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市民は弁護士を必要としている
明石市での弁護士職員の積極活用

弁護士 泉 房穂

泉房穂 明石市長・弁護士・社会福祉士
1963年生まれ。東京大学(教育学部)卒業。NHKディレクターなどを経て、弁護士(兵庫県弁護士会所属)。衆議院議員時代(2003年~5年)は、犯罪被害者基本法や総合法律支援法などを担当。

はじめに

 明石市では、平成24年度、5名の弁護士を市の任期付専門職員として採用しました。その後も新たに弁護士職員の採用を進め、平成27年1月時点で合計7名の弁護士職員が在籍しています。また、弁護士以外にも、司法書士、臨床心理士、社会福祉士などの専門職も在籍しています。

弁護士職員採用の背景

 明石市がこのように弁護士をはじめとする専門職の積極活用を進めているのは、地方行政の質的改革と市民サービス拡充のためです。
 地方分権化が進む中で、地方自治体は自己責任を伴う自己決定を日々迫られ、その中で専門的知識や主体的判断能力が必要不可欠となってきています。専門的知識を有する職員がこれまで以上に求められているのです。さらに現在は、いじめ・児童虐待など行政の関与が求められる社会問題が複雑化・深刻化してきており、的確に対応するためにも様々な専門的知識が必要になってきています。
 明石市では、多くの自治体と同様に職員の削減や予算の縮小などの行財政改革を進めているところですが、これら消極的な施策にとどまらず、専門職を積極的に活用することで、真の行政需要にこたえるための地方行政の質的改革を実行しているのです。

弁護士職員の業務

 各弁護士職員は、政策部市民相談室、総務部総務課、福祉部福祉総務課、財務部債権管理課、こども未来部児童福祉課、教育委員会事務局総務課に配属されています。

[1]市民向け法律相談
 弁護士職員は、市内各地にある市の施設で法律相談を実施し、法律相談サービスの充実を図っています(出張相談)。さらに、外出困難な市民のためには、自宅や病院の枕元を訪問して法律相談を受けることもあります(訪問相談)。
 市民向けの相談では、福祉等の各分野と連携することにより、相談内容の充実化をも図っています。法律相談で、いじめ対策、虐待防止、成年後見等の分野に関する相談で法的なアドバイス以外の支援が必要な場合、弁護士職員は、関連部署の一般職員はもとより、社会福祉士や臨床心理士の資格を有する専門職と連携して、総合的な支援を実施しています。
 特に、訪問相談では、弁護士職員が社会福祉士や臨床心理士の資格を有する専門職とチームを組んで、市民の自宅や病院の枕元に赴き、総合的な相談援助に取組んでいます。

[2]政策立案関連
 弁護士職員は、条例制定などの市の政策立案にも加わっています。
 弁護士職員が制定や改正に関わったものとしては、犯罪被害者支援条例、債権管理条例、空家対策条例、障害者のコミュニケーション(手話・点字等)を促進するための条例、生態系を保護するため外来種生物の放逐等を規制する条例などがあります。
 特に、犯罪被害者支援条例の改正では、弁護士職員が中心となって、犯罪被害者のご遺族などから直接意見を伺うなどしながら制度設計にあたり、新たな犯罪被害者に対する支援策として、賠償金の立替制度(立替支援金制度)を全国で初めて導入しました。立替支援金制度は、犯罪被害者が加害者に対して有する損害賠償債権を市が債権譲渡を受けることを条件として、一定額の支援金を給付する制度で、クリアすべき法的な課題は様々ありましたが、弁護士職員が中心となって検討したからこそ実現にこぎ着けられたといえるでしょう。
 条例制定以外では、養育費や面会交流など離婚や別居に伴うこどもの養育を支援するための施策について、弁護士職員が携わっています。明石市では、離婚届を交付する際に、こどもの養育に関する合意書のひな形を添付していますが、この合意書は、弁護士職員がこの分野に精通している有識者の意見を伺いながら作成したものです。

[3]組織関連業務
 ①庁内相談  弁護士職員は、一般の職員と机を並べて一緒に働いており、職員が気軽に相談できる体制になっています。庁内の法律相談件数は、平成24年度は333件、平成25年度は484件、平成26年度は平成27年1月までで500件を超えています。以前までの顧問弁護士に相談していた頃と比べて簡易迅速に法律相談が受けられるので、職員からはとても助かっているとの声を聞いています。相談内容は、行政が携わっている分野が多種多様であるため、行政指導・処分、公文書公開、個人情報保護、行政不服審査といった行政特有の分野に加えて、労務管理、契約関係、行政が保有する財産(不動産、債権、知的財産)の管理、学校問題、交渉、市民対応など多岐にわたっているとの報告を受けています。
 ②コンプライアンス施策  コンプライアンスの担当部署に所属している弁護士職員は、職員の行動指針やリスク管理体制の整備などコンプライアンス体制の構築を図る業務に従事しています。不祥事が発生した場合には、事実関係の調査や問題点の検討を弁護士職員が行うこともあります。法的な専門知識を前提に事実認定のトレーニングを積んでいる弁護士職員は、コンプライアンスの分野に特に高い適性があると考えています。
 ③研修  一般の職員を対象とする法令(行政法、地方自治法、民法等)の基礎的な知識、政策法務、コンプライアンス等の研修についても弁護士職員が講師を担当しています。明石市では平成20年度から採用試験で法律の知識が不要となり、法律を学んだことがない職員もいます。職員の法務能力強化のため、弁護士職員が担う役割は非常に大きいといえます。

[4]紛争関連業務
(1)訴訟対応
 弁護士職員は、市を相手方として申立てられた訴訟等について、市側の代理人として訴訟等の活動を行っています。もっとも、専門性の高い案件については外部の弁護士に委任することもあります。その場合、弁護士職員は代理人弁護士と担当課の橋渡し役として、調整業務を行っています。
(2)債権管理・回収等
 支払督促、担保権実行による不動産競売申立等の債権回収案件や市営住宅の滞納・明渡案件などの市が申立側となる案件について、弁護士職員は、債権管理課と連携しながら、代理人として訴訟等の活動を行っています。特に、市営住宅の滞納・明渡しについては、弁護士職員が案件を担当することにより長期滞納案件が迅速に解決するなど、これまで一般の職員が対応に躊躇していた案件が解決しました。
(3)クレーム対応
 ハードクレーム事案や不当要求の疑いのある事案等については、弁護士職員が担当課と協議しながら対応を検討しているほか、一般の職員が対応できなくなった案件については直接クレーム対応にあたることもあります。

おわりに

 明石市では弁護士職員が着実に位置づき、困難な時代でも市民の期待により一層応える行政の実現に貢献していることを理解していただけたと思います。
 地方自治体は弁護士などの専門家を必要としています。読者の皆様が地方自治体に飛び込んで、新しい地方自治、新しい日本を作り上げていかれることを願ってやみません。

法を勉強したのはどこですか?
 理不尽な現実社会の中で「法」の必要性を学びました。
いちばん使っている法律は何ですか?
 憲法です。13条と14条は、特に強く意識しています。
いま気になっている法律はありますか?
 民法の家族法(嫡出子など)は時代にあっていません。
仕事は楽しいですか?
 法(条例)をつくっていける点、やりがいは大きいです。
法とは何でしょうか?
 正義そのものだと思っています。

(法学セミナー2015年5月号4-5頁に掲載したものを転載)

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