「法科大学院(法曹養成制度)の評価に関する研究会報告書」について

2011年1月24日
法科大学院協会

 貴省に設置された「法科大学院(法曹養成制度)の評価に関する研究会」が、今般取りまとめられた「法科大学院(法曹養成制度)の評価に関する研究会報告書」(以下「報告書」という)について、法科大学院教育を担う立場から、法科大学院協会として、以下のような意見を述べる。貴省における今後の検討の参考としていただければ幸いである。

1.「行政機関が行う政策の評価に関する法律」第12条第1項に基づく政策評価の実施について
報告書が指摘しているように、現在、平成22年頃には司法試験合格者数を年間3000人程度とすることを目指すとした閣議決定は未達成であるなど、法曹養成制度の現状について問題点が現れていることは否定できない。したがって、法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策を総合的に推進する見地から、評価・検討が適切な形で行われるべきことに異存はない。
しかし、既に、法務省及び文部科学省における「法曹養成制度に関する検討ワーキングチーム」が、法曹養成制度の現状に関する分析を行い、その問題点・論点及び改善策の選択肢に関する検討結果を取りまとめ、具体的な検討をさらに進めるために新たな検討体制(フォーラム)の設置を提言しているところである。
また、「裁判所法の一部を改正する法律」(平成22年法律第64号)の議決に際して、衆議院法務委員会は、「政府及び最高裁判所は,裁判所法の一部を改正する法律の施行に当たり,次の事項について格段の配慮をすべきである」という決議を行い、「法曹の養成に関する制度の在り方全体について速やかに検討を加え,その結果に基づいて順次必要な措置を講ずること」を掲げている。
こうした状況を踏まえれば、今後、速やかに、法曹養成制度の在り方について検討を行うための適切な場が、政府において設置されると予想されるところである。したがって、貴省において法曹養成制度に関する政策評価の実施を検討されるに際しては、政府における法曹養成制度の在り方に関する調査・検討が重複したり、また相互に矛盾するような事態が生じることのないように、十分に配慮されることを希望する。

2.評価の対象とする政策
現在の法曹養成制度は、法科大学院教育、新司法試験及び司法修習が有機的に連携するように設計されたものであり、その問題点・論点は相互に密接な関連性を有しているうえ,裁判所・裁判官や弁護士を含む法曹全体の在り方と緊密な結びつきを有するものである。例えば、法曹人口や法曹の役割の拡大に関する論点についても、裁判所あるいは裁判官の在り方・役割の問題と切り離して検討できるものではない。
この点に関連して、報告書が、貴省の政策評価の対象とする政策を、関係機関が実施している法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策のうち、法務省及び文部科学省の所掌に係る政策に限定していることは、貴省の所掌事務に鑑みれば理解できないわけではない。しかし、そのような制約の下で、上記のような拡がりと相互関連性を持つ法曹養成制度に関する問題点の改善方策を十分に調査・検討ができるのか、疑問を抱かざるを得ない。

3.評価の基本的な設問について
報告書別紙2には、評価の基本的な設問として、「新司法試験合格者3千人目標未達成による支障と、当該目標の現時点での継続の必要性はあるか」、及び「今後、法曹人口の在り方を見直す際に、どのような事項を検討すべきか」が掲げられている。
しかし、法曹人口の拡大及び新たな法曹養成制度の改革については、法務省及び文部科学省だけでなく、裁判所や弁護士会等法曹界全体に関わる問題であること、司法制度改革全体の基盤をなす重要な問題であること、利用者である国民の視点に立った抜本的な検討が必要であること等から、平成11年に司法制度改革審議会が内閣に設置され、国会の同意を得て任命された13名の委員が2年間にわたって行った審議の結果に基づいて、内閣総理大臣を本部長とする司法制度改革推進本部が、関連法案の立案など、具体化を進めたものである。このような経緯を踏まえれば、司法試験の合格者数に関して行われた上述の閣議決定の意義は、非常に重いものといわざるを得ない。
それゆえ、関連する施策の現状を検証し、閣議決定により示された目標が実現されていない原因を分析するとともに、その実現に向けた改善方策を調査・検討することについては、重要な意義が認められるものの、報告書において、貴省の政策評価を通じて、かかる目標の見直しが行われるかのような設問が掲げられていることについては、疑問を呈さざるを得ない。政策評価の実施に際しては、法科大学院教育と司法試験の連携や法曹の職域拡大の検証など,法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策の総合的な推進を図るという評価の目的に照らして適切な基本的な設問の設定を求める。

4.評価の具体的手法について
報告書別紙2には、データの把握・分析の方法等として、法科大学院を実地調査し、厳格な成績評価の実施や修了認定、及び教員体制の充実等、法科大学院の取組状況と認識を把握し、横並び比較を行うことなどが掲げられている。
しかし、こうした点について、各法科大学院は、既に、認証評価機関による認証評価・適格認定を受けるとともに、文部科学省、中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会による調査に対して、必要な報告を行っているところである。本来、貴省が行う政策評価の対象となるのは、法務省及び文部科学省の行う施策であって、各法科大学院の教育の在り方自体が評価の直接の対象となるものではないはずであるから、その境界を踏み越えることのないようくれぐれも留意していただきたい。
また、法務省及び文部科学省の行う施策を評価する前提として、法科大学院における教育に関する情報の収集が必要となるとしても、こうした調査は、憲法の保障する学問の自由・大学の自治に抵触することのないように、調査事項・手続等、慎重な配慮に基づいて行われなければならないものである。したがって、貴省の政策評価において、法科大学院の教育に関する実地調査が行われる場合には、この点について、十分な配慮がなされることを求める。
また、近年、大学は様々な調査・評価の対象とされており、その事務的負担は過重な状態にある。それゆえ、調査に重複が生じることのないように、認証評価機関による認証評価・適格認定や文部科学省、中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会の調査等により明らかにされている事項については、それに依るほか、実地調査の対象範囲や調査事項について、政策評価に必要な範囲に適切に限定されることを希望する。

5.その他
なお、報告書中に、以下のような誤解を招く恐れのある表現がなされているので、検討されたい。
○報告書17頁における多様な人材の受け入れに関する記載
報告書では、法科大学院入学者に占める「非法学部出身者」及び「社会人出身者」の占める割合をそれぞれ示し、いずれも3割の目標を下回っているとの叙述がなされているが、平成15年文部科学省告示第15号第3条は、法科大学院入学者に占める「非法学部出身者と社会人出身者」の合計数の割合が3割以上となるよう努めることを求めるものである。

○報告書21頁におけるモデルカリキュラムに関する記載
報告書には、法科大学院協会がモデルカリキュラムを作成しようとしているとの叙述がなされている。ここにいう「モデルカリキュラム」が何を指すのか判然としないが、中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会が、その報告書において言及した「共通的到達目標」については、法科大学院協会が直接策定した事実はなく、文部科学省大学改革推進等補助金専門職大学院等における高度専門職業人養成教育推進プログラムの支援を受けて、法科大学院コアカリキュラム調査研究グループが検討・作成したものである。

○報告書21頁における認証評価基準に関する記載
報告書には、「法科大学院では三分の一以上新司法試験の必須科目を教えてはいけないとされている」との叙述がなされているが、この叙述では、新司法試験の必須科目にあたる法律基本科目の授業が三分の一を超えてはならないかのように読め、誤解を招く恐れがある。

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