平成25年度教員研修の報告
平成25年11月2日
教員研修等検討委員会
【はじめに】
法科大学院協会教員研修等検討委員会は、平成25年度教員研修を、民事系教員研修については平成25年8月22日、刑事系教員研修については同年9月10日に、いずれも司法研修所において実施した。各研修においては、66期A班の集合修習を見学した上で、法科大学院教員と司法研修所教官との意見交換会を行った。
教員研修は参加人数の定員が限られていることから、より広く法科大学院教員に研修内容を伝達するために、以下、意見交換会の内容を中心に、教員研修の概要を報告する。
なお、参考までに、報告の末尾に本年度教員研修の案内文を掲げた。
(1) 民事系教員研修には、各法科大学院から13名、法科大学院協会から3名(記録係1名を含む。)、合計16名が参加した。
研修は13時20分から開始し、見学する集合修習の概要に関して所付から事前説明があった後、13時40分から16時35分まで集合修習を見学し、その後16時50分から18時30分まで意見交換会を実施した。
見学をした集合修習は、「民事共通演習2」というカリキュラムであり、修習生が、裁判官役、原告訴訟代理人役、被告訴訟代理人役等に分かれ、弁論準備手続期日における争点整理手続を実演し、それについて教官が講評を行うという内容であった。
(2) 刑事系教員研修には、各法科大学院から12名、法科大学院協会から2名(記録係1名を含む。)、合計14名が参加した。
研修は13時20分から開始し、見学する集合修習の概要に関して所付から事前説明があった後、13時40分から16時35分まで集合修習を見学し、その後16時50分から18時30分まで意見交換会を実施した。
見学をした集合修習は、「刑事共通演習2」というカリキュラムであり、修習生が、裁判官役、検察官役、弁護人役の3班に分かれ、事前に配布された事件記録を基に、公判前整理手続に備えた争点の絞り方・求釈明すべき点等を、話し合い、それについて教官が適宜助言し、講評を行うという内容であった。
2 民事系教員研修における意見交換会の概要
(1) 意見交換会には、各法科大学院から教員13名、法科大学院協会から委員2名及び記録係1名、司法研修所から民事裁判教官3名及び民事弁護教官3名が参加した(そのほか、民事裁判上席教官、民事裁判次席教官、事務局所付、民事弁護所付の計4名もオブザーバーとして参加した。)。
冒頭、法科大学院協会の山田八千子委員(中央大学)が挨拶をし、参加者全員が自己紹介をした。その後、同委員の司会で、「法科大学院における民事法教育のあり方―民事法理論教育と実務教育との関連性を中心に―」というテーマで、意見交換を行った。
(2) 全体的な意見交換に先立って、法科大学院教員2名(研究者教員2名)及び民事裁判教官1名から、それぞれ5分程度の報告が行われた。
まず、法科大学院の研究者教員から、「法律基本科目(民法)における理論教育と実務教育との関連性」に関し、共通的到達目標モデル(第二次修正案)を受けて当該法科大学院内で作成されたオリジナル「到達目標(民法)」が紹介された。到達目標については広範囲にわたるため、1年次の授業で網羅できない部分については、自学自習を指示した上で2年次に補充することが説明された。また、民事実務基礎科目について、要件事実の理論面が必須科目で扱われる一方、模擬裁判やローヤリングのような応用的な実務教育は選択科目で扱われていることが紹介された。
続けて、民事訴訟法科目を担当する研究者教員からは、実務家としての経験もふまえ、法科大学院においては、基礎知識の修得に重点を置き、司法修習の土台をつくるという観点から授業を行っていることが紹介され、法科大学院教育と司法修習との住み分けを意識する必要性について指摘がなされた。さらに、事実認定教育に関しては、理論としての「事実認定論」というより、事実認定のやり方について実務に携わる中で先輩から後輩に伝えられていくものであるという所見が述べられた。
最後に、民事裁判教官から、法科大学院教員の報告を踏まえ、法科大学院教育と司法修習との有機的関連とは、法科大学院で司法修習の内容を先取りして教えることではなく、法科大学院で実体法・手続法の基礎知識を教え、司法修習においてはこれらの基礎知識の応用、使い方を教えることであるということが確認された。そして、要件事実に関する基本的な考え方については、要件事実があくまでも民事実体法の解釈を踏まえて考えられるべきものであり、そこで規定された法律要件や法律効果を離れて要件事実を論じることには意味がないという点が強調され、法科大学院において、どのような要件があれば請求権が成立するのか等の民法の基礎知識を修得していることが重要であると述べられた。また、事実認定については、生きた事件と対峙する中でなければ修得が難しいので、法科大学院教育においては、事実認定を検討する前提となる基礎的な事項を理解させることに主眼を置くべきだ、との指摘がなされた。
(3) 以上の報告を受けて、法科大学院教員と司法研修所教官との間で、幅広い事項にわたり活発な意見交換が行われた。
まず、法科大学院実務家教員から、司法研修所教官に対し、法科大学院の学生が要件事実に関する基本的な考え方を修得するために理解しておくべき文献についての質問がなされた。この質問に対して、民事裁判教官から、民法の基本的な理論を要件事実で表現する教材(たとえば『新問題研究 要件事実』)は、法科大学院の段階で理解しておいてもらうことが望ましいと応答された。加えて、同教官から、要件事実に関する基本的な考え方を修得するためには、民法の基礎知識を要件事実の視点で整理できるようになることが重要であるにもかかわらず、一部には、むしろ要件事実論のいわばパズル的な要素を好む学生もみられるという実情が紹介され、注意が喚起された。この点に関連して、民事弁護教官からは、民法の典型契約のイメージが頭に入っていないと、要件・効果が事件にもたらす実践的なメリットだけで契約類型を選択してしまうおそれがあるので、まずは法科大学院教育の中で典型契約を正確に学修し、イメージを含めて理解することが重要である、という指摘がされた。
また、民事訴訟法を専攻する研究者教員から、司法研修所における集合修習のカリキュラム見学を通して、法科大学院においても要件事実の基本的な考え方を踏まえて民事訴訟法の授業を行うことが重要だと認識するようになったし、さらに、研究者教員は事実が確定されていることを前提にして法解釈をおこなうのが一般的であると思われるが、争点整理手続を見学して、事実認定次第で事案が変更することを実感した、との感想が述べられた。
続いて、商法を専攻する研究者教員から、法科大学院の商法・会社法の授業において、条文を引用することを強調していることや、ある法律行為の法的性格をどのように把握すべきかを問いかけて考えさせる等の方法で、要件事実の基本的な考え方を修得させることを意識して指導している、という紹介がなされた。これに関連して、司法研修所教官から、司法研修所のカリキュラムにおいても、商行為の要件事実が扱われることがあることが紹介された。
さらに、家族法を専攻する研究者教員から、家族法の条文は財産法に比べて白地的規定が多く、要件事実を理解するには、条文のみならずとりわけ判例の正確な把握が必要であるにもかかわらず、学生は判例の事案と問題の事案との相違点に反応できないことが多い、という実情が紹介された。
最後に、行政法を専攻する研究者教員から、司法修習における公法科目や行政事件に関わる実務教育の位置付けについて質問がなされた。実務修習において公法実務教育がおこなわれていることが紹介され、加えて、司法研修所の民事弁護教官から、行政訴訟の実務の基礎としての民事訴訟の基本的知識については、司法修習で扱われていることが指摘された。また、これに関連して、法科大学院の研究者教員から、法科大学院において行政法を要件事実論的な観点から教えている教員もいる、という紹介もなされた。
(1) 争点整理の演習(刑事共通演習の一部)の授業見学終了後、法科大学院の刑事系科目担当教員と司法研修所教官による意見交換会が行われた。法科大学院からは教員12名と法科大学院協会の委員1名、記録係1名が参加し、司法研修所からは刑事裁判教官・検察教官・刑事弁護教官各2名が参加し、刑事裁判上席教官、検察所付・刑事弁護所付・事務局所付各1名が立ち会った。
冒頭、法科大学院協会主任の清水真委員(明治大学)が挨拶をし、参加者全員の自己紹介の後、同委員の司会のもと、①「実務教育を見据えた刑事実体法の理論教育について」②「法科大学院における公判前整理手続の授業について」の二点のテーマについて、以下のとおり意見交換が行われた。
(2) テーマ①:実務教育を見据えた刑事実体法の理論教育について
(ア)最初に司法研修所教官から報告がなされた。報告の概要は以下のとおり。
法律概念に関する基本的な理解を前提として、法律概念に該当する事実の有無を判断するに当たって重要な事実は何かということを考えることが実務教育においては特に重要であり、司法研修所でもその点に重点を置いて教育を行っている。
殺意の認定を例に挙げると、「犯罪事実の表象」や「結果発生の認容」の有無を判断するに当たって意味のある事実、重要となる事実は何かを見極めることが重要である。この点、「犯罪事実の表象」や「結果発生の認容」といった言葉はほとんどの修習生が記憶しているが、「意図・意欲の有無が問題となる場合」と「認識・認容の有無のみが問題となる未必的な場合」とで重要な事実が異なるということが理解できていない修習生も多いので、それぞれの場合にどのような事実が重要なのかを理解させるよう常に注意しながら教育を行っている。事案に即して証拠に基づき重要な事実を認定することは司法研修所で指導すべきものではあるが、法科大学院においても、法律概念に該当する事実の判断に当たって重要な事実とはどのような事実なのかを意識させるような指導をしていただきたい。
(イ)次に、法科大学院実務家教員から、以下のとおり報告があった。
法科大学院において、理論と実務の架橋をどのようにすれば実現できるのか、何が望まれているのかを意識して教育を行うことは重要である。しかし、あまり実務を強調しすぎると、理論面を十分理解しないままになってしまうおそれがある。まずは理論を理解することが重要であり、そのうえで実際に困難な状況を与えて実務的にどのように対処するかを学ばせる必要があると考えている。実務的な教育を行う中で、その都度、常に理論に立ち返るように指導し、常に理論と実務を往復する習慣をつけることが重要である。
(ウ)意見交換
司法研修所側から、証拠を評価し事実を認定することは法科大学院において教育しなければならないことではないであろうし、実際困難を伴うであろうが、事案に即してどのような事実が重要となるのかという視点を法科大学院生に持ってもらうことは有意義であると考える。そのような意味で、法科大学院において事実認定の重要性について触れていただきたい、ということが述べられた。
法科大学院教員からは、法科大学院は、実務そのものを教える場ではなく、理論の教育を目指すところであるから、法科大学院においは実務を意識しつつ理論教育を重点的に行うべきではないかとの意見があった。
(3)テーマ②:法科大学院における公判前整理手続の授業について
(ア)最初に司法研修所教官から報告がなされた。報告の概要は以下のとおり。
公判前整理手続はその重要性を増しているところ、今まで以上に修習において力を入れているところであり、修習生に対してその重要性と内容を十分に説く必要がある。公判前整理手続は非公開であるがゆえに、法科大学院生にはそのイメージ作りが困難であるし、法科大学院において、公判前整理手続に多くの時間を割くのは困難であることは承知しているが、公判前整理手続の主な目的は、裁判員に対して明確に争点を提示することと、審理計画を策定することにあり、その重要性と目的を十分意識させていただきたいと考えている。
(イ)次に、法科大学院実務家教員から報告がなされた。報告の概要は以下のとおり。
勤務校においては、最終学年に模擬裁判の授業を置き、その中で公判前整理手続も一通り行っている。履修者はそれほど多くはないが、一定の教育効果は感じており、模擬裁判の終結間近で公判前整理手続の重要性を痛感し理解することもあるようである。一方で、大学院生だけでは議論が紛糾することも多く、どうしても教員がつきっきりにならざるを得ないことから教員の負担が過大になってしまう。
(ウ)意見交換
司法研修所側からは、公判前整理手続の重要性が増してきていることに鑑み、法科大学院教育においても、公判前整理手続の概要や目的など基本的な知識だけでなく、公判前整理手続の重要性を意識させていただくよう教育指導されることを希望する。
法科大学院教員から、実務基礎科目の中で、公判前整理手続の内容や重要性を抽象論ではあるが教授している例が紹介された。また、模擬裁判の授業の中で公判前整理手続を行うのは時間的に難しく、授業外の自習などを要求せざるを得ず、そこに時間を取られることは試験の合格に重点を置かなければならない学生にとって非常に大きな負担となるのではないかという意見が出された。
平成25年6月10日
法科大学院 関係者各位
教員研修のご案内
法科大学院協会
教員研修等検討委員会
主任 片 山 直 也
法科大学院協会では、昨年度に引き続き、新司法修習における集合修習の授業見学及び司法研修所との意見交換を内容とする教員研修を実施します。
現在、第66期司法修習生は、各地の配属庁における分野別実務修習を受けていますが、東京、大阪及びこれらの周辺の修習地で修習を受けている修習生(A班)は、分野別実務修習終了後に、司法研修所において集合修習を受けることとなっています。集合修習は、実務修習を補完し、司法修習生全員に対して、実務の標準的な知識及び技法の教育を受ける機会を与えるとともに、体系的且つ汎用性のある実務知識及び技法を修得させることを目的として実施されていますが、この集合修習の模様を法科大学院の教員が実地に見学し、新司法修習の指導内容等に関する正確な情報を得ることは、極めて意義のあることと考えます。さらに、この機会に、司法修習との有機的な連携を踏まえた法科大学院教育のあり方等に関して、司法研修所教官と法科大学院教員との意見交換の場を設けたいと思います。法科大学院は、プロセスとしての新たな法曹養成の中核を担うべき機関として、将来の法曹にとって必要な実務上の学識及びその応用能力並びに実務の基礎的素養を涵養するため、理論的かつ実践的な教育を行うこととされていますが、今回の意見交換会では、そのような観点から、司法研修所教官との率直な意見交換を行い、その結果を法科大学院に広く還元し、今後の教育に役立てていきたいと考えております。
以上、司法研修所のご協力を得て、下記の要領で平成25年度の教員研修を実施しますので、会員校の皆様には、奮ってご参加下さいますようご案内申し上げます。
記
1 | 月日: | 民事系教員研修 平成25年8月22日(木) | |
刑事系教員研修 平成25年9月10日(火) | |||
2 | 場所: | 司法研修所 | |
〒351-0194 埼玉県和光市南2丁目3-8 | |||
3 | 日程(予定): | ||
集合:13:15 | |||
民事系教員研修:司法研修所東館3階第2研究室 | |||
民事系教員研修:司法研修所東館3階第2研究室 | |||
① 事前説明 13:20~13:35 | |||
② 演習及び講評見学 13:40~16:35 | |||
③ 意見交換 16:50~18:30 | |||
4 | 見学内容(予定) | ||
(1) 民事系教員研修:「民事共通演習2」 修習生を裁判官役、原告訴訟代理人役、被告訴訟代理人役等に分け、弁論準備手続期日における争点整理手続を実演させる。修習生には、主張を整理した上で、主要事実レベルでの争点、重要な間接事実レベルでの争点、それらを立証する人証を明確にすることを求めており、争点整理の結果に基づいて争点の確認をするなどさせる。その後、教官から、争点整理の解説を行う。 |
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(2) 刑事系教員研修:「刑事共通演習1」 修習生を裁判官役、検察官役、弁護人役等に分け、公判前整理手続期日における争点及び証拠の整理を実演させる。その後、教官から、争点及び証拠の整理の講評を行う。 |
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5 | 意見交換会 | ||
司法修習との有機的な連携を踏まえた法科大学院教育のあり方等に関して議論すべきテーマを設け、参加者の報告又はコメントをいただき、その上で参加者全員による忌憚のない意見交換を行いたいと考えています。 なお、参考までにご紹介しますと、昨年度は、民事系では「法科大学院における要件事実教育・事実認定教育」、刑事系では「司法研修所との役割分担、架橋を意識した刑事実体法教育・手続法教育」について意見交換を実施しました。 |
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6 | 参加人数及び研修結果の還元 | ||
司法研修所の教室のスペース及び実質的な意見交換を実施する趣旨等から、参加人数は民事系・刑事系とも各15名程度とします。応募人数がこれを上回る場合には、抽選により決定しますが、その際には、1法科大学院当たり1名を原則とするとともに、可能な限り広く、全国各地の法科大学院の教員の参加を募るという観点を加え、教員研修等検討委員会の責任において、参加者を決定させていただくことを予めお断り申し上げます。 以上のように研修会の規模には限界がありますが、研修会の模様や意見交換会の内容に関する情報については、法科大学院協会ホームページ等で各法科大学院に向けてご報告する予定です。 |
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7 | 申し込み先: | 法科大学院協会事務局 | |
〒101-8301 | |||
千代田区神田駿河台1-1 明治大学研究棟4階 | |||
電話: 080-3345-3079 | |||
申込方法: | メールでお申し込み下さい。 | ||
メール・アドレス: jls@meiji.ac.jp | |||
記載内容: | ① 件名を「研修参加申込み」としてください。 | ||
② 参加申込者の氏名、所属大学院名、希望日、担当科目、研究者教員・実務家教員の別、過去の参加歴を明記してください。 | |||
③ 意見交換会で取り上げるべきテーマを挙げてください。 | |||
④ 申込者の連絡先(電話・メールアドレス)を明記してください。なお、メール申し込みを受け付けますと必ず受領の返信が届くはずですが、万一返信がない場合には事務局にお問い合わせ下さい。 | |||
8 | 申込締切: | 平成25年7月5日(金) | |
9 | 参加案内: | 参加のご案内は平成25年7月12日(金)頃を予定しています。ご希望に添えなかった場合もご連絡いたします。 |