余地があろう。

・ (商法) 論文式の出題が会社法からであることから考えると,短答式の配点38点中会社法以外の配点が8点というのは低すぎる。特に,非会社法分野で,第53問のように前提知識を要求しない出題がなされ,学習による得点が最大6点にとどまるのであれば,手形法・小切手法,総則・商行為法の学習意欲が低下し,法曹として要求される知識を修得しない受験生が増加する可能性が懸念される。会社法の出題は適切であるが,非会社法の配点・出題傾向には再考の余地があると考える。

・ 商法では,去年の短答式が去年,重要と思われない条文の知識を問う問題が散見され,受験生を戸惑わせていたが,今年はそういうこともなく,短答式として相当な難度に収まっていて基本的理解を問う問題としてふさわしい問題が多かった。論文式については,判例がなく,学説上,議論があるところの問題があって,議論の分かれ目を理解しているかどうかを問う中で,応用力を問うという意味で,従来と異なる傾向が見られた。また,受験生があまり関心を持っていなかった,計算に関する資料が出ていたのは,実務上重要なこの部分を受験生に注意を向けさせる効果を与えたという意味で意義があった。

・ 論文式試験が科目ごとに分かれた点は,各試験科目において時間内に論理的思考と事案処理能力を問う適切な質・量を兼ね備えた出題へのパイロットケースかと思われたが,実際には,これまで以上に答案として本来論述すべき点が逆に増えた科目もあり,しっかりと考えて論理を重ねるというよりも,反射運動的な対応をせざるを得ないものであったことは,結局,法科大学院教育に何を求めているのかと訝らざるを得ない。

 特に実務的な内容をある意味常識として問うのであれば,法科大学院教育に明確なメッセージを示す必要があると思われる。

 新司法試験が「事案を考え論理を重ねて論述する」内容でなければ,法科大学院でどれほど注意深く読み状況を創造(想像?)しながら考えることを言い続けても,受講生は暗記中心の表層的な勉強に精を出し,教える側と学ぶ側との乖離が大きくなるだけである。

・ 法曹に相応しい人材を求めるという趣旨からいえば,設問はなるべく短くして内容的に考えさせる問題が望ましい。

  商法は,圧倒的に会社法を重視しているが,保険法のように企業や市民社会に直結する法分野も試験範囲にとり入れるべきではないか。中国や韓国などと比べても日本の司法試験の範囲は狭すぎるように思う。

  本年度は特にそういったことはなかったと思われるが,出題委員の狭い専門領域(あるいは外国判例や外国の学説)から論文式の出題が立て続けになされたと思われる例が,これまで,一部科目にあった。出題委員名は公開されているのであるから,そのことから設問が推知されるような事態は避けるべきであり,また,このような設問は難問奇問となり易いため,これを回避する内部ルールの作成を求めたい(憲法教員A)。

・ 「….することができるか」という問いかけでは,受験生に対して,原被告双方の立場からの仮想的な議論を示したうえで受験生なりの結論を示せ,という意図が伝わりづらい。また,そのような議論を示さない模範解答が出回る原因ともなる。出題の言葉遣いについては,なお一層の注意深さと工夫を要する。

・ 民事系の試験時間が4時間から2時間の分割になった点は,受験生の負担の軽減という点で評価できる。

・ 民事訴訟法については,記憶や知識の量をはかるのではなく,受験生の法的思考力をはかることを主眼としており,適切な問題だった。分量も適切であったが,これに比して民法は,設問に答えるために読む問題文が長文であり,登場人物も多いため,これを読み,時系列や関係図をつくるだけで,小一時間を要することになり,解答にさく時間が十分とれないもので,受験生の力をはかるには不適切であったと考える(文章を早く読めない者や,遅筆者には特に不利である)。

 今後は,受験者がゆっくり考えて解答できる程度の分量の問題を作成する工夫をすべきである。

・ 民商の問題を分離したことには賛成する。

・ 今年から民事論文問題から,いわゆる大々問がなくなったが,実体法と手続法の融合問題は,理論と実務の架橋の具体的ともいえるものであり,残念である。

・ 民事法については,融合問題を復活させるべき。

・ 論文式試験と短答式試験の実施順を入れ替えたことについては,特筆すべき問題点もメリットも明らかではないが,論文式問題への十分な回答能力を備えないことの少なくない未修者が初期段階で意欲喪失を生じ,短答式問題の回答においても実力を発揮できないことになる危険性はあるであろう。

・ 短答式試験の設問のうち,六法全書を見れば容易に解答できるものであって,通常,講義で重点を置かない事項に関するものはあまり適当でないのではないか。

 六法を見せないのであれば,基本的なもの,重要なものに限定すべきではないか。

・ 受験回数の5年で3回を5回にしてほしい。受け控えして勉強するのは,受験生にとって大きな精神的負担で,しかも,勉強の効率が良くない。受験すれば,何かを考える。そのためには,短答式の足きりを増やすことを考慮しても良いと考える。その方が,合格者の水準は向上することは間違いないと予測している。

・ (1)短答式について

 短答式試験の1問あたりの平均解答時間が2分というのは,公平性の観点から,できるだけ広範囲の知識(とその理解)を試そうとする趣旨であろうが,短時間にあまりに多くの知識を問うことは,法科大学院教育の成果を計る試験としては不適切ではなかろうか。

 そもそも,そのような短時間で解答できなければ法律実務家として出発するに十分な知識(とその理解)がないと判断できるだけの実証的根拠はなく,1問あたり2分というのは,旧司法試験以来の慣行にすぎないのではないか? 今年度程度の難易度で試験時間をより長くとることができるなら,それが理想であろうが,それが無理なら,短答式では,むしろ何が何でも記憶していなければならない知識,丸暗記してでも覚えておくべき基礎中の基礎知識に限定し(さらにいえば,そのような知識が何であるか事前に公開しておき),1問ごとの正誤問題として出題するほうが(ただし,その代わりに,合格点は80%程度と高くする)適切だと考える。

 なお,民法の問題からみる限り,今年度の短答式問題は易化していると感じたが,いわゆる脚切り点は215点と低かった。このことは,民法以外の科目の難易度が高すぎたことによるものと考えられるが,前述のとおり,短答式の難易度は,今年度の民法のそれこそが適切と考える。したがって,他の科目もこれに倣うべきである。また,そのことは,各科目間で難易度の調整がされていないことを意味するが,今後,同様の問題を生じないよう,各科目間で難易度の調整をはかるよう求めるべきである。

  (2)論文式について

 本アンケートだけではなく,論文式試験については,例年,おおむね適切との評価が多かったように思われる。しかしながら,問題それ自体は適切だとしても,法科大学院生が試験科目だけでも8科目を3年間で学習しなければならないこと,問題文の長さや論ずるべきことの多さからみて試験時間が短すぎることなどを考え合わせると,法曹養成プロセスの一環としての試験という観点からは,むしろ不適切だったと言うべきである。

 また,これまで論文式では,融合問題も可能な大大問形式ではあったものの,結局は,各科目ごとに2時間程度で大問2問程度という旧司法試験以来の枠組みは基本的には変更されていなかった。今年度から科目別に2時間の試験となったことにより,その点が一層明確になったように思われる。とりわけ今年度は,転用物訴権,土地工作物責任,素因競合といった法科大学院全体のカリキュラムからすれば必ずしも基本とは言えない論点がまとめて出題されており,長文の事実関係を読ませるという点で新司法試験風の装いは施されているものの,その実態は論点主義的な旧司法試験そのものであるように見える。そこには,法律実務家にとって必要不可欠な,本質的な要素は何か,という視点が欠けている。

  (3)司法試験のあり方について

「すべての学生がマスターすべき真に本質的な知識,原則・法理は,一般に考えられているよりも遥に限られたもの」(柳田幸男/ダニエル・H・フット『ハーバード卓越の秘密』(有斐閣)87頁)であって,そのことは,日米の法体系の違いにも拘わらず変わりはないと考える。新司法試験は,あまりに多くのことを求めすぎているのである。直ちに叡智を結集して,法律家にとって本質的な知識,原理・法理が何であるか,を突き止め,それさえマスターしていれば合格できる試験とするべきである。

・ 民事系科目の論文式試験において,民法,商法,民事訴訟法の三問がはっきり分けて出題されたことは,新司法試験の理念に反するものと思う。いわゆる融合問題によって,受験者の総合的な問題分析能力を考査するという姿勢が貫かれるべきである。

・ 本来の民事系の融合問題はどのように考えているのかが,不明であり,これでは,旧司法試験に類似しているのではとの感想をもった。法科大学院の存在と,教育内容について,再検討を迫っているのであろうか。

・ 試験問題の水準は大体良いと思うが,予備試験の問題と短答式試験問題とに重複があり,好ましくないと思う。2年ないし3年のロースクール教育を受けた受験者向けの問題ではなかったのか?

・ 短答式の設問内容は細かい知識を問うものが少なくない。

  法科大学院の授業の「理念と現実」に照らして改善すべき点が少なくないと感じます。

  基本的知識の理解の的確さ,あるいは法的思考力を問う設問がもっと多くてもよいのではないでしょうか。

・ 基本的は条文・制度および判例の知識をもとに,それを的確に運用できれば合格することができるような試験であってほしい。

・ 民事系論文試験の変更については,科目ごとに問題が分けられており適切であると思われる。

・ 「選択問題」を廃止すべきである。規模の小さな法科大学院にとっては,選択問題に対応する科目の開講に縛られ,独自の科目開講が困難になっている。当初,「どこを切っても金太郎飴ではなく,特色を出してください」と言われていたが,多くの選択科目の存在によってそれが困難になっている。

・ 本年の問題のように,客観的な能力を問う試験として,出題趣旨が明確な問題が出題されることを期待しております。

・ 1)短答式試験について(民法のみ)

  共通到達目標(コア・カリキュラム)との関連性が明確でないように思う。

  それはそれでかまわないとも思うが,受験生に対して事前に指針を示しておくと良い(関連性について)と思う。

  その点を除いて良問が多かったと高く評価します。

  2)論文式について(民法)

  全体的に良問だと思います。出題者の新しい意気込みと工夫を感じます。数年間は今年度の傾向とレベルを維持してほしいと思います。

  ただし,解答時間との関係でいえば,いくらかの論点が多く,流れの良い説得力ある答案をじっくりと書き切れなかった受験生が多かったのではないでしょうか。もっともこの点は,論文式試験に弱い法科大学院の”ひがみ”かもしれませんが,一言意見として届けます。

・受験生の力を試す「良問」の作成に日々ご苦労されていらっしゃることと思い,心から感謝申し上げます。試験のスケジュールは非常に過酷だという感想を受験した修了生から聞いております。今回,短答式試験が最後になりましたが,精神的にも肉体的にも疲労困憊したところで,一定の注意力を要する三科目の短答式試験に取り組む場合には,問いの形式は2~3種類程度で固定した方がよいのではと思いました。(憲法担当)

・ 刑事系に限って言えば,本年の出題はほぼ適切であった。この傾向を今後も維持していただきたい。

・ 新司法試験の内容が,旧司法試験と同様に短答試験と論文試験で構成されていることが,法科大学院を司法試験の予備校化としている最大の原因だと思われる。また,現在,文科省や大学基準協会が法科大学院の入学試験の倍率や合格率を問題としているが,そうであるならば,法科大学院が司法試験の予備校としての性格を持っていることをはっきりと認めるべきである。合格率等を問題としながら,授業で答案練習を行うことを認めないのは,自己矛盾ではないか。

・ 短答試験の長文化,論文試験の難問化・奇問化が懸念される。

  短答試験で長文の問題が多くなり,試験時間の不足傾向が強まっているが,それに対応するため,受験生は,短答向けの特別な訓練に多くの時間を割いている。大量の知識を丸暗記し,短時間で問題を処理する練習を繰り返すような勉強を強いられているが,それによって良質の法曹が育つとは思えない。

  また,論文試験では,受験生を面食らわせようとして作問されているかのような出題も見受けられるが,もっと素直な出題を心がけていただきたい。

・ 短答式試験で,刑事系の点数が特別に低かったことは,問題である。尋ねている知識が細か過ぎたり,問題文が不必要に複雑になっているのではないか,見直しが必要であると思う。

・ 記憶量を競わせる試験にならないように,短答式の問題文に条文を引用する問いをもっと積極的に増やすべきである。

・ 「論文式刑事訴訟法の問題で登場人物の単純な符号の取り違えと思われる出題ミスが発生したが,能力のある受験生ほど,実際に逮捕した警察官が「別人」であったことを発見して,それに関する処理に時間を費やした可能性が高いことから,この点に言及した受験生に対しては,その後の叙述に対する評価に一定の配慮がなされるよう望む。また,明らかにアルファベットを取り違えただけの単純ミスであることが明白であるにもかかわらず,それを明確に認めない表現で措置を表明したことは遺憾であり,率直・誠実な情報開示がなされるよう切望する。」

・ 例年よりも,基本的な問題が多く,良問と思いました。

・ 試験問題・時間配分等について以前よりも改善していると言え,現行制度を評価したい。短答式問題が受験生に負担ではないかと思う。

合否基準の設定(決定),合格者数について

・ 刑事系に関しては,事例の読解力,分析力,論理的思考力を問う試験となっているとは思うが,やはり,法学既修者に有利な試験であることに変わりない。

  その意味で,旧司法試験時代の(学生が試験対策に没頭し,視野が狭くなるという)弊害を払しょくしきれず,多様な背景や素養を持つ魅力ある法曹を要請するという司法制度改革と法科大学院制度創設の趣旨を生かし切れていないように思われる。

  また,合格者の質が落ちてきているという声や,それを反映した合格率の低下も本制度の失敗を予想させ,教育する側としても理想と現実の板挟みに苦しむこととなる。

  解決のための名案を見出すことは容易ではないが,制度が変わった(または変わるべきである?)にもかかわらず,試験の形式および試験を行う側の意識(合格者選択の基準)が旧司法試験時代からさほど変わらないことが,混乱の一因でもあるように感じている。

 なお,本意見は,あくまで一教員の個人的意見である。

・ 採点基準はある程度公表されるべきであり,また,基準自体のありかたとしても,きわめて起案能力の高い限られた一部の答案を頂点とする点数分布とするのでなく,現実の合格圏内の平均的な受験生が書く一応の論点にそれなりの配点がなされるべきである。

・ 採点実感等のみならず,出題が明確な法曹養成教育に対するメッセージとなることを認識のうえ,しっかりと問題事例の具体的事実を詰め,興味本位と感じさせることのない出題を求めたい。

・ 論文式試験(選択科目を除く)を2時間を単位とする形での出題に変更した点については,事前に指摘されていた危惧が実際に生じるか否か,なお観察を要しよう。受験生の負担軽減につながることは確かであると同時に,各科目の担当者からして,出題の内容は適切又はどちらかといえば適切であるとする意見が主流であったことに鑑みれば,改善と呼び得るであろうか。

  各科目の出題の内容については,適切又はどちらかといえば適切であるとする意見が主流であるのは例年と同様の傾向であるが,その判断をするのと同じ主体が修了させて良いと考える法律学的能力を持った者の75%近くが不合格と成ることに鑑みれば,全体としては,配点基準・採点方針等においても改善の大きな必要性があるのではないであろうか。

  監督者のミスにより試験時間が僅かに短くなった試験室の受験生のみに対する加点は,処理方法として,その合理性に些か疑問を覚える。

・ 予備試験も含め,基本的に今年度のような性格の出題が継続されていくのであれば,試験委員の側も法科大学院側も,それに対応した合格者数の拡充(さらには,それに見合うだけの法科大学院数の維持)に向けて,法務省や文科省に継続的に働きかけていく必要があるように思われます(出題レベルが次第に緩和されているのに受験者の受け皿が減る一方では意味がないように思われるので)。

・ 論文式試験全科目につき採点基準を可能な範囲で公開することは,出題・採点側に課されるべき基本的な社会的責務である。法科大学院における授業時間が限定されているため,各法分野の広範な領域のうちどこにポイントを置いて勉強すべきか,ということが法科大学院生すなわち将来の新司法試験受験生の最大の関心事にならざるを得ない状況下,採点基準を隠すことにより,逆に考査委員を(より多く)かかえる法科大学院(における考査委員担当科目)に学生が集中し,その学生が有利であると見られること(実際に有利であるということではなく,そう見られること)は,試験の公正性およびそれに対する国民(特に受験生)の信頼(特に後者)に対し致命的である。同様の(試験が公正であると見られることを重視する)観点から,ある法科大学院教員が連続して何年も同じ科目の試験の考査委員を務めるのは決して望ましいことではない(多選制限すべきである)。「正義は,実際に行われるのみならず,行われていると見られることが重要である」という,かつてのイギリスの名裁判官デニング卿の言葉を想起すべきである。

・ 法科大学院の授業と新司法試験を連関させるためにも,もっと詳細な採点のポイントや基準を公表すべきである。また,予備校等が行っているような「再現答案」ではなく,実際の「上位答案」を5~10通,匿名で公表するなどして,実際の採点結果がどうなっているかについてもっと明示すべきである。「採点実感」では不十分である。

 さらに,新司法試験の内容が適切かどうかについて,以前から指摘されているように,現場に出てから一定年数(例えば5年と10年)の裁判官,検事,弁護士(弁護士だけでも良い)をモニターとして受験させ,受験生と同様に採点するなど,試験の質やレベル等をモニタリングすべきである。

・ 合格者数をもう少し増やす必要がある。弁護士会の受け入れ能力などいろいろ問題はあるが,そうでないと,厳しい受験回数制限もあるため,有為な人材を司法部に吸収することが難しくなる(現にそのような傾向はかなり顕著である)。発足当初の理想実現に向けて,精一杯の努力を期待した。

・ 合格者を絞るための試験ではなく,法曹としての資格・能力を判定する試験となることを希望します。

・ 各法科大学院における教育指導の改善・見直しに役立てるため,新司法試験受験者の氏名や短答式試験の個人別成績の出身法科大学院への通知,論文式試験の採点基準の公表をお願いしたい。

新司法試験のレベルと受験者との関係

・ 「試験問題は全般的にいえば,出題形式もレベルも適切であると思われる。しかし,当法科大学院の修了生のなかには少なからぬ割合で,この問題に歯が立たないレベル者がいる(そのうちの大部分はいわゆる「受け控え」をしている)。より成果をあげられるような教育をする努力を続けたい。」

試験日程等運営について

・ 短答式を最終日にすると,受験生にとっては,身体的・精神的(特に後者)の負担が大きいようです。初日にもってくるか,論文式試験との間を一日空ける等,日程に御配慮いただければと思います。

・ 短答式試験が最終日になったことについては,従来どおり,第1日目に実施すべきであるという意見が数名から出された。

・ 実施日程については再検討すべきである。1日目の公法・選択科目と,2日目の民事法は,受験生の負担が大きく,1日目を短答式,2日目を公法・選択科目として,3日目を中休みとし,4日目を民事法,5日目を刑事法とすべきである。なお,予備試験との関係で,短答式を最終日にしたということであれば,本末転倒である。

・ 予備試験受験者への試験実施日配慮は相当であるとしても,法科大学院修了者の受験する新司法試験の受験環境にも十分配慮すべきであって,予備試験受験者への試験実施日配慮ゆえに,法科大学院修了者の受験する新司法試験の受験環境が損なわれるようなことがあってはならない。

・ 試験の日程として,今年度から短答式を最終日に行ったが,短答式試験では,集中力を持続させたまま,効率的に事務処理を行う,思考の切替を行う必要があり,かつ,試験時間自体が長時間となっていることから,最終日実施という設定が適切かについては,検証の必要があると思われる。一概には言えないが,今年度の短答式試験の最終科目である刑事系の試験において,平均点が下がり,いわゆる足切りラインに到達しなかった者の人数が昨年までと比べて大きく増えている点(H20:25人,H21:287人,H22:370人,H23:702人)は,最終日の最終科目ということと全く無関係とは言えないと思われる。

・ 短答式試験を最終日にもってくることは,受験生の負担を考えた場合,妥当とは思われない。短答式試験は足切りにのみ使用し,合格判定は論述式のみ(または口述式を組み合わせて)行うべきである。合格者数を,当初の約束どおり増加させるべきである。

・ 試験日程,試験時間ともに過密スケジュールであり,体力が合格の重要な要素になっていることは否定できない。長期履修課程の修了生のなかには50歳代の学生もいるから,これらの学生に配慮する試験日程―たとえば,短答試験と論文試験の試験日を分離する―を設定することはできないのであろうか。

・ 短答式試験の日程について,論文式試験に引き続いて実施する形になっているが,短答式試験の形式は受験生を非常に消耗させるため,検討の余地もあるように思われる(短答式試験の前日1日を休みにするなど)。

・短答式試験を最終日に行った点については,受験生の負担・疲労度を考えると,検討の余地があるのではないか。

・ 受験特別措置(肢体障害)に基づき受験した者の要望について付記する。

  当該受験生は,パソコン及びプリンターを試験場に持参して受験することを求められるが,プリンターについては大きいものだけに,持ち運びに困難を伴うこと。

  1)できれば,プリンターについては司法試験委員会で用意していただけないか。

  2)仮に要望に沿えない場合には,パソコン及びプリンターについては,新司法試験六法の保管場所に保管させていただけないか。

・ 教員の個別意見として,次のようなものがあった。

  修了後の準備期間を確保できるように,試験の実施時期を6月~7月に遅らせる。

・ 短答式試験の実施日について

  短答式試験は,第一日目に実施した方が良いのではないか。というのは,最終日に実施すると,体力や集中力の面から,マーク式でのケアレスミスが多くなるように思われ,この点,受験生に一定の配慮をしても良いと考えられるからである。

・ 短答式試験の実施日程について

  1)短答式試験の合否が論文式試験の採点の前提となるという短答式試験の位置づけ,

  2)短答式試験で基本的知識の有無を問い,論文式試験で基本的知識の具体的事案に即した運用能力を問うという試験の役割分担に鑑みると,受験生が疲労困憊した最終日に短答式試験を行うことは妥当とは言いがたいように思われる。このような状況で受験生の実力を適切にはかれるのか,疑問がある。日曜日実施が望まれる司法試験予備試験・短答式試験との問題共通化という事情があるにしても,司法試験の実施日程をずらし,日曜日から木曜日の4日間(+中日1日)ではダメなのか。

・ 試験時間の分割については,適切であろう。

・ 短答試験を最終日にするのは,適切でない。本末を転倒した発想で,速やかに改善すべきである。

  男女の体力差を考えると,この日程は,体の良い女性差別といわれても弁解できないのではないか。今回のような最終日の短答式試験では,女性については,実力と得点とが比例していない結果をもたらしているのではないかというおおいなる危惧を抱いている。

  初年度の女子合格率が小さいのは,初年度既修者の構成比によるところが大きいと思われ,その後はほぼ一定している。その中での今年の1%以上の現象は有意差であるだろう。また,日程の過酷さが短答の最終科目である今年の刑事法の結果に出たのは顕著で,公法,民事法と比較して突出して多い刑事法の足きりは体力的な問題が大きいと思われ,体力的にハンディのある者が不公平に取り扱われるという感は免れません。体力のあることはどの仕事にも必要な要素だが,能力の判定すべき試験で,体力差で勝負がつく事態はできるだけ避けるべきで,新司法試験の日程はもともと過酷なので,その前提のもとでは,こうした点に配慮すべきであろう。

予備試験と新司法試験について

・ 教員の個別意見として,次のようなものがあった。

  法科大学院制度を本則とし,予備試験はきわめて例外的な制度であることを明らかにするため,予備試験の合格者数を制限する(例えば50名以内)

各試験科目の試験問題に関する意見

・ 試験問題は法科大学院終了後の実務(修習)において必要かつ適切な内容であるか

  <行政法> 行政法の出題は,行政法総論および救済法からの出題となっており,現実の紛争解決に要する法解釈能力を養う上で,有益であったと考えている。

  <民法・短答式> 修習に臨む者に必要な最低限の前提知識を問うという意味では必要と考えられる。

  <民法・論文式> 適切と考える。

  <商法・短答式> 必要でも適切でもない。些末なことを聞きすぎである。

  <商法・論文式> 必要かつ適切である。

  <刑法・短答式> 必ずしも全ての問題が実務に直接必要な内容であるとは思われないが,図られる能力に鑑みると試験問題として不適切であるとも思われない。

  <刑法・論文式> 必要かつ適切な内容であると考える。

  <刑事訴訟法> おおむね,必要かつ適切であると考えられる。ただし,例えば,短答式第36問は設問の趣旨は了解可能であるし,また,扱われている論点に関してまったく知識を有していなくても,刑事訴訟法の体系的思考が身についていればその場で考えて解答することは可能だといえる。試験である以上,受験者の間で差が生じる出題は不可避であり,そのような観点からの設問であればあえて異を唱えるものではないが,法科大学院における学習の成果を確かめ,また,実務修習に必要な内容かといわれれば,若干疑問を覚える。要は,新司法試験にどこまで選別の機能を期待するのか,という点に懸かるものであろう。このことは,論文式試験についても同様であり,時間内で,要求されている解答をすべて論じきることができるかと問われれば疑問なしとしない。しかし,書ききれなくてもよいという前提で出題され,そのようなものとして採点されるのであれば,試験のひとつのあり方としては必ずしも不当とはいえないだろう。

  <知的財産法> 必要最低限の知識を問うものにはなっていると推察される。

  <国際関係法(公法系)> 実際に起きている問題に対処するのに必要な知識を要求しており,この問題に対応できれば,実務で事例を考えることができることから,適切な内容と判断できる

  <国際関係法(私法系)> 実務においては必要かつ適切な内容であると考える。

  <環境法> 必要かつ適切である。

・ その他の意見

  <憲法> 小問1の題意が著しく不明瞭である点を指摘したい。訴訟形式を問うているようないないような曖昧な設問は,そもそも避けるべきである。仮に,訴訟形式を問う問題であったとしたら,設問で示されている事実関係では答えようがない。そのような状況下で,もし受験生が訴訟形式の選択論をまじめに解答しようとした場合,多様な仮説的状況を設定して答えざるを得ないだろう。しかも,それを反論を想定した上で,小問2に反映させるとしたら,いかなる答案構成になるのだろうか。あるいは,単に「取消訴訟を提起する」と選択結果だけを示せばいいのだろうか。だとすると,この設問は憲法問題としてどれほどの意味を持つのだろうか。上記の点に関し,その題意と採点の際の比重等を,今後の所見講評の際,明確にしていただきたい。

  <知的財産法> 第一回以来,研究者出題委員の交代が見られないため,問題がマンネリに陥っている感を否めない。これは受験した学生の多くの感想であった。

  <労働法> 「解雇の効力について」または「拘束するか否かについて」など論ずべき事項を直截に示した設問形式の他に,「いかなる法的手段をとりうるかにつき問題となる点を論じなさい」といった,より実務的に請求の定立段階からの検討を求める設問形式も考慮してよいのではないか。

  <倒産法> 倒産法の問題は年々難しくなっているという印象を受けておりましたが,今年度の問題は,基本に戻るものといえ,歓迎しております。

  <国際関係法(公法系)> 出題範囲が国際法(国際公法)とされたことは受験生の負担を考えると適切であると思われる。

・ 【刑事系 刑事訴訟法を回答した教員より】

 短答式・論文式ともよく検討され,単なる知識を問うものではなく,応用力等を問おうとするものとして工夫された概ねよい問題だと思います。内容については,実務(修習)において必要な基本的な知識,応用力等を見る問題として,必要であり,かつ概ね適切なものであると思います。試験実施日程・試験時間の分割,本年度の変更点については,特に問題はないのではないかと思いますが,受験者の対応がどうであったのか,若干気になります。

  【知的財産法を回答した教員より】

設問数が多いために時間配分が難しいかもしれない。法科大学院終了後の実務修習においても有益な内容であると思う。

  【労働法を回答した教員より】

第1問については,採点基準をどのように設けているのかが気になった。労契法16条における解雇を正当化する「客観的に合理的かつ社会通念上相当な理由」,労契法15条にいう懲戒解雇を正当化する事由および労契法17条1項の「やむを得ない事由」の異同を検討させるのは有用であるが,労契法17条1項については裁判例の蓄積がない上,労契法16条についても,整理解雇ではない普通解雇については,わが国では明確な類型化はなされていないので,客観的な採点基準を定めるのは困難ではないのだろうか。この問題を読んで,ドイツ法における「個人的理由による解雇(実際に争われる事例は,疾病を理由とする解雇)」,「行動を理由とする解雇」および即時解雇を正当化する「やむを得ない事由」のいずれかに該当するのか考えさせたいのかと思ったが,わが国では,ドイツのような細かい解雇理由の類型化と各々の場合における解雇を正当化する要件が確立されているわけではないので,受験生に考えさせるのは良い勉強になるとは思ったが,試験問題としてはあまり適切ではないように感じた。

・ 以下はいずれも,本法科大学院の組織としての意見ではなく,教員個人(各1人)の意見である。

  ①法科大学院の教員が試験委員になると,必然的に利益相反関係が生じ大いに問題があると考える。どうしても試験委員になりたい者は一度,法科大学院を退職してから就任すべきであろう。司法試験が実務家登用試験であることに鑑みると,〔米国のように〕実務家のみで問題作成を行うべきではないか。

  ②選別するためには多くの問題の出来不出来を見た方が合理的な選別ができると思うが,考える問題として受験生の思考力を重視した採点を行うとすれば,時間が足りない,答案を書ききれないとの感想を持った。

・ 労働法について一点,全体について二点指摘したい。

 まず労働法については,三時間で解くべき内容としては例年量が多すぎ,今年も昨年よりは改善されたものの,特に第二問は煩雑で,受験生を無為に時間不足に追い込むような弊害が払しょくされていない。

  全体については,特に民訴と刑訴に顕著であるが,受験生ファミリアーな視点が希薄である。異常に情報量が多く,問題も大量で,問題分の作り方も懲りすぎという印象が強かった。この点は会社法や行政法でも同様である。また,問いのあり方も,これまで指摘されてきたようなあいまいさや不適切さが改善されていない。たとえば,行政法設問2の(2)で「丁寧に検討しなさい」とあるのは,「きちんと述べなさい」,「入念に記しなさい」などと同様で,受験生に混乱を招くだけの無意味な表現である。「丁寧に」「きちんと」「入念に」などまったく主観的な評価的修辞句を加えることは端的に禁ずるべきであろう。(労働法担当)

・ 選択科目については,現下に課題になっているトピックを取り上げて,出題しており,実務的にも対応が課題になったところを出題していることは,研究と実務とが交錯する領域を深める点で望ましいと考える。今後も継続的にこのような視点での出題を望むところである。(環境法担当)

・ 憲法に関しては,近年,学生向けの雑誌連載等で高度な議論が提示されるものの,近年の議論水準を反映した教科書・体系書類は少ない。しかし,司法試験の出題はむしろ前者の水準を念頭に置いているようにも見える。例えば,適用審査と法令審査の具体的なあり方についてまとまって説明した教科書等はほとんどないが,昨年度の「採点雑感」ではこの点に関して不十分な答案が多いとの指摘をしており,逆にいえば出題の狙いとしてはこの点が十分に論じられることを期待しているともいえる。その他,採点雑感では,「この点が不十分であった」という指摘ばかりが目立つ(ただし,あくまで主観的な「雑感」なので,一定水準に達している答案が割合としては多いということかもしれないが)。

こうした中,学生が十分に咀嚼できないまま,憲法がいわば「捨て科目」化しているという声も一部で聞こえる。「基本的事項を正確に理解し,これを基に,具体的問題に即して思考する能力,応用力を試す」(昨年度「出題の趣旨の補足」)という一般的な目的にはもとより異論はない。しかし,仮に,具体的な出題の水準と受験者の実力との乖離があり,採点者の主観からすれば不十分な答案であっても合格点には達するということがあるのだとすれば,上記目的に即した深い理解を試みるよりは受験テクニックでお茶を濁した方が合理的だというメッセージを送ることにもなるように思われる。

・ 全体として,実務をつつがなく行うことのできる最低レベルを問う問題であり,実務を見据えた広く浅い知識と迅速な処理能力が重視されている。現在の受験生のレベルから引き続く司法修習を行うための最低限の要求レベルとしてこのような問題が出されること自体については理解できるが,初学者にこのような試験を突破できるための力をつけさせるための教育を法科大学院で行うとすれば,法科大学院教育がかなり偏ったものになりかねない。

  【公法系・民事系・刑事系について】

  基礎的な事柄を応用しなければならない良問が出題され,異なる当事者の視点に立って事案処理をさせるという傾向は,続いており,その意味では,受験生の予想に反することはなく,よい傾向が続いている。問いの数は時間との関係で再考の必要がある。

  【その他】

  これは例年同じ傾向だが,特許法,著作権法のいずれも問題文が短く簡潔であり,全てが必須事実であることが分かりやすい問題で,論点への焦点が当て易いのではないかと思う。これは問題がやさしいという意味ではないが,事例の分析力よりも,答案の表現力に重点を置いていると思われる。出題委員の先生方にはご負担になるかと思うが,基本科目のように問題文を長文にして,混沌とした事実関係(多くのダミーデータが含まれている)の中から関連する事実を抽出できる実務能力を問うような出題にするというのも検討に値するかもしれない。もっとも,選択科目の勉強に割ける時間を考えると,現実には,今のような問題でもやむを得ないのかもしれない。

  司法試験では細かい知識よりも,複雑な事実関係を整理し法的に解決する能力こそが試されるべきだと考えるので,今年の労働法の問題のような方向で試験問題が作られることが望ましい。

  他の法分野の知識を活用するような問題を,判例を基に出題すると良いようにも思う。

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