入学定員削減問題に関する所感

2009.3.24
法科大学院協会理事長

法科大学院制度発足から満5年になろうとしていますが、近時、法科大学院制度に対して様々な逆風が吹いています。

法科大学院協会としては、法曹養成問題に関する弁護士会の見解や一部政治家の意見に対して、これまで声明やシンポジウムの形で反論すべき点は反論するとともに、全国の会員校に対しても、それぞれの法科大学院が改善すべき点を改善してほしい旨を発信し続けて参りました。本年1月8日に全会員校に対して教育の質の改善に関するアンケート調査を実施し、その結果を2月2日にフィードバックし、引き続いて3月5日にフォローアップ調査をお願いしたのもその一環です。

入学定員削減問題についていえば、現在、法科大学院の設置認可者としての文部科学省の強力な指導により、国立大学法科大学院を中心にほぼ2割の定員削減が推し進められています。その背景には、①「平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3,000人程度とすることを目指す」との閣議決定(2002年3月)に対して日弁連等の反対が強いこと、②2008年の新司法試験の結果は、合格率33%(受験者数6,261名、合格者数2,065名)であったこと、③2008年度の法科大学院の入学定員は、総計5,795名であること、等の事情があります。

これに対して、法科大学院協会は、法科大学院間の協力の促進とその教育水準の向上をはかる見地(規約3条)から、「初めに一定数の削減ありき」ではなく、各法科大学院が自主的に教育の質を向上することこそが重要で、その一環として定員削減問題を検討すべきである、という考えです。ここで教育の質とは、各法科大学院が、入学した学生に対して、その相当部分が法科大学院の教育課程を経ることによって司法試験に合格しうるか、または法務博士の資格において社会の各般で活躍しうる程度の学力をつけさせているか、遡っていえば、入口の段階でそのような見極めのついた学生を厳選して入学させているか、という問題です。

いうまでもなく、入学定員削減は、各法科大学院の財政や教員数に直結する、「痛み」を伴う問題です。しかし、そのような目先の問題に拘泥して、法科大学院制度の原点(法科大学院教育連携法2条1号)――適確な入学者選抜に基づいて、少人数による密度の濃い授業、厳格な成績評価・修了認定によって将来の法曹を養成すること――を忘れることがあるとすれば、法科大学院に託された社会の負託を裏切ることになります。また、学生が司法試験に合格しまたは社会で応分に活躍するというアウトプットを十分に出せないままに、ただ教員数が確保されていることだけを理由にそれに見合う学生数を入学させようという法科大学院がもしあるとすれば、それは、学生に対する背信であり、上述した教育の質の点に照らし、法科大学院の原点を忘れたものというほかありません。もとより、各法科大学院における教育の質の向上に向けた努力の意味は、その置かれた状況によって異なり、ある法科大学院にとっては、より一層の質の向上という課題として現れ、ある法科大学院にとっては、教育体制等の根本的な見直しの必要として現れるかもしれません。いずれにせよ、教育の質の向上は、現在、すべての法科大学院の喫緊の課題であることは疑いがありません。

法科大学院協会会員各校におかれては、引続き、法科大学院制度の原点に立ち返って、教育の質の改善に真摯に取組み、定員削減問題についても痛みを共有しつつ、平成22年度入試、遅くても平成23年度入試に向けて早急に検討のうえ、結論を出してほしいと願う次第であります。

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