コロナ禍で苦しむ労働者に法律家として寄り添う
弁護士 中村優介
中村優介 弁護士
1986年福岡県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒,東京大学法科大学院卒。
東京弁護士会所属。日本労働弁護団常任幹事及び同事務局次長。日本弁護士連合会人権擁護委員会特別委嘱(外国人労働者受入れ問題PT)。国際自動車事件,1型糖尿病障害年金弁護団,技能実習生除染被ばく労働事件等を担当。
Q 弁護士になろうと思ったきっかけや動機について教えてください。
A 実は、もともと研究職をしたいなぁと思っていたのですが、学部時代のゼミの先輩から、法学系の研究職をしたいならまずは法科大学院で勉強すべき、と言われたことが、法科大学院に入学しようと思ったきっかけでした。
弁護士もいいかもしれないと思ったのは、司法修習のときです。弁護修習の指導担当の先生が、生活保護引き下げ裁判や、障害者の権利擁護の活動など、広く社会保障関係のことに携わっており、自分も同じように、弁護士の仕事を通じて社会の役に立てればと思いました。
Q 現在、新型コロナ禍の中で、弁護士として特に力を入れている活動はありますか。
A 社会保障関係の仕事がしたいと思っていましたが、現在取り扱う事件の半分以上が労働事件です。任意団体で会員が全国に1700名ほどいる「日本労働弁護団」(労弁)で常任幹事と事務局次長をしており、個別事件の解決に加えて、立法提言、裁判例検討、学習会や集会の開催など、「労働」に関して幅広く活動をしています。ちなみにこの団体には、弁護士1年目に担当していた事件の関係で、労働事件に関する勉強をしたいと思って入りました。
新型コロナ関連では、弁護団で「新型コロナウイルス感染症に関する労働問題Q&A」を作成し、ホームページ上で公開したところ多数の方に参照して頂いています。新型コロナが流行を始めた2020年3月頃からは、労働事件に関する取材を受けることが増え、講演の依頼も受けました。労弁が週に4回実施している電話相談には、毎回多くの労働相談が寄せられており、私も月に2回ほど担当しています。12月29日、同月30日、1月2日の年末年始には、弁護団の有志で、都内の公園で「年越し支援・コロナ被害相談村」を開催し、新型コロナの影響によって職を失ってしまった人や、さらには住む場所まで失ってしまった人向けに、相談会を実施しました。
これと並行して、これも任意団体である「ブラック企業被害対策弁護団」では、「新春・オンラインできいてみよう!労働・生活のお悩み」と題して、LINEを使ったオンライン相談会も実施しました。LINE相談会は、直接会場に来ることができなかったり、また、電話で話すことに抵抗がある方に、新しく相談の窓口を設けることができたのではないかと思っていて、今後もやり方を考えてやっていきたいと思っています。
Q 仕事をする中で、法科大学院で学んだことが生きていると感じることはありますか。
A 法科大学院では、基本科目の履修のほか、多数の基礎法や発展科目を履修または聴講しました。基礎法科目では、比較法や多数の外国法科目、法社会学、発展科目では、金融商品取引法や信託法、地方自治法や立法学を受講しました。基礎法は、仕事をする上ですぐに役立つものではないですが、そもそも実務に出て勉強する機会はほとんどないですし、加えて視野を広げ、またより深く考えるための礎を、学ぶことができたのではないかと思います。発展科目は、興味があるというよりも、なんでも聞いてみよう、と思って履修したもので、今の自分の仕事に直結しているものはありませんが、「そういう世界もあるのか」と実務の一端を垣間見ることができたと思います。このようなことは、法科大学院での授業を通じて初めてできたことだったかな、と思います。
Q 今後はどんな弁護士を目指していきたいですか
A 労働問題に深く関わるようになりましたが、基本的には一般民事を取り扱っています。いまできる仕事を精いっぱいこなしながらも、労働問題に関する自分の理論水準を高めていきたいと思っています。
また、労弁での活動を通じて、多くの労働組合の方々ともつながりができました。働く人が安心して働くことができるように、労働組合の方々がする運動の役立つ議論や活動をしていきたいと思っています。
Q 学部時代・法科大学院時代を通じてどのような学生生活を過ごしたか
A 学部時代にはサークル活動に打ち込んでいました。もっとも、社会問題に関心がありましたので、日々、ニュースを見聞きしたり、本を読んだりして、多くの情報に接するようにもしていました。
他方で、学部・大学院時代を通じて、多くの科目を履修・聴講しました。これは、せっかく学生の身分でいろいろな話を聞くことができるのだから、「食わず嫌い」をなくそうと思っていたからです。ひとつの科目を深堀りするということはあまりできませんでしたが、学生の頃に多くの法分野に接し、先生方の話を聞くことができたのは、当時しかできなかったことかなと思っています。たとえば、学部時代には経済法や法医学を受講していました。今の仕事には全く関係しないだろうなと思っていたのですが、独禁法は、最近、フリーランスと独禁法がホットな話題になってきていますし、法医学は、修習中には解剖に立ち会ったりと、どこかでなにかが繋がってくるものだなぁと思うことがしばしばあります(内容はほとんど覚えておらず、単語を聞くと、「あぁ、そんなこと聞いたなぁ」と思う程度ですが)。
他方で、(これは反省でもありますが)一つのことに対してゆっくり、じっくりと考える時間を十分にとることができなかったのは失敗だったかな、とも思います。
法曹を目指そうとする方へのメッセージ
私は自分が法曹になることに対する具体的なイメージがなかったので、司法試験の勉強もあまり手がつかず、また司法試験に合格した後も就職活動がうまくいかず、いろいろと悩んでしまいました。
これから法曹資格の取得を目指そうとする方は、自分がどのような法曹になりたいか、自分がしっくりくるイメージをつかんでおくといいのではないかと思います。そのためには、実際に法曹資格者として仕事をしている方のお話をたくさん見聞きするのがいいと思います。法曹資格者には、裁判官、検察官、弁護士に限らず、いまは、それら以外の仕事をしている方がいます。ぜひ、自分がしっくりくる仕事を、漠然とでいいですから、早めにイメージしてみてください。
また、勉強にするに当たっても、漫然と基本書や裁判例を読むのではなく、その事件の当事者や関係者が執筆した書籍を読んでみたりすると、事件の裏側がわかって面白さが出てくると思います。これは学部時代のことですが、私はもともとマスメディアに興味があったので、取材源の秘匿と民事裁判の関係(最三小決平成18年10月3日民集60巻8号2647頁)について調べていたことがありました。文献を調べていくうちに、当該事件の代理人が執筆した書籍を発見し、それを読む中で、抽象的に理解したつもりになっていた取材源の秘匿の重要性を、肌身に感じたことを覚えています(最近になって、その代理人が私の高校の先輩であることがわかりました。いつかどこかでお会いしたいなぁと思っています)。息抜き的に、そのようなことをしてみるのもいいのではないでしょうか。